式場の接客は録音して振り返る|見る3点と同意の取り方
接客を良くしたいとき、式場はまず成約率を見ます。けれど成約率は、結果が出るまでに時間がかかるうえ、「なぜ決まったのか」「なぜ決まらなかったのか」を教えてくれません。接客の中身を直接見る方法で、いちばん手軽なのは、見学の会話を録音して聞き返すことです。
この記事では、初回見学の接客を録音して振り返るときの段取りを書きます。同意の取り方、聞き返すときに見る3点、週にかける時間の目安、続かなくなる理由の順です。
数字の部分は、すべて僕が置いた仮の前提です。実在の式場の時間や件数を示すものではありません。自分の会場の数字に入れ替えて使ってください。録音の扱いは、会場の個人情報の取り扱いルールや、顧問の弁護士・社労士の判断が先にあります。ここに書くのは運用の組み方で、法律の判断ではありません。
成約率では、接客の差が見えない理由
月次の成約率は、接客以外の要素が混ざります。日程の空き、見積もりの金額、他会場との比較、その月の来館組の質。同じプランナーでも、月によって成約率は大きく動きます。
仮に、あるプランナーが月に20組を接客して、成約が6組だったとします。翌月は同じ20組で成約が4組でした。差は2組です。この2組が接客の出来の違いなのか、たまたま日程が合わなかった組が重なったのか、数字からは分かりません。
録音を聞き返すと、この「分からない」を減らせます。決まった組と決まらなかった組で、会話のどこが違ったのかを、本人も上司も同じ材料で見られるからです。成約率が結果の数字だとしたら、録音は過程の記録です。
もうひとつ、録音には効用があります。接客は本人にとって、やった直後ほど出来が分かりません。話した内容を覚えているようで、実際には半分以上が抜け落ちています。自分の声で聞くと、早口になっている場所や、質問の途中で答えを言ってしまっている場所が、思ったよりはっきり分かります。
録音を始める前に決めること
録音は、声と会話の内容を記録します。会話にはお客様の名前、予算、家族の事情などが入るので、個人情報として扱う前提で決めます。最低限、次の4つを先に決めておきます。
- 何のために録るか。接客の品質向上と社内の育成だけ、と決めます。人事評価や懲戒の材料にも使うなら、その旨も決める必要があります。目的が広がるほど、お客様にも社員にも説明が難しくなります。
- 誰が聞けるか。本人と直属の上司、育成担当までに絞ります。共有フォルダに置いて誰でも聞ける状態にしないでください。
- いつ消すか。振り返りが終わったら消す、長くても1か月で消す、のように期限を決めます。録音を残し続けると、漏えいしたときのリスクだけが積み上がります。
- お客様が断ったらどうするか。断られたら録らない、それだけです。断った組の接客が不利になることはない、と全員が理解している状態にします。
この4つは、紙1枚にまとめて、プランナー全員に説明してから始めます。社員側の同意を先に取らずにお客様側の同意だけ集めても、運用は続きません。
お客様への同意の取り方
お客様への伝え方は、見学の最初、席に着いてすぐの一言がいちばん自然です。たとえば次のような言い方です。
「接客の質を上げる勉強のために、このあとのお話を録音させていただいてもよろしいでしょうか。社内の振り返りにだけ使い、終わったら消します。ご不安でしたら、録音なしでも問題ありません。」
ポイントは3つあります。
- 使い道を先に言う。「社内の振り返りだけ」と言い切ります。
- 消すことを言う。期限まで言えると安心されます。
- 断れることを、断りやすい言い方で言う。「録音なしでも問題ありません」と添えます。
予約フォームやウェブの来館予約の画面に、「接客の品質向上のため、録音させていただく場合があります」と書く方法もあります。ただ、これだけでは同意とは言いにくいので、当日の一言は省かないほうが安全です。
当日の一言で断られる割合は、僕は正確な数字を持っていません。置いている前提もありません。実際に始めると、会場ごとに感触が分かるはずです。断られた組が極端に多い場合は、言い方か、録音機器の見せ方に問題があります。机の上に置くのか、ポケットに入れるのか。機器が見えないほうが、かえって不審に感じられることもあります。机の上に、見える形で置くほうが説明しやすいです。
聞き返すときに見る3点
録音を30分聞いて「全体的にもう少し丁寧に」とコメントしても、何も変わりません。見る点を絞ります。僕が候補として挙げるのは、次の3点です。
1. 質問と提案の順番
お客様の話を聞いてから提案しているか、聞く前に会場の説明を始めていないか。録音を聞くと、最初の5分で分かります。
見るのは、プランナーが最初に話し始めるまでの時間と、最初の質問の内容です。会場の説明から入る人は、お客様が何を知りたいのかを聞く前に、持ち時間を使ってしまいます。最初の質問が「ご予算は」から始まる人は、お客様の心の準備より先に金額の話に入ってしまいます。
聞く目安は、「お客様が結婚式で大事にしたいことを、最初の10分で聞けているか」です。聞けていれば、後半の提案がその言葉に合わせて組み立てられます。
