公式サイトの「税別300万円」は総額表示義務に触れうる。直すと表示は330万円、サービス料まで足すと363万円になる
式場の公式サイトのプラン紹介に「ウェディングプラン 300万円(税別)」と書いてあるのを、見たことがある方は多いと思います。フェアのチラシや、ポータルサイトに出す料金の欄でも同じです。
結論から書きます。この表示は、消費税法63条の総額表示義務に触れうる形です。不特定多数に向けて、あらかじめ価格を示すなら、税込の価格を出す。これが2021年4月以降の決まりです。一方で、特定の二人に出す見積書や、口頭で伝える価格は対象の外になります。つまり、同じ会場の同じ金額でも、「どこに書いたか」で扱いが分かれます。
仮の式場で試算すると、表示を直して見えるようになるのは、税別300万円ではなく330万円です。サービス料10%を別に取る会場なら、363万円です。この63万円(21%)の差が、フェア来館前に見えるか、見積書を見て初めて見えるかで、成約率の揺れ方が変わる可能性があります。直す手間は、仮の置き方で5時間ほどです。
先に断っておくと、僕は税理士でも弁護士でもありません。以下は、財務省と国税庁が出している文書を読んで、式場の表示に当てはめた整理です。条文や表示例は出典のあるものですが、式場の売上や組数、作業時間は僕が置いた仮の数字です。個別の表示が義務に当たるかどうかは、最後に専門家に確かめてください。
総額表示義務の条文は何を求めているか
根拠は消費税法63条です。財務省の文書に条文が載っているので、要点を抜き出します。
事業者は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合に、あらかじめ価格を表示するときは、消費税額と地方消費税額を含めた価格を表示しなければならない。ただし、専ら他の事業者に行う場合は除く。
条文の中にある条件は3つです。
- 不特定かつ多数の者が相手であること
- あらかじめ価格を表示していること
- 専ら事業者向けの取引ではないこと
結婚式は、新郎新婦という個人の消費者に売るものです。専ら事業者向け、という例外には当たりません。ですから、残る論点は最初の2つ、「誰に向けた表示か」と「あらかじめ表示しているか」です。
もう1つ、財務省の文書には、この義務は価格表示をしていない場合にまで課されるものではない、と書かれています。料金をいっさい載せない会場には、そもそも表示の義務が生じません。「公式サイトに料金を載せるか」は別の判断で、載せると決めた時点から、この条文が関わってきます。
税抜の特例が使えたのは2021年3月31日までです。それ以降は、税別だけの価格表示は原則として認められていません。ただ、法律に罰則規定はないとされています。税理士ドットコムの解説では、違反があっても税務当局が改善を求める指導にとどまる、という整理です。罰則がないから放っておいてよい、と読むか、罰則がないから今のうちに直しておく、と読むかは会場の判断です。僕は、直す手間が小さいので後者に寄せています。それは後ろの試算で数字にします。
対象になる表示、ならない表示
国税庁の文書は、あらかじめ消費者に対して行う価格の表示であれば、店頭表示、チラシ、新聞・テレビの広告など、表示媒体は問わない、としています。財務省の文書も、同じ考え方です。これを式場の表示に並べると、次のようになります。
| 場所 | 相手 | 総額表示義務 |
|---|---|---|
| 公式サイトのプラン紹介・料金表 | 誰でも見られる | 対象 |
| フェアのチラシ・SNSの広告投稿 | 誰でも見られる | 対象 |
| ポータルサイトの掲載ページの料金欄 | 誰でも見られる | 対象 |
| 見学に来た二人に渡す見積書 | 特定の二人 | 条文の「不特定多数」ではない |
| 契約後の請求書・領収書 | 特定の二人 | 対象外と明記されている |
| 打合せで口頭で伝える金額 | 特定の二人 | 対象外(口頭の価格は対象にならない) |
注意してほしいのは、表の中で「対象外と明記されている」と言えるのは、請求書と領収書、それに口頭の価格です。財務省の文書は、取引の相手方に交付する請求書や領収書の価格表示は、不特定多数にあらかじめ価格を示すものではないので対象にならない、と書いています。見積書は、僕が読んだ範囲では文書の中に名前が出てきません。特定の二人に出す見積書は、条文の「不特定かつ多数」に当たらない、というのが素直な読み方です。ただ、これは僕の読みです。同じ見積書の雛形をそのままサイトに載せている会場や、モデルプランの見積例を公開している会場は、その部分が公開の価格表示に変わります。
