式場見学の名刺は、裏に二人の次の一歩を書いて渡す
式場の見学が終わって、出口で二人を見送るとき、担当者は名刺を渡します。「何かあればいつでもどうぞ」と添えることも多いと思います。
僕は、この渡し方が一番もったいないと考えています。名刺は、渡した瞬間から二人の財布かスマホケースに入ります。次に取り出されるのは、早くても数日後です。その間に二人は別の式場を二つか三つ見ています。数日後に名刺を見ても、「この担当者の式場で、何が決まっていて、何が決まっていなかったのか」を思い出せません。連絡するきっかけがなく、そのまま財布の奥に残ります。
この記事は、名刺の裏に「二人の次の一歩」を一行書いて渡す、という小さな工夫について、なぜ効くのか、何を書くのか、書いてはいけないのはどんなときか、を判断の条件として整理したものです。
なお、出てくる数字はすべて、説明のために僕が置いた仮の前提です。調査から引いた数字ではありません。自分の式場の数字に置き換えて使ってください。
見学のあと、名刺は「連絡先」としてしか働いていない
名刺に書いてあるのは、担当者の名前、式場名、電話番号、メールアドレスです。これは連絡先です。連絡先は、連絡したい理由がある人にとっては役に立ちます。ただ、見学を終えたばかりの二人には、まだ連絡したい理由がありません。
二人が持ち帰ったのは、次のようなものです。
- 会場の印象
- 見積もりの総額のおおよその帯
- 他の式場と比べたい気持ち
- ふたりの間で意見が違う点が一つか二つ
この中から、「担当者に連絡する理由」が自然に出てくることは多くありません。理由が出てくるのは、他の式場を見たあとに、気になる点がはっきりしたときです。そのときに名刺が手元にあって、かつ「何を聞けばいいか」を二人が覚えていれば、連絡が来ます。覚えていなければ、来ません。
つまり、名刺が足りないのは連絡先の情報ではなく、「連絡するときの最初の一言」です。裏に書く一行は、その一言を先に渡すためのものです。
裏に書くのは「二人が決めること」を一つだけ
書く内容は、見学中に聞いた「二人が次に決めること」です。担当者の挨拶文や、会場の売りではありません。
たとえば、見学の途中で二人が「父の体調次第で、人数が変わるかもしれない」と話したとします。その場合、名刺の裏にはこう書きます。
- 「人数の幅が決まったら、その幅のまま見積もりを出し直します」
あるいは、二人の優先順位が「日取りより、料理」だと聞いていたなら、こう書きます。
- 「料理は、ご希望の日の試食を先に押さえられます」
ポイントは三つです。
一つ目は、二人が口にした言葉をそのまま使うことです。「料理」「人数の幅」のように、二人が見学中に使った語を入れます。担当者の言葉に直すと、二人は「自分たちの話だ」と感じません。
二つ目は、次の一歩を、二人がすることとして書くことです。「お待ちしております」は式場がすることです。「人数の幅が決まったら」は二人がすることです。主語が二人になっていると、見たときに「あ、あれを決めればいいんだ」と思い出せます。
三つ目は、一つだけにすることです。三つ書くと、どれも決めなくていいことになります。見学で複数の課題が出たなら、その中で「他の式場を見たあとに一番聞かれそうなもの」を一つ選びます。
書き分ける:二人の状態で三つに分ける
見学後の二人の状態は、大きく三つに分けられます。名刺の裏の一行は、状態によって役割が変わります。
1. 気に入っているが、決めきれていない二人
迷っている点が一つに絞れていることが多いです。裏には、その迷いを「解消できる行動」を書きます。「両親に見てもらう日を決めたら、土日の枠は二日前までに押さえます」のような一行です。
2. 比較中で、まだ温度が低い二人
この二人に、行動を求める一行を書くと重く感じられます。裏には、比較の手伝いになる情報を書きます。「他の式場の見積もりと並べるときは、ここの項目から揃えると比べやすいです」のように、比較の材料を渡す一行です。これは相手を引き止める一行ではなく、比べる作業を軽くする一行です。
3. 検討の優先順位が違う二人
ふたりの意見が割れていると、持ち帰ってから話し合いが止まります。裏には、どちらの優先順位にも寄らない、事実の一行を書きます。「日取りの空きは、今のところ三つあります(この日から)」のように、決める材料だけを渡します。どちらかに寄せた一行は、片方の信頼を失います。
この三つの区別は、見学の最後の五分で聞いた「今日の感触」で決められます。見学の最後に「どのあたりが一番気になりましたか」と一つだけ聞いておくと、裏に書く内容が決まります。
書かないほうがいいとき
この工夫は、常に効くわけではありません。書かないほうがいい場面があります。
期限を煽る一行は書かない。 「今月中なら特典を残せます」のような一行は、二人の財布の奥で重くなります。見学後の名刺は、後日、親や友人に見せられることがあります。そのとき、期限で追いかける式場だと思われます。CTAの期限は、名刺の裏に置くものではありません。
