契約後の打合せで追加オプションを何件提案するか。仮の式場では、1件ずつより3件ずつのほうが年117万円多い。ただし解約が年0.8組増えれば消える
契約が決まったあとの打合せで、プランナーは追加のオプションを提案します。装花のグレードアップ、演出の追加、映像、ペーパーアイテム、料理やドリンクの変更などです。契約時の見積もりは、ここから増えていきます。
その提案を、1回の打合せで何件出すかは、式場ごとにほとんど決まっていません。ベテランのプランナーは話の流れで3つ出し、新人は1つに絞り、別の人は「聞かれたら出す」という運用です。件数は個人の癖で決まっていて、会場としての方針になっていないことが多いのではないかと、僕は見ています。
結論を先に書きます。年120組の仮の式場で、打合せ5回のうち毎回1件だけ提案する運用と、毎回3件ずつ提案する運用を比べると、3件のほうが年117万円多く残ります。ただし、提案が増えたことで解約が年に0.84組増えれば、この差は消えます。120組に対する割合では、0.7ポイントです。
つまり、件数を決める前に見るべきなのは、提案の件数を増やしたとき、1件あたりの採用率がどれだけ落ちるか、そして、増やしたことで二人の不満や解約がどれだけ動くかです。この2つが、損益を決めます。
なお、この記事の数字はすべて、僕が置いた仮の前提です。契約後の追加提案の採用率や、平均単価について、僕が確かめられた公開データはありません。業界の相場として読まず、自分の会場の数字に置き換えるための型として読んでください。
前提を先に置きます
仮の式場の前提は次のとおりです。
- 年間の挙式は120組、1組あたりの粗利は140万円です
- 契約後の打合せは、1組につき5回で、そのうち毎回、追加提案の時間を取れるとします
- 追加オプションの平均単価は4万円、粗利率は5割とします。1件採用されれば、粗利は2万円です
- 1件の提案に必要な準備(見積もりの作成、サンプルや写真の用意)は、15分とします
- スタッフ1人の1時間あたりの人件費は、社会保険などを含めて2,500円とします
この中で、結果をもっとも動かすのは、採用率です。1回の打合せで出す件数が増えると、1件あたりの採用率は落ちるはずだ、というのが、この計算の核になる仮定です。
理由は2つ考えられます。1つは、二人の予算には上限があるため、3件のうち全部を買う人は少なく、「どれか1つ」に集中することです。もう1つは、選択肢が増えると決めきれず、「次回に」と先送りされることです。
そこで、1回の打合せで出す件数ごとに、1件あたりの採用率を次のように置きます。
- 1件だけ提案する場合は、採用率20%
- 2件の場合は、1件あたり15%
- 3件の場合は、1件あたり12%
- 5件の場合は、1件あたり7%
1件のときの20%は、僕が置いた数字です。3件で12%、5件で7%と落ちていくのは、上に書いた理由から、減り方がなだらかではなく、増やすほど加速して落ちる形を想定したものです。この形が妥当かどうかは、後で動かして確かめます。
件数ごとの損益
打合せ5回なので、1組あたりに出す提案の総数は、1回の件数に5を掛けた数になります。採用される数は、総数に採用率を掛けます。
1件ずつの場合は次のとおりです。
- 提案の総数は5件、採用は5 × 20% = 1.0件
- 追加の粗利は、1.0件 × 2万円 = 2万円
- 準備の人件費は、5件 × 15分 = 75分で、約3,100円
- 差し引きは、1組あたり約1.7万円。120組で年202万円です
3件ずつの場合は次のとおりです。
- 提案の総数は15件、採用は15 × 12% = 1.8件
- 追加の粗利は、1.8件 × 2万円 = 3.6万円
- 準備の人件費は、15件 × 15分 = 225分で、約9,400円
- 差し引きは、1組あたり約2.7万円。120組で年320万円です
3件のほうが、年117万円多くなります。
ほかの件数も同じ計算で出します。
- 2件ずつは、差し引き1組あたり約2.4万円で、年285万円
- 5件ずつは、差し引き1組あたり約1.9万円で、年233万円
件数と損益を並べると、2件、3件のあたりで最大になり、5件まで増やすと、むしろ下がります。採用率の落ち方が速くなるため、増やした分の準備の手間が、追加の粗利に見合わなくなるからです。
この山の形は、仮の前提から出てきたもので、実際の山の頂点が何件にあるかは、会場ごとに違います。形として覚えておいてほしいのは、増やせば増やすほど得になるわけではなく、どこかに頂点がある、という点です。
差の117万円は、どれだけ脆いか
1件ずつと3件ずつの差、年117万円は、前提を動かすとどう変わるでしょうか。3件のときの採用率を動かして確かめます。
- 3件のときの採用率が12%なら、差は年117万円
- 10%なら、差は年45万円
- 8%まで落ちれば、差は年マイナス27万円で、1件ずつのほうが得になる
1件20%の採用率が、3件で8%まで落ちる、つまり6割減になる会場では、件数を増やすほど損をします。逆に、3件で12%に留まる、つまり4割減で済むなら、3件が得です。
ここから、判断の線がはっきりします。件数を増やす前に確かめたいのは、1件のときの採用率に対して、3件のときの採用率が何割落ちるかです。4割減までなら得、6割減なら損です。この線は、僕が置いた単価と粗利率で引いたものですが、線の存在自体は、前提が変わっても残ります。
平均単価を動かしても確かめます。
- 平均単価が2万円なら、差は年21万円で、ほぼ並びます
- 平均単価が4万円なら、差は年117万円
