開業直後の式場は、口コミが出るまでの空白を何で埋めるか
開業したばかりの式場、あるいは大きくリニューアルして名前も運営も変わった式場には、ほぼ必ず同じ時期が来ます。結婚情報サイトにもGoogleマップにも、口コミがほとんど載っていない時期です。
僕は、この時期の式場がやるべきことは「口コミを急いで集めること」ではないと考えています。口コミは、挙式が終わってからでないと書かれません。契約から挙式までの時間がそのまま空白になるので、先に「口コミの代わりに、判断の材料になるもの」を公式サイトと見学の場に置いておく必要があります。
この記事では、出典のある統計は使いません。口コミの件数と成約率の関係を全国で言い切れる調査は、僕の探した範囲では見当たらなかったためです。そのかわり、前提を置いたモデル計算と、仕組みの説明で進めます。数字はすべて「仮に」の置き方です。
口コミ0件の式場は、比較の段階で空欄として扱われる
新郎新婦が式場を探すとき、最初に起きるのは絞り込みです。エリア、人数、予算、日取りで10件ほどに絞り、その中から見学に行く3〜4件を選びます。この「見学に行く式場を選ぶ」段階で、口コミの件数は判断材料として使われやすい項目です。
理由は単純で、写真や料金表は式場が自分で書けるのに対して、口コミだけは第三者が書いたものだからです。二人が確かめたいのは、写真の通りかどうか、担当者は感じがいいか、当日に困ったことが起きなかったかです。これを確かめられるのは口コミだけなので、口コミが無い式場は「確かめようがない式場」になります。
悪い評価がついているわけではなく、評価が無いことが理由で、比較の一覧では空欄として扱われます。僕が現場の話を聞いていて感じるのは、口コミ0件の式場は落とされるというより「見学の候補に上がらない」ことが多い、という点です。見学に来てもらえれば説明できることが、来てもらうまでの段階で止まっています。
だから開業直後の式場が最初に解くのは、評価を上げることではなく、確かめられる材料を増やすことです。
口コミが出るまでの空白は、思ったより長い
次に、空白の長さを数えます。ここは仮の前提を置いた計算です。
- 開業の月から、毎月6組が契約すると仮定する
- 契約から挙式までは8か月と仮定する(半年から1年の幅があります)
- 挙式後に口コミを依頼して、実際に投稿してくれる割合を25%と仮定する
この前提で数えると、最初の挙式は開業の9か月後です。それまでは、挙式を終えた人がいないので、挙式後に書かれる口コミは1件も生まれません。
12か月目までに生まれる口コミは6件。24か月目で24件です。投稿率を15%にすると12か月で3.6件、35%にすると8.4件になります。契約から挙式までが10か月に延びると、25%でも12か月目は3件です。
つまり、開業して1年たっても口コミが一桁、という状態は珍しくありません。周りの式場に100件の口コミが並んでいる地域なら、24か月たっても4分の1にも届きません。件数の勝負をすると、開業直後の式場はほぼ負けます。
これは担当者の努力で縮められる差ではありません。契約から挙式までの時間が決めているので、「口コミを増やす」という目標を置くと、現場が苦しくなるだけです。
口コミの代わりに置く材料は、3つに分ける
口コミが担っている役割は、先ほどの3つの疑問に答えることでした。写真の通りか、担当者は信用できるか、当日に困らないか。この3つを、口コミ以外のもので1つずつ埋めていきます。
1. 写真の通りか:実際の空間を、加工せずに見せる
開業直後の式場は、きれいな写真がたくさんあります。ところが、二人が気にしているのは「きれいかどうか」より「写真と実物の差」です。
この確認は、口コミの代わりに公式サイトでできます。たとえば、挙式の入場から退場までの動線を、スタッフの目線で撮った写真と動画で並べる。披露宴会場を、満席に近い状態と少人数の状態の両方で見せる。控室、トイレ、駐車場のように、見せたがらない場所も載せる。
