サイトを見て帰った二人に広告を出し直す手間は、仮の式場で月2万円。使える予算は月1万円が天井で、増えた来館が1.3%あれば元が取れる
公式サイトを見て、フェアの予約フォームまで開いたのに、そのまま閉じて帰った二人がいます。その二人にもう一度広告を見せる仕組みが、再訪広告(リターゲティング、リマーケティングとも呼ばれます)です。結婚式場でも「やったほうがいいですか」と聞かれることが増えました。
結論を先に書きます。年間の話ではなく月の話にして、仮の式場で計算しました。広告が届く二人は月に1,100人ほど。この人数に出せる広告費は、どれだけ頑張っても月1万円前後で頭打ちになります。運用の手間を月3時間と見ても、かかるお金は月2万円ほどです。そのうえで、再訪広告をきっかけに増えた来館が、全体のうち1.3%あれば元が取れます。
ここまで読むと「安いのでやればいい」と思うかもしれません。ただ、僕が気にしているのは費用ではなく、広告を見せる相手の線の引き方です。すでに予約した二人、契約した二人に広告を出し続けると、お金も無駄になりますし、相手の受け取り方も悪くなります。除外の設定が、この施策の中身の大半です。
この記事の数字は、Googleの最低人数の条件を除いて、すべて僕が置いた仮のものです。サイトの訪問者数も、広告のクリック率も、自分の会場の管理画面の数字に置き換えて読んでください。
先に押さえる条件。広告に使えるリストは、30日で100人から
再訪広告は、サイトを見た人を管理画面の中で「リスト」にまとめて、そのリストに向けて広告を出します。このリストには、最低人数の条件があります。
Search Engine Landの報道によると、Googleは2025年に、広告の対象にできるオーディエンスの最低人数を引き下げました。検索、ディスプレイ、YouTubeのどの広告でも、過去30日間で100人のアクティブなユーザーがいれば使える、という内容です。それまでは検索広告で1,000人が必要で、ディスプレイ広告は100人でした。この条件は変わることがあるので、実際の数字は管理画面のオーディエンスの欄で確認してください。僕が確かめたのは報道までで、公式ヘルプの原文は読んでいません。
この100人が、小さな会場には意味を持ちます。1日の訪問者が3人から4人しかいない会場では、30日たっても100人に届かず、リストが配信対象にならないことがあるからです。再訪広告を考える前に、まず管理画面で自分のサイトの30日の訪問者数を見る。ここが最初の関門になります。
以降の計算では、これを満たす中規模の会場を置きます。
仮の式場を置く。月の訪問者2,400人、予約は6%
計算のために、1つの会場を置きます。数字はすべて仮です。
- 公式サイトの訪問者は、月に2,400人(1日80人ほど)
- そのうち、フェアや見学の予約まで進む人は6%。144人です
- 来館した二人のうち、成約するのは30%
- 成約1組の粗利は140万円
- 広告の管理画面で、予約完了のページを見た人は、リストから除外できる
最後の2つから、来館1組の期待粗利が出ます。30%に140万円を掛けて、42万円です。来館が1組増えると、平均で42万円分の粗利が見込める、という意味になります。成約するのは3割なので、必ず入る額ではなく、平均の見込みです。
予約に進まなかった二人は、2,400人から144人を引いて、2,256人。この人たちが、再訪広告の元になる「サイトを見て帰った二人」です。
広告が届く人は、そのうち半分ほど
2,256人全員に広告が届くわけではありません。ブラウザの設定でCookieを受け付けない人、スマホとパソコンで別の人として数えられる人、広告を見る前に離れてしまう人がいます。どれくらい届くかは、媒体や端末で大きく変わります。僕はこの割合を示す調査を確認していないので、ここでは半分と置きます。
2,256人の半分で、1,128人。これが、広告が実際に届く二人の数です。月に1,100人ほど、と冒頭で書いたのはこの数字です。
なお、この半分という置き方は、結果を左右します。届く割合が3割なら、1,128人は680人になり、あとの計算も同じ割合で縮みます。自分の会場で置き換えるときに、いちばん最初に確かめたい数字です。管理画面のリストの人数が、そのまま上限の目安になります。
使える予算には天井がある。届く人が少ないから
ここで、再訪広告に独特の事情が出てきます。通常の検索広告は、予算を増やせば新しい人にどんどん届けられます。再訪広告は、届ける相手が1,128人と決まっています。予算を増やすと、新しい人ではなく、同じ人に何度も見せることになります。
