新郎新婦のリアル

子連れの二人の見学に託児スタッフを置くと、仮の式場で年94万円。成約が年0.7組増えれば元が取れる。先に効くのは、予約の時点で子どもの同席を聞く年5万円の手当てだ

子どもを連れて式場見学に来る二人は、説明の半分も聞けずに帰ることがあります。子どもが退屈して動き回る、泣く、抱っこをせがむ。見積もりの説明が始まる頃には、片方が席を外しています。式場の側から見ると、これは「接客はしたのに、反応が薄い来館」として集計に残ります。

結論から書きます。仮に、来館が年400組で15%が子連れ、託児スタッフを見学日に置く費用が年94万円だとします。粗利が1組140万円なら、取り返すのに必要な成約は年0.7組です。子連れの来館60組で言えば、成約率を1.1ポイント上げれば足ります。一方、予約の時点で子どもの同席を聞いて、席と説明の順番を整えるだけなら、費用は年5万円で、取り返すのは年0.04組です。先にやる価値があるのは、後者のほうです。

この記事の数字は、出典のある統計ではありません。子連れで来る割合も、成約率の落ち方も、会場ごとにまるで違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、どこを自分の数字に替えれば自分の会場の答えが出るかが分かるように書きます。

前提を先に置きます

計算に使う前提は次のとおりです。すべて仮置きで、実在の会場の実績ではありません。

  • 年間の来館は400組です
  • そのうち15%、つまり60組が、子どもを連れて来館します
  • 通常の来館の成約率は30%、子連れの来館は25%と置きます。5ポイント低いという想定です
  • 契約1組あたりの粗利は140万円です
  • 見学日は年100日で、1日の見学時間のうち託児を置く枠は6時間とします

子連れの成約率が低い理由は、子どもの機嫌だけではありません。説明を最後まで聞けないと、見積もりの根拠を理解しないまま持ち帰ることになります。そうすると、比べる段階で「分かりやすかった別の会場」に負けます。これを検証した調査は僕の手元にないので、5ポイントという差は「あるとしたら」の置き方です。実際には差がゼロの会場もあれば、10ポイント開く会場もあるはずです。

何もしないときに、いくら落としているか

子連れの来館が60組で、成約率が25%なら、成約は15組です。もし通常と同じ30%なら18組でした。差は3組で、粗利にすると420万円です。

差が10ポイントなら、成約は12組で、通常との差は6組、粗利840万円になります。差が5ポイントでも10ポイントでも、数百万円の動きです。ただし、ここで注意が要ります。この差の全部が、子どもがいたせいで生まれたわけではありません。子連れの二人は、そもそも検討の時間が限られていて、慎重に比べる傾向があるかもしれません。子どもを預けられたら成約率が通常並みに戻る、と考えるのは楽観です。

なので、施策の効果は「差の全部」ではなく「差の一部」で見積もります。差が3組なら、そのうち3分の1が戻ると1組、全部戻って3組です。この幅を持ったまま、次の施策の費用と見比べます。

手当てA:見学日に託児スタッフを置く

見学のある日に、子どもを見るスタッフを1人置きます。時給1,500円で6時間、年100日なら、人件費は年90万円です。別室に敷物とおもちゃをそろえる初期費用が20万円で、5年で使い切るなら年4万円。合計で年94万円です。

粗利140万円で割ると、取り返すのに必要な成約は0.67組、つまり年0.7組です。子連れの来館が60組なら、成約率を1.1ポイント上げれば足ります。子連れが40組なら1.7ポイント、80組なら0.8ポイントです。

数字だけ見ると、ハードルは低く見えます。何もしないときの差が3組あり、そのうち0.7組を取り返せばいいわけです。ただ、この計算には見えにくい条件が3つあります。

1つ目は、託児スタッフが「見学日の100日」を通して稼働率が低いことです。子連れの来館は年60組で、見学日100日なら、子連れが来る日は半分に満たない可能性があります。スタッフは来ない日も待機します。2つ目は、会場の中に子どもを預かる部屋と、安全の責任を負う体制が要ることです。自治体の保育に関する基準は種類が多く、ここでは扱いません。式場の側で預かる範囲を決めるなら、事前に確認が要る領域です。3つ目は、親が「知らない人に預ける」ことへの抵抗です。預かり付きの見学を用意しても、使われる割合が半分なら、効果も半分に薄まります。

使われる割合が5割なら、必要な成約の増加は、預けた組の側で数えると倍になります。0.7組の増加を、預けた30組で取り返すなら、成約率で2.2ポイントです。

手当てB:予約の時点で聞いて、席と説明を整える

もう1つの手当ては、託児を置かずに、予約の時点で「お子さまのご同席はありますか」と一言聞くことです。聞いた結果で、次の3つを整えます。

  • 子ども用の椅子と、静かに遊べる道具を、打合せのテーブルの近くに置く
  • 見積もりの説明を、子どもが落ち着いている最初の20分に前倒しする
  • 説明を一度で終えず、動画かメモで持ち帰れるようにする