見せたくない場所を先に見せると、「この式場は隠していない」という印象が残ります。口コミが担っていた「正直な情報が出ている」という役割を、式場が自分で引き受けることになります。
2. 担当者は信用できるか:会う前に、人柄が分かる材料を置く
口コミでよく書かれるのは、担当者の対応です。「プランナーさんが親身だった」「質問に細かく答えてくれた」といった文が、見学の予約を後押しします。
開業直後はそれが無いので、担当者の情報をサイトに先に出します。経歴の長さを競うより、「見学で最初に聞くこと」「打ち合わせは何回、どのくらいの長さか」のように、二人がイメージできる中身にします。
プランナー紹介は、顔写真より「会える確率」が効くという考え方があります(担当を指名できるのか、見学のときは誰が出るのかを書く)。口コミ0件の式場では、この「誰と会えるか」が、評価の代わりの安心になります。
3. 当日に困らないか:契約者の声を、口コミとは別の形で出す
口コミは挙式後でないと出ませんが、契約した二人の「決めた理由」と「打ち合わせでの声」は、契約の直後からあります。これは口コミではなく、式場が集める声です。
たとえば、契約時のアンケートで「他の式場でなく、ここに決めた理由」を1問だけ聞く。その回答を、本人の了承を得て、サイトに「決めた理由」として載せます。
ここで注意したいのは、この声を口コミと混ぜないことです。「口コミ」と書いて載せると、第三者の評価のように見えます。式場が集めて式場が載せた声は、「契約者の声」と書き、どの時期に、誰に聞いたのかが分かるようにします。
招待して感想を集めるときは、条件を明らかにする
口コミを増やす手段として、式場の関係者や知り合いを招いて、試食や見学をしてもらい、感想を書いてもらう方法があります。これは続けていい場合と、やめたほうがいい場合があります。
分かれ目は、書いた人が式場との関係をはっきり書いているか、の一点です。
- 招待されて体験したこと、無償だったことが読み手に分かる形で書かれている。これは続けていい
- 招待したことを伏せて、一般の来館者のように書かれている。これはやめる
- 式場が文面を決めている、または評価の高さを条件にしている。これはやめる
2023年10月にいわゆるステマ規制が始まり、広告であるのに広告と分からない表示は、景品表示法で問題になります。ここは法律の細かい話になるので、実際に運用するときは、必ず専門家に確認してください。僕が言えるのは、「関係を書いてもらえない集め方は、続かない」という実務の感覚です。伏せて集めた口コミは、後から発覚したときに、式場の名前ごと信用を落とします。
なお、体験の感想を書いてもらうなら、集める場所は媒体の口コミ欄ではなく、公式サイトやインスタグラムの投稿にするほうが安全です。媒体の口コミ欄には、媒体ごとの禁止事項があります。投稿の条件は、媒体の規約で確認が要ります。
見学だけで投稿できる口コミ欄があるか、先に調べておく
媒体によっては、挙式後の人でなく、見学や相談をした人が投稿できる欄があります。これは媒体によって条件が違い、僕は一律の仕組みを言い切れません。
開業前に、使う予定の媒体ごとに、次の2点を確認しておくと動きやすくなります。
- 見学した人も口コミを投稿できるか。できる場合、投稿にいたる条件(予約した媒体経由に限る、など)
- 挙式前の契約者が、投稿できる欄があるか
見学の口コミが書ける媒体なら、開業の月から口コミが生まれる可能性があります。書ける欄が無い媒体は、上の「3つの材料」を厚くしたほうがいい、という判断になります。この調べものは1日で済みます。