仮に、1,128人それぞれに月20回、広告を見せるとします。表示は延べ22,560回です。表示1,000回あたりの費用(CPM)を500円とすると、広告費は22,560回に500円を掛けて1,000で割った、約1.1万円。
では、月10万円の予算を入れたらどうなるか。同じ計算を逆にすると、1,128人それぞれに月177回ほど、広告を見せることになります。1日に6回弱です。結婚式場を検討している二人が、1日に6回、同じ式場の広告を見る。さすがに、これは費用の無駄というより、感じが悪くなる側の問題です。
だから、この仮の式場では、再訪広告に使える予算は月1万円前後。それ以上を入れたいなら、リストの人数を増やす(サイトに来る人を増やす)ほうが先です。
| 1人に見せる回数(月) | 延べ表示 | 広告費(CPM500円) |
|---|---|---|
| 10回 | 11,280回 | 約0.6万円 |
| 20回 | 22,560回 | 約1.1万円 |
| 40回 | 45,120回 | 約2.3万円 |
40回なら1日1回強です。上限の目安は、このあたりに置くのが妥当だと僕は考えています。この線も、僕が置いたものです。
クリックと予約の数字を置く
20回見せた場合(広告費1.1万円)を基準にして、そこからの流れを置きます。
- 広告のクリック率は0.4%。22,560回の表示で、クリックは約90回
- クリック単価は、1.1万円を90回で割って、約125円
- クリックした人が、改めて予約する割合は5%。予約は約4.5件
- 予約した人が実際に来館する割合は80%。来館は約3.6組
ここまでで、再訪広告から来館に至った数字が出ました。月に3.6組です。1組42万円で見ると、150万円ほどの期待粗利です。「広告から来館が3.6組入った」という報告を受けたら、これは大成功に見えます。
ここが落とし穴です。この3.6組は、広告を見なかったとしても、自分でサイトに戻ってきた二人かもしれません。結婚式場を探している二人は、いったんサイトを閉じても、数日以内にまた開くことが多いと、現場ではよく聞きます。ただ、その割合を示す調査は確認していません。広告の管理画面は「広告を見たあとに予約した」人を成果として数えるので、広告がなくても予約した人も、成果に入ってしまいます。
損益の見方は、増えた来館が何%あれば元が取れるか
そこで、見る数字を変えます。3.6組のうち、広告がなければ来なかった二人(増えた来館)が何%いれば、かかった費用を取り戻せるか。この割合を損益分岐の増加率と呼ぶことにします。
かかる費用を置きます。
- 広告費は月1.1万円
- 運用の手間は、月に3時間。除外リストの更新、広告の差し替え、数字の確認で、時給3,000円とすると0.9万円
- 合計は月2.0万円
月2.0万円を、来館1組の期待粗利42万円で割ります。0.048組。つまり、月に0.05組ほど、広告のおかげで来館が増えれば、元が取れます。
3.6組のうち0.048組は、1.3%です。これが、冒頭で書いた1.3%の中身です。
増えた来館が何%かによって、粗利は次のように動きます。
| 増えた来館の割合 | 増えた来館(月) | 期待粗利(月) | 費用2.0万円との差 |
|---|---|---|---|
| 1.3% | 0.05組 | 2.0万円 | 0円 |
| 5% | 0.18組 | 7.6万円 | +5.6万円 |
| 10% | 0.36組 | 15.2万円 | +13.2万円 |
| 20% | 0.72組 | 30.3万円 | +28.3万円 |
| 30% | 1.08組 | 45.5万円 | +43.5万円 |
どの行も黒字です。ここまで条件が緩いのは、費用が小さいからです。月に0.05組、つまり20か月に1組ぶん来館が増えれば合います。これは、別の見方をすれば、再訪広告で大きく儲かるわけではなく、損をしにくい施策だという意味でもあります。増えた来館が20%でも、月に0.72組。最大でも月に1組強しか動きません。
この数字を、僕は次のように読みます。やる、やらないで悩む施策ではありません。悩みどころは、やり方で損が出る場所に集まっています。
損が出るのは、除外を設定しないとき
再訪広告で損をする(正確には、相手に嫌がられる)のは、次の3つの場面です。
すでに予約した二人に出し続ける
フェアを予約した二人が、そのあともサイトを見た人として広告を見続けると、「もう予約したのに」という広告が追いかけてくることになります。予約完了のページを見た人は、リストから外します。管理画面で、予約完了ページを見た人をまとめた「除外リスト」を作り、広告のグループに設定する。この1つで、無駄な表示の大半が消えます。
