来館・成約

式場見学の撮影は、止めるより撮ってよい場所を先に伝える

見学中に二人がスマホを構えたとき、案内しているスタッフはどう動くでしょうか。「あ、撮影はご遠慮いただいていて」と止める式場もあれば、何も言わずに撮らせる式場もあります。どちらも、事前に決めた線引きがないまま、その場の空気で対応していることが多いと思います。

僕は、見学中の撮影は「止める」ことを基本にしないほうがいいと考えています。そのかわり、撮ってよい場所と、撮らないでほしい場所を、見学が始まる前に伝えておく。この形のほうが、比較の場で選ばれやすく、式場が守りたいものも守れます。

この記事では、数字の出典は使いません。見学中の撮影ルールについて、業界全体の平均を言い切れる調査は見当たらないためです。仕組みの説明と、仮の前提を置いたモデル計算で進めます。唯一の外部情報として、ゼクシィの記事に書かれている「見学では撮影しておくと後で比較しやすい」という趣旨のアドバイスを、後半で紹介します。

二人は、見学の「記憶」ではなく「写真」で式場を比べます

式場探しをしている二人は、たいてい複数の式場を回ります。1日に2軒、週末ごとに1軒ずつ、といったペースです。見学から数日たつと、どの式場のチャペルが明るかったか、披露宴会場の天井が高かったのは3軒目か4軒目だったか、あやふやになります。

そこで二人が頼りにするのが、見学中に撮った写真です。ゼクシィの記事でも、挙式会場は入口からの正面、祭壇からの眺め、四隅からの斜め全体などを撮っておくと比較しやすい、窓の位置や外光の入り方も押さえておくとよい、という趣旨のことが紹介されています。つまり、読み手である新郎新婦は、撮影を前提に見学へ来ている人が一定数いる、と考えたほうが自然です。

ここで撮影を止められると、何が起きるか。二人は写真のかわりに、記憶と手元のパンフレットで比較することになります。パンフレットに載っているのは、式場が選んだ一番きれいな写真です。実物の印象は、他の式場で撮れた写真と並べると、どうしても見劣りして感じられます。

仕組みとして整理すると、こうなります。

  • 撮らせた式場は、二人のスマホの中に「実物」が残る
  • 撮らせなかった式場は、二人の頭の中に「ぼんやりした印象」だけが残る
  • 比較の場(家での話し合い、親への報告、SNSでの相談)では、実物が残っている式場のほうが話題に上りやすい

これは僕の見立てで、数字で裏づけられた話ではありません。ただ、「写真がない式場は、家での会話に出てこない」というのは、仕組みとして十分ありうる流れです。

式場が撮影を止めたい理由は、だいたい4つに分かれます

撮影を止めたくなる気持ちにも、理由はあります。式場側の事情を整理すると、次の4つに分かれると思います。

  1. 他のお客様が映り込む:同時刻に別の組が見学している、あるいは挙式中の組がいる
  2. 他組の準備物が見える:ウェルカムボードや当日の装花、進行表などが置いてある
  3. 料金や資料が写る:打ち合わせ用の見積書、プラン表、社内の掲示物
  4. ネットに出る:SNSに上げられて、実物と違う印象で拡散される、悪意ある切り取りをされる

この4つのうち、1〜3は「撮ってはいけない場所」を決めれば防げます。4は少し性質が違って、撮影を止めても防げません。見学が終わった後、二人が感想を口頭で話すだけでも、ネットに出る可能性はあります。

つまり、撮影そのものを止める必要がある場面は、1〜3の場所が目の前にあるときに限られます。それ以外の場所まで一律に止めると、守る必要のないものを守るために、二人の比較材料を奪うことになります。

線引きは「場所」で決めると、スタッフが迷いません

撮影ルールを「人」や「気分」で決めると、案内するスタッフによって対応が変わります。ベテランは柔軟に、新人は禁止で通す、といったばらつきが出ます。二人は式場を比べているので、スタッフごとの違いは「この式場は対応がバラバラ」という印象にもつながります。

おすすめは、場所を3つに分けることです。

  • 撮ってよい場所:チャペル、披露宴会場の空席時、ロビー、庭、外観、ウェルカムスペース。基本は「どうぞ」
  • 声をかけてから撮る場所:試食の席、衣装サロン、プランナーとの打ち合わせテーブル
  • 撮らないでほしい場所:他組の準備中の部屋、厨房やバックヤード、見積書や資料が広げてあるテーブル

この3つを、見学の最初に一言で伝えます。たとえば、こんな言い方です。

「撮影はどうぞ自由にしてください。ただ、他のお客様の準備が入っているお部屋と、厨房の中だけは、お声がけしますね」

禁止のリストを先に読み上げるより、「自由にどうぞ」を先に置くほうが、二人の気持ちが固くなりません。そのうえで例外を2つだけ伝えれば、スタッフは現場で迷いません。

撮影を許すと、案内の順番も変わります

撮らせると決めた式場がもう一つ考えておきたいのは、案内の順路と時間の使い方です。撮影を許すと、二人は1か所で立ち止まる時間が長くなります。1軒の見学の所要時間が、これまでより10分、15分と延びることもあります。