見学者に口コミの依頼を送るときは、「書いてください」だけでなく、書きやすい聞き方を添えます。たとえば、「見学して、決め手になったこと、迷ったことを1つずつ教えてください」。これは評価の高さを求めていない、事実を聞く質問なので、書く側の負担も少なく、規約にも触れにくくなります。
口コミが少ない間は、広告を増やすか、絞るか
口コミが無い時期は、広告をどうするかも迷います。広告を出しても、掲載ページに口コミが無ければ、見学の予約が取りにくいからです。
ここは、仮の計算で考えます。広告費が月に50万円、ページの閲覧から見学予約の割合が、口コミのあるページで2%、口コミの無いページで1%だと仮定します。閲覧が同じなら、予約の数は半分です。広告費を増やしても、予約は閲覧に比例するので、1件あたりの費用は変わりません。
この仮の数字が示すのは、広告費は「口コミ0件の間は費用あたりの予約が低い」という前提で組むべきだということです。広告をやめる必要はありませんが、上げ幅は控えめにして、材料が揃った時点で上げるほうが無駄になりません。
材料が揃ったかどうかは、公式サイトの経由で見学を予約した人の割合で判断できます。公式サイトの閲覧から予約までの割合が上がってきたら、材料が効いている目安です。この割合は式場ごとに違うので、開業の月の数字を基準にして、前の月と比べます。
空白の期間にやらないこと
最後に、口コミの空白を埋めようとして、やりがちな失敗を挙げます。
- 満足した二人にだけ依頼する。満足した人にだけ頼むと、良い口コミしか集まらず、読み手が不自然に感じる。依頼は、挙式を終えた全員に送る
- 開業前の取材記事や掲載記事を、口コミのように見せる。式場が用意した文章は、口コミとは別のものとして、別の見出しで載せる
- 口コミの件数が少ないことを隠すために、件数の表示を消す。消すと、確かめようがない印象が強まる。少ない件数のまま、一つひとつの口コミに丁寧に返信するほうが読まれる
- 他の式場の口コミ件数を比べる文章を書く。他社の名前を出さなくても、比べる形は避ける
どれも、短期では口コミが増えたように見える方法です。ただ、見る人は件数だけでなく、「書き方の不自然さ」に敏感です。
口コミが付き始めてからの、切り替え方
材料の置き方は、口コミが増えたら変わります。目安は、口コミが10件前後に届いた時点です(この数字は僕の感覚で、根拠のある基準ではありません。式場ごとに決めてください)。
切り替えは3つです。
- 公式サイトに載せていた「契約者の声」の一部を、口コミへのリンクに置き換える
- 口コミに書かれた言葉を、サイトの説明に使う。二人が使う言葉で書かれているので、検索の言葉にも近い
- 口コミで多く触れられた点を、見学の最初に確認する。良い評価だけでなく、「少し気になった」の指摘も見学で先に説明しておく
口コミは、集めるだけでなく、読む材料にもなります。件数が少ない間は、1件ごとに読み込むことで、見学の説明を変えるきっかけになります。
まとめ
- 口コミ0件の式場は、悪い評価がついているのではなく、確かめようがない式場として比較の段階で見学の候補から外れやすい
- 挙式後にしか書かれない口コミは、契約から挙式までの時間の分だけ必ず空白ができる。前提つきの計算では、毎月6組の契約・挙式まで8か月・投稿率25%で、12か月目の口コミは6件
- 口コミが担っていた「写真の通りか」「担当者は信用できるか」「当日に困らないか」を、実際の空間の見せ方・担当者の情報・契約者の声で、公式サイトに先に置く
- 式場が集めた声は「契約者の声」として、口コミと分けて載せる。招待した体験の感想は、関係をはっきり書いてもらう
- 使う予定の媒体で、見学だけで投稿できる口コミ欄があるかを、開業前に1日かけて確認する
- 口コミが少ない間は、広告の上げ幅を控えめにして、公式サイト経由の予約割合が上がってから増やす
- 口コミが10件前後に届いたら、契約者の声を口コミへのリンクに置き換え、口コミの言葉を見学の説明に使う
