式場のトイレ渋滞は、個室の数より中座の波で決まる
披露宴の途中で、化粧室の前に列ができている式場があります。ゲストは待たされ、席に戻るのが遅れ、次の演出の開始も押します。こうなると、トイレの個室が足りないと考えて改装の見積もりを取りたくなります。
ただ、僕は先に見るべきなのは個室の数ではなく、ゲストが席を立つタイミングだと考えています。同じ個室数でも、全員が同じ5分間に立てば列になり、15分にばらけば列になりません。この記事では、前提を置いたモデル計算で「波」の大きさを出し、進行表で波をずらす手順と、改装に進む判断の線を書きます。数字はすべて僕が置いた仮定で、調査の結果ではありません。
渋滞の正体は、個室の少なさではなく「同時に立つ人数」
化粧室の混雑は、待ち行列の問題です。一度に来る人数が、個室がさばける速さを超えた分だけ列になります。個室が多くても、全員が同じ時刻に来れば列はできますし、少なくても、順番にばらけて来れば列はできません。
改装は数百万円単位の話になりやすく、決めるのに時間もかかります。一方、進行表の中座の置き方は、費用をかけずに明日から変えられます。順番として、先に波を見て、足りない分だけ設備を考えるのが筋だと思います。
仮定を置いたモデル計算
次の前提で計算します。出典のある数字ではなく、考え方を見せるための仮置きです。
- 披露宴の出席者は80名で、女性が半分の40名とする
- 女性が1回に個室を使う時間は、ドアの開け閉めと身支度を含めて90秒とする
- 個室は3つ、4つ、6つの場合を比べる
- 「同じ時間帯に立つ人」は、女性40名のうち全員の場合と、半分の20名の場合を比べる
全員が一斉に並んだとき、最後の人が個室に入るまでにかかる時間はおよそ「人数 × 利用時間 ÷ 個室数」です。計算すると次のとおりです。
| 同時に立つ女性 | 個室3つ | 個室4つ | 個室6つ |
|---|---|---|---|
| 40名(全員) | 約20分 | 約15分 | 約10分 |
| 20名(半分) | 約10分 | 約7.5分 | 約5分 |
ここから読めることは2つあります。
1つ目は、個室を3つから6つに倍にしても、全員が一斉に立つと10分かかることです。10分の中座は、乾杯後の歓談や食事の流れを切るには長すぎます。2つ目は、個室が3つのままでも、同時に立つ人が半分になれば、待ちは20分から10分に縮むことです。個室を倍にするのと、波を半分にするのは、ほぼ同じ効果です。
もちろん実際のゲストは一斉には立ちません。それでも、進行が「立ちやすい瞬間」を作る場面は決まっています。そこを次に整理します。
波が来るのは、だいたい3か所
披露宴の流れの中で、ゲストが席を立ちやすい瞬間は大きく3つあります。式場ごとの進行は違いますが、構造は共通すると思います。
1. 挙式から披露宴へ移る前の待ち時間
挙式後の控室や、披露宴会場の前で待つ時間です。ゲストにとっては席に着く前の最後の自由時間で、着席後は立ちにくくなります。このため、開宴前に全員が済ませようとして、最初の波が来ます。ドレスで着替えた後のメイク直しも重なり、一人あたりの利用時間が長くなります。
2. 乾杯が終わって、歓談に入った直後
乾杯でグラスを持って立った後、歓談の合図が出た直後は、ゲストが「今なら席を立っていい」と感じる瞬間です。ここで一斉に立つ人が出ます。乾杯の飲み物が入ったあとなので、利用が増えやすい時間でもあります。
3. 新郎新婦のお色直しの中座
新郎新婦が会場から出ると、会場の視線がなくなります。ゲストは「この間に」と立ち上がります。お色直しの中座は10分から20分ほど取る式場が多く、本来は余裕のある時間ですが、全員が同じ10分に集中する形になりがちです。
この3つが同じ30分の中に収まっている進行は、波が重なります。まず、自館の進行表を見て、この3つの間隔が何分あるかを数えます。
進行表で波をずらす4つの手順
設備に手をつけずに波を小さくする方法を、順番に書きます。
手順1:開宴前に「先に行っておく時間」を明示する
受付が終わって着席する前に、案内係が「開宴まで20分あります。化粧室は今のうちにどうぞ」と一言添えます。案内がないと、ゲストは開宴後の最初の自由時間まで我慢します。最初の波を、開宴前の20分に前倒しするだけで、乾杯後の波の人数が減ります。
手順2:乾杯後の歓談に入る合図を、2段階にする
乾杯が終わった直後に「どうぞお食事とご歓談を」と言うと、全員が同時に動きます。そこで、乾杯の後に新郎新婦の入場や、短い紹介を1つ置き、歓談の合図を数分後ろにずらすのも手です。ゲストの席を立つ動機が分散します。ただし、進行を伸ばすと料理の提供が遅れます。料理の出し方とのバランスは、調理場と事前にすり合わせておく必要があります。
手順3:お色直しの中座に、ゲスト向けの「歩く理由」を作らない
