来館の接客と契約後の打合せを別の担当に分けると、仮の式場では成約率が1.4ポイント上がらないと元が取れない。来館が年300組を切るなら、分けないほうが堅い
来館のときに接客する人と、契約したあとに打合せをする人を、別の担当に分けるか。ブライダルの式場で、いつか必ず出てくる組織の話です。分ける側の言い分は、接客に集中できるから成約率が上がる、というもの。分けない側の言い分は、最初に会った人が最後まで担当するから安心してもらえる、というもの。どちらも筋が通っているので、会議では好みの話になりがちです。
この記事では、好みの話を数字に置き換えます。分業にすると人件費が増える分を、成約率の上昇で取り返せるのか。引き継ぎでキャンセルが増えたら、いくつ上げれば足りるのか。そして、来館が何組を切ると分けても人が余るのか。使う数字はすべて僕が置いた仮の数字で、調査や実績ではありません。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
仮の式場の前提
計算に使う前提です。
- 年間の来館は400組、成約率は30%。成約は年120組
- 1組あたりの粗利は140万円
- 来館1組に使う時間は、接客3時間と前後の準備・連絡1時間で、合わせて4時間
- 契約後の打合せや手配に使う時間は、1組あたり50時間
- 担当者1人の年間の稼働時間は1,800時間
- 契約後のキャンセル率は5%。年に6組
- 追加する営業専任1人の人件費は、会社の負担分を含めて年600万円
一気通貫は、来館の接客から結婚式の当日まで、同じ人が持つ形です。分業は、来館の接客と契約までを営業専任が持ち、契約後をプランナーに渡す形です。
分けても総労働時間は変わらない
最初に押さえておきたいのは、分業にしても仕事の総量は増えないことです。来館の接客が400組×4時間で年1,600時間。契約後が120組×50時間で年6,000時間。合わせて7,600時間で、1人1,800時間なら必要な人数は約4.2人です。
分業にすると、この4.2人が営業専任の0.9人分とプランナーの3.3人分に分かれます。人は割り算の結果として端数が出るので、実際には営業専任1人、プランナー3〜4人になります。一気通貫のまま4人で回していた会場が、分業にするために5人にする必要は、来館400組ならほとんど出ません。営業専任1人の稼働は、1,600÷1,800で約89%に収まるからです。
ここで話が変わるのは、来館の数が減ったときです。
来館数ごとの営業専任の稼働
営業専任の稼働を、来館の数ごとに計算します。
| 年間の来館 | 接客に使う時間 | 営業専任1人の稼働 |
|---|---|---|
| 200組 | 800時間 | 44% |
| 300組 | 1,200時間 | 67% |
| 400組 | 1,600時間 | 89% |
| 600組 | 2,400時間 | 133%(2人必要) |
| 800組 | 3,200時間 | 178%(2人必要) |
来館が200組の会場では、営業専任を1人置くと、半分以上の時間が空きます。空いた時間にプランナーの仕事を持たせるなら、それはもう分業ではなく、兼務です。分業の効果として期待していた接客への集中は、営業専任が接客だけをしているから生まれるものなので、兼務にすると薄まります。
来館が600組を超える会場では、逆に一気通貫のほうが苦しくなります。接客だけで2,400時間、プランナー1人あたりの契約後の仕事に加えて来館の接客が乗るので、土日に接客を詰めると、平日の打合せが押されます。ここは分業にする理由が、成約率の話より先に、時間が足りないという話として出てきます。
成約率が何ポイント上がれば元が取れるか
次に、来館が400組の仮の式場で、営業専任を1人足す600万円を、成約率の上昇で取り返せるかを見ます。
成約率が1ポイント上がると、来館400組のうち4組が増えます。粗利は1組140万円なので、4組で560万円です。600万円を取り返すには、600÷560で約1.07ポイント。成約率が30%から31.1%に上がれば、人件費の分は戻ります。
ただし、分業には引き継ぎという別のコストがあります。来館のときに会った人と、契約後に打合せをする人が違うと、二人が「話が違う」と感じる場面が出ます。来館のときに口頭で言われた特典、見積もりに入っていると思っていた項目、担当者が変わることへの不安。こうしたずれが、契約後のキャンセルを押し上げるおそれがあります。
キャンセル率が5%から6%に上がったとします。契約120組の1%は1.2組で、粗利で168万円です(キャンセル料は入らないものとして計算します。実際に預かり金で一部を取り戻せるなら、この損は小さくなります)。この分を含めると、必要な成約率の上昇は、(600+168)÷560で約1.37ポイントです。
| 引き継ぎによるキャンセルの増加 | 失う粗利 | 元を取るのに要る成約率の上昇 |
|---|---|---|
| なし | 0円 | 1.07ポイント |
| +0.5ポイント | 84万円 | 1.22ポイント |
| +1ポイント | 168万円 | 1.37ポイント |
| +2ポイント | 336万円 | 1.67ポイント |
