式場見学の到着から着席までは、減点を出さない順番で組む
式場の見学で、二人が最初に評価するのは、チャペルでも料理でもありません。玄関を入ってから席に着くまでの、数分間です。
僕は、成約率を上げたい式場がまず見直す場所は、説明の中身ではなく「到着から着席までの順番」だと考えています。説明がうまいプランナーでも、最初の数分で二人が「歓迎されていない」「待たされている」と感じると、その印象のまま見積もりまで進んでしまうからです。
この記事では、出典のある統計は使いません。到着後の待ち時間と成約率の関係を全国で言い切れる調査は、僕の探した範囲では見当たらなかったためです。そのかわり、仕組みの説明と、前提を置いたモデル計算、そして式場ごとに自分で決められる判断の分かれ目で進めます。数字はすべて「仮に」の置き方です。
最初の10分は、説明が始まる前の「採点時間」になっている
見学に来る二人は、式場のことを何も知らないわけではありません。結婚情報サイトの写真、口コミ、公式サイトを見て、行ってみたいと思って予約した人たちです。つまり、当日に確かめたいのは「ネットで見た印象と、実物が合っているか」です。
この確かめ方は、とても素朴です。建物の外観、駐車場からの歩き方、玄関の空気、スタッフの第一声、通された場所の居心地。説明が始まる前に、これらがすべて採点されます。
ここで起きる点数の動きは、片側にしか動きません。期待どおりなら「やっぱりそうだった」で終わり、点は増えません。期待と違うところだけが、減点として残ります。最初の10分は、加点の場ではなく、減点を出さない場です。
だから、最初の10分に「新しい工夫」を足すより、減点の出る場所を先に潰すほうが効きます。減点の出やすい場所は、だいたい次の4つに分かれます。
- 玄関に着いてから、誰かに声をかけられるまで
- 声をかけられてから、席に着くまで
- 席に着いてから、担当者が来るまで
- 担当者が来てから、最初の質問が出るまで
場所1:玄関で誰にも気づかれない時間
一番多い減点は、玄関を入って誰も出てこない時間です。式場は広いので、フロントの人が別の対応をしていることは普通にあります。ただ、二人から見ると、予約して来たのに放っておかれた、という体験になります。
ここで大事なのは、「何秒以内に」という数字を決めることではありません。式場ごとに人の配置が違うので、全国共通の秒数は言えません。決めるべきなのは、次の2点です。
- 玄関のドアが開いたことを、誰が最初に知るか(人、センサーのチャイム、カメラ)
- 知った人が手を離せないとき、誰に引き継ぐか
この2つが決まっていない式場は、忙しい日ほど玄関が無人になります。そして忙しい日は、土日のフェアの日です。見学予約が一番多い日に、一番減点が出やすい構造になっているわけです。
直し方は難しくありません。見学の予約時刻の10分前から、玄関の見える位置に1人を置く。置けないなら、チャイムを付けて、鳴ったら近くの誰でも出ると決める。人を増やさなくても、役割を決めるだけで変わる部分です。
場所2:声をかけられてから、席に着くまでの案内
次の減点は、案内の最中に起きます。二人を席に通す道すじで、他の見学客とすれ違う、準備中の会場を通る、備品が片付いていない廊下を通る。実物を見せる前に、舞台裏を見せてしまうケースです。
ここは、式場が自分で歩いてみないと気づけません。二人と同じ入口から、同じ道を、同じスピードで歩きます。案内役ではなく、初めて来た人の目線で、次のことを確かめます。
- 案内の途中で、目に入る備品や掃除道具はないか
- すれ違うスタッフは挨拶するか
- 他の見学客の打ち合わせ内容が聞こえないか
- 席に着くまでの時間は、体感で長すぎないか
最後の「長すぎないか」も、秒数ではなく体感で見ます。広い式場ほど、玄関から席までが遠くなります。その道すじで何も話さないと、沈黙が長く感じられます。案内しながら、二人が答えやすい軽い質問を1つ置くと、歩く時間が短く感じられます。「ここまでの道は、わかりやすかったですか」程度で十分です。
