結婚式場の売上は、国の統計では2.3%減、民間調査では3.9%増。8年前と比べると件数は27%減っている
2024年の結婚式場の売上は、前年より減ったのでしょうか。増えたのでしょうか。
経済産業省の統計では、結婚式場業の売上高は2,293億円で、前年比2.3%の減少です。ところが東京商工リサーチ(TSR)が結婚式場を運営する46社を調べた結果では、2024年の売上高は2,757億円で、前年比3.9%の増加でした。
同じ年、同じ業界で、一方は減り、一方は増えています。どちらかが間違っているわけではありません。数え方が違うだけです。ただ、この違いを知らないまま「業界は持ち直した」「業界は縮んでいる」と話すと、会議の前提がずれます。
この記事では、2つの数字がずれる理由を整理します。そのうえで、国の統計を8年前と並べると何が見えるかを、前提つきの計算で確かめます。先に結論を書くと、売上はほぼ横ばいで、取扱件数は約27%減り、1件あたりの売上は約96万円増えています。
国の統計は2.3%減、民間調査は3.9%増
まず2つの数字の出どころを確認します。
1つ目は、経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」です。マイナビの業界地図がこの統計を引いていて、2024年の結婚式場業の売上高は前年比2.3%減の2,293億円、取扱件数は同8.0%減の約6万3,190件とされています。
2つ目は、東京商工リサーチの「2024年『結婚式場業』業績動向調査」です。日本産業分類の小分類「結婚式場業」から、2024年を最新期として5期連続で業績が分かった46社を抽出しています。売上高は2,757億5,300万円で前年比3.9%増、最終利益は120億4,000万円で前年比17.6%減でした。
並べると、こうなります。
- 経産省の統計:売上2,293億円(前年比2.3%減)、取扱件数約6万3,190件(同8.0%減)
- TSRの46社:売上2,757億円(前年比3.9%増)、最終利益120億円(同17.6%減)
売上の向きが逆になっているのは、売上の数え方に4つの違いがあるからだと僕は読んでいます。ただし、これは2つの資料の説明文から読み取った整理で、どちらの機関も差の原因を公表していません。
ずれを生む4つの違い
1つ目は、調査の対象です。TSRは5期連続で決算が分かる46社に絞っています。毎年の決算が出ている会社、つまり一定の規模があって続いている会社です。経産省の統計は、結婚式場業を営む企業の毎月の報告を積み上げる形です。対象の広さが違えば、増減の向きも変わりえます。
2つ目は、続いている会社だけを追っているかどうかです。TSRの抽出は「5期連続で業績が分かった会社」です。途中で閉館した会社や、新しく始めた会社は入りません。生き残っている会社だけの前年比は、業界全体の前年比より良く出やすくなります。
3つ目は、売上の中身です。TSRの46社は会社の売上高です。結婚式場を運営する会社が、宴会やホテル事業、衣装、写真などを持っていれば、その分も含まれる可能性があります。経産省の統計は結婚式場業としての売上です。ここは各社の事業構成が分からないので、可能性としか言えません。
4つ目は、集計の単位です。経産省の統計は暦年の売上、TSRは1月期から12月期の決算です。期ずれの会社があれば、数か月分の差が出ます。
つまり、「業界の売上が増えた」とも「減った」とも、どちらの数字からも言い切れません。対象の違う2つの物差しが、たまたま逆を向いたというのが正確な読み方です。
2.3%減でも、1件あたりは6%上がっている
経産省の統計の使いどころは、売上と件数が両方あることです。割り算で1件あたりの売上が出ます。
前提を置いて計算します。前年の数字は公表されていないので、前年比から逆算します。
- 2024年:売上2,293億円、取扱件数6万3,190件。1件あたり約362.9万円
- 2023年(逆算):売上2,293億円÷0.977で約2,347億円、件数6万3,190件÷0.92で約6万8,685件。1件あたり約341.7万円
1件あたりの売上は、2023年から2024年で約6.2%上がった計算です。売上が2.3%減るなかで、件数が8.0%減っています。件数の減り方のほうが大きいぶん、1件あたりは上がっています。
売上を前年並みに保つには、件数が8%減るなら、単価は約8.7%上がる必要があります。2024年は単価が約6.2%の上昇なので、そこに届かず、売上は2.3%減りました。件数の減少を、単価の上昇が埋めきれなかったということです。
この読み方は、上場3社の決算資料を読んだ別の記事(当サイトの「上場の式場3社は、減った件数を単価で埋めきれていない」)と同じ向きです。会社単位で見た結果と、国の統計で見た結果が、同じ方向を向いています。
なお、ここでいう1件あたりの売上は、お客様が実際に支払った総額とは別物です。売上は、取扱件数に含まれる挙式・披露宴だけでなく、パーティーや二次会など別の取扱が混ざる可能性があります。この記事では、あくまで「統計から割り算で出した目安」として使います。
8年前と並べると、件数は27%減っていた
次に、少し長い期間で見ます。東洋経済オンラインに載った大和証券の末廣徹氏の記事(2017年4月)が、同じ統計の過去の数字を示しています。
- 2014年:売上約1,508億円、取扱件数4万9,166件。1件あたり約306.8万円
- 2016年:売上約2,309億円、取扱件数8万6,423件。1件あたり約267.2万円
2014年と2016年の間で数字が大きく変わっているのは、調査の範囲が変わったためです。同記事によると、2014年までは特定の地域の事業所単位、2015年以降は全国の企業単位に広げています。そのため、2014年と2016年を直接比べることはできません。
