式場の披露宴に来たゲストを、次の見学予約につなげる条件
結婚式の披露宴には、新郎新婦の友人が何十人も来ます。その中には、まだ式を挙げていない人がいます。式場にとって、この人たちは一日かけて会場を体験した、いちばん近い見込み客のはずです。
それなのに、披露宴の当日にゲストを次の来館につなげる仕組みを持っている式場は、多くないように見えます。僕の考えは、つなげる価値はある、です。ただし、二人に迷惑をかけない形で、数えられる形で、の二つが揃うときだけです。この記事は、その条件を整理する話です。
先に断っておくと、披露宴に参列した人が後日その会場で見学を予約する割合を測った調査は、探しましたが見つかっていません。この記事の試算に出てくる割合は、すべて僕が置いた仮の前提で、実在の式場の数字ではありません。確かめられている数字は、参列経験の調査ひとつだけです。
ゲストは「体験した人」という強み
結婚式を探している二人が、式場を知る方法はいろいろあります。媒体、検索、SNS、口コミ。どれも、他人の言葉や写真を通して会場を見ています。
披露宴のゲストだけが違います。会場に入り、料理を食べ、チャペルに座り、スタッフの動きを見ています。式場にとって、広告費をかけても作れない体験を、すでに持っている人たちです。
参列経験のある人は、思っているより多いです。ベルコが2024年に行った結婚式に関するアンケート調査(第3弾)では、全体の結婚式の参列経験は77.0%でした。調査期間は2024年6月24日から7月7日で、既婚者2,170名、未婚者2,168名が回答しています。この数字は参列経験の有無であって、参列後に自分も挙げたくなったかどうかを聞いたものではない、という点は押さえてください。
つまり、確かめられているのは「多くの人が参列している」ところまでです。「参列したら挙げたくなる」「その会場を選ぶ」はまだ、仮説の領域です。この区別を持ったまま、試算に進みます。
年60組の会場で、ゲストは何人いるのか
仮のモデルで数えます。数字はすべて仮です。
- 年間の挙式組数:60組
- 1組あたりのゲスト数:平均60名
- ゲストのうち、友人・同僚の割合:半分
- その友人・同僚のうち、まだ結婚式を挙げていない人:3割
これを掛け合わせます。
60組 × 60名 = 3,600名(年間のゲスト延べ人数)
3,600名 × 0.5 = 1,800名(友人・同僚)
1,800名 × 0.3 = 540名(まだ挙げていない友人・同僚)
年に540名が、次の見込み客の候補になります。ここからさらに、結婚を具体的に考えている人は一部です。結婚の予定が近い人を、仮に1割とすると54名です。そのうち、案内を受け取って見学を予約する人が1割なら、年に5組です。
5組は、少なく見えるかもしれません。ただ、この5組は媒体費をかけずに来る人たちです。仮に1組の見学予約を媒体から取るのに3万円かかる会場なら、5組で15万円分の集客に当たります。この3万円も仮の数字なので、読む方は自分の会場の数字に置き換えてください。
逆に、結婚を考えている割合が1割ではなく3%なら、年に約1.6組です。予約する割合が1割でなく3%なら、さらに小さくなります。この試算で言えることは、「大きな集客源ではないが、費用がほとんどかからないので、二人に迷惑をかけない限りやる価値はある」です。大きな期待をかけるものではありません。
条件1:二人に迷惑をかけない
最初に決めるのは、これです。ゲストへの案内は、新郎新婦の結婚式のなかで行います。二人の大切な日に、式場が営業をしているように見えたら、二人は不快に感じます。
守るべきことは三つです。
- 契約の時点で、二人に説明して、了解を取る。「ご友人向けに、見学の案内カードを退場時にお渡ししてもよいですか」と、先に聞く
- 了解が取れない二人には、一切渡さない。断られたことを、他の担当者や上司に伝えて、気まずい空気にしない
- 二人の名前を使った案内文にしない。「〇〇さんのご紹介で」のような書き方は、二人が頼んでいないのに紹介者になってしまう
特に3は気をつけたい点です。紹介の特典を付ける仕組みは、卒花嫁の紹介として別の形で成り立ちます。ここでの案内は、紹介ではなく、会場の情報提供です。
条件2:渡す物とタイミングを決める
次に決めるのは、何を、いつ渡すかです。
渡す物は、小さくて軽いものにします。名刺大のカードに、予約ページへのQRコード、会場名、見学できる曜日、一行の言葉。それ以上は載せません。パンフレットを渡すと、持ち帰るのに邪魔になります。
タイミングは、退場の時間が自然です。引出物の袋に入れておく方法もあります。この場合は、袋を受け取る時点で、新郎新婦の友人以外のゲスト、たとえば親族や職場の上司にも渡ることになります。見込みの薄い人にも渡すことになるため、カードを小さく安くしておきます。
避けたい場面もあります。
- 乾杯や余興の最中に案内する
- 受付の席で、ゲストの名前を確認しながら渡す
- 司会が会場全体にアナウンスする
