挙式日の変更を無料で受けると、仮の式場では年139万円の機会損失。その96%は、挙式まで3か月を切った変更で出る
契約した二人から、挙式日を変えたいと言われる。親の体調、仕事の異動、妊娠、人数の見込み違い。理由はいろいろですが、現場ではたいてい「できる限り受けましょう」と答えています。断って解約になるよりはいい、という判断です。
僕もそれ自体は正しいと思います。ただ、受けた日程変更に、会場がいくらの損をしているのかを数えている会場は少ないはずです。無料で受けているなら、請求書には出ません。出ないまま、人気日の枠が1つ消えています。
結論から書きます。年120組、変更の希望が年7.2件の仮の式場で、日程変更をいつでも無料で受けると、機会損失は年およそ139万円です。そのうち96%は、元の挙式日まで3か月を切ってからの変更で出ます。つまり、手数料を取るかどうかを悩む前に、元の日が売り直せる期限がいつなのかを決めるほうが先です。
この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。統計や調査の数字は使っていません。自分の会場の数字に置き換えながら読んでください。
日程変更で失うものは、返金ではない
日程変更は、お金が出ていく話に見えません。二人は契約したままで、総額も変わらないからです。それでも会場は損をすることがあります。損の正体は、枠です。
二人が日を動かすと、2つのことが同時に起きます。
- 元の日の枠が空く。これを別の二人に売り直せれば、損は出ない
- 新しい日の枠が埋まる。その日に別の二人が来たかもしれないなら、その分を失う
つまり、日程変更の損得は「売り直せた枠」と「失った枠」の差で決まります。返金も値引きもしていないのに、枠の差だけで粗利が動きます。
ここで大事なのは、売り直せるかどうかが、時間で変わることです。挙式の1年前に空いた枠なら、別の二人が見つかる可能性は高い。挙式の1か月前に空いた枠は、準備に必要な期間が足りず、ほぼ売れません。
前提:年120組、粗利140万円、変更は年7.2件
仮の式場を決めます。ほかの記事で使っている置き方と、そろえました。
- 年間の挙式は120組、粗利は1組140万円
- 契約済みの二人のうち6%が、日程変更を希望する。年7.2件
- 変更の事務(打合せのやり直し、提携業者への連絡)にかかる人件費は、1件3万円
- 変更先の日は、元の日の6か月後とする
- 空いた枠が売り直せる確率は、日の需要と、挙式までの残り期間で決まる
日の需要は3段に分けます。ある日の枠が空いたとき、十分な時間があれば別の二人が入る確率を、次のように置きます。
| 日の種類 | 十分な時間があるときに売れる確率 |
|---|---|
| 人気日(大安の土日祝など) | 0.8 |
| 通常日 | 0.5 |
| 閑散日(平日や仏滅など) | 0.1 |
残り期間の影響は、挙式までの月数で置きます。9か月以上あれば、売れる確率は満額。6か月前なら7割、3か月前なら35%、1か月前なら7%です。この減り方は僕の想定で、実際の会場のデータではありません。自分の会場で「挙式の何か月前に空いた枠までなら売り直せているか」を数えると、置き換えられます。
損は、次の式で出します。
損失(万円)= 粗利140 ×(新しい日の枠が売れた確率 − 元の日の枠が売り直せた確率)+ 事務の3万円
新しい日の枠は、変更先が6か月後なので、残り期間が長い分、売れる確率が高くなります。この非対称が、後で効いてきます。
通常日どうしの変更でも、直前なら1件54万円
元の日が通常日の二人を例にします。変更先の日の種類と、変更を言い出した時点で、損失がどう変わるかを表にしました。
| 元の日まで | 閑散日へ | 通常日へ | 人気日へ |
|---|---|---|---|
| 9か月前 | −53万円 | 3万円 | 45万円 |
| 6か月前 | −32万円 | 24万円 | 66万円 |
| 3か月前 | −7.5万円 | 48.5万円 | 90.5万円 |
| 1か月前 | 9.3万円 | 54.1万円 | 87.7万円 |
マイナスは、むしろ会場が得をするという意味です。通常日の枠が空いて、それが売り直せ、変更先の閑散日が埋まっても失うものが少ないからです。
見てほしいのは、通常日から通常日への変更です。9か月前なら、損は事務の3万円だけです。それが3か月前になると48.5万円、1か月前には54.1万円になります。同じ日から同じ種類の日への変更でも、言い出す時期が遅いだけで、会場の損は18倍に膨らみます。
もう一つ。変更先が人気日だと、どの時期でも損が大きくなります。人気日は、他の二人が入る確率が高い日です。そこを既存の二人が埋めると、新規で来るはずだった二人を断ることになります。
年間では139万円。損の96%は直近の変更
次に、年間で足します。変更の7.2件を、時期と変更先に分けます。これも仮の配分です。
- 変更を言い出す時期:9か月以上前が20%、6か月前が30%、3か月前が35%、1か月前が15%
- 変更先:閑散日が40%、通常日が40%、人気日が20%
時期ごとの損失の平均は、次のとおりです。
| 言い出した時期 | 1件あたりの平均損失 |
|---|---|
| 9か月以上前 | −11万円 |
| 6か月前 | 10万円 |
| 3か月前 | 34.5万円 |
| 1か月前 | 42.9万円 |
7.2件を足し上げると、機会損失は年およそ139万円です。粗利140万円の1組分とほぼ同じ金額です。
その内訳を見ると、3か月前と1か月前の変更、年に3.6件で133万円。全体の96%です。9か月前と6か月前の変更は、合わせると6万円ほどしか動きません。
