業界動向

ブライダル市場は1.84兆円なのか、1.58兆円なのか。同じ会社の同じ年で、約2,600億円ずれる

ブライダル市場の規模は、いくらでしょうか。

矢野経済研究所の2025年6月の発表では、2024年のブライダル関連市場は1兆8,448億円でした。ところが、その翌年、2026年5月の発表では、2025年の市場は1兆5,786億円とされています。

並べると、1年で2,600億円以上、率にして14%ほど市場が縮んだように見えます。でも、そんなことは起きていません。どちらの発表も、前年比は99.9%、つまりほぼ横ばいと書いています。

数字がずれた理由は、数える分野の数が6つから5つに変わったからです。同じ会社が、同じ市場を、違う範囲で数えています。この記事では、2つの発表を並べて何が違うのかを確かめたうえで、市場規模の数字を会議や資料に使うときの確認事項と、自社の商圏に引き直す計算を整理します。

2つの発表を並べる

まず、事実をそろえます。出典はどちらも矢野経済研究所のプレスリリースで、年鑑『ブライダル産業年鑑』をもとにしたものです。

2025年6月4日の発表(2025年版):

  • 対象は主要6分野
  • 2024年の市場規模は1兆8,448億円の見込みで、前年比99.9%
  • 2019年比では76.3%の規模で、回復には遠い状況
  • 主力の挙式披露宴・披露パーティ市場は、挙式施行件数の減少と列席者人数の回復の鈍さで、前年比では僅かな伸びに留まる見込み

2026年5月14日の発表(2026年版):

  • 対象は主要5分野(挙式披露宴・披露パーティ、新婚旅行、ブライダルジュエリー、結納式・結納品、結婚相談所・仲介業サービス)
  • 2025年の市場規模は事業者売上高ベースで1兆5,786億円の見込みで、前年比99.9%
  • 2026年は1兆5,700億円で、前年比99.5%の予測
  • 挙式披露宴・披露パーティ市場は、施行件数の減少と列席者人数の伸び悩みで、2024年比で微減と推計

2026年版の調査要綱には、5分野の中身がはっきり書かれています。僕が読んだ範囲では、2025年版のリリース本文は「主要6分野」とだけ書いていて、6つ目が何かは出てきませんでした。つまり、2つの発表の差である「6つ目の分野」が何を指していたのかは、公開されているリリースだけでは分かりません。分かるのは、5分野のほうが範囲として狭いこと、そして前年比の99.9%はそれぞれの発表の中で閉じた比較だということです。

2,600億円の差を計算で出す

2026年版の発表は、2025年の1兆5,786億円が前年比99.9%だと書いています。ここから、同じ5分野で数えた2024年の市場を逆算できます。以下は僕の計算で、矢野経済研究所が公表した数字ではありません。

  • 5分野での2024年:15,786億円 ÷ 0.999 = 約1兆5,802億円
  • 6分野での2024年:1兆8,448億円(2025年版の見込み)
  • 差:18,448億円 − 15,802億円 = 約2,646億円
  • 6分野の数字に対する割合:約14%

四捨五入の幅があるので、約2,600億円の差、くらいに受け取ってください。もう1つ注意があって、2024年の6分野の数字は2025年時点の「見込み」で、5分野の数字は2026年時点で出し直したものです。年鑑は毎年、前年の数字を更新します。つまり、分野の数の違いだけでなく、見込みが確定値に近づいたことによる更新も混ざっている可能性があります。2つを切り分けることまでは、公開情報からはできません。

それでも言えることがあります。同じ矢野経済研究所の、同じ2024年の市場が、集計の範囲によって約2,600億円違う。これは事実です。「ブライダル市場は1.8兆円」と「1.6兆円」は、どちらも間違いではなく、数えているものが違います。

