キャンセル料の段階表は、消費者契約法9条1号で「時期ごと」に点検される。仮の式場では、直前を100%にした表が3日前で15ポイント、1か月前で17ポイント超えた
結婚式のキャンセル料の表を、契約書の別紙に載せている式場は多いと思います。契約から半年前までは見積の10%、3か月前までは40%、直前は100%、というような段階の表です。この表は、裁判になったときに「全体で高いか」ではなく、「その時期の段で高いか」を見られます。僕はここが、表をつくるときにいちばん見落とされやすい点だと考えています。
結論から書きます。消費者契約法9条1号は、解約料の条項を「解除の事由、時期等の区分に応じて」見ます。区分ごとに、同じ種類の契約が解除されたときに事業者に生じる平均的な損害を超える部分が、無効になります。つまり、表の1行1行が点検の単位です。見積400万円の仮の式場で、時期ごとの損害を置いて段階表と並べると、直前の段だけでなく、1か月前の段が17.5ポイント、3日前の段が15ポイント、損害の見積りを上回りました。
先に断っておくと、この記事の数字のうち、裁判例と法律の条文以外はすべて僕の仮置きです。見積400万円、粗利が半分、再販売できる確率、発注済みの実費は、実在の式場の実績ではありません。また、僕は弁護士ではありません。法律の読み方は、公開されている資料から確かめられる範囲に留めています。自分の式場の表は、最後に書く順番で点検したうえで、必要なら専門家に見てもらってください。
9条1号は何を見るのか
条文の骨組みを、噛み砕いて書きます。消費者契約で、解除に伴う損害賠償の額を予定する条項や、違約金を定める条項があるとします。その額が、条項に設定された解除の事由、時期などの区分に応じて、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるときは、その超える部分が無効になります。
ここで、点検の仕方に関わる言葉が3つあります。
- 区分に応じて:表の段ごとに見る。全体の平均で見るのではない
- 同種の契約:この二人の個別の事情ではなく、同じような契約が解除されたときの平均で見る
- 超える部分が無効:条項全体が消えるのではなく、超えた部分だけが無効になる
3つ目は、実務では大事です。超えていても、表ごと吹き飛ぶわけではありません。ただ、超えた分は請求できなくなる。しかも、二人が納得せず相談に回れば、消費生活センターは、その段が平均的な損害を超えていないかを、まさにこの条文で見ます。京都府の消費生活安全センターも、解約料が平均的な損害を超える場合には、9条1号により条項の一部を無効とできる可能性があると案内しています。ただし、無効にできるかどうかは個別の事案ごとの判断だとも書いています。
裁判例は何を言っているか
結婚式場の解約料は、適格消費者団体が差止めを求めた裁判があります。消費者庁の検討会資料にまとめられていて、京都地裁の平成26年8月7日判決、大阪高裁の平成27年1月29日判決、最高裁の平成27年9月2日決定です。
資料から読み取れる範囲では、次のとおりです。
- 京都地裁は、平均的な損害に、逸失利益が含まれると判断した
- そのうえで、損益相殺後の逸失利益を解約料が下回っているので、9条1号により無効となる部分を含むとはいえないとした
- 控訴は棄却され、上告は不受理になった。差止めの請求は、すべての段階で認められなかった
事業者の側は、見積額に粗利益率と、再販売されない割合を掛けて算定すべきだと主張していました。この主張を判決がどう評価したのかは、僕が確認できた資料の範囲では分かりません。判決文の全文は読んでいないので、ここは「そう主張していた」という事実だけを書きます。
もう1つ、新型コロナの時期の判決があります。弁護士ドットコムニュースの解説によると、挙式の3日前に解約した二人が、支払い済みの約615万円のうち、約485万円(8割程度)の解約料を引かれ、全額返金を求めたのに対し、東京地裁は2021年9月27日に請求を棄却しました。解説は、直前の解約なので、別の客がその日程を予約することはほぼなく、8割程度の解約料でも平均的な損害と認められる可能性が高い、と書いています。同じ解説は、不可抗力で開催できない場合は、顧客都合の解約料の約款は前提が違うので、そのまま当てはまらない、という点にも触れています。
ここから、僕が実務で使えると考えた読み方が2つあります。