この結果から、日程変更の方針を、一本の線で決めるのは雑だとわかります。「全部受ける」でも「全部有料」でもなく、期限で分けるほうが損が小さくなります。
手数料は、期限より後に置く
期限を、挙式の3か月前に置いたとします。3か月前を切ってからの変更には、手数料を取る。それより前は無料。この線引きで、何が変わるのか。
直近の変更は、年3.6件、1件の平均損失は約37万円です。そこに手数料Fを置くと、二人の反応は3つに分かれます。
- 変更をやめて、元の日のまま挙げる(d)
- 手数料を払って、変更する
- 手数料を嫌がって、解約する(y)
解約が増えるなら、手数料は逆効果になります。そこで、解約の割合yがどこまでなら、手数料を置いたほうが得なのかを計算します。解約した二人から失う粗利は、違約金を仮に50万円と置いて、90万円とします。
| 手数料 | 変更をやめる割合d | 損益が逆転する解約の割合y |
|---|---|---|
| 5万円 | 20% | 19.7% |
| 5万円 | 30% | 25.2% |
| 10万円 | 20% | 24.5% |
| 10万円 | 30% | 28.7% |
| 15万円 | 20% | 28.5% |
| 15万円 | 30% | 31.8% |
10万円の手数料で、変更を言い出した二人の3割が変更をやめるなら、解約が約29%を超えない限り、手数料のほうが得です。直近に変更を言い出す二人の3人に1人は、解約を選ぶだろうか。僕は、そこまでは多くないと思います。変更を言い出す二人は、結婚式自体は挙げる前提で、日だけを動かしたい人たちだからです。ただ、これは僕の感覚で、データはありません。
手数料の額を5万円から15万円まで動かしても、逆転する解約の割合は20%台後半で、あまり変わりません。額で悩むより、期限をどこに置くかのほうが、損益には効きます。
期限は、売り直せた実績から決める
ここまでの計算は、期限を3か月前に置いています。この線を、自分の会場の数字で決めるには、過去の実績を見ます。
数えるものは1つです。過去に、日程変更や解約で空いた枠のうち、挙式の何か月前に空いたものが、実際に売り直せたか。
- 9か月以上前に空いた枠で、売り直せた割合
- 6か月前に空いた枠で、売り直せた割合
- 3か月前に空いた枠で、売り直せた割合
- 1か月前に空いた枠で、売り直せた割合
この割合が半分を切る月数が、期限の候補です。売り直しが効かなくなる月数以降の変更は、枠が実質的に失われる変更です。そこから先は、有料にするか、変更先に条件を付けるのが筋になります。
条件の付け方は、手数料以外にもあります。
- 変更先を、需要が同じか低い日に限る。人気日への変更は、通常の新規契約として扱い、差額を求める
- 変更は1回まで。2回目以降は有料にする
- 変更先は、元の日から一定の期間内(たとえば1年以内)に限る
どれも、二人を縛る目的で置くわけではありません。枠を空けたまま放置しないために置く、会場側の線です。説明の仕方次第で、感じの悪さはほとんど消えます。「一番良い日を取り直せる期限を、挙式の3か月前に置いています」と伝えれば、期限を知らされた二人は、早めに動く理由ができます。
期限を伝える時期は、契約のとき
もう一つ、見落としやすい点があります。期限は、変更を言い出されてから伝えても効きません。言い出された時点で、二人は日を動かすつもりで話しています。そこに有料と告げるのは、後出しに聞こえます。
期限は、契約書の説明のときに伝えます。日程変更は挙式の3か月前まで無料で、それ以降は費用がかかる。この一文を、キャンセル規定と同じ場所に置いておく。これだけで、直近になってから言い出す二人を減らせると思います。
減る割合は、上の表でいうdです。0.2から0.3を想定しましたが、これは僕の仮定です。会場で試すなら、規定を変える前の半年と、変えた後の半年を比べて、「3か月前を切ってからの変更の件数」が減ったかを見ます。件数が減っていれば、手数料を取らなくても、期限を伝えるだけで損の一部は消えています。
計算に入れていないもの
この計算は、単純化のために落としたものがあります。
- 日程変更で、人数や内容が変わり、料金も変わる場合の増減
- 提携業者(衣装、装花、写真)に生じるキャンセル料や再手配の費用
- 変更を丁寧に受けたことで、二人の満足度や紹介が増える効果
- 解約ではなく、日程変更を選んでくれたこと自体の価値
最後の2つは、会場側の得になる要素です。日程変更を柔軟に受けた二人が、のちに紹介や口コミで返してくれる可能性はあります。それでも、返ってくる量は読めません。損の側は、枠という形で、確実に数えられます。数えられるものを先に数える、というのが、この記事の立場です。
まとめ
- 日程変更の損得は、元の日が売り直せた確率と、変更先の枠が売れた確率の差で決まる
- 仮の式場(年120組、粗利140万円、変更は年7.2件)で、日程変更を無料で受け続けると、機会損失は年およそ139万円
- そのうち96%は、挙式まで3か月を切ってからの変更で出る。通常日どうしの変更でも、9か月前なら3万円、1か月前なら54万円
- 手数料を置くなら、期限より後に置く。10万円なら、解約に走る二人が約29%を超えない限り、置いたほうが得になる
- 期限は、自分の会場で「何か月前に空いた枠なら売り直せたか」を数えて決める
- 期限は変更を言い出される前、契約の説明のときに伝える
日程変更は、受けるか断るかの二択ではありません。いつまでなら無料で受けても損が出ないのかを、先に決めておくことです。
