招待状を紙からWebに替えると、仮の式場では1組あたり粗利が9,200円動く。事務の削減が2.5時間分あれば釣り合う
結婚式の招待状が紙からWebに替わっていく流れは、式場にとって「ゲストに優しい新しい形」という話で語られがちです。ただ、式場の側から見ると、これは売上の話でもあります。ペーパーアイテムは、式場が粗利を取っている商品だからです。
先に結論を書きます。紙の招待状1通の粗利を230円、1組あたり40通と仮置きすると、1組の紙の粗利は9,200円です。年120組なら110万円になります。Webに替わった組はこの粗利が消えます。一方で、返信の回収や集計にかかっていた担当者の時間は減ります。担当者の1時間を2,500円と置くと、減る時間が2.5時間なら、1組あたりの差はほぼ埋まります。
この記事で出典のある数字は、郵便料金だけです。それ以外はすべて僕が置いた仮の数字で、式場ごとに違います。どこを自分の数字に替えれば答えが変わるかが分かるように、前提を最初に並べます。
先に置く前提
仮の式場は、挙式が年120組です。招待状は世帯単位で出す想定で、1組あたり40通。70人の披露宴なら、夫婦や家族でまとめて1通にするので、人数の6割弱が通数になります。この40通という数字も仮置きで、会場の平均人数が違えば変わります。
紙の招待状セットは、式場が新郎新婦に1通450円で売り、原価が220円とします。セットには本状、返信はがき、封筒、同封物が入っている想定です。粗利は1通230円、1組40通で9,200円です。
郵便料金だけは出典があります。日本郵便は2024年10月1日に料金を改定し、25g以内の定形郵便は84円から110円に、はがきは63円から85円になりました。招待状を出して返信はがきで返してもらうと、1通あたり110円と85円で195円です。40通なら7,800円。これは新郎新婦が自分で払う費用で、式場の売上にも原価にも入りません。ただ、Webに替えると新郎新婦のこの7,800円が浮くので、Webを勧めるときの説明材料にはなります。
担当者の時間は、1時間2,500円で置きます。給与と社会保険、その時間に他の仕事をしていれば取れたはずの成果を含めた、ざっくりした値です。
紙の粗利が消える額
Web招待状に替える組の割合を、仮に2割、4割、6割と置いて、失う粗利を計算します。
- 2割が替えると、年120組のうち24組で、失う粗利は22万円
- 4割なら48組で、44万円
- 6割なら72組で、66万円
全組が紙なら年110万円ある粗利が、Webへの移行で削られていきます。4割で44万円という額は、決して軽くはありません。ただ、式場全体の粗利から見ると小さな項目です。1組の粗利が140万円なら、年120組で1億6,800万円なので、44万円は0.3%に当たります。
もう一つ気をつけたいのは、この粗利が「もともと取れていた」ことが前提になっている点です。新郎新婦が招待状を外部のネットショップで作って持ち込む組は、すでに式場の粗利に入っていません。紙の招待状を式場で買う組の割合が低い式場では、そもそも失う粗利が小さくなります。自分の会場で、ペーパーアイテムの購入率がどれくらいかを、まず見てください。
Webにすると減る事務
粗利が消える一方で、Web招待状には式場の事務を減らす面があります。紙の招待状では、次のような仕事が担当者に回ってきます。
返信が来ない人への催促は、新郎新婦に任せる式場が多いのですが、結局は担当者が「お返事の状況はいかがですか」と確認を入れます。返信はがきの内容、つまり出欠、アレルギー、席次の希望は、新郎新婦が自分で表にまとめて担当者に渡します。住所の確認や宛名のミスの対応も、担当者に相談が来ます。
Webで出欠をとれば、これらの情報は最初から表の形で集まります。担当者は集計表を受け取るだけです。仮に、紙の招待状で担当者が1組あたり2時間使っているとして、Webなら半分になるなら、減る時間は1時間で2,500円です。減る時間が2時間なら5,000円、3時間なら7,500円になります。
この「1組あたり何時間」は、僕が置いた数字です。式場の担当者に、返信の回収・集計・催促にかかった時間を1組分だけ記録してもらうと、仮置きを実測値に替えられます。ここが、この記事でいちばん効く計算の入口です。
差し引きの計算
Web招待状に替わった1組について、式場が失うものと得るものを並べます。
失うのは紙の粗利9,200円です。得るのは担当者の時間が減った分で、1時間なら2,500円、2時間なら5,000円、3時間なら7,500円。差し引きは、1時間で6,700円の損、2時間で4,200円の損、3時間で1,700円の損です。損益がゼロになる時間は9,200円÷2,500円で3.7時間です。つまり、事務の削減だけで紙の粗利を取り戻すには、1組あたり約3.7時間が浮かなければなりません。
3.7時間というのは、現実には大きい数字です。Web化で半分に減るとしても、紙の事務に1組7時間以上かけている計算になります。そこまで重いなら、招待状より先に直す仕事があるはずです。事務の削減だけで釣り合わせるのは、多くの式場で難しいと僕は見ています。