この延びを見越して、次のような工夫ができます。

  • チャペルでは、立ち止まって撮る時間を最初から見学の流れに入れておく。「ここで少し、ゆっくり見てみてください」と言って、スタッフは数歩下がる
  • 披露宴会場では、ご案内の説明を先に済ませてから、撮影の時間を取る。説明しながら撮られると、二人の意識が分散して、説明が残りにくい
  • 試食は、料理が運ばれてきた直後を撮影の時間として空ける。冷める前に食べたい気持ちと、撮りたい気持ちの両方に応える

見学の所要時間が延びることは、同時刻に組を詰めている式場には負担です。ただ、撮影を許して延びた10分の中身は、二人が実物を確かめる時間です。説明を聞いてもらう時間を削って、見てもらう時間を増やしている、と考えると、損ではありません。

仮に、撮影を許したら成約率が1ポイント変わるとしたら

ここで、撮影を許すかどうかの損得を、仮の数字で計算してみます。これは実在の式場のデータではなく、考え方を示すための想定です。

前提は次のとおりです。

  • 月に60組が見学に来る
  • 成約率は30%(月18組が契約)
  • 1組あたりの客単価は350万円
  • 撮影を許した場合に、成約率が1ポイント変わると仮定する

この条件で、1ポイント(0.01)の差は、月に60×0.01=0.6組。客単価350万円をかけると、月に約210万円の差になります。年間では、約2,520万円です。

もちろん、撮影を許すだけで成約率が1ポイント動く保証はありません。0.2ポイントかもしれないし、動かないかもしれません。逆に、動いたとしても、それが撮影の効果かどうかは、他の要因(フェアの内容、担当者、時期)と区別しにくいと思います。

ここで大事なのは、損益の「幅」です。撮影を許すことで増える手間は、案内時間の延びと、スタッフへの声かけの練習程度です。一方、成約率が0.2ポイント動くだけでも、年間で500万円規模の差になる計算です(60×12×0.002×350万円=約504万円)。手間が小さくて、動いたときの差が大きい。この非対称が、撮影を許す側に倒す理由になります。

反対に、撮影を止めて守れるものは何か。映り込みや書類の写り込みは、場所を決めれば防げます。ネット拡散のリスクは、止めても残ります。だとすると、一律に止めるメリットは、場所で線を引く方法より小さいはずです。

許すときに先に整える3つのこと

撮影を許すと決めたら、見学の前に整えておきたいことが3つあります。

1. 撮られて困る物を、見学のルートから外す

「撮ってよい場所」の中に、他組の準備物や社内掲示が映る位置がないかを、一度歩いて確かめます。スタッフが写真を撮る側の目線で、ロビーから会場まで歩くと、意外なものが目に入ります。たとえば、事務所のドアの前に積んだ段ボール、ホワイトボードに書いた当日の組名、などです。

2. 同時刻の組どうしを、同じ空間で重ねない

撮影を許す式場で一番起きやすいのは、別の組が背景に映ることです。見学の開始時刻をずらす、チャペルの案内を組ごとに分ける、といった形で、同じ部屋に2組が重ならないようにします。これは撮影のためだけでなく、二人が落ち着いて見学できる条件でもあります。

3. 「撮ってくださって大丈夫です」を、案内に先に書く

予約の完了メールや、当日の案内にあらかじめ「撮影はご自由にどうぞ」と書いておくと、二人は遠慮せずに撮れます。見学が始まってから許可を伝えるより、来る前に伝えたほうが、スマホを構える準備をしてきてくれます。

悪い使われ方を気にするとき

撮影を許すと決めても、SNSにネガティブな形で上がることを心配する式場は多いと思います。ここは2つに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 見たままの写真が上がる:実物が写っているだけなので、実物が良ければ強みになります。そもそも、実物と違う印象を与えているパンフレットのほうが、後で落差が出て不満を生みやすいと思います
  • 見学での接客や価格の話が上がる:これは撮影を止めても、口頭の感想や口コミで出ます。撮影の問題ではなく、接客の問題です

もう一つ、現場でできる小さな手当てがあります。撮ってほしい場所には、さりげなく目印を置く。チャペルの入口に「ここからの眺めが一番きれいです」と一言添える。二人が撮った写真が、そのまま式場が見せたい姿になるように、立ち位置を案内する。止めるよりも、撮ってほしいところへ誘導するほうが、仕組みとして効きます。

まとめ

  • 二人は見学の記憶ではなく、スマホの写真で式場を比べる。撮影を止めると、比較の場で式場が残りにくくなる
  • 止めたい理由は、映り込み・他組の準備物・書類・ネット拡散の4つ。1〜3は場所を決めれば防げて、4は止めても防げない
  • 線引きは人や気分でなく、場所で3つに分ける。撮ってよい/声をかけて撮る/撮らない
  • 伝え方は「自由にどうぞ」を先に、例外を2つだけ。予約の完了メールにも書いておく
  • 撮影を許すと所要時間が延びる。説明を先に済ませ、撮る時間を順路に入れておく
  • 仮に月60組・成約率30%・客単価350万円で、成約率が1ポイント動けば月約210万円の差。撮影を許す手間は小さく、動いたときの差は大きい
  • 止めるより、撮ってほしい場所へ誘導する。二人が撮る写真が、そのまま式場の見せたい姿になる