どれも、二人の結婚式の時間を使っています。式の流れの外で、ゲストが自分のペースで受け取れる形が合っています。
カードの文面は、情報だけにします。たとえば次のようなものです。
本日は、ご参列ありがとうございました。この会場でのご結婚をお考えのときは、平日・土日とも見学を受けています。ご予約はこちらから。
期限を切る言葉や、特典で追う言い方は使いません。
条件3:数えられるようにする
条件の三つ目が、いちばん見落とされます。案内を渡しても、数えなければ、続けるか止めるかが決められません。
数える方法は簡単です。
- カードのQRコードを、ゲスト向けの専用にする。予約ページに入る入口を別にしておけば、ゲスト経由の予約が数えられる
- 見学予約のフォームに「どこで当会場を知りましたか」の選択肢を置き、「ご友人の披露宴に出席して」を入れる
- 見学に来た二人に、担当者が口頭で聞いて、記録する
専用QRで数える考え方は、折込チラシのような紙の施策と同じです。紙は反応が見えにくいぶん、入口を分けておくと、続ける理由も止める理由も数字で言えます。
数えるときの判断のしかたも、前もって決めておきます。たとえば次のような基準です。
- 1年で、ゲスト経由の見学予約が3組に届かなければ、カードの配布は新郎新婦の希望があるときだけにする
- 3組を超えて、成約が1組でもあれば、配布を続ける
この基準の数字は、会場の規模で変えます。仮の年60組の会場なら、3組が目安という程度に読んでください。
誰に渡すかを絞るかどうか
カードを全員に渡すか、友人・同僚だけに絞るかも、先に決めておきます。
全員に渡す利点は、仕分けの手間がないことです。欠点は、親族や上司など、結婚の予定がほとんどない人にも渡るので、カードが無駄になりやすいことです。そして、受け取った人が「会場の営業」と感じる確率も上がります。
絞って渡す場合は、渡す係が必要です。ゲストの顔ぶれを知っているのは新郎新婦なので、二人に「ご友人のテーブルの分だけ置きますね」と伝えておく形が、いちばん自然です。式場のスタッフが、ゲストを見て判断して手渡しする運用は、受け取る側が見られている感じを持つので避けたほうがよいと考えています。
卓の上に置く方法もあります。友人席の各席に、メニュー表と一緒に小さなカードを添えます。見たい人だけが取り上げるので、押しつけ感が出にくいです。席次表やメニュー表を式場で内製している会場なら、同じ紙の扱いで済みます。
個人情報の扱いに触れておく
もうひとつ、扱いに気をつけたいことがあります。ゲストの名簿です。
披露宴のゲストの名前や住所は、二人の結婚式を行うために、式場が預かっている情報です。この名簿を使って、ゲストに見学の案内を郵送したり、電話をかけたりするのは、避けるべきです。取得したときの目的の範囲を超えるおそれがあり、二人の友人関係を使った営業にも見えます。
そのため、ここで書いている案内は、名簿を使わない形に限ります。カードを当日に手渡しで置いて、ゲストが自分で動いたときだけ、会場との接点が生まれる。式場の側からゲストに連絡をする手段は持たない。この線引きが、条件1の「二人に迷惑をかけない」とも合います。
続けるか止めるかの判断
ここまでの三つの条件が揃ったら、実際に始めて、半年から1年で判断します。
判断の材料は、次の三つです。
- ゲスト向けの専用QRからの見学予約が何組あったか
- 二人から「やめてほしい」と言われた件数(0であること)
- カードの制作費と、配る手間
3は、仮にカード1枚の制作費を20円とします。年間3,600名の全員に渡す想定でも、7万2,000円です。1,800名の友人・同僚だけに絞れば3万6,000円になります。ただし、20円は僕の置いた仮の数字なので、自分の会場の印刷費で置き換えてください。印刷費よりも大きいのは、カードを用意して渡し分ける人の時間です。これは費用に入れて考えます。
効果が出なかった場合の原因も、いくつか考えられます。
- カードが小さすぎて、ゲストの記憶に残らなかった
- 会場の見学予約ページが、スマホで使いにくかった
- 友人ゲストの年齢が高く、結婚の予定のある人が少なかった
原因に応じて、直すところが変わります。カードの形、予約ページ、配る対象。一度に変えず、ひとつずつ変えるのが、数字で判断しやすいやり方です。
まとめ
- 披露宴のゲストは、会場を体験した人であり、媒体費のかからない見込み客になりうる
- 確かめられているのは、参列経験が77.0%という調査(ベルコ、2024年)まで。参列後に見学予約へ進む割合は、調べた範囲では見つからなかった
- 仮に年60組・ゲスト60名なら、まだ挙げていない友人・同僚は年540名。見学予約になるのは、仮の前提で年に数組
- 条件は三つ。二人の了解を先に取る、小さなカードをゲストが自分のペースで受け取れる形にする、専用QRで数える
- ゲスト名簿は使わない。式場から連絡する手段は持たず、ゲストが自分で動いたときだけつながる
- 効果が出なければ、カード・予約ページ・対象の順で、ひとつずつ直して判断する
