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婚礼の繁閑に1年単位の変形労働時間制は合うのか。仮の式場の20人では残業代が年663万円ずれる。ただ、挙式日の11時間勤務は1日10時間の上限に入らない

結婚式場の現場は、1年の中で忙しさがはっきり偏ります。土日の人気日が埋まる春と秋は、スタッフは毎週のように長時間働きます。一方で、夏や冬の平日は、フェアの対応と事務が中心で、早く帰れる日もあります。

この偏りに、労働時間の側を合わせる制度があります。1年単位の変形労働時間制です。繁忙期は週40時間を超えて働き、閑散期は短くして、1年を平均すると週40時間以内に収める。この枠の中なら、繁忙期の長い週に残業代(割増賃金)は発生しません。

先に結論を言います。婚礼の繁閑には、この制度は合います。ただ、そのまま使えるほど都合のいい制度ではありません。挙式のある日は、1日10時間という上限に収まらないことが多いからです。この記事では、仮の式場で残業代がいくら動くかを計算してから、上限に挙式日が入るかどうかを見ます。

なお、僕は社労士ではありません。制度の要件は労働局が公開している資料から拾い、数字はすべて仮の前提で計算しています。導入するかどうかは、自分の会場の勤怠データと、社労士や労働基準監督署の確認を通してから決めてください。

1年単位の変形労働時間制の、決まりごと

制度の中身を、必要な範囲だけ先に並べます。群馬労働局のページと、奈良労働局の資料で確かめた内容です。

  • 対象期間は1か月を超えて1年以内。1年にする会社が多い
  • 対象期間を平均して、週の労働時間が40時間以内になること
  • 労使協定を結んで、労働基準監督署に届け出ること
  • 1年の対象期間の場合、労働日数の上限は280日
  • 1日の労働時間は10時間まで、1週間は52時間まで
  • 連続して労働させる日数は原則6日まで。繁忙期を特定期間として協定に定めれば、最長12日まで

ここで、週40時間を1年に直すと、年の総枠が出ます。40時間に365日を掛けて7日で割ると、約2,085時間です。この枠の中で、どの週に何時間を割り振るかを、先に決めるのがこの制度です。

もう一つ、僕が導入前に必ず確かめてほしいと思うのは、割り振りを先に決める必要があることです。「繁忙期は忙しそうだから、長めに働いてもらう」では使えません。対象期間の始まる前に、各日の労働時間まで、あるいは期間を区切って区切りごとの労働日数と総労働時間まで、書面で決めておく。この点が、現場の感覚と最もぶつかります。婚礼は、予約の入り方が年によって動く仕事だからです。

仮の式場で、残業代がどれだけ動くか

計算の前提を置きます。数字はすべて仮置きで、実在する特定の式場のものではありません。

  • スタッフは月給制で20人。時給に直すと1,700円
  • 通常の運用は、1日8時間、週40時間。これを超えた時間には25%の割増がつく
  • 1年を、繁忙期26週と閑散期26週に分ける
  • 繁忙期は週46時間、閑散期は週34時間。平均は週40時間で、年の総労働時間はどちらの運用でも2,080時間

通常の運用では、閑散期に34時間しか働かなくても、月給は40時間分が出ます。一方、繁忙期の46時間のうち、40時間を超えた6時間には割増がつきます。1人あたりの超過は、6時間に26週を掛けて、年156時間です。

この156時間に払う残業代を、計算してみます。

  • 通常の運用:156時間×1,700円×1.25=1人33万1,500円。20人で663万円
  • 変形労働時間制:繁忙期の46時間は所定の時間なので、残業代は0円

差は、20人で年663万円です。ここは中身を分けて読む必要があります。割増の25%の部分だけを取り出すと、156時間×1,700円×0.25で、1人6万6,300円、20人で132万6,000円です。残りの530万円は、通常の運用では「閑散期に早く帰っても月給は満額」なのに、繁忙期の長い分は別に残業代を払っている、その重なりです。変形労働時間制は、繁忙期の長さと閑散期の短さを、同じ月給の中で相殺する仕組みになっています。

つまり、この663万円は「会社が得をする金額」と読むと危ないです。働く側から見れば、繁忙期に残業代がつかなくなり、そのかわり閑散期に早く帰れる、という交換です。閑散期に実際に短くしないなら、制度の看板だけが残って、スタッフの手取りだけが減ります。

もう一つ、時給制のパートの場合は計算が変わります。閑散期の34時間は34時間分の賃金しか出ないので、通常の運用でも「閑散期の払いすぎ」がありません。この場合に動くのは、割増の25%の部分だけです。仮に時給1,200円のパート20人が同じ繁忙期46時間で働くなら、156時間×1,200円×0.25で1人4万6,800円、20人で93万6,000円。月給制よりずっと小さくなります。

