披露宴の音源は、式場の包括契約で足りるのは「演奏」だけ。複製・原盤・配信規約は別の約束で、式場が決める線は3つ
披露宴で流したい曲を、二人が自分で選んだCDやUSBで持ち込みたい。式場の担当は「それは大丈夫です」と答えるか、「ダウンロードした曲はちょっと」と断るか、会場によってばらばらです。
断る理由を聞かれて、担当者が「著作権があるので」と答える。ここで話が止まっている式場が、けっこうあるのではないでしょうか。
結論を先に書きます。披露宴の音楽の権利は、一つではなく少なくとも四つに分かれます。式場の包括契約でカバーされるのは、そのうちの一つ(会場で流す「演奏」)だけです。残りの三つは、誰が手続きをするのか、誰が責任を持つのかが違います。この四つを式場のルールとして文章にしておくと、担当者ごとの答えのぶれが消えます。手間は初期に数時間、年に数万円もかかりません。損得の分かれ目は費用ではなく、「当日の音源トラブルが年に何件出ているか」です。
数字は、出典のあるものと、僕が置いた仮のものを分けて書きます。法律の細かい解釈は弁護士の領分なので、ここでは調べた範囲の整理にとどめます。
音楽の権利は四つに分かれる
披露宴で曲を流すとき、関わる権利を並べます。
- 演奏する権利(演奏権):会場でスピーカーから曲を流すこと。
- 複製する権利(複製権):曲をCD-Rやメモリーカードに入れて、披露宴用の音源を作ること。
- 原盤の権利(レコード会社などが持つ権利):市販のCDや配信の「録音された音」そのものの権利。
- 配信サービスの利用規約:ダウンロードした曲を、どこまで使ってよいかを決めた契約。
この四つは、別々の相手との別々の約束です。担当者が「著作権」とひとことで言っているとき、頭の中では四つが混ざっていることが多い。
演奏権は、式場の包括契約でカバーされる
弁護士ドットコムニュースの解説(2019年10月2日)によると、演奏や上映の利用は、以前から多くの施設がJASRACと許諾契約を結んでいます。式場やホテルの多くは、この契約でまとめて使用料を払っています。
つまり、契約している式場の中であれば、二人が市販のCDを持ち込んで流しても、二人がJASRACに別途お金を払う場面はありません。JASRACへの取材として、J-CASTニュースなどでも同じ趣旨の回答が紹介されています。
ここで確かめたいのは、自分の式場がその包括契約を結んでいるかです。結んでいるはずと思い込んでいる式場が、実は別の施設のものだった、ということはまずないと思いますが、契約書を一度見ておく価値はあります。庭やホテル外の貸し会場で挙式する場合は、その会場の契約がどうなっているかも別の話になります。
複製権は、別の扱いになる
二人が「当日用に曲を並べたCD-Rを作る」「プロフィールムービーにBGMを入れる」と、曲を複製することになります。この複製は、演奏権とは別の権利です。
弁護士ドットコムニュースによると、複製の使用料は、以前は曲数に応じて課金されていました。2019年10月から1年間、JASRACが実証実験を始めています。結婚式や披露宴で、BGM再生用の録音物や催しの録画物に楽曲を複製する場合に、一定額の「包括使用料」を試験的に導入するものです。
AV Watch(2019年9月3日)によると、金額は1催物あたり、進行用のオーディオ録音物が5,000円、記録用のビデオグラム(録画物)が10,000円です。事業者の募集は2019年9月2日から9月20日まで、契約は10月1日からでした。
注意点が三つあります。
- プロフィールムービーやエンドロールムービーなどの演出用録画物は、この実証実験の対象外です。
- 弁護士ドットコムによると、これは「新たな使用料」ではありません。ネット上で、結婚式に新しい使用料ができたという誤解が広がったそうです。
- 実証実験のその後(本格導入されたか、金額がどうなったか)は、今回調べた範囲では確認できませんでした。この5,000円と10,000円は、2019年の実証実験の金額として読んでください。いまの金額は、JASRACの公式の案内で確認してください。
ここは式場が手続きをする側になりうる部分です。二人が持ち込む音源を式場が受け取って流すだけなのか、式場や制作業者が音源を作って複製するのか。後者なら、式場側の手続きが要ります。
原盤の権利は、レコード会社の話になる
弁護士ドットコムの解説では、市販のCDなどの音源は、原盤権(著作隣接権)の問題として、発売元のレコード会社を通じて別途処理が必要とされています。JASRACの窓口で全部が済むわけではありません。
