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披露宴中に緊急地震速報が鳴ったら、式場は何を放送するか

披露宴の最中に、ゲストのスマートフォンが一斉に鳴る。緊急地震速報です。司会者はマイクを持ったまま止まり、キャプテンは新郎新婦を見て、厨房のスタッフは火を見る。誰が何を言うのかが決まっていない式場では、この数秒が一番長く感じられるはずです。

結論を先に書きます。披露宴中の地震対応で、式場が先に決めておくのは、避難経路の図面より前に、「誰が、どの言葉で、最初の一声を出すか」です。放送の台本を1枚つくり、司会者に持たせる。そして年に2回、実際に読み上げる。この2つが、費用の小さいわりに効く備えだと僕は考えています。

この記事に載せる数字のうち、出典があるのは気象庁の考え方と、消防の訓練・防火管理者の基準だけです。披露宴の最中に地震が起きた件数や、放送の有無で結果が変わったかを示す公開調査は、僕は確認できていません。人数や費用の数字は、すべて僕が置いた仮の前提です。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。

披露宴の地震対応が、普通の施設より難しい理由

地震への備えは、どの施設にもあります。それでも披露宴は、備えが機能しにくい条件がそろっています。

  • ゲストが会場に慣れていない。 非常口の場所を知らない人が大半です。普段の職場や学校と違い、訓練の経験が共有されていません
  • 服装が動きにくい。 着物、ドレス、ヒール、長い裾。新郎新婦は特にそうです
  • 音が大きい。 音響が鳴り、拍手と歓声があり、館内放送や警報音が聞こえにくい時間帯があります
  • 司会者とスタッフの視線が、新郎新婦に向いている。 会場全体の様子を見ている人が、構造上少ない時間帯があります
  • ゲストの年代の幅が広い。 乳幼児から高齢のゲストまでが同じ部屋にいます
  • 厨房が稼働している。 火と油を扱う人が、会場の外にいます

このうち、式場の判断だけで変えられるのは、最初の一声と、それを誰が出すかです。建物の構造は変えられませんが、台本は今週中に書けます。

気象庁が考える「館内放送」の置き方

緊急地震速報は、気象庁が出す警報です。気象庁の検討会の資料では、不特定多数の人が出入りする施設が館内放送を使う場合の設定について、考え方が示されています。

その要点は、テレビやラジオ、携帯電話で警報を知った人と、館内で何も知らされない人のあいだに食い違いが出ると、混乱のもとになる、というものです。そのため、利用者が指定する場所を含む地域に警報が出ているときには、館内放送をする設定が望ましいとされています。報知音は、テレビやラジオで広く使われているチャイム音を使う設定が推奨されています。

同じ資料群では、警報を見聞きしても具体的な行動に移せなかった例があり、その一因として訓練の不足が考えられる、という趣旨のことも書かれています。

披露宴にあてはめると、こうなります。ゲストの携帯電話は、式場の許可と関係なく鳴ります。つまり、式場が何も言わなくても、会場の中の相当数は「何かが起きた」と知ることになります。その状態で式場が黙っていると、ゲストは「スタッフは知らないのか」と受け取るか、「大したことではないのか」と受け取るか、どちらかに分かれます。どちらに転んでも、次の行動がそろいません。

ここで注意したいのは、僕が確認できたのは気象庁の資料における一般的な考え方で、結婚式場に特化した運用基準ではないことです。劇場やホテルなどの施設が前提で、結婚式場が対象として明記されているわけではありません。自分の会場にどう当てはめるかは、管轄の消防署や、館内放送設備の保守会社に確認してください。

放送の台本は4つの要素でできている

では、何を放送するか。僕なら、次の4つを、この順で入れます。

  1. 何が起きているか。 「ただいま、緊急地震速報が出ました」
  2. 今は何をしてほしいか。 「その場で、頭を守って、姿勢を低くしてください。移動はしないでください」
  3. 誰が安全を確認しているか。 「スタッフが安全を確認しています。そのままお待ちください」
  4. 次に何を伝えるか。 「揺れが収まりましたら、あらためてご案内します」

ポイントは、最初の放送で「避難してください」とは言わないことです。揺れが来る前の短い時間に、数十人から百人を超える人が一斉に出口へ動くと、転倒の危険のほうが先に立ちます。まず動かない、頭を守る、と伝えて、揺れが収まってから次の指示を出す。この順番を、台本の形で固定しておくのが目的です。

台本には、次のことも書き添えておきます。

  • 読み上げる人は誰か(第一候補は司会者、第二候補はキャプテン)
  • 司会者が会場にいないとき、誰が代わるか
  • マイクのスイッチの場所と、音響の担当が先に音を落とすルール
  • 新郎新婦が高砂にいるときの声かけ(専任のスタッフ1人が近づく)

台本は短いほうがよいです。放送は、読み上げて20〜30秒で終わる長さが目安だと思っています。長くなると、ゲストが聞き取れませんし、読む側も焦ります。

放送が遅れたら、何が起きるのか

仮に、放送が10秒遅れたとします。この10秒のあいだに、ゲストは自分で判断して動き出す人と、動かない人に分かれます。動いた人は、出口へ向かい、テーブルや椅子にぶつかり、高齢のゲストや子どもにぶつかるかもしれません。その場の安全に責任を持つのは、会場側です。