タイトルの1.4ポイントは、キャンセルが1ポイント増える前提の値です。成約率が30%から31.4%以上に上がらなければ、分業は赤字になります。
1.4ポイントは大きいのか小さいのか
成約率の1.4ポイントは、来館400組のうち5.6組です。年に5〜6組、いつもなら断られていた二人が契約する。これが営業専任を置いた効果として説明できるかどうか、が判断の分かれ目になります。
増える根拠があるとすれば、次のような場面です。
- 土日に接客が重なって、待たせる、時間を短縮する、といった取りこぼしが出ている会場。接客を営業専任が引き受けると、これが減る
- プランナーが契約後の仕事に追われて、来館の準備(その二人の希望を読み返す、見積もりを作る)に時間を割けていない会場
- 来館後のフォロー連絡が、プランナーの忙しさで後回しになっている会場
逆に、すでに接客に十分な時間を使えていて、取りこぼしの原因が価格や立地にある会場では、営業専任を足しても成約率は動きません。接客の質を上げて取り返せるのは、接客の質が原因の失注だけだからです。
分業を決める前に、自分の会場の失注の理由を数えてみると、判断が速くなります。来館した二人のうち、契約しなかった人の理由が、他の会場に決めた、価格、日取り、家族の反対、検討中のまま止まっている、のどれに多いか。接客が原因のものがどれだけあるかが、1.4ポイントを超えられるかの目安です。
引き継ぎを軽くする作り方
分業にすると決めた場合でも、引き継ぎのコストは小さくできます。キャンセル増の幅が+0.5ポイントで収まれば、必要な成約率の上昇は1.22ポイントまで下がるので、効き方は小さくありません。
引き継ぎで起きるずれの多くは、来館のときに交わした約束の記録が、契約後の担当に渡っていないことから出ます。次の3つを仕組みにするだけでも、ずれは減ります。
- 来館のときに二人へ口頭で伝えたことを、契約書とは別に、営業専任が1枚のメモに残す。特典、見積もりに入れた項目と入れていない項目、二人が一番こだわっていた点
- 契約の日に、営業専任とプランナーが二人の前で顔合わせをする。引き継ぎを裏でするのではなく、二人の前でする
- 契約後の最初の1か月は、営業専任にも連絡が入るようにしておく。聞きたいことがあったとき、最初に会った人に聞ける逃げ道を残す
3つ目は、営業専任の時間を少し使いますが、一気通貫にあった「最初に会った人が最後まで見てくれる」という安心を一部残せます。
分けないほうが堅い会場
ここまでの計算から、分けないほうが堅い条件を並べます。
- 来館が年300組を切る。営業専任の稼働が67%を下回り、空いた時間を結局プランナーの仕事で埋めることになる
- プランナーが3人以下で、全員が接客から契約後まで回せる。分業にしても1人しか営業専任にならず、休んだときに接客が止まる
- 失注の理由が、価格と日取りに偏っている。接客を磨いても取り返せない
- すでにキャンセル率が高く、引き継ぎのずれでこれ以上上がる余裕がない
一方、分ける側に傾く条件は、次のとおりです。
- 来館が年500組を超え、土日の接客が重なっている
- 契約後の仕事に追われて、来館の準備とフォローが後回しになっている
- 来館から契約までの数字を、接客の担当者ごとに見たい。誰がどこで落としているかを数えられるのは、接客だけを持つ人がいる形のほうが分かりやすい
営業専任の評価を何で測るか
分業にすると、もう一つ決めることが出てきます。営業専任を何で評価するかです。成約件数だけで測ると、契約を急ぐ接客に寄ります。急いで取った契約は、契約後に見積もりの不満として出て、キャンセルとプランナーの負担になって返ってきます。成約件数に加えて、契約後6か月のキャンセル率と、見積もりからの増減を見ておくと、営業専任とプランナーの利害が同じ向きになります。
成約率の改善で元を取る計算をしている以上、この3つの数字は分業を始める前の水準を控えておく必要があります。始めてから過去を探しても、同じ条件で拾えないからです。
試すなら、部分的に分ける
いきなり全員を分業にするのは、戻すのが大変です。試すなら、土日の接客のうち、1日あたり1〜2組だけを営業専任が受ける形から始められます。3か月ほど続けて、その枠の成約率を、ほかの枠と比べます。同じ曜日・同じ時間帯どうしで比べないと、人気日の来館が成約率を押し上げただけ、という誤読が起きます。
3か月の来館が100組なら、成約率の差が1.4ポイントというのは1.4組分で、月次の揺れに埋もれます。結論を急がず、半年は見るつもりでいたほうが、判断を間違えにくいです。
まとめ
- 分業にしても総労働時間は変わらない。年間来館400組・成約120組の仮の式場で、必要な人数は一気通貫も分業も約4.2人
- 営業専任の稼働は、来館が200組で44%、300組で67%、400組で89%。300組を切ると、空いた時間が出る
- 営業専任の人件費600万円を取り返すには、成約率が1.07ポイント上がればよい。引き継ぎでキャンセルが1ポイント増えるなら、1.37ポイント
- 失注の理由が接客以外に偏っているなら、営業専任を置いても成約率は動かない
- 引き継ぎのずれは、来館時の約束を1枚に残す、契約日に顔合わせをする、で小さくできる
- 試すなら、土日の接客の一部だけを営業専任に回し、半年見る
