式場の担当指名は成約率でなく待たせる日数で受け方を決める
見学の予約フォームや電話で、こう言われることがあります。「ホームページに載っていた、あのプランナーさんにお願いしたいです」。
式場側は、うれしい反面、困ります。その担当の次の空きは9日後かもしれない。別の担当なら明後日に入れる。指名を受けるか、断るか、それとも待ってもらうか。現場の判断に任されて、日によって対応が変わっている式場は少なくないと思います。
僕の考えは、指名を受けるかどうかを「その担当の成約率が高いか」で決めないほうがいい、というものです。決める材料は、二人を何日待たせるかです。待たせる日数に上限を決めておけば、指名は「断る・断らない」の問題ではなくなります。
この記事では、指名を受けたときに何が起きるのかを整理して、仮の数字で待たせてよい日数の上限を計算し、その上限を超えたときに渡す代わりの案を書きます。出てくる数字はすべて、説明のために僕が置いた仮の前提です。調査から引いた数字ではありません。自分の式場の数字に置き換えて使ってください。
指名してくる二人は、何を求めているのか
まず、指名の中身を二つに分けておきます。
一つは、その担当に会いたい、という指名です。公式サイトのプランナー紹介、インスタグラムの投稿、口コミ、友人の紹介で、その人の名前を知った二人です。この二人が求めているのは、特定の人との相性への期待です。
もう一つは、相談しやすい人にお願いしたい、という指名です。名前までは決めていないけれど、「若い方がいい」「子育てを経験している方がいい」「親が同席するので落ち着いた方がいい」といった希望を持っている二人です。形としては指名ですが、実際には条件の希望に近いものです。
この二つは、断り方も、代わりの出し方も違います。前者は「その人」でなければ満足しにくく、後者は条件が合う別の担当を出せば収まることが多いです。フォームの指名欄や電話の第一声だけでは見分けがつかないので、受け方の最初の一手は、「どんなところで、その方にお願いしたいと思われましたか」と一問聞くことになります。
この問いは、指名の理由を聞き出すためだけでなく、二人の関心を式場側が知る入口にもなります。「投稿を見て、赤ちゃんがいても式を挙げたと書いてあったので」と返ってくれば、二人が気にしているのは担当の名前ではなく、子連れでの進め方だと分かります。
待たせると何が起きるのか
指名を受けたときの問題は、待ち時間です。指名先の担当に空きがない日は、そのまま二人の待ち時間になります。
待っている間、二人は止まっているわけではありません。結婚式場を探している二人は、並行して他の式場にも問い合わせて、見学の予定を入れています。待たされた1日ごとに、他の式場で先に見学を済ませて、そこで気持ちが固まる確率が上がります。
もちろん、これは式場や地域によって違います。1日待たされたら何%が離れるのかを、僕は公開された調査で確かめられていません。そこで、仮に置いて計算します。
仮の前提:
- 見学を待たされた二人は、1日あたり1.5%ずつ、見学に来なくなる(他で決まる、気持ちが冷める、日程が合わなくなる)
- 月に20組の指名希望が来る
- 指名を受けて待たせた場合、来館後の成約率は35%(会いたい担当に会えたので、少し高いと置く)
- 空いている別の担当に回した場合、来館後の成約率は30%
- 指名先の担当の空きは9日後、別の担当なら2日後
この前提で、見学に実際に来る二人と、そこから生まれる成約を計算します(計算は Python で行いました)。
- 指名を受けて9日待たせる:20組のうち約17.5組が来館し、成約は約6.1組
- 別の担当で2日後に入れる:約19.4組が来館し、成約は約5.8組
この仮の数字だと、9日待たせても、まだ指名を受けたほうが成約は多く残ります。成約率の差(35%と30%)が、待たせる分の離脱を上回っているからです。
では、待ち時間がもっと長くなったらどうでしょうか。同じ前提で、待ち日数だけを変えて、20組あたりの成約を比べます。
- 5日待たせる:来館約18.5組、成約約6.5組
- 9日待たせる:来館約17.5組、成約約6.1組
- 14日待たせる:来館約16.2組、成約約5.7組
14日まで待たせると、別の担当に2日後で入れた場合の約5.8組とほぼ並びます。つまり、この仮の前提では、待たせてよい日数の上限は、おおよそ2週間手前です。
大切なのは、この「2週間」という数字そのものではありません。大切なのは、上限が計算で出せることです。式場ごとに、指名先で成約が高くなる差と、1日あたりの離脱の見立てを置けば、自分の上限が出ます。
上限の出し方:二つの数字だけで足りる
この計算に必要なのは、自分の式場で実際に測れる二つの数字だけです。
一つめは、指名で入った見学と、そうでない見学の成約率の差です。いまの予約管理に「指名あり/なし」の項目がなければ、フォームに一つ足して、数か月貯めます。数が少ないうちは、差が誤差かもしれないので、決めつけないことです。仮に月に5組しか指名がないなら、半年で30組。30組の成約率の差は、数ポイント程度なら誤差の範囲だと考えたほうが安全です。
二つめは、待たされた二人が来館しなくなる割合です。これは、見学予約を入れてから来館までの日数と、予約後のキャンセル・無断欠席の割合を見れば、おおよそ測れます。日数が長い予約ほどキャンセルが多いなら、その傾きが1日あたりの離脱の見立てになります。