場所3:席に着いてから、担当者が来るまでの待ち時間
減点が一番はっきり出るのは、ここです。席に通されたあと、担当者が来るまで二人だけで待つ時間があります。前の見学が押している、資料を取りに行っている、といった理由で数分空くことは、どの式場にもあります。
この待ち時間の問題は、長さそのものより「何が起きているのか分からないこと」にあります。二人は、待たされている理由を知らないので、軽んじられているように感じます。
対処は3つあります。
- 席に通した人が、「担当の○○はあと△分ほどで参ります」と、理由と見込みを一言伝える
- 飲み物を出す(ここで出すものは、後述の費用の考え方で決める)
- 待ち時間に見られるものを置く(式場のアルバムや、会場の模型、季節の写真など)
3つのうち、一番効くのは1です。飲み物や冊子は、あっても理由が分からなければ「待たされている」感覚は残ります。逆に、理由と見込みが伝わっていれば、何も置いてなくても減点は小さくなります。
場所4:担当者が来てから、最初の質問が出るまで
最後は、担当者が席に着いたあとの数分です。ここで多い失敗は、挨拶のあとにすぐ式場の紹介を始めることです。式場の歴史、コンセプト、建物の特徴。伝えたいことはたくさんあるので、つい話し始めます。
ところが、二人は式場のことを調べてから来ています。紹介の多くは、すでにサイトで読んだ内容です。同じ話を聞かされる時間は、減点にこそならなくても、二人の関心が落ちる時間になります。
ここは、紹介より先に質問を置いたほうが、後半の説明がかみ合います。聞くのは「今日、いちばん確かめたいことは何ですか」の1つで足ります。答えが出れば、その順に見せていけばよく、答えが出なければ、標準の順番で進めます。
なお、見学の冒頭で「譲れない1つ」を聞く運用は、すでに別の記事で扱っています(見積もりまで同じ軸で揃える使い方)。この記事で言いたいのは、その質問に入る前の、席に着くまでの段取りのほうです。質問が効くのは、二人が落ち着いて座れてからです。
飲み物は、いつ・何を出すかを先に決める
席に着いた二人に飲み物を出す式場は多いと思います。ここは費用の話なので、前提を置いたモデル計算で考えてみます。
仮に、次のように置きます。
- 1回の見学で、二人分の飲み物を出す
- 飲み物の原価が1杯あたり100円(仮の数字)
- 週末の見学が1日あたり6組、月に8日の稼働
この仮の置き方なら、1か月に出す飲み物の原価は、次のとおり計算できます。
100円 × 2杯 × 6組 × 8日 = 9,600円
月に1万円弱です。実際の数字は式場ごとに違いますが、ここで見たいのは金額ではありません。この程度の費用であれば、飲み物を出すか出さないかは、費用で決める話ではなく、出すタイミングで決める話だということです。
タイミングの判断は、次の分かれ目で決まります。
- 担当者がすぐ来るなら、席に着いてすぐ出すより、担当者と一緒に出す(先に出しても、飲む暇がない)
- 担当者が少し遅れるなら、席に着いた時点で出す(待ち時間の理由を伝える一言とセットにする)
- 夏場や冬場など、外から来たばかりの季節は、玄関で先にお水かおしぼりを出す
どれも「いつ出すか」の話で、「何を出すか」ではありません。銘柄や種類を凝るより、出すタイミングを決めておくほうが、減点を出さない効果は大きいと考えています。
「早く着いた二人」の扱いを決めておく
もう1つ、見落としやすいのが、予約より早く着いた二人です。道が空いていた、駐車場を探す時間を多めに見ていた、などの理由で、予約の10分以上前に着く人は必ずいます。
このとき、「まだ時間ではないので少しお待ちください」と、玄関で待たせる運用にしている式場もあります。気持ちは分かりますが、二人から見ると、早く来たのに待たされる体験になります。
扱いは2通りに分かれます。
- 席が空いていれば、そのまま通す。担当者の準備ができていなくても、飲み物を出して待ってもらう