式場の担当者が「JASRACは大丈夫です」と答えたとき、それは演奏権の話をしているだけで、複製した音源の原盤の話は答えていない場合があります。ここが、二人との会話で混ざりやすいところです。
ダウンロード音源は、規約の問題になる
J-CASTニュース(2016年)は、iTunesなどの音楽配信で買った曲を、式場に断られたという報告がネット上で相次いだと伝えています。
理由は二つ書かれています。
- 大手の配信会社は、ダウンロードした曲の使用範囲を私的使用に限っています。大勢が集まる披露宴は、その範囲を超える可能性が高い。
- 規約をクリアしても、披露宴用にCD-ROMやメモリーカードに保存して流すと、複製権の問題が出る。
端末をスピーカーに直接つなぐ方法はグレーだ、という見解も紹介されていますが、記事は「現実的な手段ではない」と結論づけています。多くの式場が、サイトで「ダウンロード音源は不可」と案内しているとも書かれています。
ここまでで、四つの権利が出そろいました。式場の包括契約で足りるのは演奏権だけで、複製、原盤、配信規約は別に動いています。
式場が決めておくのは、三つの線
権利の話を並べても、現場で使えるのは、担当者が二人に言える短い答えです。式場のルールとして、次の三つの線を決めておくと整理できます。
線1:持ち込める音源の形式
- 市販のCD:受ける(演奏権は式場の包括契約でカバーされる)
- 二人が曲を並べて作ったCD-R:式場が受けるかどうか。複製が入っているので、式場として判断する
- ダウンロード音源・配信サービスの再生:規約の問題があるので、原則受けない、または別のやり方を案内する
どこに線を引くかは式場の判断です。ここで大事なのは、線を引いたことを二人に見える形にしておくことです。断るにしても、「ダウンロードの曲はできません」とだけ言うと、二人は納得しません。「配信の規約が私的使用に限られているため」と一言理由を添えられるだけで、受け取り方が変わります。
線2:式場が用意する音源の範囲
二人から曲のリストをもらって、式場やBGM業者が音源を用意する場合、複製の手続きが式場の側に回ります。この場合は、誰が手続きをし、誰が費用を持つかを決めておきます。
2019年の実証実験の金額(進行用5,000円、記録用10,000円)をそのまま使って、仮の式場で計算します。
- 年の挙式は120組
- 全組で進行用の音源を式場が作るとして、5,000円 × 120組 = 年60万円
- 記録用の映像も全組で作るなら、10,000円 × 120組 = 年120万円。合わせて年180万円
この数字は、全組が対象になった場合の上限に近い置き方です。実際には、式場が音源を作る組は一部でしょうし、現在の金額も確認が必要です。それでも、「式場が音源を用意するサービスを無料の標準にすると、年に数十万円の固定費になる」という規模感は持てます。
選択肢は三つに分かれます。
- 式場が費用を持つ(標準サービスとして)
- 二人に実費として乗せる(オプションにする)
- 式場は音源を作らず、二人の持ち込みだけにする
どれを選んでも成立します。損得を分けるのは、その選択を二人が契約前に知っているかです。契約後の打合せで初めて「音源の作成は有料です」と言われると、二人は値上げを感じます。
線3:演出用の映像(プロフィールムービーなど)
AV Watchと弁護士ドットコムが共通して書いているように、プロフィールムービーやエンドロールムービーなどの演出用録画物は、先の実証実験の対象外でした。曲を使う映像は、別の扱いになります。
ここは、式場が一律に引き受けない方がよい領域です。二人や制作会社が作る映像に使う曲は、制作する側の責任で手続きをする、という線を引いておく。そして、その線を契約書か案内文に書いておく。式場が「うちで全部やります」と言うと、手続きの責任が式場に戻ってきます。
仮の式場で、整備の損得を計算する
ここから先は、僕が置いた仮の数字です。出典のある数字は使っていません。
前提を置きます。
- 年の挙式は120組
- そのうち8割の96組が、持ち込み音源(CD、CD-R、USB、スマホなど)を使う
- 担当者の人件費は1時間3,000円
- 音源トラブルの1件は、当日や前日の確認と差し替えで、担当者が2時間使う
「音源トラブル」は、音源が再生できない、形式が合わない、ダウンロード音源だと当日に分かった、などです。起こる割合は式場によって違うので、5%、10%、20%の三通りで見ます。
