来館・成約

式場見学の待合には、二人が聞きにくいことへの答えを置く

式場見学に来た二人は、最初の数分を待合で過ごします。受付で名前を伝えて、案内されたソファに座って、担当者が来るのを待つ。短いと2、3分、前の見学が押していれば10分近いこともあります。この時間に、テーブルの上に置いてあるのは、たいていパンフレットと飲み物と、季節の花くらいではないでしょうか。

僕は、待合にいちばん置いたほうがいいのは「二人が担当者には聞きにくいことへの答え」だと考えています。パンフレットは見学のあとでも渡せます。でも、聞きにくいことは、見学が始まってしまうと口に出す機会を逃します。この記事では、待合に何を置くか、置いてはいけないものは何か、置いたことで見学がどう変わるのかを、判断の条件として整理します。

なお、出てくる数字はすべて説明のために僕が置いた仮の前提で、調査から引いた数字ではありません。自社の来館数や成約率に置き換えて読んでください。

待合の数分は、二人がいちばん緊張している時間です

見学の流れを二人の側から見てみます。予約して、会場の場所を調べて、場合によっては電車や車で移動して、受付に着く。ここまでで二人は「ちゃんと予約できているか」「服装はこれでよかったか」「営業されたらどうしよう」と、いくつもの小さな不安を持っています。

担当者が出てきて挨拶をした瞬間から、二人は「聞かれる側」になります。人数は、予算は、日取りは、他の式場は見ましたか、と質問が続きます。待合は、二人が「聞かれる側」になる前の、何も求められていない最後の時間です。

この時間に、二人は意外と周りを見ています。壁に貼ってあるもの、テーブルの上にあるもの、案内表示の言葉づかい。担当者の話し方より先に、式場の姿勢を読み取っています。ここに「営業の入口」しか置いていないと、緊張は下がりません。逆に、二人が頭の中で持っている疑問に先に答えてあれば、担当者が出てくる頃には、少し肩の力が抜けています。

二人が担当者に聞きにくいことは、だいたい4つです

僕が待合に置く候補として挙げるのは、次の4つです。どれも、見学の最中に二人が口に出しにくいと感じやすいことです。

1. 今日の見学の流れと終わる時刻

見学が何分で終わるのか、試食はあるのか、最後に見積もりの説明があるのか。これを聞くと「早く帰りたいのか」と思われそうで、二人は黙っています。ところが、この見通しがないと、二人は「いつ終わるのか」を気にしながら説明を聞くことになります。

一枚の紙に、会場見学、試食、見積もりの説明、と順番を書いて、おおよその所要時間を添えておきます。「全体でおよそ2時間です。途中で休憩が必要なときは、いつでも声をかけてください」と書いておけば、帰りの時刻を気にする二人も、予定を組み直せます。

2. 予算の話をいつ、どのくらいまで聞くのか

予算は、二人がもっとも聞かれたくない質問のひとつです。「予算は?」と聞かれると、低く言うと安い会場に回されそうで、高く言うとその額まで使わされそうで、どちらも怖い。だから、わざと曖昧に答える二人は少なくありません。

ここは、聞く理由を先に書いておきます。「ご予算の上限は伺いますが、それは上限の金額に合わせた提案を断るためではなく、提案の幅を狭めすぎないためです。決めていなければ、決めていないとお答えください」。そう一言あるだけで、予算の質問への身構え方が変わります。

3. 今日は決めなくていいこと

見学に来る二人の多くは、その場で契約するつもりで来ていません。ただ、担当者から「今日決めると特典があります」と言われるのでは、と身構えています。これを紙で先に否定しておきます。

「今日は契約をお願いする場ではありません。持ち帰って、ご家族とも話してから決めていただいて大丈夫です」。もし成約特典に期限があるなら、期限と、期限内に戻れなかった場合の扱いも一緒に書いておきます。期限を隠して見学の終盤に出すより、待合で見せたほうが、二人は納得して聞けます。

4. 断りたいときの断り方

これがいちばん聞きにくいことです。見学して、合わないと思ったとき、二人はどう断ればいいのかを知りません。断りにくい雰囲気を感じた二人は、「検討します」と言って帰り、そのあと連絡を絶ちます。

待合の紙に「合わないと感じたときは、連絡なしでも構いません。理由を教えていただけるなら、今後の参考にします」と書いておく。連絡なしで構わない、と先に言われた二人は、逆に連絡をくれることがあります。断る手間が下がるからです。式場側にとっては、見学後に連絡が取れない二人を追いかける手間が減り、追客の対象をしぼれる利点もあります。

置く形は、掲示ではなく手に取れる一枚にします

同じ内容でも、壁に貼ると読まれません。二人は待合で壁をじっくり眺める余裕がなく、貼り紙は「注意書き」として視界から外れやすいからです。

僕がいいと考えるのは、A5くらいの小さな紙を、飲み物と一緒にテーブルに置く形です。条件は3つあります。

  • 見出しは質問の形にする。「今日の流れは?」「予算はどこまで聞かれますか?」「今日、決めないといけませんか?」。二人が頭の中で持っている言葉のままにします
  • 答えは各2行まで。長くなると、読み終わる前に担当者が出てきます
  • 最後に担当者の名前と顔写真を載せる。名前を先に知っておくと、出迎えの挨拶で「あの人だ」と分かります

