平日の空きチャペルをフォト撮影に貸すと、仮の式場では年40件で粗利350万円。ただ、挙式を年1件食われるたびに、フォト14.7件分が消える
平日のチャペルは、予約が入っていない日が多くあります。その時間を、フォトウェディング(衣裳を着て会場で撮影だけする商品)の撮影に貸せば、空いていた枠が現金になります。話としては分かりやすいです。ただ、この商品には、粗利の高い挙式を買うはずだった二人が、安いフォトに流れるという裏側があります。
結論から書きます。仮に、フォト撮影を1件12万円で売り、会場の変動費が2.5万円、年の固定費が30万円だとします。すると、年40件で粗利は350万円、元が取れるのは年3.2件です。ところが、フォトに流れて挙式を逃した二人が年1組いるだけで、140万円が消えます。これはフォト14.7件分です。損得を決めるのは、フォトの件数ではなく、挙式からの食い合いの数です。
この記事の数字には、出典のある統計はありません。フォトの価格も、会場の費用も、会場ごとにまったく違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、どこを自社の数字に替えれば自社の答えが出るかが分かるように書きます。
前提を先に置きます
計算に使う前提は、次のとおりです。すべて仮置きで、実在の会場の実績ではありません。
- 年間の挙式は120組、来館は年400組、成約率は30%
- 挙式1組あたりの粗利は140万円(これまでこのメディアの計算で使ってきた置き方に揃えています)
- フォト撮影は、会場の取り分で1件12万円。衣裳・ヘアメイク・カメラマンは外部の提携先が行い、その費用は提携先の取り分として別に払われる想定
- 撮影1件に会場が出す変動費は2.5万円。内訳の目安は、スタッフ2人が3時間つく人件費、清掃、光熱費、小物の消耗
- 年の固定費は30万円。予約ページの制作と管理、提携先との調整、撮影用の備品を合わせた額
- 撮影は、平日の挙式も披露宴も入っていない時間に限る
会場の取り分を12万円に置いたのは、衣裳やカメラを自社で抱えない形にそろえるためです。自社でカメラマンを雇っていたり、衣裳を持っていたりする会場は、売上は増えますが、費用の中身が変わります。その場合は、後ろの計算の「12万円」と「2.5万円」を自社の数字に替えてください。
フォト1件の粗利は9.5万円、損益分岐は年3.2件
まず、フォトだけを見ます。1件の粗利は、取り分から変動費を引いて、12万円 − 2.5万円 = 9.5万円です。
固定費の年30万円を取り返すには、30万円 ÷ 9.5万円で、年3.2件。年4件も売れば、費用は回収できる計算です。
件数ごとの年の粗利は、固定費を引いた後で次のとおりです。
- 年10件なら、9.5万円×10 − 30万円で65万円
- 年20件なら、160万円
- 年40件なら、350万円
- 年60件なら、540万円
平日は年に約250日あります。この仮置きでは、その15%にあたる約38日に1件ずつ入れば、年40件に近づきます。毎日撮影するわけではなく、月に3〜4件入ればよい、という規模です。
この部分だけを見れば、小さな投資で粗利が出るので、やらない理由はありません。問題は、ここに「挙式との食い合い」を足したときです。
挙式を1組食われると、フォト14.7件分が消える
フォトウェディングは、挙式披露宴より安く済ませたい二人が選ぶ商品です。ここで起きうるのが、会場を見学に来て、挙式披露宴の見積もりを見たあと、「それならフォトだけにします」と流れるケースです。
挙式の粗利は140万円、フォトは9.5万円です。1組が挙式からフォトに替わると、粗利は130.5万円ぶん減ります。フォトの件数で換算すると、挙式1組を失うのを埋めるには、140万円 ÷ 9.5万円で、14.7件のフォトが要ります。
食い合いの数ごとに、損益分岐の件数を並べます(固定費30万円を足した必要件数です)。
- 挙式を食われる数が0組なら、年3.2件
- 年1組なら、(30万円 + 140万円) ÷ 9.5万円で17.9件
- 年2組なら、32.6件
- 年3組なら、47.4件
年40件の仮置きでは、挙式を食われてよいのは年2.5組までです。年2組なら、まだ黒字です。年3組を超えると、フォトの粗利350万円では埋まらず、損になります。
数字の読み方を変えると、こうです。フォト40件のうち、挙式を考えていた二人が何組いるかを、一度でも数えておく必要があります。件数が増えるほど、挙式を考えていた二人が混ざる確率も上がるからです。
食い合いが起きる二人と、起きない二人
食い合いは、すべてのフォト客に起きるわけではありません。僕は、フォトを選ぶ二人を3つに分けて考えます。
- もともと挙式をするつもりがなかった二人:費用や人間関係の理由で、挙式披露宴を最初から選ばない。この二人にとっては、フォトは新しい売上で、食い合いは0です
- 挙式を迷っていた二人:見学した結果、見積もりを見て、フォトに切り替える。ここが食い合いの本体です
- 挙式をしたあとに、別の日に撮り足す二人:前撮りや後撮りの延長。これは追加の売上ですが、挙式の契約特典で前撮りが無料になっている会場では、フォトを売る余地そのものがありません
2の人数を減らす工夫は、売り方の側にあります。
- 来館した二人にフォトを案内するのは、挙式の成約が決まらなかった後にする。見学の最初にフォトを見せない
- フォトの予約ページは、挙式の見学とは別の入口に置き、検索から直接来た二人が主な客になるようにする
- フォトの商品名や写真を、挙式の「簡易版」に見せない。「着て、撮って、帰る」商品であり、挙式で得られる家族との時間やゲストとの食事は含まれないことを、はっきり書く