新郎新婦が退場したタイミングは、ゲストにとって席を立つ口実になります。この時間にゲストが好きに動けるようにすると、全員が一度に動きます。逆に、中座の間にスライドや写真の上映を入れて、見たい場面を作っておくと、席を立つ人が減ります。ゲストを席に縛る意味ではなく、動く時間を前後に散らす意味です。
手順4:案内の目線を、列の手前に置く
列ができる式場では、ゲストは列の最後尾が分からず、化粧室の前で固まります。スタッフが1人、通路で「こちらにお並びください」と誘導するだけで、列は通路に沿って伸びて、会場の出入り口をふさぎません。人を増やすより、立ち位置を決めておくほうが効きます。
利用時間が伸びる条件も、先に押さえておく
モデル計算では利用時間を90秒としましたが、これは条件で大きく動きます。ドレスやパーティ用の装いのゲストが多い披露宴は、個室に入ってから出るまでが長くなります。小さな子どもを連れたゲストは、付き添いで2人分の時間がかかります。年配のゲストが多い会では、段差や扉の重さで動作がゆっくりになります。
利用時間が90秒から120秒に伸びると、同じ個室数でも、一斉に並んだときの待ちは約1.3倍になります。つまり、同じ80名の披露宴でも、ゲストの顔ぶれで必要な余裕は変わります。契約時にゲストの年齢層や子連れの人数を聞いておき、多い会は波をずらす手順を厚めに組む、という使い方ができます。
それでも足りないときの、設備の判断
進行を整えても列が消えないとき、設備の話に進みます。このときも、一律に増築を考えるのではなく、段階を踏みます。
- 段階1:既存の個室を使える状態に保つ。 詰まりや水の出が悪いと、1つの個室の利用時間が長くなります。モデル計算では利用時間を90秒としましたが、これが120秒になると、待ち時間は約3割増えます。改装の前に、一番安い改善として、清掃の頻度と点検の間隔を見直します
- 段階2:控室や別フロアのトイレを案内に加える。 宴会場から少し歩きますが、開いている個室があるなら、案内するだけで波が分かれます。表示がなくて使われていない化粧室は、式場によってはあります
- 段階3:仮設の個室や、男女の区分を見直す。 男性側に空きがあるのに女性側だけ詰まる場合、男女の区分の運用を調整できないか確認します。法令や建築上の制約があるので、設計者や管轄に確認してから決めます
- 段階4:増築・改装。 ここに進むのは、段階1から3を試しても、繁忙日に待ち時間が許容を超えるときだけです
許容の線は式場が決めます。僕なら、ゲストが「10分以上並んだ」と感じない水準を最初の目安に置き、アンケートや現場の声で確かめます。
契約前の見学で、新郎新婦に何を伝えるか
化粧室の混雑は、見学のときには見えません。見学は人の少ない時間帯に歩くからです。その代わり、見積もりの説明のときに、次の2点を伝えられると誠実だと思います。
- 開宴前と乾杯後に、化粧室の利用が集中しやすいこと
- そのために進行表で、ゲストが先に行ける時間と、中座の間の過ごし方を用意していること
新郎新婦にとっては、ゲストが待たされないことは、料理や演出と同じくらい大事な満足の要素です。式場側が先回りして話せば、「この式場は当日のゲストの動きまで見ている」という印象になります。経営の数字に引き寄せるなら、ゲストの待ち時間は口コミの評価にも出やすい項目で、低評価の理由になる前に防げる種類のものです。
自館で数えるときの手順
最後に、自館の実数で確かめる方法です。難しい計測は要りません。
- 繁忙日の披露宴を1件選び、スタッフが化粧室の前に立てる時間帯を3つ決める(開宴前、乾杯後、お色直し中座)
- それぞれの時間帯に、並んだ人数と、最後尾の人が入るまでの分数を、ストップウォッチとメモで記録する
- 個室の数と、1回あたりの利用時間(実測)から、モデル計算の式に当てはめ、記録した待ち時間と合うか確かめる
- 3つの時間帯のうち、いちばん長い待ちが出た波を、進行表上でずらす
記録は2〜3件の披露宴で足ります。サンプルが少ないので断定はできませんが、「どの波が大きいか」の順位は、少ない件数でも見えてきます。改装の見積もりを取るのは、その順位を見たあとで遅くありません。
まとめ
- 式場のトイレ渋滞は、個室の数ではなく、同時に席を立つ人数で決まる
- 仮に女性40名が一斉に立つと、個室が3つなら約20分、6つでも約10分かかる。波が半分になれば、待ちも半分になる(前提を置いた計算で、調査の数字ではない)
- 波が来るのは、開宴前、乾杯後の歓談の直後、お色直しの中座の3か所になりやすい
- 先に進行表で、開宴前の案内、歓談の合図、中座中の上映、列の誘導の4つを整える
- それでも足りないときだけ、清掃と点検、別フロアの案内、区分の見直しと進み、最後に増築を考える
- 自館の波は、繁忙日にストップウォッチで測れば、2〜3件で順位が見える
