新人プランナーの最初の見学10件に先輩が後ろで座ると、仮の式場では人件費4.5万円。損益を分けるのは、その10件が満枠の日に入るかどうかだ
新しいプランナーが入ったとき、最初の見学を誰が受けるか。多くの式場は、ここを「現場の判断」で済ませていると思います。先輩が後ろに座る日もあれば、人が足りなくて新人が1人で出る日もあります。
ただ、これは判断を現場に任せておくには、数字が大きい話です。見学1件の成約率が40%、1組の粗利が140万円なら、見学1件の期待値は56万円です。新人が最初の10件を受ければ、期待値の合計は560万円になります。その10件の質が1ポイント動くだけで、14万円が動きます。
結論を先に書きます。年300組が来館する仮の式場で、新人の最初の10件に先輩が後ろで座るコストは、人件費だけなら4.5万円です。成約率が0.3ポイント上がれば元が取れます。ところが、その10件が満枠の日に入ると、話が変わります。先輩が後ろに座った分だけ、先輩が受けられたはずの別の見学が消えるからです。満枠の日が1割なら成約率が4ポイント、3割なら12ポイント上がらないと元が取れません。
つまり、先輩が同席するかどうかより、どの日の見学を新人に割り当てるかのほうが、損益を左右します。この記事は、その分かれ目を数字で出します。
なお、ここで使う数字は、ほぼすべて僕が置いた仮の前提です。新人の最初の10件で成約率がどれだけ変わるかについて、僕が確かめられた公開データはありませんでした。だから「業界ではこうです」とは書きません。自分の会場の数字に置き換えて使ってもらうための型として読んでください。
前提を先に置きます
仮の式場の前提は次のとおりです。
- 年間の来館は300組、先輩プランナーの見学の成約率は40%です
- 1組の粗利は140万円です
- 見学1件は90分で、先輩の時給換算の人件費は3,000円とします(社会保険などを含めた仮の値です)
- 新人が入社して、最初の見学を担当する1か月の間に、10件の見学があるとします
- 新人が1人で出た場合の成約率は、仮に30%とします。先輩が後ろに座った場合は、仮に35%まで上がるとします(どちらも想定です。実際の数字は、自分の会場の新人の成績で確かめられます)
ここでいう「後ろに座る」は、先輩が説明するのではなく、新人が前に出て説明し、先輩が横か後ろで聞く形です。反対に、先輩が説明して新人が横で聞く形は「同席」と呼ばれがちですが、この記事の対象ではありません。そちらは新人が一人で出る時期を先に延ばすだけで、費用がほとんどかからないからです。
先輩が前に立つ見学を何回見せても、新人が話す練習にはなりません。話す練習になるのは、新人が前に出て、先輩が横で見ている見学のほうです。この形は、先輩の90分を使います。費用の話が出てくるのは、ここからです。
費用は人件費で4.5万円
先輩が後ろに座る10件の人件費を、先に計算します。
90分は1.5時間です。3,000円をかけると、1件あたり4,500円になります。10件で4.5万円です。
成約率が上がって得をする側は、10件で粗利140万円の組が何組増えるかで決まります。元を取るために必要な成約の増加は、4.5万円を140万円で割って、0.032組です。10件に対する割合に直すと、0.32ポイントです。
新人が1人で出た場合の成約率を30%、後ろに先輩がいる場合を35%と置くと、差は5ポイントです。10件で0.5組の増加になり、粗利にすると70万円です。人件費の4.5万円に対して、70万円の効果です。
人件費だけを見ると、先輩が後ろに座らない理由は見当たりません。5ポイントの差が出なくても、0.3ポイントあれば足ります。
ここで話を終えると、「新人には先輩をつけましょう」という当たり前の記事になります。でも、現場でこれが止まるのは、人件費が理由ではありません。先輩の90分が、他の見学に使えたかどうかです。
落とし穴:先輩の90分は、別の見学に使えたかもしれない