費用は、道具代と、予約の聞き取りの手間です。道具に年2万円、聞き取りと席の準備に年3万円と置けば、合わせて年5万円です。粗利140万円で割ると、取り返す成約は0.04組。60組の来館に対して、成約率が0.06ポイント上がれば足ります。

ここで見るべきは、費用が小さいことより、構造が違うことです。手当てAは、二人の負担を式場が肩代わりする設計です。手当てBは、二人が説明を聞き切れる順番に、式場の側が並べ替える設計です。Aは費用が固定で、効果が使われる割合に左右されます。Bは費用がほぼ変動せず、効果が出なくても失うものがほとんどありません。

加えて、Bには「2回に分けて説明する」という追加の動きが入ります。1組あたり担当が45分多く使うとして、時給2,000円なら、60組で年9万円です。これを足しても、Bは年14万円で、取り返す成約は0.1組。Aの7分の1です。

分かれ目は、子連れの割合と、差の大きさ

Aを選ぶかどうかは、2つの数字で決まります。

1つ目は、子連れの来館の割合です。60組が120組になれば、同じ年94万円で、必要な成約率の上昇は0.6ポイントまで下がります。逆に30組なら2.2ポイントです。子連れが少ない会場では、Aは割に合いません。

2つ目は、子連れの成約率が通常より低い差の大きさです。差が1ポイントしかないなら、手当てそのものが要りません。差が10ポイントなら、Aを検討する根拠が立ちます。この差は、自社の来館記録から、子連れの有無と成約を並べて数えれば出ます。来館時に「お子さま同席」のチェックを1つ付けるだけで、半年後には比べられます。

僕は、まずBを入れて、半年たったあとに差を見て、それでも差が残るならAを足す順番を取ります。理由は、Bが失敗してもほとんど損をしないからです。Aは、使われる割合も、子連れの数も、やってみないと分かりません。

半年後に比べるときの数え方

差を測るときに気をつけたいのは、数える母数です。子連れの来館が半年で30組しかなければ、成約が1組違うだけで成約率は3.3ポイント動きます。月ごとの揺れで判断すると、施策の効果と偶然の区別がつきません。

だから、判断は半年か1年の合計でします。目安として、子連れの来館が60組あれば、成約15組と18組の差は見えます。30組だと、成約7〜8組と9組の差は、偶然でも出ます。母数が少ない会場では、差が見えるまで待つか、手当てBのような小さい施策にとどめるのが、損を増やさない選び方です。

もう1つ、記録に残すのは「子連れかどうか」だけで足ります。子どもの年齢や人数まで細かく取ると、入力が続かなくなります。見学の担当が受付で見て、チェックを1つ付ける。それくらいの手間で足りるはずです。

やらないという選択の置き場所

手当てを何も入れない判断も、ありえます。子連れの来館が年20組に満たない会場では、Bの年5万円でさえ、粗利140万円の3.6%分です。取り返すのは0.04組ですが、その0.04組を数える方法がありません。数えられない施策は、続けるうちに誰かの負担になって、やがて忘れられます。

そういう会場は、予約フォームに同席の欄だけ足して、あとは担当の気づかいに任せるのが現実的です。費用はほぼゼロで、記録だけが残ります。記録が1年たまれば、手当てを入れるかどうかを、仮置きではなく自社の数字で決められます。

子連れの二人が見ているもの

最後に、二人の側から見た景色を書いておきます。子どもを連れて見学に来る二人は、会場の設備より先に、「ここで子どもと一緒に過ごせるか」を見ています。式当日に子どもを連れて参加するゲストがいる、あるいは二人の子ども自身が式に出る、という前提があるからです。

だから、見学時の子どもへの対応は、二人にとって当日の対応の予告編になります。椅子が用意されていて、説明の順番が整っていて、スタッフが子どもに声をかけてくれる。これだけで、設備の説明より先に、安心の材料が1つ増えます。逆に、子どもが邪魔者のように扱われると、二人はその会場を選ばなくなります。

この「予告編」の効き方は、数字にしにくい部分です。成約率の差に混ぜて計算していますが、実際には、手当てAの有無より、スタッフの一言のほうが効く場面もあると思います。僕が確かめられるのは計算の筋道までで、現場の体感の大きさは会場の記録でしか分かりません。

まとめ

  • 前提:来館400組、子連れ15%、成約率は子連れが25%、通常が30%、粗利140万円(すべて仮置き)
  • 何もしないと、子連れの差は3組、粗利で420万円。ただしその全部が子どものせいとは限らない
  • 託児スタッフを置く手当ては年94万円、取り返すのは成約年0.7組。子連れの来館の成約率で1.1ポイント
  • 予約時に同席を聞いて、席と説明の順番を整える手当ては年5万円、取り返すのは年0.04組。説明を2回に分ける手間を足しても年14万円
  • 託児は、子連れの割合が高く、通常との差が大きい会場でだけ割に合う。先にやるのは、聞いて整えるほうが損が小さい
  • 自社の数字で確かめるには、来館記録に「お子さま同席」を1項目足して、半年後に成約率を並べる