もう1つ、見落としやすい点があります。財務省の文書は、割引の表示について、「○割引き」「○円引き」とする表示そのものは対象にならない、と書いています。ただし、値引前の価格や値引後の価格を表示する場合は、対象になります。
フェア特典の「成約で30万円OFF」は、割引額だけの表示です。ここは対象になりません。ところが、「通常363万円が333万円」と書いた瞬間に、その2つの価格は税込でなければなりません。「通常300万円(税別)が270万円(税別)」という書き方は、この場面でも引っかかります。
税別を併記するのは構いません
ここまで読むと、サイトから税別の数字を消さなければいけないように思えますが、そうではありません。
財務省の文書が認めている表示例には、税込価格と税抜価格を並べるものが入っています。税込11,000円の商品なら、次のような書き方です。
- 11,000円
- 11,000円(税込)
- 11,000円(税抜価格10,000円)
- 11,000円(うち消費税額等1,000円)
- 10,000円(税込価格11,000円)
式場の金額に置き換えると、「330万円(税込)」「330万円(税抜300万円)」「300万円(税込330万円)」のどれも、総額表示としては認められる形です。
ただし条件があります。税抜価格を「ことさら強調する」ことで、消費者に誤認を与える表示になる場合は、総額表示義務を満たしているとは言えない、と文書は書いています。税込が明瞭に表示されているかどうかは、消費者庁の別の考え方に従って見る、という整理です。
式場の現場に引きつけて言うなら、こうなります。
- 大きな文字で「300万円」、その横の小さな文字で「(税込330万円)」は、誤認の余地が残ります
- 同じ大きさ、同じ文字色で「330万円(税込)」と書けば、安全側です
- 税別の数字を残したいなら、税込の後ろに小さく添える順番にします
税込の金額を主役にして、税別は補足に回す。順番を入れ替えるだけで足ります。
仮の式場で、表示を直すといくらになるか
具体的な数字で見てみます。次の式場を仮に置きます。数字はすべて僕が置いた仮のものです。
- 公式サイトのプラン料金は「300万円(税・サービス料別)」と表示している
- サービス料は10%、消費税は10%。サービス料にも消費税がかかるものとして計算する
- フェアの来館は年600組、成約率は20%で年120組が成約する
- 料金を載せているページは10ページ、チラシとSNSの定型文は別に数点ある
表示と実際の支払額は、次のようにずれます。
| 表示の仕方 | 金額 |
|---|---|
| 現在のサイト表記(税・サービス料別) | 300万円 |
| 消費税だけを足した場合 | 330万円 |
| サービス料10%と消費税10%を足した場合 | 363万円 |
300万円を基準にすると、消費税だけで30万円、サービス料まで入れて63万円の差です。割合にして21%になります。
消費税の部分は、法律が税込を求めている部分です。サービス料は別の話で、僕が調べた範囲では、結婚式場のサービス料について総額表示義務がどう及ぶかを直接書いた文書は見つかりませんでした。ですからここは、法律の義務かどうかではなく、新郎新婦が最終的にいくら払うのかが一目で分かるかどうか、という景品表示法の視点で考えるのが安全です。実際の支払額より安く見える表示は、有利誤認(景品表示法5条2号)に当たるおそれがある、と消費者庁の文書は説明しています。
見積書で初めて363万円を知る二人
ここからは、成約率の話です。ここも仮の置き方です。
サイトの表示が300万円なのに、見学で出された見積書の合計が363万円だった場合、二人の頭の中では「63万円の上乗せ」に見えます。実際には計算の仕組みの違いなのに、上乗せのように受け取られます。
この受け取られ方が成約率にどれだけ効くかは、僕は数字を持っていません。調べた範囲でも、税別表示と税込表示で成約率がどう変わるかを比べた公開データは見つけられませんでした。そこで、効くとしたらいくらの話になるのかを、逆算で置きます。
年600組の来館で、成約率が1ポイント変わると6組、2ポイント変わると12組です。1組363万円なら、6組で約2,178万円、12組で約4,356万円の売上です。
つまり、表示を直して成約率が1ポイント動くだけで、売上は年に2,000万円規模で動く計算になります。動くとは限りません。動かない可能性のほうが高いかもしれません。ただ、動かなくても、次の2つは手に入ります。
- 見学前の二人が、総額が見える前提で他会場と並べて検討できる
- 見積書を出した瞬間の「聞いていた金額と違う」という空気がなくなる