他の式場を下げる一行は書かない。 比較の手伝いの一行は、あくまで項目の揃え方に留めます。他社の弱点を書くと、二人は名刺を捨てます。
分かっていないことを書かない。 聞いていない優先順位を推測して書くと、逆効果になります。見学中に聞いていないなら、裏は空白のままにして、代わりに口頭で「今日一番気になったことを、一つだけ教えてください」と聞きます。その答えを、その場で書いて渡します。書く時間は、渡す時間の中で取れます。
二人が名刺を受け取りたくなさそうなときは、無理に渡さない。 見学の途中で明らかに温度が低いと感じたら、名刺は裏を書かず、通常どおり渡します。裏を書くこと自体が、圧に感じられることがあるからです。
元が取れるか:仮の数字で見る
手間は、本当に元が取れるのでしょうか。仮の前提を置いて計算します(計算はPythonで行いました)。
仮の前提です。
- 月の見学組数:40組
- 名刺の裏に一行を書く時間:1組あたり30秒
- 見学後に、二人から連絡が来る組の割合:今は30%(12組)
- 連絡が来た組の成約率:仮に20%から30%(連絡が来た組は、来ない組より成約しやすいと置く)
- 1組の成約の粗利:100万円(仮)
書く時間は、40組×30秒で、月に20分です。これは手間として軽いほうです。
効果は、連絡が来る組が月に何組増えるかで決まります。
- 連絡が来る組が1組増えると:月0.2〜0.3組の成約が増える。年にすると2.4〜3.6組。粗利に直すと、年に240〜360万円
- 2組増えると:年4.8〜7.2組。粗利で年480〜720万円
- 3組増えると:年7.2〜10.8組。粗利で年720〜1,080万円
つまり、連絡が来る組が月に1組増えるだけで、20分の手間は大きく元が取れる計算になります。連絡が来る組の割合でいえば、30%が35%になれば、月に2組増えます。
ここで大事なのは、増えるかどうかは名刺の裏だけで決まらない、ということです。見学の中身、見積もりの出し方、その後の追客と合わせて、はじめて増えます。この計算は、「名刺の裏を書く手間が、他の施策と比べて軽い」ことを示すためのものです。実際に増えるかは、自分の式場で測る必要があります。
測り方:二つの数字だけ見る
測るのは、次の二つです。
- 見学後14日以内に、二人から連絡が来た組の割合
- 名刺の裏に一行を書いた組と、書かなかった組で、その割合がどう違うか
最初の一か月は、書く組と書かない組を、偶数日と奇数日のように機械的に分けると、担当者の好みが混ざりません。ただし、書かない組には通常どおり名刺を渡すだけで、二人に不利益はありません。
一か月で差が見えなければ、一行の書き方を見直します。見直す順番は、次のとおりです。
- 二人の言葉をそのまま使っているか
- 二人がすることとして書いているか
- 一つに絞れているか
この三つを満たしていて、それでも差が出ないなら、名刺の裏は効きにくい式場だと判断してやめます。やめたときに失うのは、月20分の手間だけです。
連絡が来たときの最初の一言
名刺の裏の一行は、連絡が来たときに生きます。連絡が来たとき、担当者は裏に書いた内容を、自分のメモと見比べて、すぐに返せる状態にしておく必要があります。
そのためには、名刺を渡すときに、同じ内容を見学メモにも残しておきます。見学メモは、感想ではなく「二人が決める条件」を残すものです。名刺の裏の一行は、メモのうち二人に渡す一つです。メモとの対応が取れていれば、連絡が来た瞬間に、「あの人数の幅の話ですね」と返せます。
二人の側から見ると、これは大きな違いです。自分から連絡して、また最初から説明するのと、「前回の続き」として話が始まるのとでは、連絡のしやすさがまるで違います。
渡すときの言い方
最後に、渡すときの一言です。名刺の裏を書いた場合は、こう言います。
- 「今日お聞きしたことを、裏に一つだけ書いておきました。他の式場を見たあとで、ここを決めたら、続きから話せます」
書いていない場合は、通常どおりで構いません。大事なのは、「待っています」ではなく、「続きから話せる」と伝えることです。連絡を求めると、二人は式場の都合に応えるような気持ちになります。続きから話せると伝えると、二人は自分たちの都合で動けます。
まとめ
- 見学後の名刺は、連絡先として渡しても、連絡する「最初の一言」がないので使われにくい
- 裏に書くのは、見学中に二人が口にした言葉で、二人がすることとして、一つだけ
- 二人の状態を三つ(決めきれていない、比較中、意見が割れている)に分け、書く内容を変える
- 期限の煽り、他社を下げる文、聞いていない推測は書かない。温度が低い二人には裏を書かなくてよい
- 仮の前提では、月20分の手間で、連絡が来る組が月1組増えれば年に240〜360万円の粗利になる計算。実際に増えるかは自分の式場で測る
- 測るのは「見学後14日以内に連絡が来た組の割合」だけ。偶数日と奇数日で分けて一か月比べ、差が出なければやめる
