式場の会場を360度で見せるなら、来館が減っても成約数で判断する
会場を360度ビューや動画で、見学の前に見せるかどうか。式場の社長や支配人が迷うところです。見せれば、写真で伝わりにくい広さや天井の高さが伝わります。一方で、見せすぎると「もう分かったから行かなくていい」と、来館そのものが減りそうです。
僕は、この判断で見る数字を来館数にしないほうがよいと考えています。見るのは成約数で、そのうえで、見学の枠が埋まっているかどうかが分かれ目になります。枠が埋まっている時期の式場には効き、枠が余っている時期の式場には少し損になる、というのが、仮の前提で計算したときの形でした。
この記事の数字は、僕が置いた仮の前提です。実在の式場の実績ではありません。計算の形を借りて、自社の数字に置き換えてください。
先に結論です。
- 360度ビューで来館が減るのは、成約しにくい二人が先に降りるからです。減ること自体は、悪いとは限りません
- 見学の枠が足りない時期は、確度の低い二人が抜けた枠を、確度の高い二人が使えて、成約数が増えます
- 枠が余っている時期は、来館が減った分だけ、成約もわずかに減ります
- 導入前に、枠の埋まり方、見学1組の対応時間、見学前の問い合わせの中身を数えれば、判断できます
見学の前に見せると、誰が来なくなるか
会場を詳しく見せたとき、来館しなくなる二人は、2種類に分かれると考えています。
1つは、見て「ここは違う」と分かる二人です。希望の人数が入らない、雰囲気が好みと違う、天井や窓の見え方が思っていたものと違う、といった理由です。この二人は、来館しても成約しない可能性が高く、先に降りてもらったほうが、双方にとって時間の節約になります。
もう1つは、見て「ここでよさそう」と感じ、来館の動機が薄れる二人です。見に行かなくても分かった、と思う二人です。こちらは、来館していれば成約したかもしれない層です。
360度ビューの効果を考えるとき、この2種類のどちらが多いかで、損得は変わります。式場の条件が分かりやすい式場、たとえば収容人数に上限がはっきりある式場では、1つ目の層が多くなるはずです。逆に、空気感や接客で決まる式場では、2つ目の層が出やすいと見ています。
ここは数字ではなく、仕組みからの推測です。自社がどちらに寄るかは、導入前の見学のアンケートや、断られた理由の記録で見当をつけられます。
計算の前提を置く
次の前提でモデル計算をします。数字はすべて仮置きです。
- 見学の枠は、月30組まで受けられる(見学の担当者の人数と時間で決まる)
- 見学を希望する二人(需要)が、時期によって月24組、30組、40組と変わる
- 見学に来た二人全体の成約率は40%
- 需要のうち2割は、会場を見れば降りる確度の低い二人で、来館しても成約率は10%
- 残りの8割の成約率は、全体の40%から逆算して47.5%
- 360度ビューを出すと、確度の低い二人のうち、5割または8割が来館しなくなる
「5割または8割」と幅を持たせたのは、ビューで降りる二人がどのくらいかが、導入前には誰にも分からないからです。
見学の枠が足りないときは、希望した二人から、受付順など無作為に枠を埋めていくと置きます。確度の高い二人を、式場側が選び分けているわけではありません。
計算結果
Python で計算した、月の成約数の変化です。
| 月の需要 | 360度なし | 降りる二人が5割 | 降りる二人が8割 |
|---|---|---|---|
| 40組(枠30組が不足) | 12.0組 | 13.0組(+1.0) | 13.7組(+1.7) |
| 30組(枠ちょうど) | 12.0組 | 11.7組(−0.3) | 11.5組(−0.5) |
| 24組(枠に余裕) | 9.6組 | 9.4組(−0.2) | 9.2組(−0.4) |
読み方はこうです。
需要が40組の月は、枠の30組しか見学できません。360度なしでは、確度の低い二人も枠を使います。ビューで低確度の二人が降りると、同じ30組の枠に確度の高い二人が多く入るので、成約が月に1〜1.7組増えます。
需要が枠とちょうど同じ30組の月は、わずかに成約が減ります。枠に余裕があり、降りた二人の枠を埋める新しい二人がいないからです。
需要が24組で枠に余裕がある月は、減る数も小さいですが、確実にマイナスです。降りた二人は、わずかとはいえ成約する可能性を持っていたからです。
つまり、同じ360度ビューでも、枠が足りない時期は得で、枠が余る時期は小さく損です。年間でならすと、枠が不足する月がどれだけあるかで、合計の損得が決まります。
この計算が見ていないもの
この表は単純にするため、いくつかの効果を入れていません。入れていないものを、あらかじめ書いておきます。
- 遠方や忙しくて来館できない二人:ビューを見て初めて検討の候補に入る二人が、新たに問い合わせてくる効果。これは成約数を増やす方向に働きます
- 見学1組にかかる対応の手間:降りた二人の分の担当者の時間が空き、ほかの二人の見学や追客に回せる効果。これも増やす方向です