2019年比76.3%は、どの分野の話か

2025年版には、もう1つ、よく引用される数字があります。「2024年はコロナ禍前の2019年比で76.3%」です。

この数字を逆算すると、2019年の市場は 18,448億円 ÷ 0.763 = 約2兆4,178億円になります。これも僕の計算です。

大事なのは、この76.3%が6分野の中での比較だということです。2026年版は5分野に変わったので、2026年版の1兆5,786億円を、この約2兆4,178億円で割って「2019年比65%」と書くと、範囲の違う数字どうしの比になります。

実際にやってみると、15,786 ÷ 24,178 = 約65.3%になります。76.3%と比べて11ポイントも低い。ここで「2025年は2019年の3分の2まで落ちた」と読んでしまう人が出てきます。でも、この11ポイントの差の大部分は、分野の数の違いです。

業界の資料や社内の会議資料で、「コロナ前の何割まで戻った」という言い方は、よく出てきます。そのとき分子と分母が同じ範囲で数えた数字かどうかを確かめないと、回復の度合いを実際より低く、あるいは高く見積もります。

市場規模は、式場の売上の合計ではない

もう1つ、市場規模の数字で読み違えやすい点があります。

矢野経済研究所の言う市場規模は、事業者売上高ベースです。5分野には、挙式披露宴・披露パーティのほかに、新婚旅行、ブライダルジュエリー、結納、結婚相談所・仲介業が入っています。結婚式場の売上だけではありません。

2026年版のリリースを読むと、分野ごとに動きが違います。

  • 挙式披露宴・披露パーティ:施行件数の減少と列席者人数の伸び悩みで、微減
  • ブライダルジュエリー:素材価格と人件費の高騰による値上げが、市場拡大につながっている
  • 結婚相談所・仲介業サービス:緩やかに伸びているが、市場拡大への寄与は限定的

つまり、全体が横ばい(99.9%)でも、中身は「ジュエリーは値上げで伸び、式場の中心部分は微減」という分かれ方をしています。全体の前年比だけで式場の景気を語ると、実感より良く聞こえることがあります。

式場の規模の感覚をつかむための参考として、東京商工リサーチの調査を使います。結婚式場を運営する主要48社の2025年の売上高は、合計で3,040億1,900万円です。これは、48社の売上高が5分野全体の1兆5,786億円に占める割合を、ざっくり計算すると約19%、6分野の1兆8,448億円との比では約16%にあたります。

ただし、48社の売上にはホテルやレストランなど付随する事業の売上も入っていて、集計の範囲も矢野経済研究所の「事業者売上高」とは同じではありません。ここで出した割合はシェアではなく、桁の感覚をつかむための目安だと思ってください。大きな市場の数字の中に、式場そのものはこのくらいの大きさで入っている、という見方です。

婚姻1組あたりに引き直すと

市場規模を自分の商圏で使うためには、1組あたりの数字に直すのが早いです。

2025年の婚姻件数は、厚生労働省の人口動態統計(概数)で48万9,119組でした。前年の2024年は、その数字から4,027組を引いた48万5,092組です(この数字は、前に書いた記事「婚姻は2年連続で増えた。それでも披露宴は増えていない」と同じ出典です)。

  • 5分野の2025年:15,786億円 ÷ 48万9,119組 = 約323万円
  • 6分野の2024年:18,448億円 ÷ 48万5,092組 = 約380万円

この「323万円」と「380万円」は、1組が結婚式に払う金額ではありません。新婚旅行、結婚指輪、結納、結婚相談所の会費などの売上が全部入っていて、そのうえ結婚相談所のように、結婚前のカップルの売上まで含まれているからです。披露宴をしない人も、割り算の分母に入っています。

参考までに、リクルートの結婚マーケット調査2025では、挙式と披露宴の両方を行った人の費用総額は平均298.6万円でした。そして披露宴・ウエディングパーティーの実施率は43.1%です(どちらも前の記事で扱った数字です)。

つまり、市場規模を婚姻数で割って出した数字は、式場の客単価とは別のものです。「市場は1組あたり300万円超」と聞いて、自社の客単価と比べるのは、意味のない比較になります。式場の売上に近づけたいなら、割る数と掛ける数を変えます。