- 挙式の見積もりを断った二人にだけ、フォトを案内する
最後の案は、食い合いをほぼ0にしますが、フォトの件数は減ります。入口を2つに分けるのは、件数を稼ぐことと食い合いを避けることの、バランスを取る作業です。
空いているはずの枠が、本当に空いているか
もう1つ、見落としやすい前提があります。平日のチャペルが、本当に「他に売れる予定のない枠」なのかどうかです。
平日に披露宴を入れたい二人は、少数ですが毎年います。平日割引で呼び込んでいる会場(平日の披露宴の割合や、割引の考え方は、このメディアの別の記事に書いています)もあります。平日の枠にフォトを入れたせいで、その日の挙式を断ったとしたら、その挙式の粗利140万円が機会費用です。
ここで確かめるのは、フォトを入れる枠が、挙式の予約と重ならない運用になっているかどうかです。
- フォトは、挙式の予約が入っていない日で、かつ挙式の仮予約も入っていない日に限る
- 挙式の仮予約が入った場合は、フォトの予約を動かす場合があるという条件を、フォトの申込時に書いておく
- 挙式の準備や、装飾の仕込みのために、前日・前々日にチャペルを使う日は、フォトを入れない
3つ目は意外と抜けます。フォトの撮影で、チャペルや庭が汚れたり、備品が動いたりすると、翌日の披露宴の準備に響きます。フォトのスタッフが少なくて済むとはいえ、撮影後の原状回復と清掃は、変動費の2.5万円に入れたつもりでも、実際には足りないことがあります。最初の10件は、実際にかかった時間を記録して、変動費の仮置きを実績に替えるのが堅いです。
変動費を2.5万円と置いた理由と、ずれたとき
変動費2.5万円の中身は、スタッフ2人が3時間つくとして、人件費が約1万円強。残りは清掃と光熱費、小物の消耗です。人件費は、時給を1,800円と置いて2人×3時間で約1万円強になります。
変動費が違うとき、フォト1件の粗利はこう変わります。
- 変動費が1.5万円なら、粗利は10.5万円
- 変動費が2.5万円なら、9.5万円
- 変動費が4万円なら、8万円
変動費が1万円増えても、損益分岐は年3.2件から3.5件に動くくらいで、判断は変わりません。変動費よりも大きく効くのは、価格と食い合いです。
価格が動くと、食い合いの許容も動く
価格を変えたときの数字を並べます(変動費2.5万円、固定費30万円)。
- 取り分8万円なら、粗利5.5万円。損益分岐は年5.5件。挙式1組を埋めるのに、フォト25.5件が要る
- 取り分12万円なら、粗利9.5万円。損益分岐は年3.2件。挙式1組に、フォト14.7件
- 取り分16万円なら、粗利13.5万円。損益分岐は年2.2件。挙式1組に、フォト10.4件
価格を上げると、食い合いに耐えられる件数が増えます。同じ年40件なら、取り分8万円では年間の粗利が190万円、16万円では510万円です。そして、価格が高いフォトほど、挙式の見積もりと比べる二人にとっても「簡易版」には見えにくくなります。フォトを安く売って件数を稼ぐ作戦は、食い合いの面でも不利です。
フォトから挙式へ戻る二人は、計算に入れるか
反対向きの効果もあります。フォトを撮った二人が、後から「やっぱり挙式もしたい」と考えたり、友人の紹介でフォト客が挙式客を連れてきたりすることです。
仮に、フォト40件のうち、2%(0.8組)が後から挙式を申し込むとします。粗利は0.8組×140万円で112万円です。5%なら2組で280万円。1%なら0.4組で56万円です。
ただ、僕はこれを計算に入れません。理由は2つあります。1つは、この割合を示す統計が見つからないので、置いた数字に根拠がないこと。もう1つは、フォトを撮った二人が、すでに「撮影だけで満足する」と決めて来た二人だということです。入れると、何でも元が取れる計算になってしまいます。上振れとして頭に置いておく程度が、ちょうどよいです。
判断の分かれ目を、4つに絞る
ここまでの話を、会議で使える形に絞ります。
- フォト1件の粗利を出す:会場の取り分 − 変動費。12万円 − 2.5万円で9.5万円
- 損益分岐を出す:年の固定費 ÷ 粗利。30万円 ÷ 9.5万円で年3.2件
- 挙式の食い合いを数える:フォトを申し込んだ二人のうち、挙式の見学・見積もりを経ている二人が年に何組か。1組あたり、フォト14.7件分の損
- 枠の重なりを確かめる:平日の挙式の仮予約や準備と重ならない運用になっているか
3が年に2組以下なら、年40件のフォトは黒字を保ちます。3組を超えるなら、フォトの入口を挙式の見学から切り離すか、価格を上げます。フォトを始めるかどうかは、4の運用ができるかどうかで決まります。
まとめ
- フォト撮影を1件12万円、会場の変動費2.5万円、固定費年30万円と置くと、1件の粗利は9.5万円、損益分岐は年3.2件。年40件なら粗利は350万円
- 挙式を食われると、1組あたり140万円。フォト14.7件分が消える。食い合いが年3組を超えると、年40件でも赤字になる
- フォトを選ぶ二人は、挙式をするつもりがなかった二人、迷っていた二人、撮り足す二人に分かれる。食い合うのは「迷っていた二人」だけ
- 見学の最初にフォトを見せない、予約の入口を挙式の見学と分ける、挙式の見積もりを断った二人にだけ案内する、が食い合いを減らす
- 価格を上げると食い合いに耐えられる。取り分8万円では挙式1組にフォト25.5件、16万円では10.4件
- 平日の枠が本当に空いているか、挙式の仮予約と重ならない運用かを先に確かめる
- この記事の数字は、すべて仮置きの前提による計算で、実在の会場の実績ではない