2. お客様の言葉を、そのまま使い返しているか
お客様が「アットホームな感じがいい」と言ったとします。プランナーが後で「アットホームな雰囲気がご希望でしたね」と返せていれば、聞いていることが伝わります。逆に、自分の言い換え(「少人数のご結婚式ですね」)に変えてしまうと、お客様は自分の言葉が違うものに変わったと感じます。
録音を聞き返して、お客様が使った言葉に印をつけます。その言葉が、あとの提案や見積もりの説明で使われているかを確認します。使われていなければ、聞いてはいるけれど、提案に反映していない状態です。
3. 次の行動の決め方
見学の終わりに、次に何をするかが決まっているか。「また検討します」で終わっていないか。聞くのは最後の3分です。
具体的には、次の来館日が決まっているか、見積もりを出す期限をお客様と決めているか、お客様側の検討の相手(両親、パートナー)が誰か聞けているか。この3つが全部ない見学は、成約率の結果より前に、接客として終わりが決まっていません。
この3点は、僕が置いた見方です。会場の接客の型に合わせて入れ替えてください。大事なのは、一度の振り返りで見る点を3つ以内に絞ることです。
機器とファイルの扱い
録音は、会場の私物のスマートフォンではなく、会場が用意した専用のレコーダーかタブレットで行います。私物の端末に録音が残ると、退職時や機種変更のときに、消したかどうかを確かめられません。
ファイル名には、お客様の名前を入れません。日付と担当者名、その日の見学の番号だけにします。名前と音声が同じ場所に残ると、漏えいしたときの影響が大きくなります。保存場所は、権限を持つ人だけが開けるフォルダに限ります。
また、録音を文字に起こす作業は、最初のうちは省いて構いません。聞き返す範囲を10分と5分に絞っているので、手書きのメモで足ります。文字起こしのツールを使う場合は、音声が外部のサービスに送られるかどうかを、使う前に確認してください。
週に何分かける設計か
振り返りが続かなくなる理由の大半は、時間です。仮の前提で計算します。
- プランナーは6人
- 1人あたり、週に8組の見学を接客する
- 録音は1組あたり60分
- 全部を頭から最後まで聞き返す
この場合、1人が1週間で聞く時間は8時間になります。もちろん続きません。そこで、聞く範囲を絞ります。
- 1人につき、週に1組だけ選ぶ
- 選んだ組の、最初の10分と最後の5分だけを聞く
- 振り返りの面談は15分
1人あたりの時間は、聞く15分と面談の15分で合計30分です。6人分で、週に3時間になります。上司がひとりで見るなら、週の3時間を確保できるか。確保できなければ、2週に1組に落とします。
選ぶ組は、成約した組と成約しなかった組を交互にします。成約した組だけ聞くと、良かった点探しで終わります。成約しなかった組だけ聞くと、振り返りが反省会になり、プランナーが録音を嫌がるようになります。交互にするのが、続けやすい形です。
振り返りの面談の進め方
聞いたあとの面談は、上司が指摘する場にしないほうが続きます。順番を決めておくと、短い時間で終わります。
- まず本人に、「聞き返してどうだったか」を聞く。最初に気づきを話してもらいます
- 上司が、見る3点のうち、うまくできていた点をひとつ伝える
- 直す点を、ひとつだけ決める。複数出さない
- 次の週に試す、具体的な言い方を決める
直す点をひとつに絞る理由は単純です。接客は同時に3つ直せません。ひとつ直して、次の週に別の録音で確かめます。1か月で4回の振り返りがあれば、4つの点を直せます。
続かなくなる3つの理由と、先に潰す方法
録音の振り返りは、始めるより続けるほうが難しいです。続かなくなる理由は、だいたい3つです。
1. 上司の時間が取れなくなる。 繁忙期に真っ先に消えます。先に、繁忙期は月1組に落とす、と決めておきます。ゼロにしないことが大事です。ゼロにすると、再開するきっかけがなくなります。
2. プランナーが録音を嫌がる。 理由の多くは、評価に使われると感じることです。目的を紙に書いて全員に渡し、評価には使わないなら使わないと書きます。上司自身の接客も録音して、プランナーに聞かせると、一方的な管理に見えにくくなります。
3. 録音が溜まって管理できなくなる。 消す期限を決めていないと、データが残り続けます。振り返りが終わった日に、そのファイルを消す係を決めておきます。月末に消す、では忘れられます。
まとめ
- 成約率は結果の数字で、接客の中身は教えてくれない。録音は過程の記録として使える
- 始める前に、目的・聞ける人・消す期限・断られたときの扱いを決め、紙1枚で全員に説明する
- お客様には席に着いてすぐ、使い道と消すことと断れることを一言で伝える
- 聞き返すときに見るのは、質問と提案の順番、お客様の言葉の使い返し、次の行動の決め方の3点に絞る
- 全部は聞かない。1人につき週に1組、最初の10分と最後の5分だけにすれば、6人分で週3時間ほどになる(仮の前提)
- 面談では直す点をひとつに絞り、成約した組としなかった組を交互に選ぶ
- 繁忙期の落とし方と、ファイルを消す係を先に決めておくと、続けやすくなる