- 席が空いていなければ、玄関の近くに待てる場所(ソファや、式場の写真を見られるコーナー)を用意する
どちらを選ぶかは、式場の席数と見学枠の組み方で決まります。見学枠が詰まっていて席がいつも埋まっているなら、2のコーナーが必要です。枠に余裕があるなら、1で通すほうが手間は少なく済みます。
式場の「最初の10分」を点検する手順
ここまでの4つの場所と、飲み物と、早着の扱いを、式場ごとに点検する手順をまとめます。見学を実際に受ける日を使わなくても、平日の空いた時間に1人で回せます。
- 玄関の外から、予約した二人のつもりで入る。ドアを開けてから、誰かに声をかけられるまでを数える
- 声をかけられたら、案内役に従って席まで歩く。途中で目に入ったもの、聞こえたものをメモする
- 席に座って、2分待つ。何が目に入り、何を思うかをメモする
- 担当者の挨拶から、最初の質問までを、録音または記録しておく
- 4つの場所のうち、減点が出た箇所に、役割か手順を1つだけ足す
ポイントは、直す場所を1つずつにすることです。4つ全部を一度に直そうとすると、現場の負担が大きく、続きません。減点の一番大きい場所を1つ直し、次の週に次の場所を見る。それで十分です。
点検した結果を、どうやって成約率に結びつけるか
最初の10分を直しても、すぐに成約率が動くとは限りません。成約には、料金、日程、親の意見など、他の要素が大きく効くからです。
だから、最初の10分の改善は、成約率ではなく、次の2つで確かめます。
- 見学後のアンケートや会話で、「待たされた」「放っておかれた」と書く人が減ったか
- 見学の冒頭で、二人が最初の質問に答えるまでの様子が、落ち着いてきたか
どちらも数値化しにくい指標ですが、数えられる形にはできます。たとえばアンケートに「到着してから席に着くまでの印象」の項目を1つ足し、3段階で聞いておく。月の終わりに、それぞれの割合を見る。これなら、増えた減ったが見えます。
成約率との関係は、この数値が数か月続いて安定してから、見学数と成約数の月次の推移を並べて見ます。短い期間で結びつけようとすると、季節や広告の影響まで拾ってしまいます。
最初の10分が弱い式場に起きやすい、3つの誤解
最後に、この領域で起きやすい誤解を3つ挙げます。
1つ目は、「うちは建物が立派だから、最初は気にしなくていい」という誤解です。建物が立派であるほど、期待も高くなっています。期待が高いと、玄関の放置や、待ち時間の沈黙は、より大きな落差として受け取られます。
2つ目は、「スタッフの数が足りないから、できない」という誤解です。ここまで挙げた手当ての多くは、人を増やすことではなく、役割と順番を決めることで済みます。玄関の担当を決める、待ち時間の一言を決める、飲み物を出すタイミングを決める。いずれも、人員を増やさずに始められます。
3つ目は、「見学が始まれば、説明で取り返せる」という誤解です。取り返せる場合もありますが、減点の出た状態で始まる説明は、二人が聞く姿勢のまま進みません。同じ説明でも、受け取られ方が違ってきます。
まとめ
- 見学の最初の10分は、加点の場ではなく、減点を出さない場として扱う
- 減点の出る場所は、玄関、案内の道すじ、席での待ち時間、最初の質問までの4つに分かれる
- 玄関は秒数ではなく、気づく人と引き継ぐ人の2つの役割を決める
- 席での待ち時間は、長さより「理由と見込みを伝える一言」で減点が小さくなる
- 飲み物はモデル計算で月に1万円弱の規模になるため、何を出すかより出すタイミングで決める
- 早く着いた二人を玄関で待たせるかどうかは、席数と見学枠の組み方で決める
- 点検は平日に1人で回し、減点の一番大きい場所を1つずつ直す
- 効果はアンケートの「待たされた」の割合で確かめ、成約率との結びつけは数か月後に見る
成約率を動かす前に、減点を出さない10分を作る。説明の質を上げる前にやることは、案外そこにあると思っています。