先輩が新人の後ろに座っている90分は、先輩が自分で見学を受けていた時間かもしれません。その時間に別の二人が来館を希望していて、先輩が空いていなかったから断った、という日があるとします。この場合、先輩が後ろに座った10件は、別の二人の見学10件を押しのけたことになります。
押しのけられた見学のうち、実際に別の枠が取れずに失注した割合をsとします。sは、その日が満枠かどうかで決まる値です。空いている平日なら、他に受けられる先輩がいるので、sは0に近づきます。土日の昼の人気の時間帯なら、sは大きくなります。
押しのけられた見学の成約率は、先輩が受ければ40%です。粗利140万円なので、押しのけられた1件あたりの期待値は56万円です。
この計算を、sごとに並べます。
- s=0(空いている日の見学に回す):失う見学はゼロ。追加の損失は0円
- s=10%:10件のうち1件が押しのけられる。失う粗利は0.4組、56万円
- s=20%:2件が押しのけられる。失う粗利は0.8組、112万円
- s=30%:3件が押しのけられる。失う粗利は1.2組、168万円
- s=50%:5件が押しのけられる。失う粗利は2.0組、280万円
この損失を、新人の成約率の上積みで取り戻せるかどうかが、損益の分かれ目です。必要な上積みは、失う粗利を、新人の10件の粗利で割って求められます。
- s=10%:4ポイント
- s=20%:8ポイント
- s=30%:12ポイント
- s=50%:20ポイント
仮に置いた5ポイントの上積みで元が取れるのは、sが12.5%までです。つまり、10件のうち1件ちょっとが満枠の日に当たるくらいまでなら、先輩が後ろに座ったほうが得です。それを超えると、座らせたことで赤字になります。
実際の運用では、新人の見学のスケジュールを、最初から土日の昼に集めることはあまりしないと思います。それでも、新人の最初の1か月に土日が4回あるだけで、10件のうち何件かは満枠の時間帯に当たります。人が足りなくなる日は、たいてい土日だからです。
分かれ目は「新人の10件をどこに寄せるか」
ここまでの計算から、判断の型は1つに絞れます。
先輩が後ろに座るのは、空いている枠の見学だけにする。満枠の土日は、新人に回さず、先輩が1人で受ける。
これで、sを下げられます。新人の最初の10件を、次の3つの条件で選ぶとよいと思います。
1つ目は、平日の見学です。平日は枠が埋まりにくく、先輩が後ろに座っても、別の見学を押しのけにくくなります。
2つ目は、予約の時点で空いていた枠です。土日でも、前日に空いていた枠があれば、そこに新人を入れる方法があります。満枠の日の予約を新人に振ると、先輩が動けなくなります。
3つ目は、二人の側に事情がある見学です。たとえば、すでに他の式場を何軒も見ていて、説明の細かい点まで詳しい二人は、新人にとって難易度が高めです。反対に、結婚式の準備を始めたばかりの二人は、説明が基本で足ります。最初の10件は、後者に寄せたほうが新人の負担を抑えられます。ただし、これは僕の経験則ではなく、考え方の整理です。二人を事前に選別できる運用かどうかは、会場によって違います。
10件の中身を決めておく
先輩が後ろに座るだけで終わらせないための、段取りも書いておきます。ここは費用がかからない部分です。
見学の前に決めておくこと
新人に任せる部分と、先輩が口を出す部分を、先に決めます。たとえば、冒頭のヒアリングと会場案内は新人が受け持ち、見積もりの説明だけは先輩が入る、のように分けます。全部を任せると、見積もりの場面で二人が不安になります。全部を横から補うと、新人は自分が話す機会を失います。
見学の最中に先輩がしないこと
新人の言い間違いを、その場で訂正しないことです。二人の目の前で訂正すると、新人は自信を失い、二人も「この人に任せて大丈夫か」と感じます。訂正が必要な場面は、その場で「補足すると」と足す形に留めて、ミスの指摘は終わってからにします。
ただし、金額や規約に関わる間違いは別です。見積もりの数字や、キャンセル規定の説明を誤ったまま二人が持ち帰ると、契約後のトラブルになります。この種の間違いだけは、その場で直します。
見学のあとの振り返り
10分で足ります。次の3つだけ聞きます。
- 話していて、詰まったのはどこか
