披露宴の当日に欠員が出たら|式場が繁忙日の前に決める代替の順番
披露宴の当日にスタッフが1人来られなくなる。結婚式場では、これは「たまに起きる事故」ではなく、運営の前提に入れておく出来事です。
問題は、起きたときに誰が何を決めるかが、その場で初めて話し合われることです。当日の朝に支配人が全員に電話をかけ、誰かが休みを返上し、誰かが連続勤務になる。その場しのぎで乗り切るたびに、翌月の退職希望が1件増えます。
この記事では、欠員への備えを「人数の余裕」ではなく「代替の順番」で考えます。結論を先に言うと、決めておくのは次の3つです。
- 欠けた役割を、どの順番で誰に寄せるか
- 寄せた結果、お客様に見えてはいけない部分を何にするか
- 代わりに入った人に、後でどう返すか
人を増やす話ではありません。増やせない前提で、順番だけ先に決めておく話です。
欠員は「確率」で見ると、思っているより頻繁に起きます
「うちはみんな責任感があるから大丈夫」という感覚は、数字にすると崩れます。ここは出典のある統計ではなく、前提を置いた計算です。
仮に、繁忙日の土曜に配置するスタッフが40人いるとします。介添、サービス、キッチン、プランナー、司会、ヘアメイク、音響と、全部を数えた人数です。そして、一人ひとりが当日になって来られなくなる確率を、1%と置きます。発熱、家族の急病、交通機関の乱れなどを合わせて、100回に1回です。
このとき、全員が来られる確率は 0.99 の40乗で、約67%です。つまり、その土曜に1人以上の欠員が出る確率は約33%になります。
前提を動かすと、こうなります。
- 配置30人・欠勤率1% → 欠員が1人以上出る確率は約26%
- 配置40人・欠勤率1% → 約33%
- 配置40人・欠勤率2% → 約55%
- 配置40人・欠勤率3% → 約70%
欠勤率の1%や3%は、僕が置いた仮の数字です。みなさんの会場の実績ではありません。ただ、仮にいちばん低い1%でも、繁忙日が月に4回あれば、1か月のうち1回以上は欠員が出る確率は約8割になります(1−0.67の4乗)。冬や感染症が流行る時期は、率が上がります。
ここで見てほしいのは、確率の細かい値ではなく、計算の形です。欠員の確率は、一人あたりの欠勤率ではなく「配置人数」に比例して効きます。大きい会場、同日に披露宴が重なる日ほど、「誰も欠けない日」のほうが少数派になります。
だから、欠員は例外として扱うと運営が毎回ゆらぎます。標準の手順に入れておくほうが、現場の負担は軽くなります。
人を足しても解決しないのは、足した人が別の穴になるからです
欠員への最初の対策として、「予備の人員を1人置く」案がよく出ます。気持ちは分かりますが、これは2つの理由でうまくいきません。
1つ目は、婚礼の仕事は役割ごとに必要な技術が違うことです。ヘアメイクは資格と技術が要ります。司会は台本と声の準備が要ります。料理を出すサービスは、会場の動線と合図を覚えている必要があります。予備の人が1人いても、どの穴にも入れる人はほとんどいません。
2つ目は、予備を置く費用が、欠員が起きない日にも毎回かかることです。仮に予備を1人置いて1日の人件費が1.2万円だとすると、繁忙日が月8日で約10万円、年で約115万円です(1.2万円×8日×12か月)。この数字も仮の前提です。欠員の確率が1か月に1回程度なら、予備のコストは「1回の欠員対応」に対して高すぎることがあります。
では何をするか。足すのではなく、「寄せる順番」を先に決めます。
寄せる順番は、お客様から見えない役割を先に使います
欠員が出たら、まず「その役割は、お客様に見える仕事か、見えない仕事か」を分けます。
見えない仕事の例は、下げ物の洗い場、配膳の下準備、備品の運搬、控室の片付けです。見える仕事は、介添、ゲストへの飲み物のサービス、司会、プランナーの進行です。
寄せる順番の基本は、見えない役割から人を抜き、見える役割に回すことです。逆はやってはいけません。見える役割の人を、見えない仕事に動かすと、お客様の体験に直接影響が出るからです。
具体的には、次のような表を繁忙日の前に作っておきます。
- 介添が欠けたら → 受付担当の補佐を回す。受付はゲスト誘導の1人に絞る
- サービスが欠けたら → 洗い場の人を1人出す。洗い場は営業終了後にまとめて処理する
- 司会が欠けたら → 進行表を持つプランナーが兼ねる。演出を1つ減らす
- プランナーが欠けたら → 同日の別担当が、打合せ済みの内容を共有して代行する
- ヘアメイクが欠けたら → 外部の提携先に連絡する。連絡先は表に書いておく
こう書き出すと、会場ごとに「これは無理だ」という行が見つかります。たとえばヘアメイクを内製している会場なら、ヘアメイクの欠員は外部に頼るしかありません。その外部の連絡先を、当日の朝に探すのでは遅い。無理な行を見つけるのが、この表を作る最大の目的です。
兼務できる範囲を、事前に「同意」で決めておきます
欠員対応でいちばんもめるのは、「できると思って頼んだら、そんな約束はしていなかった」という食い違いです。
兼務は、本人の同意と、基本的な教育が前提になります。当日の朝に頼むと、断りにくい空気ができて、後から不満が出ます。