1つ目は、逸失利益が平均的な損害に入る、という点です。見積額の全部ではなく、「得られたはずの利益」のうち、他で埋められなかった分が損害になる。2つ目は、日程が再販売できるかどうかが、損害の大きさを決める、という点です。直前は再販売できないので損害が大きい。逆に、1年前の解約なら、同じ日程に別の二人が入る可能性が十分あります。だから、早い時期の解約料は低くなければなりません。
仮の式場で、時期ごとの損害を置く
ここから、仮の式場で計算します。前提は次のとおりです。
- 見積総額は1組400万円
- 粗利(固定費を回収する分を含む)は見積の50%、200万円。残りの200万円は、料理・飲物・引出物など、挙式をしなければ出ていかない変動費
- 日程が別の二人に再販売できる確率は、解約の時期によって下がる(下の表のとおり)
- 解約時点で、すでに発注して取り消せない実費(引出物、印刷物、衣裳の手配など)がある。時期とともに増える
損害は、次の式で置きます。
時期ごとの損害 = 粗利 ×(1 − 再販売できる確率)+ 取り消せない実費
| 解約の時期 | 再販売できる確率(仮) | 取り消せない実費(仮) | 損害の見積り | 見積に対する割合 |
|---|---|---|---|---|
| 契約直後〜12か月前 | 90% | 0万円 | 20万円 | 5.0% |
| 6か月前 | 70% | 0万円 | 60万円 | 15.0% |
| 3か月前 | 40% | 5万円 | 125万円 | 31.3% |
| 1か月前 | 15% | 40万円 | 210万円 | 52.5% |
| 2週間前 | 5% | 90万円 | 280万円 | 70.0% |
| 3日前 | 0% | 140万円 | 340万円 | 85.0% |
3日前の85%は、先ほどの東京地裁の事案の「8割程度」に近い数字になりました。これは、僕が数字を合わせにいった結果ではなく、粗利50%、再販売ゼロ、実費140万円と置いたら、たまたまそこに寄ったものです。ただ、偶然であることには注意が必要で、粗利が35%の式場や、実費が小さい式場では、直前の損害はもっと低く出ます。
段階表と並べる
次に、ありがちな段階表を並べます。契約直後〜12か月前は10%、6か月前は20%、3か月前は40%、1か月前は70%、2週間前は85%、3日前は100%の表です。
| 解約の時期 | 段階表の解約料 | 損害の見積り | 超える額(見積に対する割合) |
|---|---|---|---|
| 契約直後〜12か月前 | 40万円(10%) | 20万円 | 20万円(5.0pt) |
| 6か月前 | 80万円(20%) | 60万円 | 20万円(5.0pt) |
| 3か月前 | 160万円(40%) | 125万円 | 35万円(8.8pt) |
| 1か月前 | 280万円(70%) | 210万円 | 70万円(17.5pt) |
| 2週間前 | 340万円(85%) | 280万円 | 60万円(15.0pt) |
| 3日前 | 400万円(100%) | 340万円 | 60万円(15.0pt) |
どの段も、損害の見積りを超えました。この表は、わざと悪い表をつくったわけではなく、「直前ほど高く、早いほど低く」という、ごく普通の考え方でつくったものです。それでも、超えます。
超えかたには、特徴があります。
- 超える額が最も大きいのは、直前ではなく、1か月前の段(70万円)
- 直前の段は、100%という数字の見た目が強いのに、超える額は60万円で、1か月前より小さい
- 早い時期の段は、超える額が20万円と小さいが、損害そのものが小さいので、割合では目立つ
1か月前の段が最も危ない理由は、再販売できる確率がまだ15%あるのに、解約料を70%にしているからです。表をつくるとき、僕たちは「直前が100%」を先に決めて、そこから階段を下ろしていきます。そのとき、中間の段は、直前とのバランスで決まりがちです。損害の側から決めていないので、中間が膨らむ。
再販売できる確率が違うと、どうなるか
この計算で最も効いている仮置きは、再販売できる確率です。3か月前の段で、確率を動かしてみます。
| 3か月前の再販売できる確率 | 損害の見積り | 160万円の解約料との差 |
|---|---|---|
