披露宴の招待客から見学予約を取る式場が、名簿に触らない理由
結婚式に呼ばれた友人が、帰りの電車で「次はうちらだね」と言う。式場の経営者なら、一度は思い当たる場面ではないでしょうか。披露宴に来た60人は、いちばん結婚式を好意的に見てくれている60人です。その中に、1年以内に式場を探し始める人が必ずいます。
ここから「名簿を使って案内を送ればいい」と考えると、僕は少し危ないと思っています。この記事の結論は、招待客に式場から声をかけるのではなく、招待客が自分から手に取れる出口を会場の中に置く、です。名簿に触らないほうが、見学予約も、新郎新婦の信頼も守れます。
先にお断りしておくと、この記事に出典の数字はありません。後半に出てくる件数や金額は、僕が置いた仮の前提での計算で、業界の平均ではありません。自社の数字に置き換えて読んでください。法律の判断も含みませんので、個人情報の扱いは自社の規程と専門家の確認を前提にしてください。
招待客は「見つけてもらう」段階にいちばん近い人たちです
式場の集客を考えるとき、媒体、広告、SNS、検索に目が行きがちです。でも、これらはどれも「まだ式場を知らない人に見つけてもらう」ための手段です。披露宴の招待客は、式場を知らない人ではありません。実際に会場に入り、料理を食べ、挙式を見て、スタッフの動きを見た人たちです。
見学の予約に最も近いのは、二つの条件がそろった人だと僕は考えています。
- 結婚の予定がある、または近い(婚約した、同棲している、プロポーズを考えている)
- 結婚式を挙げるつもりがあり、その会場をすでに体験している
条件が重なる人は、全体から見れば少数です。ただ、広告で集めた来館予約と違って、見学の前に「実物を一度見ている」状態です。写真や口コミで想像していた会場を、すでに知っている。見学の最初の説明が要りません。その分、見学は「ここで自分たちならどうするか」という具体的な話から始められます。
もう一つ、見落とされがちな点があります。招待客は、新郎新婦の友人や同僚です。新郎新婦が「いい式だった」と思っていれば、その評価は披露宴の後も、友人との会話の中で続きます。式場の外で起きる口コミです。式場が何もしなくても起きる部分と、出口を作ることで増やせる部分があります。この記事は後者の話です。
名簿を使う案内が危ない理由を三つに分けます
招待客の名簿には、氏名、住所、場合によっては連絡先が載っています。式場の手元にあるので、「使えばすぐ案内が送れる」と思いがちです。僕が避けたほうがいいと考える理由は三つあります。
一つ目:名簿は新郎新婦が式場に預けたものです
名簿は、席次表や引出物の手配のために、新郎新婦が式場に渡したものです。渡した側は、友人の住所が式場の営業に使われるとは思っていません。後から「見学の案内が届いた」と友人から聞いた新郎新婦は、自分が友人の連絡先を差し出したように感じます。
これは、利用目的の問題としても気をつける点です。個人情報の取得時に示した目的の範囲で使う、というのは基本的な考え方で、名簿を営業に回すなら、新郎新婦と招待客それぞれへの説明と同意の設計が要ります。そこまでの手間をかけて得られる件数が、次の節の計算で見合うかどうかは、別に確かめる必要があります。ここでは、法律の判断をせず、「目的外に使うと見られる余地があるものは避ける」という実務の線引きだけ置いておきます。
二つ目:声をかけられた側が「断りにくい」立場にいます
名簿経由の案内は、受け取る側から見ると、どこで連絡先を知られたのかが分かりません。友人の披露宴に出ただけなのに、式場から案内が届く。うれしい人もいますが、少し気味が悪いと感じる人もいるはずです。気味が悪いと感じた人は、案内を断るだけでなく、「あの式場は名簿を使う」という印象を友人や新郎新婦に伝えます。
一方、会場の出口に置いた案内カードは、手に取るかどうかを本人が決められます。取らなければ何も起きません。この「選べる」という性質が、後で見学に来たときの安心につながります。
三つ目:新郎新婦の二次的な口コミを自分で傷つけます
招待客に案内を送る形の営業は、短期的には見学予約を生みます。ただ、その代わりに、新郎新婦の「いい式だった」という話の後ろに、「でも式場から営業が来た」という一言がつく可能性があります。式場にとっていちばん価値があるのは、成約した新郎新婦が気持ちよく友人に話すことです。その価値を、数組の見学予約と引き換えにするのは割に合いません。