そこで、シフトを組む時点で「この役割は、こちらの役割と兼務してもよい」という範囲を、本人に確認して記録しておきます。たとえば、サービスのスタッフに「介添の補助に入ることはできますか」と事前に聞いておく。できる人だけ、リストに載せる。載せない人は、そのままにしておく。
これで、欠員が出たときに「リストにある人から順に声をかける」だけで済みます。判断の負担を、当日から事前に移すわけです。
兼務をお願いするときの注意点は、手当をどうするかです。同じ日に2つの役割をこなした人に何も返さないと、次から兼務に同意してくれなくなります。金額の決め方は会場ごとですが、「兼務した日は何か返す」という方針だけは、先に決めておく価値があります。
休日を取り戻す約束まで、セットで決めます
欠員を休みの人に埋めてもらう場合、労働時間の法律も関係してきます。
労働基準法では、使用者は労働者に、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません(第35条)。4週間を通じて4日以上の休日を与える変形休日制も認められています。また、法定の労働時間を超えて働かせたり、休日に働かせたりするには、労使協定(いわゆる36協定)を結んで届け出る必要があります(第36条)。年次有給休暇を取る権利も、労働者にあります(第39条)。
条文の細かい解釈は、社労士さんに確認するのが確実です。ここで言いたいのは、欠員のたびに休日出勤が出る運用は、法律の面でも会場の経営の面でも、長くは続かないということです。
実務では、欠員に入ってもらった人には、「代休の日を、その場で決める」と約束するのがいちばん効きます。後日調整します、は守られないことが多いからです。繁忙期は代休を取れる日が少なく、結果として代休が溜まっていく。溜まった代休は、そのまま辞めるときの不満になります。
そのため、欠員対応のルールには、必ず「代休を、どの週のどの日に取るか」を、翌営業日までに決める手順を入れておきます。これを決めない会場では、欠員対応が善意に依存するようになり、善意は枯れていきます。
「見えない部分」を何にするかを決めます
欠員を寄せた結果、足りなくなる部分は必ず出ます。そこを「何にするか」を先に決めておくと、現場が迷いません。
たとえば、次のように決めます。
- ゲストの出迎えの人数を2人から1人に減らす
- 披露宴の中座の付き添いを、1回分減らす
- 演出の準備に入る人手が足りない場合、演出を省く判断は、支配人が行う
- 料理の提供は遅らせず、ドリンクの追加の声かけを減らす
大事なのは、減らす順番を、お客様の記憶に残りにくいものから決めることです。ゲストの記憶に残るのは、料理の出るタイミング、新郎新婦の入場の演出、司会の声です。逆に、出迎えの人数やドリンクの声かけは、減っても気づかれにくい。
もうひとつ、新郎新婦に説明するかどうかも決めておきます。欠員が出たことを新郎新婦に伝える必要は、通常はありません。ただし、演出を省く場合は別です。省く演出が決まっていたものであれば、当日の朝のうちに、プランナーから新郎新婦に伝えます。伝えずに省くと、後でクレームになります。ここは省略できる基準を、支配人があらかじめ決めておくところです。
欠員が出た日の朝に、誰が何を決めるか
最後に、当日の意思決定の流れを整理します。欠員の連絡を受けた人が、まずやるのは次の3つです。
- 欠けた役割と、その時間帯を確認する(披露宴の何時から何時まで必要か)
- 寄せる順番の表を見て、声をかける人を決める
- 減らす部分を決めて、関係者に共有する
この3つを、誰がやるかを決めておきます。支配人が不在でも動けるように、副責任者か、宴会のチーフが決定できる範囲を書いておく。連絡網が複雑だと、朝の30分が連絡だけで終わります。
もうひとつ、欠員が出た日の記録を残します。何月何日、どの役割が欠けて、誰がどう対応したか。この記録を3か月分集めると、欠員が出やすい曜日、時期、役割が見えてきます。そこで初めて、「予備を置くか」「兼務できる人を増やす教育をするか」の判断ができます。
仮に、欠員が出た回数が3か月で2回だけなら、予備を置く費用は割に合わないでしょう。逆に、毎月3回出るなら、兼務の教育に時間を割く価値があります。数字に基づいて判断できるように、まずは記録を取ることです。
まとめ
- 繁忙日の欠員は、配置人数が多いほど「起きるのが普通」になります。仮に配置40人・欠勤率1%でも、その日に欠員が出る確率は約33%です
- 予備の人員を置いても、役割ごとに必要な技術が違うので、どの穴にも入れる人はほとんどいません
- 欠員が出たら、お客様に見えない役割から人を抜き、見える役割に回します。この順番を表にして、無理な行を先に見つけておきます
- 兼務できる範囲は、当日ではなく、シフトを組む時点で本人に確認して記録します。兼務した日は何を返すかも決めておきます
- 欠員対応で入ってもらった人には、代休の日をその場で決めます。休日労働は労働基準法の第35条・第36条の範囲で運用します
- 減らす部分は、お客様の記憶に残りにくいものから決めます。演出を省くときは、当日の朝に新郎新婦へ伝えます
- 欠員が出た日を記録して、3か月分たまってから、予備や教育の費用を判断します