| 20% | 165万円 | 5万円不足 |
| 40% | 125万円 | 35万円超過 |
| 60% | 85万円 | 75万円超過 |
確率が20%なら、160万円の段は損害の範囲に収まります。60%なら、75万円も超えます。同じ表でも、式場の日程の埋まり方で、点検の結果が変わる。人気の土日と、閑散期の平日では、再販売できる確率がまるで違うからです。
だから、表は1枚とは限りません。繁忙期の土日と、それ以外の日で、段の位置を分けるやり方があります。ただ、分ければ表が複雑になり、二人への説明も難しくなります。複雑さと、点検に耐える精度のどちらを取るかは、式場ごとの判断です。
表を点検する順番
僕が実務でやるなら、次の順番で点検します。
- 段ごとに、再販売できた実績を数える。過去3年で、解約された日程のうち、解約の時期別に、同じ日程に別の契約が入った割合を出す。これが、確率の仮置きを実績に置き換える作業になる
- 取り消せない実費を、時期別に書き出す。引出物はいつ発注か、印刷物はいつ確定か、衣裳はいつ手配か。発注の日付が、実費の増える時期になる
- 粗利を決める。どこまでを損害に含めるかは、固定費をどう扱うかで変わる。ここは、会計の担当者と決める
- 損害の見積りと、段階表を並べる。超えている段を探す
- 超える段は、解約料を下げるか、段の区切りを動かす。1か月前のように、損害が急に増える時期の直前に、段を足す手もある
2と3は、数字を取り出すだけの作業です。1だけは、記録が残っていないと、すぐには出せません。解約になった日程が、その後どうなったかを、契約管理の台帳に1行で残しておくと、翌年から使えます。
表ではなく、説明で守る部分
表が損害の範囲に収まっていても、二人の納得が別に要ります。国民生活センターの相談対応でも、契約の前に、解約料がいつ、いくらかかるのか、内訳は何かを確認するよう助言されています。
説明のとき、僕が効くと考えているのは、解約料の「理由」を1行で伝えることです。たとえば、「この日程を押さえている間、他のお客様をお断りしているので、時期が近づくほど割合が上がります」という言い方です。これは、9条1号の考え方を、そのまま二人の言葉にしたものです。再販売できるかどうかで損害が決まる、と説明している。
さらに、不可抗力の扱いは、表とは別に決めておく必要があります。弁護士ドットコムニュースの解説でも、顧客都合の解約料の約款は、不可抗力で開催できない場合の前提とは違う、という整理でした。表の下に、1行で「天災や行政の要請で開催できない場合は別に協議する」と書いておくだけでも、後の相談の入り方が変わると思います。
この記事の数字が当てにならない部分
最後に、この記事の弱いところを書いておきます。
- 粗利を50%と置いたのは、僕の仮置きです。式場によっては、固定費の扱いで20%台にも60%台にもなります
- 再販売できる確率の列は、全体が仮置きです。実績で置き換える前に、この表を自社の判断に使ってはいけません
- 裁判例は、判決文の全文を読んでいません。消費者庁の資料と、報道の解説に書かれた範囲で書いています
- 「平均的な損害」の算定の仕方は、事案ごとに争われます。この記事の式は、考え方を見せるための簡略版です
それでも、「表は段ごとに点検される」という点だけは、条文に書いてあることです。自分の表の1行目から、損害の側の数字を置いてみる。それだけで、中間の段がどれだけ膨らんでいるかは、見えてくると思います。
まとめ
- 消費者契約法9条1号は、解約料を「解除の時期の区分ごと」に、同種の契約の平均的な損害と比べる。点検の単位は表の1行
- 超えた部分だけが無効になる。表全体が消えるのではないが、超えた分は請求しにくくなる
- 結婚式場の解約料を争った裁判では、差止めの請求は一審から最高裁まで認められなかった。平均的な損害には逸失利益が含まれると判断された
- 見積400万円の仮の式場では、時期ごとの損害は、契約直後5%、6か月前15%、3か月前31.3%、1か月前52.5%、2週間前70%、3日前85%と置けた
- ありがちな段階表(10・20・40・70・85・100%)は、どの段も超えた。超える額が最も大きいのは、直前ではなく1か月前の段(17.5ポイント)
- 点検の順番は、再販売できた実績、取り消せない実費、粗利、並べて比べる、超える段を直す、の順
- 不可抗力は、表とは別に1行で決めておく