三つとも、名簿を使うことの「やっていいか」の議論というより、「使わなくても同じ成果を取りに行ける」という議論です。取れるなら、触らないほうが得です。
名簿に触らずに取る「出口」の作り方
では、どこに何を置くのか。僕は、次の四つの場所を、手に取るかどうかを本人に任せる形で組むのがよいと考えています。
帰り際の出口に、案内カードを置く
いちばん基本の形です。披露宴が終わり、ゲストが出口に向かう動線の途中に、小さな案内カードを置きます。引出物の紙袋に全員分を入れるのではなく、受付の脇や出口の台に置いて、欲しい人が取る形にします。
カードに書くのは、次の三つだけにします。
- 「次に式場を探している方へ」という一行(誰向けかを先に言う)
- 今日の会場を、予約なしで見学できる枠か、写真を見て相談できる窓口の案内
- 申し込み用のQRコードと、受付時間
「新郎新婦さんの式の感想をお聞かせください」のような、アンケートと混ぜた設計は避けます。取る側の心理的な負担が上がるからです。カードはあくまで、結婚の予定がある人が自分で持ち帰るための入口です。
見送りのときに、新郎新婦から一言添えてもらう
案内カードは、新郎新婦自身が「もし式場を探している友だちがいたら」と声をかけたときに、いちばん取られやすくなります。式場のスタッフが言うより、友人が言うほうが自然です。
ただし、これは新郎新婦に頼む形にしてはいけません。紹介特典のような見返りを式場側から持ちかけると、友人に勧める行為が営業の手伝いに変わります。新郎新婦が自分から言いたいと思ったときに、カードが手元にある。それだけで十分です。前日の最終打ち合わせで「出口に、次に式場を探している方向けのカードを置いています。お渡しするかはお二人の判断で」と一言伝えておく程度が、ちょうどいいと思います。
会場の中の写真に、撮られた人が自分で見に来られる入口を置く
披露宴で撮られた集合写真やスナップが、新郎新婦から招待客に共有されることは多いと思います。その共有ページや、プロフィール欄に式場の公式アカウントへのリンクを置いておく形もあります。式場が写真に載せるのではなく、新郎新婦が写真を共有する場所の隅に、式場の案内がある、という程度です。
この入口は、取られる件数は少ないはずです。ただ、手間がほとんどかかりません。カードと同じく、取るかどうかは本人次第です。
見学予約が入ったときに、「どの披露宴の招待客か」を聞かない
出口経由で見学予約が入ったとき、現場はつい「どちらの披露宴にいらっしゃったんですか?」と聞きたくなります。聞いてしまうと、二つの問題が起きます。ひとつは、どの新郎新婦の招待客かが式場に分かってしまうこと。もうひとつは、新郎新婦の名前が出ることで、紹介特典の話に流れやすくなることです。
予約フォームに「このカードをどこで受け取りましたか」の選択肢(披露宴の出口、フェア会場、その他)だけを置いて、新郎新婦の名前は聞かない形にします。出口経由の件数は数えられるまま、誰から来たかは分かりません。紹介を扱う場合の線引きは、ほかの記事でも書いているとおり、紹介者と同じ条件かどうかを見学の最初に確認する、という別の設計で扱うほうが安全です。
仮の数字で、出口を置く価値を計算します
ここからは、僕が置いた仮の前提での計算です。実際の式場の数字ではありません。
前提は次のとおりです。
- 年間の披露宴は100組
- 1組あたりの招待客は60人(延べ6,000人)
- 案内カードは全員分を刷る。1枚30円とすると、年間の印刷費は18万円
- 出口でカードを持ち帰る人の割合は、10%と20%の2通り
- 持ち帰った人のうち、見学予約まで進む割合は、2%、5%、10%の3通り
- 見学した組の成約率は30%(自社の見学成約率に置き換えてください)
6,000人のうち、持ち帰る人は600人から1,200人です。見学予約まで進む割合をかけると、次のようになります。
| 持ち帰る割合 | 見学予約に進む割合 | 年間の見学組数 | 成約組数(成約率30%) | 見学1組あたりの印刷費 |
|---|---|---|---|---|
| 10% | 2% | 12組 | 3.6組 | 15,000円 |
| 10% | 5% | 30組 | 9.0組 | 6,000円 |