Webを有料にする選択
ここで、もう一つの手を計算に入れます。Web招待状を、式場が有料のオプションとして出す形です。
仮に、新郎新婦から5,000円をもらい、式場がWeb招待状のサービスに払う費用が1組2,000円とします。式場に残る粗利は3,000円です。そこへ、事務の削減が2時間分あれば5,000円を足して、合計で8,000円。紙の粗利9,200円との差は1,200円まで縮まります。
釣り合う条件も出せます。事務の削減が2時間なら、新郎新婦からもらう料金が6,200円(サービス費用2,000円を引いた粗利が4,200円)で、9,200円と並びます。事務の削減が1時間なら、料金は8,700円ほどです。逆に事務の削減が3時間以上なら、料金は3,700円で足ります。
新郎新婦から見ても、Webにすれば郵送費7,800円が浮きます。料金を5,000円にしても、新郎新婦の手元には2,800円が残る計算です。式場が粗利を落とさず、新郎新婦の負担も減らす値付けは、ある程度の幅で成り立ちます。ただし、この「幅」は、サービス費用とWebへの移行率の仮置きに依存します。
判断の分かれ目
この計算から、どんな式場が慌ててWeb対応を急ぐべきで、どんな式場は急がなくていいかが見えてきます。
ペーパーアイテムの購入率が高く、担当者の事務が重い式場は、Webの有料化が効きます。粗利を守りながら事務時間を取り戻せるので、Webを置く価値が大きいからです。
反対に、ペーパーアイテムをもともと外注や持ち込みに任せている式場は、失う粗利がほぼありません。Webは単純に事務の削減分だけ得をします。この場合は、選択肢として置いておくだけで構いません。
微妙なのは、紙の購入率が高く、事務も軽い式場です。紙の粗利が大きく、Webの利点が小さいので、無理にWebへ誘導するとむしろ損をします。ここは「新郎新婦が望むときだけ」の対応で十分だと思います。
もう一つ、数字に出にくい要素があります。ゲストの年齢層です。親族に高齢の方が多い披露宴では、Webの招待に違和感を持つ人がいます。フォーマルな印象を持ちにくいと感じる人もいる、という声はWebの解説記事にも出てきます。Webの案内が可能でも、親族だけは紙で出す組み合わせが現実的な組も多いでしょう。その場合、紙の通数は40通から15通ほどに減り、粗利も3,450円まで縮みます。Webとの併用が増えるほど、紙の粗利の減り方は、移行率の仮置きよりもなだらかになります。
見落としやすい二つの数字
この計算には、入れていない項目が二つあります。
一つは、最終人数の確定が早まる効果です。Webで出欠を集めると、返信の期限が過ぎた時点で、誰が未回答かがその場で分かります。紙だと、はがきが新郎新婦の自宅に届いて、集計表になって、担当者に渡るまでに数日かかります。最終人数が確定するのが数日早まれば、料理や引出物の発注の見直しが早くでき、人数変更による手直しも減ります。ただ、どれだけ早まって、いくらの得になるのかは、僕には置ける数字がありません。計算に入れなかったのは、そのためです。
もう一つは、繁忙期の担当者の余力です。担当者の1時間を2,500円で置いたのは、平均的な値です。ただ、土日の前後で新規の見学を受けたい時期に、担当者の事務が1組あたり1時間減ると、その1時間は見学の対応に回せます。見学が満枠で断っている日があるなら、この1時間の価値は2,500円より高くなります。逆に、見学に空きがある時期なら、浮いた時間はほぼ価値になりません。
つまり、同じ「2時間減る」でも、断っている日が多い式場と少ない式場では、答えが変わります。この記事の計算で言えば、減る時間の価値を2,500円から3,500円に置き直すだけで、2時間なら7,000円、必要な料金は4,200円まで下がります。
確かめる数字
最後に、この計算を自分の会場の数字に替えるための項目を並べます。
- 紙の招待状を式場で買う組の割合(購入率)
- 1通あたりの粗利と、1組あたりの平均通数
- 返信の回収・集計・催促にかかった担当者の時間(1組分を実測する)
- Webサービスの1組あたり費用
- Web招待状を有料にしたときの、新郎新婦の反応(申込み率)
5番だけは、仮置きでは分かりません。実際に出してみて、申込み率を見るしかありません。1年やって、申込みが2割で止まるのか、4割まで増えるのかで、冒頭の110万円という数字の意味も変わります。
まとめ
- 紙の招待状の粗利は、仮の式場(1通230円、1組40通、年120組)で1組9,200円、年110万円
- Webに替わる組は、その粗利が消える。4割が替わると年44万円
- 事務の削減だけで釣り合わせるには、1組あたり約3.7時間が浮く必要があり、多くの式場では届きにくい
- Webを有料オプションにすれば、事務の削減が2時間分で、差は1,200円まで縮まる
- 郵便料金は2024年10月から定形110円・はがき85円で、1組40通なら新郎新婦の郵送費は7,800円。Webにするとこれが浮く
- 紙の購入率が低い式場は、失う粗利が小さいので、Webを置くだけで得をする
- 郵便料金以外の数字はすべて仮置き。担当者の時間は、1組分を実測すれば置き換えられる