- 制作と更新の費用:撮影と掲載にかかる費用や、改装したときの撮り直し。これは減らす方向です
- ビューを見て期待が上がり、来館で落胆する二人:見せ方が盛りすぎなら、来館後の成約率が下がる方向です
どの効果も、自社の数字で確かめるまで大きさは分かりません。ただ、入れていない効果のうち、遠方や来館できない二人の問い合わせは、見落とされやすいところです。ビューを見せる目的を「来館の前に迷いを減らす」だけにすると、この効果を取りこぼします。
導入前に数える3つの数字
計算が当てはまるかどうかは、自社の3つの数字で決まります。いずれも、導入前に数えられます。
1. 枠が足りない月が、年に何か月あるか
見学の予約が、希望日に取れず断った、または別の日に回した件数を、月ごとに数えます。予約システムに「満枠」の記録があれば、それを使います。記録がなければ、予約の空き枠が週末に何割埋まっているかを、1年分見ます。
月の半分以上で、人気の曜日や時間帯が埋まっているなら、枠が足りない側です。ほとんどの週末に空きがあるなら、余る側です。
2. 見学の成約率に、ばらつきがあるか
見学に来た二人の成約率を、来館の理由や条件別に分けて見ます。たとえば、希望の人数、予算、挙式の時期、何軒目か。成約率の低い層が、はっきり存在するかどうかを確かめます。
どの層も成約率が似ているなら、ビューで降りる二人を選び分ける効果は小さく、来館が減る分がそのまま成約の減少になります。
3. 見学前の問い合わせで、会場の見た目を聞く声がどれだけあるか
問い合わせの文面や電話で、「広さはどのくらいですか」「写真より狭くないですか」といった、見た目を確かめる声がどのくらいあるかを数えます。この声が多い式場は、見学前に不安が出る式場で、ビューが役に立つ可能性が高いです。
少ないなら、ビューで降りる二人は少なく、遠方の二人を増やす効果のほうが主役になります。
見せ方で、降りる二人の質が変わる
同じ360度ビューでも、見せ方で降りる二人が変わります。
- 全体を見せる:広さ、天井の高さ、窓の位置など、条件で決まる情報が伝わります。条件が合わない二人は降りやすくなります
- 全部は見せない:入口、受付、控室、チャペルの入口など、一部を見せて、中の演出や料理は来館で見てもらう形にします。降りる二人が少なくなり、ビューは見学前の不安を減らす役目に絞られます
どちらが正しいかは、先に出した3つの数字で決めます。枠が足りない式場は全体を見せる、枠が余る式場は一部を見せて来館を促す、という使い分けが、計算の結果と合います。
導入するときの注意
導入の前に、次のことも確認します。
- 撮影の時点を明記する:改装や模様替えのたびに、見た目が変わります。撮影した季節と時期を添えて、古い情報にならないようにします。写真に撮影した季節を添える話は、別の記事でも書きました
- 混雑時の写真を使わない:装飾が入った状態だけを見せると、普段の状態を見たときに落胆が起きます。装飾が入った例と、何も入っていない状態の両方を見せます
- 見学予約の導線をビューの近くに置く:ビューで関心が上がった二人が、すぐ予約できるようにします。予約ボタンが遠いと、関心が冷めてしまいます
- 効果の測り方を決める:導入の前後で、見学予約数、見学の成約率、公式サイト経由の問い合わせ数を、同じ月数ぶん並べて見ます。1か月の差で判断せず、季節の波を考えて前年の同じ時期とも比べます
実際にやる順番
作業の順番を書き出します。
- 直近1年の月ごとの見学予約数、断った件数、満枠の日数を並べる
- 枠が足りない月が何か月あるか数える
- 見学の成約率を、来館の理由や条件別に分ける
- 見学前の問い合わせで、見た目を確かめる声を数える
- 上の計算の形に、自社の数字を入れて、月ごとの成約の変化を出す
- 枠が足りない月が多ければ全体を、少なければ一部を見せる形で、ビューを作る
- 導入後、見学予約数と成約数を、前年同月とあわせて3か月以上見る
5までは、1日で終わります。6の撮影の費用は、業者に見積もりを取って、成約1組分の粗利と比べます。1組の粗利が大きい業種なので、月に1組も増えない見込みなら、導入の費用は短い期間で回収できます。逆に、増える見込みがほとんど無い式場では、費用をかけないほうが安全です。
まとめ
- 360度ビューで来館が減るのは、確度の低い二人が先に降りるからです。来館数ではなく成約数で判断します
- 仮の前提では、見学の枠が足りない月は成約が月に1〜1.7組増え、枠が余る月はわずかに減りました
- 計算に入れていない効果があります。遠方や来館できない二人の問い合わせ、担当者の時間、制作費、期待が上がりすぎることによる落胆です
- 導入前に、枠が足りない月の数、見学の成約率のばらつき、見た目を確かめる問い合わせの声を数えます
- 枠が足りない式場は全体を、枠が余る式場は一部を見せる形が合います
- 導入後は、見学予約数と成約数を、前年同月と並べて3か月以上見ます