| 10% | 10% | 60組 | 18.0組 | 3,000円 |
| 20% | 2% | 24組 | 7.2組 | 7,500円 |
| 20% | 5% | 60組 | 18.0組 | 3,000円 |
| 20% | 10% | 120組 | 36.0組 | 1,500円 |
いちばん悪い組み合わせ(持ち帰る10%、見学に進む2%)でも、年間12組の見学が、印刷費18万円で来ます。見学1組あたり15,000円です。この数字は印刷費だけで、カードの設計や配置にかかる人の手間は含んでいません。
比べるために、自社の媒体経由の来館1組あたりの費用を置いてみてください。たとえば、媒体費と担当者の時間を足した来館1組の費用が、これより高ければ、出口を置く価値はあります。低ければ、無理に増やす必要はありません。この比較は、自社の数字でしかできません。
もうひとつ見ておきたいのは、成約組数の側です。いちばん悪い組み合わせで、成約は年3.6組です。成約1組の売上が数百万円という規模なので、仮に3組取れるなら、18万円の印刷費は十分に回収できます。ただし、これは出口経由の見学が、媒体経由の見学を置き換えるのではなく、純粋に上乗せされる場合の計算です。出口経由で来た二人は、もともと別の式場を探していたかもしれません。その場合、上乗せの件数は計算より小さくなります。
つまり、この仕組みは「大きく当たる施策」ではなく、「小さい費用で、媒体経由とは違う層に届く施策」だと見ています。年100組の式場で、見学が10組から30組増えるかもしれない、という規模感です。
うまくいかない場合の見分け方
出口を置いても、予約がほとんど入らないことがあります。そのときは、次の順番で原因を見ます。
- カードが取られていない:出口の台に置いた枚数が減っていない。置き場所が動線から外れているか、書き出しの一行が「自分向けだ」と伝わっていない。置き場所を受付脇に移す、書き出しを変える
- カードは取られているが、予約に進まない:QRの先の予約ページが、フェア用の長い入力フォームになっている。出口経由は、予約日を決めずに「まず見に行ってもいいか」を聞くだけの入口でよい。入力項目を減らす
- 予約は入るが、見学が来ない:出口経由の予約は、勢いで入れた人が多いかもしれない。前日の夜に、見学の内容と持ち物を短く連絡する(来館前の連絡は、ほかのフェア予約と同じ形でよい)
数えるのは、この三つだけで足ります。「カードの減り」「予約の入り」「来館の実数」です。全員に配るわけではないので、残った枚数から、持ち帰られた割合を毎月出せます。
この方法をやらないほうがいい式場もあります
最後に、僕はこの出口を、すべての式場に勧めるわけではありません。
- 年間の披露宴が少ない式場:年20組なら、延べ1,200人です。仮の割合をかけても、年に数組の見学です。手間をかける価値が小さいので、他の手段を先に見直したほうがいいと思います
- すでに紹介経由の集客が大きい式場:紹介の仕組みが回っているなら、出口の案内は、紹介の動きと重なります。そのときは、紹介の条件を先に揃えます
- 新郎新婦が、式の途中で友人に営業の話をされることを嫌う式場の客層:カードを置くこと自体を、新郎新婦が気にする場合があります。事前に伝えるときの言葉は、「置いていいですか」ではなく、「置いていません」と「置いています」を選べる形にします
まとめ
- 披露宴の招待客は、結婚式を好意的に見ている人たちで、次の見学者に最も近い層の一つです
- 名簿を使った案内は、目的外利用と見られる余地があり、新郎新婦の信頼と二次的な口コミを傷つけるおそれがあるので、避けたほうがよいと考えています
- 名簿に触らず、出口に案内カードを置いて、取るかどうかを本人に任せる形にします。新郎新婦に紹介を頼む形にはしません
- 見学予約のとき、新郎新婦の名前は聞きません。「どこでカードを受け取ったか」だけを選択肢で数えます
- 仮の前提(披露宴100組、招待客60人、印刷費30円)では、いちばん悪い組み合わせでも見学は年12組、見学1組あたりの印刷費は15,000円です。自社の媒体経由の来館1組の費用と比べて判断します
- 数えるのは、カードの減り、予約の入り、来館の実数の三つだけです
- 年間の披露宴が少ない式場や、紹介経由の集客がすでに大きい式場では、ほかの手段を先に見直します