| 持ち込みのうち、トラブルになる割合 | 年の件数 | 年の対応時間 | 人件費 |
|---|---|---|---|
| 5% | 4.8件 | 9.6時間 | 約2.9万円 |
| 10% | 9.6件 | 19.2時間 | 約5.8万円 |
| 20% | 19.2件 | 38.4時間 | 約11.5万円 |
人件費だけを見ると、軽い数字です。ルールを文章にする手間は、初期に4時間、年に2時間見直すとして、初年度6時間で1.8万円。トラブルが10%出ているなら、人件費だけで年5.8万円ですから、整備すれば、その中の何割かが減るだけで元が取れます。
ただ、本当に重いのは人件費ではありません。当日に音が出ないとき、二人が失うものです。
- 入場の音が出ない、または別の曲が流れる
- ゲストの前で、スタッフが機材の前で相談している時間が見える
- 二人は式の後も、そのことを覚えている
これは数字にできません。口コミの星や、紹介の可能性に出てくるかもしれませんが、僕は根拠のある数字を持っていません。費用では元が取れるのに、数字にならない損が大きいという形です。こういうときは、費用が軽いうちに、手を打っておく方が安全です。
決める前に確かめる、三つの数字
ルールを作るか迷っているなら、次の三つを数えてください。
- 過去1年に、音源のトラブルで担当者が動いた件数。 記録が無いなら、担当者に聞き取りをします。覚えている件数でかまいません。
- 持ち込みのうち、ダウンロード音源・配信の再生を希望した組の数。 これが多い式場は、線1を文章にする価値が高い。
- 式場が音源を作って複製している組の数。 ゼロなら、線2は考えなくてよい。ゼロでないなら、いまの手続きがどうなっているかを確かめる。契約している包括契約の範囲に入っているか、業者が手続きをしているか。
三つ目は、特に確認する価値があります。複製は演奏と別の権利なので、「包括契約があるから大丈夫」という理解が、複製には当てはまらない場合があります。ここは僕が断定できる領域ではありません。式場がJASRACの窓口か、著作権に詳しい弁護士に確かめてください。
担当者が二人に言う、短い答え
ルールを作ったあとに効くのは、担当者の言葉です。「著作権がありますので」ではなく、次のような言い方に揃えます。
- 市販のCDは、そのままお持ち込みいただけます。会場が演奏の手続きを済ませています。
- 曲を並べて作ったCD-Rは、再生できる形式かを事前に確かめるため、挙式の2週間前までにお預かりします。(期日は式場が決める)
- ダウンロードした曲は、配信サービスの規約で、大勢の前で流す使い方が認められていない場合があります。CDを買い直していただくか、こちらで用意できる曲からお選びください。
- プロフィールムービーで使う曲は、制作される方の側で使用の手続きをお願いしています。
この言い方なら、断るときも、理由が二人に伝わります。「断られた」ではなく、「仕組みの説明を受けた」になる。ここは、費用ではなく言葉の設計の話です。
やらない方がよい場合
整備しなくてよい式場もあります。
- 持ち込み音源を一切受けず、式場のBGMだけで進行している
- 映像や音源の制作を、すべて外部の業者に任せていて、手続きの責任が契約書で業者に移っている
この二つなら、二人との会話の中で、「音源は式場で用意したものになります」と言えるだけで足ります。ルールの文章化は、持ち込みを受けている式場の話です。
まとめ
- 披露宴の音楽の権利は、演奏、複製、原盤、配信規約の四つに分かれる。式場の包括契約でカバーされるのは、演奏だけ
- 2019年のJASRACの実証実験では、複製の包括使用料は1催物あたり進行用5,000円、記録用10,000円。プロフィールムービーなどの演出用録画物は対象外。その後の扱いは未確認なので、現在の金額は公式の案内で確認する
- ダウンロード音源は、配信会社の規約が私的使用に限られることが多く、多くの式場が不可としている
- 式場が決める線は三つ:持ち込める音源の形式、式場が用意する音源の範囲と費用、演出用映像の責任の置き場所
- 仮の式場(年120組)では、整備の手間は初年度で約1.8万円。音源トラブルが10%出ていれば、人件費だけで年5.8万円
- 数字に出ない損(当日の音が出ない)が大きいので、費用が軽いうちに文章にしておくほうが安全
- 決める前に数えるのは、過去1年の音源トラブルの件数、ダウンロード音源の希望数、式場が複製している組の数の三つ