繁忙期を、週何時間にするかで金額が変わる

繁忙期の週の時間を変えると、動く金額も変わります。月給制の20人で、繁忙期26週、閑散期はそれに合わせて平均を週40時間に保つとして、割増の25%の部分だけを並べます。

  • 繁忙期が週44時間(閑散期は週36時間):1人4万4,200円、20人で88万4,000円
  • 繁忙期が週46時間(閑散期は週34時間):1人6万6,300円、20人で132万6,000円
  • 繁忙期が週48時間(閑散期は週32時間):1人8万8,400円、20人で176万8,000円

繁忙期を2時間延ばすごとに、割増の部分だけで年44万円ほど動きます。ただ、この表を見て「週48時間にすれば得だ」と考えるのは筋が違います。繁忙期が長くなるほど、閑散期を短くする約束も大きくなるからです。週32時間の閑散期は、1日に直せば6.4時間。閑散期の平日に、本当に6時間台で終われる仕事の量なのか。ここが数字より先に確かめることです。

挙式日の勤務は、1日10時間に収まるか

次に、いちばん大きな壁を見ます。1日10時間の上限です。

婚礼の仕事の実際の拘束を、仮に置いてみます。

  • 挙式が11時と15時の2組ある日の宴会・配膳スタッフ:朝8時に出勤、夜21時に退勤
  • 拘束13時間のうち、休憩が合計2時間

この場合の実働は11時間です。1年単位の変形労働時間制では、1日の労働時間の上限は10時間なので、この日は割り振りの時点で上限を超えています。上限を超える部分は、変形制を使っていても、割増賃金の対象になります。

つまり、「繁忙期の週46時間」は、割り振りの形によって通ったり通らなかったりします。たとえば次の2つは、同じ週46時間でも結果が違います。

  • 土日に各10時間、平日4日を各6.5時間にして、合計46時間。土日は10時間以内なので上限に収まる
  • 土日に各11.5時間、平日を各5.75時間にして、合計46時間。土日が上限を超える

前者は制度の枠で運用できます。後者は、土日の1.5時間ずつに割増がつきます。同じ46時間でも、挙式日の形を10時間の中に入れられるかどうかで、残業代の扱いが変わるわけです。

挙式日を10時間に収めるには、実務ではおおよそ3つのやり方があります。

  1. 早番と遅番に分ける。朝8時から17時までと、13時から22時までのように、同じ日に2つの勤務を作って、人を入れ替える
  2. 中抜けを入れる。挙式と披露宴の間の空き時間に、長めの休憩を取ってもらう。休憩は時間の長さではなく、労働から離れられる状態であるかが問われるので、待機を休憩と呼ぶのは危ない
  3. 担当を組で分ける。昼組と夕組を別のスタッフにして、1人が両方に入らない形にする

どれを選んでも、人の数が増えるか、1人あたりの稼働の効率が落ちるかのどちらかです。割増の25%を節約するために、人員を増やしては元が取れません。この上限との折り合いが、導入の可否をいちばん左右します。

週52時間と、連続勤務の上限

1日10時間の次は、1週52時間の上限です。

先ほどの「土日に各10時間」のパターンを例にします。土日で20時間、平日4日を各8時間にすると32時間、合計で52時間。ちょうど上限です。これ以上は、割り振れません。繁忙期の週の上限は、現場の感覚の「週に何時間までいけるか」より、少し低いと考えたほうがいいです。

連続勤務の上限も、婚礼は引っかかりやすいです。繁忙期に、土日が祝日でつながる連休と、フェアのある週末が重なると、休みを挟まず7日続くシフトが組まれやすい。原則の上限は6日なので、これは特定期間として協定に定めない限り、割り振れません。特定期間を設ければ最長12日までですが、奈良労働局の資料には、対象期間の相当部分を特定期間とする協定は認められない、という趣旨の但し書きがあります。春と秋の半年ぶんを全部特定期間にする、という使い方はできない前提で考えたほうが安全です。

予定が外れたときの費用

ここまでは「割り振った予定どおりに働いた」場合の計算です。実際の婚礼は、予定どおりにいきません。

たとえば、繁忙期の週46時間と割り振ったのに、結局は週48時間働いた。予定を超えた2時間は、変形労働時間制の枠を出るので、割増の対象になります。通常の運用と同じ扱いです。この超過が全員に、繁忙期の26週にわたって出たとして、仮に計算します。

