台風が挙式日に近づいたとき、延期を打診するのは何日前か。仮の式場では、荒れる確率が5割を超えるかどうかで、年90万円の差になる
土曜日の挙式まで、あと3日。台風が発生して、予報円の端に会場のある県がかかっている。料理長は「仕込みを始めていいか」と聞いてくるし、プランナーは「二人に何と伝えますか」と聞いてくる。ここで決める人も、決める基準も、実は決まっていない式場は少なくないと思います。
結論から書きます。台風が近づいたとき、延期を早く打診するか、前日まで待つかは、その日が実際に荒れる確率が約5割かどうかで分かれます。仮の式場の数字で計算すると、荒れる確率が4割なら前日まで待ったほうが年16万円ぶん安く、6割なら早く打診したほうが年21万円ぶん安い。5割のあたりでは、どちらを選んでもほぼ同じです。つまり、金額で迷う場面はほとんど無くて、迷うのは「いま、荒れる確率を何割と見ているか」を誰も口にしていないことのほうです。
この記事の費用の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。台風の数だけは気象庁の平年値を使い、それ以外の調査の数字は使っていません。粗利、食材の原価、延期の手間は、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。置き換える場所は、途中で何度か書きます。
台風は年に何回、挙式日に近づくのか
まず台風そのものの数です。気象庁の平年値(1991〜2020年の30年平均)では、台風は年に25.1個発生し、日本に接近するのが11.7個、上陸するのが3.0個です。気象庁の定義では、台風の中心が全国のいずれかの気象官署から300キロ以内に入ることを接近と数えます。300キロといえば、東京から名古屋あたりまでの距離です。接近の数え方はかなり広いので、11.7個のすべてが挙式を止めるわけではありません。
ここから先は、僕の仮置きです。年11.7個の接近のうち、自分の会場の県に実際に影響が出るのは、その一部です。さらに、その日が土日祝の挙式日に重なる確率は、週のうち土日祝が占める割合に近いと考えられます。仮に、挙式日に「3日前の時点で、予報円が会場のある県にかかっている」という状況が年に3日あるとします。この3日は、自分の会場で実際に数えられる数字です。過去の予約台帳と、当時の天気予報を並べれば、過去5年で何日あったかは分かります。ここが、置き換える最初の場所です。
もう1つの前提は、1日に何組入っているかです。年120組の式場で、挙式のある日が年80日くらいなら、平均は1日1.5組になります。3日 × 1.5組で、年に4.5組が「台風の影響を受けうる組」になります。年120組のうち3.75%。多くはありませんが、1組あたりの金額が大きいので、決め方のまずさは年間の数字に出ます。
仮の式場の前提
次の数字を置きます。
- 年間の挙式は120組
- 台風の影響を受けうる挙式日は年3日、1日平均1.5組で、年4.5組
- 1組の粗利は90万円
- 1組の料理・飲料の原価は30万円
- 延期した組の日取りを組み直す手間と、その日が空いたまま他の組が入らない機会損失で、1組あたり20万円(粗利の2割に、打合せ・連絡・再手配の人件費2万円を足したもの)
20万円の中身は、少し説明が要ります。台風を理由に延期された挙式は、別の日に移ります。その日が人気日で、もともと他の組を入れられたはずなら、粗利がまるごと消えることもあります。逆に、閑散期の平日に移るなら、機会損失はほぼ出ません。粗利の2割というのは、その中間に置いた仮の数字です。ここも自分の会場の数字に置き換える場所です。
2つの決め方
台風が近づいたとき、会場の側が選べる決め方は、大きく2つに分けられます。
1つ目は、3日前に延期を打診する方法です。予報円がかかっている時点で、すべての組に「延期か、予定どおりか」を選んでもらいます。費用は延期の手間だけで、食材はまだ発注していないか、発注していてもキャンセルが利く時期です。ただし、予報は外れます。結局その日は風が弱く、問題なく挙式できたはずの組にも、日取りの組み直しをさせてしまいます。これを、空振りと呼びます。