  • 披露宴をする組数の目安:婚姻件数 × 実施率(48万9,119組 × 43.1% = 約21万組)
  • そこに、挙式披露宴の平均費用を掛ける

これでも、全国の平均を使っているので、自社の商圏に当てはまる保証はありません。ただ、「市場規模 ÷ 婚姻数」よりは、式場の売上の感覚に近づきます。

自社の計画に市場規模を使うときの確認

ここまでを踏まえて、市場規模の数字を会議資料や中期計画に使うときの確認事項を挙げます。

1つ目は、分野の数と中身です。「ブライダル市場は〇兆円」と書く前に、元の調査が何分野を数えているかを見てください。矢野経済研究所の例では、2025年版は6分野、2026年版は5分野です。年版をまたいで数字を並べるなら、範囲が変わっていないことを確かめます。

2つ目は、見込みか確定値かです。リリースに書かれている直近の数字は、ほとんどが「見込み」です。翌年の発表で更新されます。前年の発表と今年の発表で同じ年の数字が違っていたら、集計の範囲の違いか、見込みの更新か、両方を疑います。

3つ目は、前年比は同じ範囲の中でだけ使うことです。今回の2つの発表は、どちらも前年比99.9%と書いています。この数字は、それぞれの発表の中で比べているので、信用して使えます。逆に、発表をまたいだ金額の比較は、範囲が同じと確認できるまで避けます。

4つ目は、市場全体と自社のお客さんの数を混ぜないことです。市場規模にはジュエリーも結婚相談所も入っています。式場の計画に使うなら、挙式披露宴・披露パーティ市場の動きと、婚姻件数、実施率を見るほうが近いです。

5つ目は、自社の商圏の数字に落とすことです。全国の婚姻数の増加の4分の3が東京都の増加分だったという前の記事の話のとおり、全国の数字は、地方の式場の実感とずれます。市場規模は、業界全体の大まかな方向を見るための数字で、商圏の計画は、都道府県別の婚姻数から組み立てるほうが確かです。

数字をめぐる、よくある読み違い

最後に、この記事の数字で起きやすい読み違いを3つ並べておきます。

  • 「市場が1年で14%縮んだ」:縮んでいません。6分野と5分野の範囲の違いです。前年比はどちらも99.9%で、横ばいです
  • 「2019年比が76.3%から65%に下がった」:76.3%は6分野の比較で、65%は範囲の違う数字を割った値です。5分野で2019年と並べたデータは、僕が読んだ範囲のリリースには出てきません
  • 「市場は1組あたり300万円超だから、うちの客単価は低い」:市場規模にはジュエリーや結婚相談所の売上も入っていて、割る数には披露宴をしない人も入っています。客単価とは別の数字です

数字を使う側にとって、調査の数字は「出典と範囲がセット」だと考えておくと、読み違いはかなり減ります。出典を書いて、分野数を書いて、見込みか確定かを書く。この3点を資料の脚注に残しておけば、半年後に自分で読み返したときも、同じ数字を同じ意味で読めます。

まとめ

  • 矢野経済研究所のブライダル関連市場は、2025年版が6分野で2024年1兆8,448億円、2026年版が5分野で2025年1兆5,786億円。どちらも前年比99.9%で、横ばいです
  • 同じ2024年を5分野で逆算すると約1兆5,800億円で、6分野との差は約2,600億円(約14%)。分野の数の違いと、見込みの更新が混ざっています
  • 2019年比76.3%は6分野の比較です。5分野の数字を6分野の2019年で割った65%台は、範囲の違う数字どうしの比で、使えません
  • 市場規模は事業者売上高ベースで、ジュエリー、新婚旅行、結納、結婚相談所も入っています。式場の売上ではなく、婚姻数で割った323万円も、式場の客単価ではありません
  • 資料に使うときは、出典、分野数、見込みか確定かの3点を脚注に残します。前年比は同じ範囲の中でだけ使います
  • 自社の計画は、市場規模ではなく、商圏の婚姻数 × 実施率 × 平均費用から組み立てるほうが、現場の数字に近づきます