経営・組織

式場の社員婚は割引率より先に、日取りと担当を決める

スタッフが結婚することになり、「うちの式場で挙げたいです」と言ってくる。式場では、ときどき起きることです。そのとき最初に出てくる質問は、たいてい「割引はどのくらいですか」です。

僕は、この順番が揉めごとのもとだと考えています。割引率は、決める項目の中ではいちばん最後で足ります。先に決めるのは、どの日に挙げるか、誰が担当するか、当日の写真と動画をどう扱うか、の3つです。

この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。実際の式場の統計や調査ではありません。割引率ごとに粗利がどう変わるかを見るための計算として使ってください。

割引率から決めると、なぜ揉めるのか

割引率を先に決めると、社員は「いくら安くなるか」を見て、式場は「いくら減るか」を見ます。ここで話が終わると、日取りは社員が希望した日になりがちです。

社員が希望するのは、たいてい人気の日です。同僚の予定も、親族の予定も合わせやすい土曜の大安。そこに社員婚を入れると、本来なら一般のお客様が買えた日を、割り引いた価格で使うことになります。

割引そのものより、日取りのほうが大きな損になることがあります。次の節で、仮の数字で見ます。

仮の数字で、割引率ごとの粗利を並べる

前提を置きます。

  • 一般のお客様の披露宴は、売価の総額が400万円
  • 料理・飲料・衣装・花など、組ごとにかかる原価が売価の40%で160万円
  • 人件費や固定費は、この計算に入れない

この前提だと、一般のお客様1組の粗利は240万円です。社員婚を割引して受けたときの粗利は、こう変わります。

割引率 売価 粗利 本来の粗利との差
0% 400万円 240万円 0
10% 360万円 200万円 40万円
20% 320万円 160万円 80万円
30% 280万円 120万円 120万円
40% 240万円 80万円 160万円
原価提供 160万円 0 240万円

ここで見落としやすいのは、この差がいつ発生するのか、です。

その日が、そもそも一般のお客様が入らない空き日なら、割引した粗利は「入らなかったはずの粗利が入った」ことになります。割引が30%でも、120万円のプラスです。

その日が、一般のお客様で埋まったはずの繁忙日なら話が変わります。表の「本来の粗利との差」が、そのまま損になります。10%引きでも40万円、30%引きなら120万円です。しかもその日の枠は、一般のお客様が買えなくなります。

つまり、損得を決めているのは割引率より先に、挙げる日が空いているかどうかです。

先に決める3つの項目

1. 日取り:社員が選べる日を、先に決めておく

社員婚の日取りは、「閑散期の平日・仏滅など、枠が埋まりにくい日から選ぶ」と決めておくのがいちばん揉めません。理由は2つあります。

ひとつは、前の節の計算のとおり、空き日なら割引しても粗利が残るからです。もうひとつは、繁忙日に社員婚を入れると、同僚の側に負担が出るからです。土曜の大安に社員婚が入れば、その日の現場スタッフは自分の同僚の披露宴と、一般のお客様の披露宴を同時に回すことになります。

ルールにするときは、「挙げられる日」を削るのではなく、「選べる日の範囲」を言葉にしておきます。

  • 挙式の日は、契約時点で空いている日の中から選ぶ
  • 繁忙期の土日祝は、原則として対象外にする
  • 例外にするなら、前日まで一般のお客様の予約が入っていない場合に限る

例外を作るなら、「入らなかったら受ける」と決めておく形が現実的です。社員にとっても、あとから「やっぱり一般のお客様を優先します」と言われるより、最初から条件が見えているほうが納得できます。

2. 担当:同僚が担当するか、外から入れるか

社員婚の担当を誰にするかは、割引より先に決めます。担当には2つの形があります。

ひとつは、普段から一緒に働いている同僚が担当する形です。社員のことを一番よく知っていて、気持ちを汲み取ってもらえます。ただ、社員の側は、同僚に自分の予算や家族のことを見せることになります。担当の側も、同僚の婚礼に失敗が許されないという重さを抱えます。

もうひとつは、別の店舗や別の部署のプランナーに担当してもらう形です。距離があるぶん、お互いに言いにくいことを言いやすくなります。店舗が1つだけの式場では、この形は取りにくいです。

どちらを選ぶにしても、決めておくことがあります。

  • 担当になったスタッフの、通常の担当件数をどう調整するか
  • 社員婚の打ち合わせを、勤務時間に入れてよいか
  • 社員の側が、プランナーにあとから遠慮なく要望を出せるか

担当した同僚の仕事が、社員婚の打ち合わせの分だけ増えるのに、通常の件数のままだと、社員婚が現場の負担になります。件数を一時的に減らすか、社員婚を1件としてしっかり数えるかを、最初に決めておきます。