2つ目は、前日の午後まで待つ方法です。予報の精度が上がってから判断するので、空振りは少なくなります。そのかわり、荒れて延期になる日は、食材の仕込みが済んでいます。ここで出る損失が食材ロスです。仮に、延期になった組の原価30万円のうち、7割は戻らないとします。21万円です。肉や魚は仕入れたあとだと戻せません。ドリンクや日持ちのする食材なら、別の日に回せます。7割というのは、その混ざり具合の仮置きです。
この2つを、1組あたりの期待損失で比べます。その日が実際に荒れる確率をq(0〜1の数字)とします。
- 3日前に打診する場合:荒れても荒れなくても全員を延期するので、1組あたり20万円
- 前日まで待つ場合:荒れたときだけ延期になり、延期の手間20万円と食材ロス21万円の合計41万円がかかる。荒れなければ0円。期待損失は、q × 41万円
2つの損失が等しくなるのは、q × 41 = 20 のとき、つまりqが約0.49のときです。荒れる確率がそれより低ければ前日まで待ち、高ければ3日前に打診するのが安い。式はこれだけです。
荒れる確率ごとの年間の差
年4.5組に当てはめます。3日前に打診すると、荒れる確率にかかわらず、年4.5組 × 20万円で90万円です。前日まで待つ場合は、qによって変わります。
| 荒れる確率 | 前日まで待つ(年) | 3日前に打診(年) | 前日まで待つ側の差 |
|---|---|---|---|
| 2割 | 37万円 | 90万円 | 53万円安い |
| 3割 | 55万円 | 90万円 | 35万円安い |
| 4割 | 74万円 | 90万円 | 16万円安い |
| 5割 | 92万円 | 90万円 | 2万円高い |
| 6割 | 111万円 | 90万円 | 21万円高い |
| 8割 | 148万円 | 90万円 | 58万円高い |
見てほしいのは、差の幅です。確率が2割ずれると、年に50万円前後動きます。ここは、1年に台風が3日しか挙式日に重ならない仮の式場の話なので、金額としては小さい。ただ、確率の見立てが外れた年は、決め方1つで同じ年の損益が100万円単位で動く、と分かります。年に3日しかない場面だからこそ、毎回その場で考え直すより、基準を決めておいたほうが楽です。
分かれ目の位置は、数字しだいで動く
0.49という分かれ目は、僕が置いた数字から出た値です。他の数字を置くと動きます。粗利と原価を変えて確かめます。
- 食材ロスの割合を5割にすると(日持ちする食材が多い会場)、ロスは15万円、分かれ目は0.57。待つ側が有利になる範囲が広がる
- 食材ロスの割合を9割にすると(鮮魚や和牛など、仕入れたら戻せない料理が中心の会場)、ロスは27万円、分かれ目は0.43。早く打診するほうが有利になる範囲が広がる
- 延期の手間を、粗利の2割ではなく1割にすると(閑散期の平日に移せる会場)、手間は11万円、分かれ目は0.34。この場合、前日まで待つほうが有利になりにくい
- 逆に、人気日がほとんど埋まっていて、延期が粗利の3割に相当する会場なら、手間は29万円、分かれ目は0.58
最後の2つは、直感と逆に見えるかもしれません。延期の手間が重い会場ほど、空振りで全員に延期をお願いするコストが重くなります。だから、確率が高くないうちは待つほうが得になります。反対に、延期の手間が軽い会場は、空振りをあまり恐れなくていい。早めに打診して、確実に動かせます。
ここで、結論を2行にします。食材が戻せない会場は、早く打診する。日取りが組み直しにくい会場は、待つ。この2つが両方当てはまるなら、数字では決まらないので、次の「基準を決める」段取りが効いてきます。
荒れる確率を、会場で決めた数字に置き換える
「荒れる確率」を、会場の誰が、どうやって見積もるのか。ここが一番の悩みどころだと思います。天気予報の降水確率や、台風の予報円の大きさをそのまま確率として扱うのは危険です。予報円は「台風の中心が入る確率が約7割の範囲」を示すものなので、円の中に会場が入っていることと、荒れることは、イコールではありません。
そこで、確率ではなく、いくつかの条件で線を引く方法を考えます。たとえば、次のように決めておきます。
- 3日前の時点で、予報円の中心線が会場の県を通っている
- 当日、会場の県に暴風警報が出る見込み
- 当日、ゲストの半数以上が使う鉄道が、計画運休になる見込み
- 遠方から来るゲストが2割を超えている