比べられるのは、全国の企業単位に広がった2016年以降です。そこで2016年と2024年を並べます。
- 売上:2,309億円 → 2,293億円(約0.7%減)
- 取扱件数:8万6,423件 → 6万3,190件(約26.9%減)
- 1件あたり:約267.2万円 → 約362.9万円(約35.8%増、約96万円増)
8年間で、売上はほぼ変わっていません。取扱件数は4分の1強、約27%減りました。それを1件あたりの売上が約96万円増えることで埋めています。
婚姻件数も動きを確認しておきます。同じ東洋経済の記事に2015年の婚姻件数が63.5万件とあり、TSRの記事に2024年が48万5,063組とあります。約24%の減少です。2015年と2024年で年が1年ずれますが、取扱件数の約27%減と、近い大きさです。
婚姻が約24%減るなかで、取扱件数は約27%減りました。つまり、婚姻の減少に加えて、式を挙げる人の割合も少し下がった可能性があります。ただ、取扱件数の定義は統計の調査票を確認できていないので、割合が下がったと言い切るのは控えます。
2024年は、婚姻が増えても件数は減った
さらに2024年だけを見ると、もう1つ気になる点があります。
厚生労働省の人口動態統計では、2024年の婚姻件数は48万5,063組で、前年比2.1%増、前年より1万322組増えました。マイナビの業界地図は、婚姻が増えたのに取扱件数が8.0%減った要因を、挙式・披露宴をしない「ナシ婚」の増加などと見ています。
婚姻が2.1%増えて、取扱件数が8.0%減ったということは、婚姻あたりの取扱件数が約10%下がった計算です。婚姻の増減だけでは、式場の件数は説明できなくなっています。
民間調査の「3.9%増」をどう読むか
では、TSRの増収は何を示しているのでしょう。
TSRの発表では、2022年から3期連続で増収になった理由を「コロナ禍の収束による需要回復と、一部の価格転嫁の効果」としています。一方で、原材料や人件費の高騰にコスト削減が追いつかず、最終利益は17.6%減りました。同調査は、こうした状況を「利益なき繁忙」と表現しています。
もう1つ、同じ調査には二極化を示す数字があります。46社のうち減収だった会社は、2023年の5社(10.8%)から、2024年は15社(32.6%)へ3倍に増えました。46社の合計は増収でも、3社に1社は売上を落としています。
つまり、TSRの3.9%増は「46社の合計」の話です。合計が増えているときに、個々の会社の3分の1は減っている。この差は、国の統計の2.3%減と合わせて考えると納得がいきます。件数が減る市場で、残った会社のうち好調な一部が売上を伸ばし、合計を押し上げている構図です。
倒産・休廃業の数も示されています。2024年は19件で、前年と同数でした。6年連続で新設法人数を上回っています。会社の数は減る方向にあり、そのぶん、残った会社の数字は良く見えやすくなります。
自社の数字に置き換える
ここまでの数字は、業界全体の話です。自社に引き寄せるには、次の3つを確かめるのが近道だと僕は考えています。
1つ目は、自社の前年比を、2つの物差しの両方と比べることです。自社の売上が2%増えたとき、「業界は2.3%減だから勝っている」とも、「業界の46社は3.9%増だから負けている」とも言えます。どちらの物差しを使うかで評価が変わるので、会議の前に決めておく必要があります。
2つ目は、売上を件数と単価に分けることです。業界全体の動きは、8年で件数が27%減り、1件あたりが約96万円上がる形でした。自社の1件あたりが、この平均より速く上がっているのか、遅れているのかは、割り算1つで分かります。単価が上がっているのに売上が減っているなら、件数の減り方を見直す必要があります。
3つ目は、婚姻件数の増減に引きずられないことです。2024年のように婚姻が増えても、取扱件数は減ります。婚姻件数を市場の需要の代わりに置くのは、少なくとも直近は当てになりません。自社が見るべき母数は、式を挙げる人の数のほうです。
この記事の限界
最後に、この記事の限界を書いておきます。
- 経産省の統計の数字は、マイナビの業界地図と東洋経済の記事を通して確認したものです。経産省の原表は、僕の環境から開けませんでした。2024年の数字はマイナビの1本の引用に依存しています
- 2016年と2024年の比較は、調査の対象企業が同じ範囲かどうかを確認できていません。全国の企業単位という点は同じですが、報告企業の入れ替わりの影響は分かりません
- 逆算した2023年の数字は、前年比の四捨五入の影響を含みます。1件あたりの変化率は、±0.5ポイント程度の誤差があると見てください
- 婚姻件数の比較は、2015年と2024年で年がずれています
- この統計は2024年12月分で終わり、2025年1月から「サービス産業動態統計調査」に統合されたと、検索で確認できた国立国会図書館の情報にあります。2025年以降の数字は、同じ形で続くかどうかをまだ確かめていません
数字の絶対値より、ずれ方の向きを見てもらうための記事です。
まとめ
- 2024年の結婚式場の売上は、経産省の統計で前年比2.3%減(2,293億円)、TSRの46社で3.9%増(2,757億円)。対象と数え方が違い、どちらも間違いではない
- 経産省の統計では、取扱件数が前年比8.0%減、1件あたりの売上は約6.2%上昇(約341.7万円から約362.9万円、逆算)。単価の上昇が件数減を埋めきれず、売上は2.3%減った
- 2016年と2024年を比べると、売上は約0.7%減でほぼ横ばい、取扱件数は約26.9%減、1件あたりは約96万円増
- 婚姻は2024年に2.1%増えたが、取扱件数は8.0%減。婚姻件数は式場の需要の代わりにならなくなっている
- 自社の評価では、使う物差しを先に決める。さらに売上を件数と単価に分け、業界平均の動きと比べる