3. 写真・動画:式場が使ってよい範囲を、契約書に書く

社員婚は、式場にとって良い素材が手に入る機会でもあります。スタッフ本人が出演する挙式の写真は、式場のSNSや公式サイトで使いたくなります。

ここも、割引と引き換えに「使ってよい」と暗黙のうちに考えると、あとで揉めます。社員本人は、自分の結婚式の写真が仕事の素材として出ていくことに、思ったより抵抗を感じることがあります。ゲストの顔が写る写真なら、ゲストの同意も必要です。

契約書や覚書に書くことは、次のとおりです。

  • 式場が使ってよい写真・動画の範囲(SNS、公式サイト、パンフレットなど)
  • 使わない写真(親族の顔が大きく写るもの、本人が選ぶもの)
  • 退職したあとも使い続けるか、退職の時点で外すか

とくに最後の項目は、社員婚に固有のものです。退職した元スタッフの結婚式の写真を、式場が使い続けていいのか。この線は、結婚式の時点で決めておくほうが、退職のときに揉めません。

割引の形は3つに分けて考える

日取り、担当、写真の3つが決まれば、割引は「どう渡すか」の問題になります。形は大きく3つあります。

1. 一律の割引率

もっとも分かりやすい形です。「社員は全体の20%引き」のように決めます。利点は、運用が簡単なことです。欠点は、日取りの条件がないと、繁忙日でも同じ割引になることです。

2. 原価に近い価格で提供する

料理や飲料などの実費に近い金額で提供する形です。前の表のとおり、粗利はゼロに近くなります。空き日にしか入れない形にして、はじめて成り立ちます。

この形は、社員に出す金額が最も小さくなるぶん、福利厚生としての価値が一番高くなります。同時に、式場の粗利は出ません。空き日が多い式場が、人材の定着に使う形と言えます。

3. 費目ごとに割引の対象を決める

「料理と飲料は原価、衣装と装花は通常価格」のように、費目で分ける形です。式場が仕入れている分は原価に近づけて、外部への支払いがある分は通常どおりにするという線引きができます。

運用は複雑になりますが、式場の側の負担が見えやすくなります。割引の根拠を社員に説明するときも、「この項目は仕入れの金額に近い価格にしている」と言えます。

3つのどれを選ぶかは、式場の空き日の多さと、人材に求める定着の強さで決まります。繁忙日が埋まっている式場は、日取りの条件を厳しくして、割引は大きめにする。空き日が多い式場は、日取りの条件をゆるめて、割引を抑えめにする。この組み合わせが、仕組みとして筋が通ります。

社員婚に向く式場と、向かない式場

社員婚の制度は、どの式場にも向くわけではありません。判断の分かれ目は、次の3つです。

  • 空き日が年間で一定数ある(閑散期の平日・仏滅などに枠がある)
  • 同僚が担当しても、現場の通常業務が回る人数がいる
  • 退職や異動があったときの、写真・データの扱いを決められる

3つ目は、小さい式場ほど決めにくい項目です。社員が10人に満たない式場では、1人の退職が現場の厚みに直接響きます。社員婚の制度を作って、結婚後に退職されたときの関係まで考えておかないと、制度が負担に転ぶことがあります。

反対に、制度がなくても、社員から相談があったときに、そのつど決めることもできます。大事なのは、割引の金額を口約束で決めないことです。口約束で決めると、次の社員が同じ条件を求めたときに、前例として残ります。

制度を作らない場合も、相談を受けたときの順番は同じ

制度として文書にしない式場でも、社員から相談を受けたときの順番は変えられます。

  1. 希望の日取りを聞き、その日の空き状況を確認する
  2. 担当を誰にするかを決める(同僚か、外からか)
  3. 写真・動画の扱いを、口頭ではなく書面で確認する
  4. 最後に、割引の金額を決める

割引の金額が最後になるのは、前の3つが決まると、割引の根拠が説明できるようになるからです。空き日だから粗利が出る、担当の件数を調整した、写真の使用範囲に合意した。この順番で積み上げると、割引の金額が「社員だから特別に」という話ではなく、「この条件ならこの金額」という説明になります。

説明できる割引は、次の社員が同じ相談をしてきたときにも使えます。説明できない割引は、そのたびに決め直すことになります。

まとめ

  • 社員婚は、割引率から決めると日取りが希望優先になり、繁忙日の枠を失う
  • 仮の計算では、割引30%でも空き日なら粗利は残り、繁忙日なら枠ごと失う。損得を分けるのは割引率より日取り
  • 先に決めるのは、日取り、担当、写真・動画の使用範囲の3つ
  • 日取りは、空いている日から選ぶ形にしておくと、同僚の負担も抑えられる
  • 担当は、同僚か外からかを決め、担当の通常件数も調整する
  • 写真・動画は、使ってよい範囲と、退職後の扱いを書面に残す
  • 割引の形は、一律の割引、原価提供、費目ごとの3つ。空き日の多さで選ぶ
  • 割引の金額は最後に決める。条件の積み上げがあれば、次の社員にも同じ説明ができる