  • 予定から週1時間超過:26時間×1,700円×1.25×20人で、110万5,000円
  • 予定から週2時間超過:221万円
  • 予定から週3時間超過:331万5,000円

週2時間の超過で、割増の部分だけの節約額132万円の、約1.7倍の費用が発生します。予定が週2時間以上外れる年は、制度を入れないほうが安かった、という結論になります。

婚礼は、予約の入り方が読みにくい仕事です。春と秋の土日は埋まるといっても、何組入るかは契約の時期によって変わりますし、台風や雨で打ち合わせや準備の時間が動くこともあります。予定を外さないために、実務では次の2つを決めておくのが効きます。

  • 繁忙期の割り振りに、余裕を持たせる。週46時間が通常なら、割り振りは44時間にして、残りの余裕は予定外の対応に回す
  • 予定が外れたら、閑散期を短くする方向で調整するルールを、あらかじめ決める。ただし、対象期間の途中で、割り振りを会社の都合で変えることは原則できないので、「変えられる」と思い込まないこと

導入前に決めておくこと

ここまでの内容から、導入の前に決めておくことを整理します。

  1. 去年の勤怠から、週ごとの実労働時間を出す。繁忙期と閑散期の、本当の差を数える。差が小さければ、制度を入れても動く金額は小さい
  2. 挙式日の拘束時間と休憩の取り方を並べて、1日10時間に収まるかを確かめる。収まらないなら、早番・遅番の分け方を先に決める
  3. 閑散期に、実際に短くできる仕事量かを確かめる。短くできないなら、制度は入れない
  4. 月給制と時給制を分けて、金額の動きを別々に計算する
  5. 労使協定の中身(対象期間、割り振り、特定期間)を、従業員代表と一緒に作る。制度は、スタッフの納得がないと続かない
  6. 年の途中で入社・退社する人の賃金の精算ルールを、社労士に確認する。対象期間の途中で辞めた人は、働いた期間で平均して週40時間を超えた分を精算する必要が出る

最後の6は、僕もこの記事の範囲では詳しく書けないところです。婚礼は、4月入社、年末退職、育休明けの短時間勤務など、年の途中で動く人が多い仕事です。制度を入れるなら、ここが後から面倒になりやすいと見ています。

現場の感覚との、ずれのつくり方

この制度の話をスタッフにすると、「繁忙期の残業代がなくなるのか」と受け取られます。僕は、この受け取り方が自然だと思います。実際、制度の効果は、会社の人件費の側から見れば残業代の削減で、スタッフの側から見れば、繁忙期の手取りが減ることです。

だから、導入するなら、閑散期に短くする分を、会社が先に約束するのが前提になります。夏の平日は16時に帰れる、冬の平日は週休3日に近い形にする。そのくらい目に見える形にしないと、スタッフから見れば、残業代がなくなるだけの制度です。

そう考えると、この制度で動かせるのは、残業代の金額よりも、繁閑の偏りを会社とスタッフが同じ表で見られるようにすること、のほうだと思っています。閑散期の短縮が、1年の前半に決まっていれば、スタッフは旅行や資格の勉強を組めます。残業代は、繁忙期に払うか、休みで返すかの違いで、返す形にしたほうが、採用の場面で見せられる材料が増えます。

まとめ

  • 1年単位の変形労働時間制は、対象期間を平均して週40時間以内に収めれば、繁忙期に週40時間を超えても割増がつかない制度。労使協定と届出が必要
  • 仮の式場(月給制20人、繁忙期26週で週46時間、閑散期26週で週34時間)では、通常運用の残業代が年663万円。うち割増の25%の部分は132万6,000円で、残りは閑散期の月給との重なり
  • 時給制のパートでは、動くのは割増の25%の部分だけ。仮に時給1,200円で20人なら年93万6,000円
  • 挙式日は、拘束13時間・休憩2時間だと実働11時間になり、1日10時間の上限を超える。早番・遅番や中抜けで10時間に収める設計が先に要る
  • 週52時間、連続勤務は原則6日(特定期間で最長12日)の上限もある。繁忙期の割り振りは、感覚より少し低く見る
  • 予定が外れると、超過分は通常の割増になる。仮の計算では、週2時間の超過で、節約額の約1.7倍の費用が出る
  • 導入の前に決めるのは、実際の週ごとの労働時間、挙式日の10時間への収まり方、閑散期に本当に短くできるか、の3つ
  • 制度が節約するのは残業代、手取りが減るのは繁忙期のスタッフ。閑散期の短縮を先に約束できない会場は、入れないほうがいい