予約完了ページが、フォームの外部サービスにあって計測できない場合は、別の手が要ります。予約完了後に自動で表示するサンクスページを自サイト内に置き、そこを計測の対象にする。これが難しい場合は、再訪広告そのものを見送る判断も、僕はあり得ると考えています。除外できないまま始めると、契約した二人にも広告が出ます。
来館した二人、契約した二人に出し続ける
予約の除外だけでは足りません。来館したあとの二人は、サイトを見ていなくても、前に作ったリストにまだ残っていることがあります。リストに入れておく期間(メンバーシップの期間)を短くしておくと、この問題が小さくなります。検討の期間は二人によって違うので、まずは30日にしておき、数字を見ながら延ばすか縮めるかを決める。
契約した二人の名前やメールアドレスを使って除外する方法もありますが、個人情報の扱いの手続きが要ります。サイトの閲覧ベースの除外で足りるかを先に見て、そこで足りなければ、はじめて検討する順番にします。
同じ二人に回数を見せすぎる
さきほどの表のとおり、予算は少ないのに、回数だけが増えがちです。管理画面で、1人あたりの表示回数の上限(フリークエンシーキャップ)を、1日に1回から2回、月に20回から30回に設定します。この設定がないと、予算の消化を優先して、リストの小さな人たちに同じ広告が何度も出ます。
見せる広告に書くこと
広告の中身にも、決めておくことがあります。
- 値引きや特典で追わない。「今月中の来館で特典」のような期限つきの文面は、景品表示法の問題が出やすい上に、毎月同じ特典を出し続けると、期限の意味が消えます
- 二人がすでに見たページに合わせて内容を変える。料金のページを見て帰った二人には、見積もりの見方を、会場のページを見て帰った二人には、会場の別の写真を、という具合です
- 「もう一度見てください」と呼びかけるより、前回の閲覧で知りたかったはずの情報を1つ足す
この3つ目は、僕が有効だと確かめたわけではなく、設計の考え方です。小さく試して、クリック率で比べるのがよいと思います。
自分の会場で試す手順
仮の式場の数字を、自分の会場の数字に置き換える手順を書きます。順番はこの通りです。
- サイトの30日の訪問者数を見る。100人に届かなければ、ここでやめる
- 予約完了のページが、自サイトの中で計測できるかを確認する。できなければ、先にそこを直す
- 管理画面で、サイトを見た人のリストと、予約完了ページを見た人の除外リストを作る
- メンバーシップの期間を30日にする
- 1人あたりの表示回数の上限を、1日2回、月30回あたりに置く
- 予算は、リストの人数に月20回を掛けて、CPMで割った額に抑える
- 3か月たったら、広告を見た人と見ていない人で、予約率の差を比べる
7番が、いちばん重要です。広告を見た人の予約率が、見なかった人より高いかを見ます。ただし、広告を見る人は元々サイトに熱心な人なので、単純に比べると広告のおかげに見えすぎます。本当に増えた来館を知るには、リストの一部に意図的に広告を出さない群(コントロール群)を作る必要があります。月2万円の施策のためにここまでやるかは、判断が分かれます。僕は、規模の小さい会場では、3か月の予約数の推移を前年と比べる程度で十分だと考えています。
再訪広告の代わりに、できること
再訪広告の対象は、サイトを見て帰った二人のうち、連絡先を残していない二人です。連絡先を残してくれた二人には、広告ではなく、LINEやメールで直接返事ができます。そちらのほうが費用もかからず、内容も細かく変えられます。
だから、順番は次のようになります。
- 連絡先を残した二人への、返信と追客を整える
- 連絡先を残さなかった二人にだけ、再訪広告を出す
2を先にやると、1の二人に二重で連絡が行くことになりかねません。1の二人もリストに入ったままなら、除外しておく。ここも、除外の設定の話です。
まとめ
- 再訪広告に使うリストは、過去30日で100人の訪問者がいれば配信できるとGoogleは条件を下げました(Search Engine Landの報道、2025年)。30日の訪問者が100人に届かない会場は、先にサイトに来る人を増やす段階にあります
- 仮の式場(月の訪問者2,400人)では、広告が届く二人は月に1,100人ほど。1人に月20回見せて、使える広告費は月1.1万円前後で頭打ちになります
- 運用の手間を入れた費用は月2万円。増えた来館が、広告を見て来館した3.6組のうち1.3%あれば元が取れます
- 広告の管理画面の「広告を見たあとの予約」には、広告がなくても来た二人が入っています。見る数字は、増えた来館が何%かです
- 損が出る場所は、予算ではなく除外にあります。予約した二人、来館した二人、契約した二人に出し続けない設定と、表示回数の上限が、この施策の中身です
- 連絡先を残した二人には、広告より先に、LINEやメールで返す