この4つのうち、2つ以上がそろったら3日前に打診する。1つ以下なら前日の15時まで待つ。こう決めておくと、荒れる確率を口で見積もる必要がなくなります。数字は後から調整できます。大事なのは、決める人が、その場で悩まなくて済むことです。
鉄道の計画運休は、ゲストの移動に直接効きます。会場が営業できても、ゲストが来られなければ、挙式は成り立ちません。会場の気象条件より、交通機関の運休のほうが先に効く、という場面は十分にあります。
契約前に書いておくこと
延期か実施かの判断は、会場と二人のどちらがするのでしょうか。ここを契約書に書いていない式場が、実はいちばん多いのではないかと思います(これは僕の印象で、調べた数字ではありません)。当日になってから話し合いを始めると、時間が足りません。次の4つは、契約前に決めておきます。
- 判断する人。支配人か、料理長と相談したプランナーか。二人が希望を出せるのか
- 判断する時刻。たとえば、3日前の15時と、前日の15時の2回
- 延期の費用負担。会場の判断で延期するなら、二人に追加の費用を求めない。二人の希望で延期するなら、実費のみ
- 連絡の手段。二人とゲストに、誰がいつ、何で伝えるか
3つ目が特に大事です。会場の都合で延期になるのに、二人が料理の実費を負担すると、不信感が残ります。一方、二人が「怖いから延期したい」と言い出し、会場は実施できる状態なら、会場側にも食材の実費が出ます。ここをあいまいにしたまま当日を迎えると、どちらの場合も、二人と会場がもめる原因になります。
判断を早めるための、地味な工夫
早く打診する場合の損失は、延期の手間の20万円でした。この20万円は、段取りしだいで減らせます。
1つ目は、延期先の日をあらかじめ決めておくことです。台風シーズンの前に、「延期になったら、この日とこの日が使える」という候補日を2〜3つ、押さえておきます。人気日の仮押さえを1日や2日残しておくだけで、組み直しの打合せが1回で済みます。
2つ目は、食材の発注タイミングを、判断の時刻より後ろにずらすことです。前日まで待つ場合の損失は、仕込みが済んでいることから出ています。台風シーズン(8月〜10月)だけ、鮮魚や和牛を発注する時刻を、前日の15時の判断のあとにする。業者との取り決めが要りますが、ロスの割合を7割から5割に下げられれば、分かれ目は0.49から0.57に動きます。待てる範囲が広がります。
3つ目は、屋外の演出を雨天用に切り替えるルールを決めておくことです。ガーデンやテラスのある会場なら、「暴風警報が出たら屋内」という一本の線を引いておくだけで、延期まで行かずに済む組が増えます。
空振りの声に、どう答えるか
3日前に打診して、結局その日が晴れた、という年は必ず来ます。そのとき、二人に「やっぱり実施できたのに」と言われる可能性があります。これは、決め方が間違っていたのではなく、確率の選び方の結果です。
空振りを減らしたいなら、分かれ目より少し手前、確率が6〜7割あたりまで待ってから打診するほうが、空振りは減ります。ただ、前日までの猶予が短くなり、荒れたときの食材ロスは大きくなります。空振りと食材ロス、どちらをどのくらい許容するのかは、数字だけでは決まりません。式場の経営者が、年間の損益と、二人の記憶にどちらが残りやすいかを天秤にかけて、決める部分です。
ここまで読んで、自分の会場で一番最初にやることは、過去5年の台帳を見て、「3日前の予報円が会場の県にかかっていた挙式日」が何日あったかを数えることです。その日の実際の天気と、その日の判断を、横に並べて書きます。すると、会場の実際のqが見えてきます。
まとめ
- 気象庁の平年値(1991〜2020年)で、台風の接近は年11.7個、上陸は3.0個。接近の数え方は広く、すべてが挙式を止めるわけではない
- 年120組、挙式日に台風の影響を受けうるのが年3日・4.5組の仮の式場では、3日前に全組へ延期を打診すると年90万円
- 前日の15時まで待つと、荒れる確率が4割なら年74万円、6割なら年111万円。分かれ目は約5割
- 分かれ目は会場で動く。食材が戻せない会場は低く(0.43)、日取りが組み直しにくい会場は高く(0.58)なる
- 荒れる確率を口で見積もらず、予報円・暴風警報・計画運休・遠方ゲストの割合で線を引いておく
- 判断者、判断の時刻、延期の費用負担、連絡手段は、契約前に書いておく
- 延期先の候補日を押さえ、台風シーズンだけ食材の発注を後ろにずらせば、早く打診する損失も、待つ損失も小さくなる