この紙は、パンフレットとは役割が違います。パンフレットは式場の自己紹介で、この紙は二人の不安への返事です。同じテーブルに並べても、別のものとして読まれます。

置いてはいけないものがあります

待合に置くものを増やしすぎると、かえって逆効果になります。避けたほうがいいのは、次の3つです。

成約特典の大きな告知。 「本日限定」「今月中のご契約で」のような表示は、待合の数分間で、二人に「今日決めさせられる」と思わせます。さきほどの「今日は決めなくていい」と矛盾して、紙全体の信頼が下がります。

他の式場との違いを並べた比較表。 見学前の二人に、比較の軸を式場の側から先に出すと、自画自賛に見えます。違いを聞かれたら答える、で十分です。他社と比べた表は、他社のサービスを評価する形になるため、載せない運用にしておくのが安全です。

アンケート用紙。 見学が始まる前に答えさせるアンケートは、二人にとって宿題です。書いている間に、緊張が高まります。聞きたいことは、見学の後に聞くほうが、答えも率直です。

担当者の出迎えと、この紙を揃えます

待合の紙は、担当者の動きと合わせて初めて効きます。紙に「予算は決めていなければ、決めていないとお答えください」と書いてあるのに、担当者が出てきて最初に「ご予算はいくらですか」と聞いたのでは、紙の約束が破られます。

担当者には、次の3つを共有しておきます。

  1. 紙に書いてあることは、そのまま守る。書いていないことは、約束していない
  2. 二人が紙を手に持っているときは、「読んでいただけましたか」と聞かず、「何か気になるところはありましたか」と聞く
  3. 二人が紙の質問に触れたら、その場で答えて、見学の序盤の時間を短くする

「気になるところはありましたか」と聞くと、二人が口に出すのは紙に書いてある項目とは限りません。むしろ、書いていないことのほうが多いです。それを拾うことが、待合の紙の本当の役目だと考えています。

仮の前提で、効果を見積もってみます

ここからは、すべて仮の数字です。月に60組が来館する式場があるとします。成約率が35%なら、月に21組が成約します。待合の紙を置いて、見学の序盤の緊張が下がり、二人の本音が聞けるようになったとしても、成約率にそのまま効くとは限りません。

そこで、効果の見積もりは、成約率の動きから逆算します。成約率が1ポイント上がる、つまり35%から36%になると、月60組の来館なら成約は0.6組増えます。客単価を仮に350万円とすると、月の売上は210万円増える計算です。

紙の印刷は、A5を月に80枚刷るとして、印刷代は数千円です。仮に月5,000円とすると、年間では6万円。成約率が1ポイントの半分、0.5ポイント動けば、月105万円の売上が動く計算になり、費用との釣り合いは悪くありません。

ただし、この計算は「紙のおかげで成約率が動いた」と言い切れる前提に立っています。実際には、同じ時期にフェアの内容を変えたり、担当者が替わったりして、紙だけの効果は測りにくくなります。測るなら、紙を置く週と置かない週を2週間ずつ交互に回し、見学の序盤での質問の数や、帰り際の「今日のご感想」を比べる程度に留めるのが現実的です。成約率で白黒をつけようとしないほうがいいです。

続けるか、やめるかは、二人の言葉で決めます

置いて1か月たったら、紙を続けるかどうかを決めます。判断の材料は、数字ではなく、二人の言葉です。

  • 見学中に二人が紙の内容に触れた回数
  • 「紙に書いてあったので」という前置きで始まる質問の有無
  • 帰り際に、二人が紙を持ち帰ったかどうか

持ち帰る二人が多いなら、紙は効いています。置いたままの紙が多いなら、見出しが二人の言葉になっていないか、置き場所が悪いかのどちらかです。特に、紙を持ち帰った二人が、そのあと家族に見せている場面は、僕がいちばん良い反応だと見ています。紙が、二人と家族の会話の入口になるからです。

逆に、一度も触れられないまま1か月たつなら、答えを置いた質問が二人の疑問とずれています。見学後の追客の連絡で、二人がよく聞き返してくる質問に差し替えます。

まとめ

  • 待合の数分は、二人が「聞かれる側」になる前の、最後の何も求められない時間です
  • 置くものは、二人が担当者に聞きにくい4つ。今日の流れ、予算の聞き方、今日は決めなくていいこと、断り方です
  • 形は掲示ではなく、A5くらいの小さな紙。見出しは質問の形、答えは各2行まで
  • 避けたいのは、本日限定の告知、他社との比較表、見学前のアンケートの3つです
  • 紙に書いたことは、担当者が守って初めて効きます。担当者の出迎えと揃えます
  • 効果は成約率で白黒をつけず、紙に触れた二人の言葉で続けるかどうかを決めます

待合に置くのは、式場の宣伝ではなく、二人の不安への返事です。