これは数字で示せる話ではありません。ただ、考え方としては、放送の目的は、全員を動かすことではなく、全員を同じ状態にそろえることです。揺れの前に、会場の全員が「頭を守る」で同じ形になるだけで、その後の判断がずっと楽になります。

訓練は年2回、仮に費用を出してみる

消防の側の基準も確認しておきます。東京消防庁の防火管理の案内では、特定用途の防火対象物で、消火訓練を年2回以上実施し、事前に消防署へ通知することが求められています。避難訓練と通報訓練は、消防計画で定めた回数とされています。また、防火管理者の選任が必要になるかどうかは、収容人員で決まります。東京消防庁の説明では、劇場、飲食店、店舗、ホテルなど不特定多数が出入りする用途で、収容人員30人以上が基準です。

結婚式場がこれらのどの区分に当たるか(集会場にあたるのか、ホテルの一部なのか、飲食店なのか)は、建物の使い方で変わると聞いています。僕は個別の会場の区分を断定できません。管轄の消防署に確認する必要があります。そのうえで、すでに防火管理者を置いている会場は、消防計画に「披露宴中の地震」という場面が入っているかを確かめてください。火災を前提にした消防計画のままだと、地震のときの最初の一声が抜けている可能性があります。

では、地震を想定した放送訓練を年2回やるといくらかかるか。前提を置いて計算します。

  • 参加するスタッフ:20人(司会、キャプテン、サービス、音響、厨房の代表、フロント)
  • 1回の訓練時間:30分
  • 時給換算:1,500円(残業ではなく、勤務時間内に組み込む前提)
  • 年2回

20人 × 0.5時間 × 1,500円 × 2回 = 3万円です。30人で行えば4万5千円になります。仮に年120組の式場なら、1組あたり250円から375円です。

もちろん、勤務時間内に組み込んでも、その30分は他の仕事を止めています。それでも、1組あたりの金額で見ると、小さな額です。高いと感じるかどうかは会場ごとの判断ですが、僕なら「年に2回、30分」を削る理由をあまり思いつきません。

訓練の中身:何を練習するか

訓練は、避難経路を歩く大がかりなものにしなくても構いません。次の3つを、順に練習すれば足ります。

1. 台本を読み上げる。 司会者役が、実際のマイクで、実際の会場で読む。音響が先に音を落とす動きも合わせて練習します。声が会場の奥まで届くか、反響で聞き取りにくくないかを確かめます。

2. 「もし司会者がいなかったら」を試す。 司会者が会場の外にいるときに、誰が読むか。ここで詰まる会場は多いと思います。代わりの読み手を決めるのは、台本そのものより大事です。

3. 厨房との連絡を確かめる。 放送が流れたとき、厨房が火を止める、油を扱う手を止める、という動きが決まっているか。会場の放送が厨房に聞こえない構造の会場もあるはずです。そこは、内線や無線での連絡を別に決めます。

この3つに加えて、新郎新婦のそばに誰が立つかも、1回だけ確かめておきます。ドレスや着物の二人は、自力で動きにくいからです。

二人に事前に伝えるか

もう一つ、判断が分かれる点があります。契約時や打合せ時に、「地震があったときの対応」を二人に伝えるかどうかです。

伝えるメリットは、二人やゲストの安心です。伝えないメリットは、楽しい打合せの時間に、わざわざ不安な話を持ち出さずに済むことです。

僕なら、打合せの資料に1行だけ載せる形を勧めます。「当館では、地震の際の放送の手順を定めています」。それ以上の説明は、聞かれたときに答えます。資料に書いてあれば、二人の親族から質問が出ても慌てません。書かないでおいて、質問が来たときに答えが詰まるほうが、印象は悪くなります。

説明が必要になるのは、会場の立地や構造に特徴がある場合です。海に近い会場、高層階の会場、地下の会場などは、聞かれる可能性が高いので、避難の方針を口頭で説明できる準備をしておきます。

スタッフの教育に組み込む

台本と訓練をつくっても、新しいスタッフが入ると、また抜け落ちます。配膳のスタッフは入れ替わりが多いので、日々の教育に入れ込むのが現実的です。

  • 入社した最初の日に、台本を渡す。読み上げる人でなくても、「こういう言葉が放送される」ことを知っておく
  • 新人が初めて披露宴に入る日は、非常口の位置と、台本の4つの要素を、口頭で確認する
  • 年2回の訓練に、直近3か月以内に入った人を必ず含める

この3つを教育チェックリストに載せるだけで、現場の運用が変わると思います。

まとめ

  • 披露宴の地震対応は、避難経路の図面より先に、最初の一声を誰が出すかを決める
  • 気象庁の考え方では、警報が出たときに館内放送をするのが望ましい。ゲストの携帯電話は先に鳴るので、式場が黙っていると食い違いが出る
  • 放送台本は「何が起きたか」「今してほしいこと」「誰が確認しているか」「次の案内」の4要素。最初は避難ではなく、頭を守って動かないことを伝える
  • 読み手は司会者を第一候補にして、不在のときの代役を決めておく
  • 消火訓練は特定用途で年2回以上、事前に消防署へ通知する。自分の会場の区分と消防計画に、披露宴中の地震が入っているかは消防署で確認する
  • 仮にスタッフ20人・30分・時給1,500円・年2回なら年3万円。年120組の式場で1組あたり250円
  • 二人には資料に1行だけ載せ、立地に特徴のある会場は口頭で説明できるようにしておく

最初の一声が決まっている式場では、揺れの前の短い時間が、会場全体を落ち着かせる時間になります。