- 平均単価が6万円なら、差は年213万円
単価が高いほど、件数を増やす利点は大きくなります。逆に、単価の低い小物のオプションを3つ並べても、準備の手間に見合わず、差は年20万円程度に縮みます。提案の件数を増やすときは、単価の高いものを足すほうが、損益には効きます。
見えない損:解約と不満
ここまでの計算には、含まれていない損があります。提案が増えたことで、二人が不満を持つ、あるいは解約する、という損です。
契約後の打合せは、二人にとって、決めることの多い時間です。そこへ追加の提案が毎回3件来れば、「また売り込まれる」と感じる二人も出てくるでしょう。そう感じた二人が、契約後の解約に至る割合を、増えた分だけ見積もってみます。
1組あたりの粗利が140万円なので、年117万円の差が消えるのは、解約が117万円 ÷ 140万円で、年約0.84組増えたときです。120組に対して0.7ポイントです。
つまり、提案を毎回1件から3件に増やしたことで、契約後の解約が、仮に今1.0%だとして1.7%に上がれば、追加提案で稼いだ分は消えます。120組で、解約が1組増えるかどうかの話です。
この0.7ポイントは、大きいでしょうか、小さいでしょうか。年間の解約が1組増えるかどうか、という水準は、年間の数字を見ていても、偶然の揺れと区別できません。解約の理由は、提案の件数だけでなく、親の意向や、費用の見え方、日程など、多くのことで決まるからです。
そのため、件数を変えた効果は、解約率の変化として測るのではなく、別の指標で見る必要があります。たとえば、打合せの途中で二人が口にした言葉、アンケートの自由記述、打合せの回数あたりの満足度などです。
提案を増やす前にやること
件数を決める前に、やっておきたいことが3つあります。
1つ目は、今の提案の件数と採用率を、数えることです。プランナーごとに、1回の打合せで何件出していて、そのうち何件が採用されているのか。多くの会場では、これが数えられていません。数えられていないなら、まず1か月、記録を取ります。
2つ目は、提案を、単価と二人の優先度で並べることです。件数を増やすとしても、単価の低いものを足すのではなく、二人がすでに口にしている関心に沿った、単価の高いものを足します。装花に関心がある二人には、装花のグレードの提案を。映像に関心がある二人には、映像の提案を。件数を増やすのではなく、当たりの精度を上げる、という考え方です。
3つ目は、提案の置き場を、打合せの前半に集めないことです。1回の打合せの中で3件を続けて出すのではなく、3件を異なる回に分けて出せば、1回あたりの件数は1件に保ったまま、5回で出す総数は増やせます。先に見た「1回あたりの件数が増えると採用率が落ちる」という仮定は、1回あたりの件数にかかっているので、回をまたいで分ければ、落ち幅を小さくできる可能性があります。
3つ目は、とても現実的な打ち手です。5回の打合せで、1回目に装花、2回目に演出、3回目に映像、というように、回ごとにテーマを決めて、そのテーマの提案だけを出します。二人にとっても、今日は何を決める日かが分かりやすくなります。
提案の型を固める
提案の件数を会場の方針にするなら、型を作ります。次のような形です。
- 打合せ1回につき、提案は最大2件。うち1件は、二人が前回までに口にした関心に沿ったもの
- 提案の前に、予算の残りを確認する。確認した予算を超える提案は、その回では出さない
- 二人が「考えます」と言ったものは、次回の最初に、1度だけ再確認する。2度は聞かない
- 提案を採用しなかった理由を、一言メモに残す。理由が価格なら、次の提案は、価格を下げた形を出す
最初の2件という上限は、先の計算で、2件ずつが年285万円と、3件ずつの320万円に近い数字になるためです。3件目を足したときの上積みは、準備の手間と不満のリスクを考えると、小さいと見ています。
件数より先に、数える
この記事で言いたいことは、3件が正解だ、ということではありません。仮の前提では、1件より3件が年117万円多く、2件と3件の差は年35万円ほどでした。ただ、その差は、3件のときの採用率が12%から8%に落ちると消えます。
決めるのは、会場の数字です。現状の提案件数と採用率を数えること。数えたうえで、件数を増やしたとき、1件あたりの採用率が何割落ちるかを見ること。そして、解約や不満の指標が動いていないかを、見ておくこと。この3つが揃って初めて、件数は、方針として決められます。
いまは、プランナー個人の癖になっているこの件数を、会場の数字に置き換えること自体が、年に数十万円から百万円ほどの差になりうる、というのが、この計算から言えることです。
まとめ
- 契約後の打合せで追加オプションを毎回1件から3件に増やすと、仮の式場(年120組、打合せ5回、平均単価4万円、粗利率5割)では、年117万円多く残る。ただし、これは僕が置いた仮の前提での計算
- 件数と損益には山がある。2〜3件で最大になり、5件まで増やすと採用率の落ち方が速くなって下がる
- 差の117万円は、3件のときの採用率が12%から8%に落ちると消える。見るべきは、1件のときに対して3件のときの採用率が何割落ちるか。4割減までなら得、6割減なら損
- 平均単価が2万円まで下がると差は年21万円に縮む。件数を増やすなら、単価の高いものを足す
- 差が消える解約の増加は、年0.84組、120組に対して0.7ポイント。偶然の揺れと区別できないため、解約率ではなく、打合せ中の言葉や自由記述で見る
- 件数を決める前に、今の提案件数と採用率を1か月数える。提案は回ごとにテーマを分けて、1回あたりの件数を増やさずに総数を増やす