特に1つめは、ポータルサイトの一覧で効きます。他会場が税込の総額で出しているなか、自会場だけが税別の小さい数字で並ぶと、一覧の上では最安に近く見えます。見た目の安さで来館を取っても、見積書の段階で差が開くなら、そこで落ちる人が出ます。来館の数は増えても、成約率は下がります。成約率1ポイントが年2,000万円規模、という先ほどの試算は、この落ち方が逆向きに働く場合の大きさでもあります。
直す手間は5時間ほど
直す作業を、仮の式場で数えてみます。
- 料金を載せているページ10ページを、1ページ30分で書き換える。合計で5時間
- フェアのチラシとSNSの定型文は、税込を主役にした書き方に差し替える。数点で1時間ほど
- ポータルサイトの掲載ページの料金欄は、管理画面で更新する。管理画面の仕様によって、30分から1時間
合計しても、7時間前後です。1人が1日で終わらせられる量です。ここで挙げた時間も僕が置いた仮のものですが、ページ数が3倍あっても、1週間はかかりません。
それに対して、直さなかった場合に起きうることは、3つあります。
- 税務当局から改善を求める指導を受ける。罰則はないとされていますが、指導は想定されます
- 有利誤認と指摘されるリスクを持ち続ける。他社が総額で出していれば、比較の場で差が見えます
- 見積書を出した後の、二人の疑念が残る
罰則がないので、緊急度は高くありません。ただ、直す手間も小さいので、更新のついでに片づけるのが現実的だと思っています。
直し方の順番
直す順番は、見られる回数の多いところからです。
- ポータルサイトの掲載ページの料金欄。見られる回数が最も多いはずです
- 公式サイトのプラン紹介・料金表。トップページから見られるページを先にします
- フェアのチラシ、SNSの投稿文、LINEの配信文
- 見積書の雛形。義務ではない場所ですが、公開の表示と数字をそろえておくと、二人が見る金額が1つになります
書き方の型は、次の3つのどれかを選べば足ります。
- 型A:税込を主役にする。「330万円(税込)」とだけ書く
- 型B:税抜を併記する。「330万円(税込・税抜300万円)」と、同じ文字の大きさで書く
- 型C:サービス料まで入れた総額を出す。「363万円(税・サービス料込)」と書く
僕なら、サービス料を別に取る会場は型Cに寄せます。理由は、二人が最終的に払う金額と、サイトの数字が一致するからです。ただし、料金の内訳を細かく見せたい会場は、型Bの後ろにサービス料の内訳を1行足す形でも成り立ちます。表示のどこを主役にするかは、会場の方針で決められます。
割引の書き方も、同じ日に直す
先ほど触れた割引の表示も、同じ日にまとめて直せます。
- 「成約で30万円OFF」。割引額だけの表示は、対象になりません。そのままで構いません
- 「通常300万円が270万円(税別)」。値引前と値引後の価格が出ているので、税込に直す必要があります。「通常330万円が297万円(税込)」とします
- 期限つきの特典。「期限」を書いた特典は、期限が過ぎたあとの実態も景品表示法の見られどころになります
割引額で見せるか、値引後の価格で見せるかは、読み手が受け取る印象が違います。割引額だけを書くなら、金額の水準は載らないので、税込・税別の問題が生じません。逆に、値引後の価格まで見せたいなら、そこは税込の価格で揃えます。
変更をいつ入れるか
最後に、実施のタイミングです。
- 料金改定と同じ日にやると、直した理由が「改定」にまぎれて、二人にも説明しやすくなります
- 改定が当分ないなら、閑散期の平日に、10ページ分をまとめて入れ替えます
- 入れ替えの前後で、フェア予約数と成約率を月別に記録しておきます。1か月では揺れが大きいので、3か月は様子を見ます
成約率の月ごとの揺れは、年120組の会場なら、1組の違いで0.8ポイント動きます。表示を直した効果を見たいなら、1か月の数字で結論を出さないほうが安全です。
まとめ
- 不特定多数に向けた公式サイト・チラシ・ポータルの価格表示は、消費税法63条の総額表示義務の対象です。税別だけの表示は、2021年4月以降、原則として認められていません
- 請求書・領収書、口頭で伝える価格は対象外です。見積書は、特定の二人に出すものなら条文の「不特定多数」に当たらない、というのが僕の読みです
- 税込と税抜の併記は認められます。ただし税抜を強調して税込が見えにくいと、総額表示を満たしません
- 仮の式場では、税別300万円は、税込330万円、サービス料も入れて363万円。差は21%です
- 成約率が1ポイント動くと、年600組の来館で約6組、売上で約2,000万円規模です。税別表示が成約率にどれだけ効くかは、公開データを見つけられませんでした
- 直す手間は、仮の置き方で7時間前後です。罰則はありませんが、手間が小さいので更新のついでに直せます
- 割引額だけの表示は対象外です。値引前後の価格を載せるときは、税込で揃えます