どちらも測れていないうちは、保守的に決めるのがいいと思います。僕なら、最初の上限を「1週間」にして、指名で来た人の成約率が目に見えて高いと分かってから、延ばします。理由は、待たせる日数が長いほど、離脱は見えないところで起きるからです。来なかった二人は、式場側の記録に残りません。
上限を超えたときに渡す、三つの代わりの案
指名先の空きが上限を超えるときは、断るのではなく、代わりの案を出します。ここで「その担当は忙しいので、別の者が担当します」とだけ返すと、指名してきた二人は断られたと受け取ります。
次の三つを、順に出します。
**一つめ。最初の見学だけ別の担当にして、契約前の相談を指名先に任せる。**見学の予約が遅れることが二人の離脱の原因なので、まず見学を早く入れます。そのうえで、「見学のあと、お打ち合わせはご希望の担当が入ります」と伝えます。二人は、会いたい人に会う約束を持ったまま、他の式場に流れずに済みます。
**二つめ。指名先の担当に、短い時間だけ顔を出してもらう。**見学の最後の10〜15分だけ、指名先の担当が挨拶に入る形です。担当の予定が丸一日空いていなくても、15分なら作れる日があります。二人にとっては、会いたい人に会えた事実が残ります。
**三つめ。条件が合う別の担当を、理由つきで出す。**最初の質問で聞いた理由に合わせて、「お子さん連れの進め方なら、同じ経験のある〇〇もご紹介できます」のように、指名の理由に合った別の担当を出します。名前ではなく条件の希望だった二人は、これで収まることが多いです。
逆に、やらないほうがいいのは、指名を無視して、空いている担当を黙って入れることです。見学の当日に別の人が出てきて、二人が「あれ、違う」と感じる。この種の不信は、見学中に取り戻すのが難しいです。
担当の側にも、決めておくことがある
指名の受け方は、予約を受ける側だけで決まりません。担当の側に、次の三つを決めておく必要があります。
- 指名を受ける上限の組数:1人の担当が、月に何組まで指名を受けるか。上限がないと、指名の多い担当に予約が集中して、待ち日数が伸びていきます。上限に届いたら、その月はプランナー紹介のページに「今月の見学枠は埋まりました」と出す、という手もあります
- 休みの日の扱い:担当の定休日と、見学枠の曜日が合わないと、土日しか動けない二人が長く待たされます。指名が多い担当ほど、土日の見学枠を先に押さえておきます
- 引き継ぎのルール:最初の見学を別の担当が受けたとき、聞いた内容(二人の優先順位、予算、同席者)を指名先にどう渡すか。ここが抜けると、二人は同じ話を二度させられます。渡す項目は、予算の目安、譲れない1点、決めたい時期の三つだけで足ります
指名が多い担当を作ること自体は、悪いことではありません。ただ、その担当の予定が詰まるほど、二人を待たせる確率が上がります。「人気の担当がいる」ことを強みとして生かすには、待たせる日数の上限と、代わりの案を先に用意しておく必要があります。
公式サイトのプランナー紹介との関係
指名が来るのは、多くの場合、プランナーの紹介を載せているからです。紹介ページで担当の顔や言葉を出せば、指名は増えます。それは悪いことではありません。
ただ、紹介ページに「ご希望の担当を指名できます」とだけ書くと、全員が指名できるように読めます。実際には空きがなければ待ってもらうので、約束と実態がずれます。おすすめしたいのは、紹介ページに次のように一文を足すことです。
担当のご希望は、見学のご予約時にお知らせください。空きの状況によって、最初の見学は別の担当が伺い、そのあとのお打ち合わせを、ご希望の担当が受け持つ場合があります。
この一文があれば、指名できないときに、断られた感じではなく、最初から説明された運用として受け止めてもらえます。
数字が足りない式場が、最初にやること
指名の記録も、待ち日数の記録も、まだない式場がほとんどだと思います。その場合は、次の順で始めます。
- 見学予約のフォームと電話受付に、「担当のご希望」の欄を足す。ただし、必須にしない。必須にすると、希望がない二人に余計な手間をかける
- 予約管理に、指名の有無と、予約日から来館日までの日数を記録する
- 3か月貯めて、指名ありの見学と、なしの見学の成約率を並べる。件数が少なければ、結論を急がず、さらに3か月貯める
- 待たせる日数の上限を、まず1週間で運用する。成約率の差が、数ポイントを超えて出てきたら、上限を延ばす
最初の3か月は、売上に直結する改善ではありません。ただ、指名を受けるかどうかを、毎回の気分ではなく、数字で決められるようになります。それが、この記事で一番言いたいことです。
まとめ
- 指名には、「その人に会いたい」ものと、「条件が合う人に頼みたい」ものがある。まず「どんなところで、お願いしたいと思われましたか」と一問聞く
- 指名を受けるかどうかは、担当の成約率ではなく、二人を何日待たせるかで決める
- 仮の前提(1日1.5%の離脱、指名35%・非指名30%の成約率)では、待たせてよい上限は2週間手前。ただしこれは仮の数字で、自分の式場の二つの数字(成約率の差と、待たされた二人の離脱)で置き換える
- 上限を超えるなら、断らずに、最初の見学だけ別の担当にする、指名先が15分だけ顔を出す、条件が合う担当を理由つきで出す、のどれかを渡す
- 黙って別の担当を入れるのが、いちばん信用を落とす
- 計測が無いうちは、上限を1週間にして、指名の有無と来館までの日数を記録することから始める