- 二人の反応が変わったのは、どの説明のあとか
- 次の見学で、1つだけ変えるなら何か
3つに絞る理由は、新人が1回の振り返りで直せる数が、たいてい1〜2個だからです。10個の指摘を渡すと、次の見学に何も残りません。
10件を終えたあとの切り替え
10件の中で、新人の成約率が先輩の成約率に近づいているかを見ます。件数が少ないので、成約率そのものは当てになりません。10件で4件の成約と3件の成約は、誤差の範囲です。見るべきは、ヒアリングで二人の希望を聞き出せているか、見積もりの説明で二人の質問に答えられているか、という行動の側です。
二人にはどう伝えるか
新人が前に出て、先輩が後ろにいる状態を、二人に伝えるかどうかも決めておく必要があります。
伝えない場合、二人は先輩が同席している理由が分かりません。なんとなく「責任者が見ているから安心」と受け取る人もいれば、「新人なのに大丈夫か」と感じる人もいます。
伝える場合は、「担当の〇〇です。今日は〇〇が横で補足します」と言う程度で足ります。新人であることを隠さず、同時に先輩が見ていることも伝えます。新人本人が「入社して1か月です」と言うかどうかは、会場の方針で決めてよいと思います。僕の見方では、言わなくても困りません。二人が聞いたときに、正直に答えられる状態にしておけば足ります。
判断の分かれ目を整理します
この記事の計算は、次の3つの条件で結論が変わります。自分の会場の数字を入れて確かめてください。
- 満枠の日の割合(s):新人の最初の10件のうち、満枠の時間帯に当たる割合です。sが10%を超えるなら、後ろに座る見学を空き枠に寄せ直す価値があります。sが30%を超えるなら、土日の見学は新人に回さないほうが堅いと言えます
- 新人の成約率の上積み:先輩が後ろに座ったときと、1人で出たときの差です。これは数えにくい値ですが、新人が独り立ちしたあとの最初の20件と、それ以前の10件を比べれば、おおよその差が出ます
- 先輩の1時間の機会費用:先輩が別の見学を受けていたなら、その成約率が40%より高いか低いかで、押しのけられた見学の価値が変わります。先輩が会場でいちばん成約率の高い人なら、後ろに座らせる費用は上がります
3つ目は、見落としやすい条件です。いちばん成約率の高い先輩ほど、新人の後ろに座らせたくなります。教える力があるからです。でも、その先輩が1人で受ける見学の価値も、いちばん高い人です。教える役を、成約率が中位の先輩に分けるだけで、満枠の日の損失は小さくなります。
この記事の限界
最後に、この計算で言えないことを書いておきます。
新人の成約率が、先輩が後ろにいるだけで5ポイント上がるという数字は、僕が置いた仮の値です。実際には、後ろに座ったことで上がる場合もあれば、新人が緊張して下がる場合もあります。10件という数も、仮に置いたものです。式場によっては、新人が1人で出られるまでに5件で足りる場合も、20件かかる場合もあります。
また、成約率の差は、10件では測れません。10件で3組と4組の違いは、誤差の範囲です。だから、この計算で見るべきなのは、成約率の差そのものより、「満枠の日に新人の見学を入れるかどうか」という運用のほうです。後ろに座るのが得か損かは、先輩の成約率の高さではなく、先輩の90分が別の見学に使えたかどうかで決まります。
まとめ
- 新人の最初の10件に先輩が後ろで座るコストは、仮の式場で人件費4.5万円です。成約率が0.3ポイント上がれば元が取れます
- 損益を分けるのは、その10件のうち満枠の日に当たる割合です。1割で4ポイント、3割で12ポイントの上積みがないと元が取れません
- 後ろに座る見学は、平日と、予約の時点で空いていた枠に寄せます。満枠の土日は先輩が1人で受けます
- 見学の前に任せる範囲を決め、最中は金額と規約以外の間違いを訂正せず、あとの振り返りは3つの質問で10分に収めます
- 教える役は、会場でいちばん成約率の高い先輩ではなく、中位の先輩に分けると損失が小さくなります
- 新人の成約率の差は10件では測れません。見るのは数字より、満枠の日に新人を入れていないかという運用です
