来館・成約

式場見学の帰りに渡す紙は、他の式場にも聞く質問リストにする

式場見学の帰り際に渡す紙は、たいてい自社のパンフレットか、見積書です。僕は、そこに1枚だけ別の紙を足すことを提案します。「ほかの式場を見るときにも聞いてほしい質問」を並べた紙です。

自社の宣伝にならない紙を、わざわざ渡す。一見すると、損をしにいく話に見えます。でも二人は、どうせ比べます。比べるなら、比べる物差しを式場側が先に渡してしまったほうが、自社の強みが物差しの中に入ります。この記事は、その理屈と作り方、向かない条件の話です。

二人は何軒か回って、比べる

ゼクシィの会場見学の記事では、見学の軒数について「3軒を目安に回るのがおすすめ」と書かれています。多すぎても少なすぎてもよくない、という立て付けです。二人にいちばん読まれている媒体が、比べることを前提に案内しているわけです。

一方で、TAIANが2022年5月に出した成約プロセスの調査では、契約者の約半数が最初に見学した式場で契約していました。つまり「比べる人が多いけれど、1軒目で決める人も半分いる」という、少し食い違う二つの傾向が同時にあります。

どちらの二人にも共通するのは、見学のあとに自宅で「あの会場、結局どうだったっけ」と思い出す時間があることです。そのとき手元にある紙が、二人の思い出し方を決めます。

パンフレットを渡すと、二人は式場がそう見せたい順番で思い出します。見積書を渡すと、金額で思い出します。質問リストを渡すと、「あの会場は、この質問にどう答えてたっけ」と、答えを思い出そうとします。思い出す単位が変わるのが、この紙の効きどころです。

紙に書くのは質問だけ、答えは書かない

作りは簡単です。A4の片面に、質問を6つ前後並べます。ただし式場側の答えは書きません。ここが肝です。

質問の例を挙げます。

  • 見積書の総額には、衣装・写真・装花のうち何が含まれていますか
  • 契約から挙式までに、見積もりが上がる項目はどれですか
  • 招待状を出したあとに人数が減ったとき、料理の費用はいつまで調整できますか
  • 当日の担当者は、打ち合わせの担当者と同じ人ですか
  • 雨の日や暑い日は、ゲストの動線がどう変わりますか
  • 試食で出た料理は、披露宴の料理と同じですか

どれも、二人が契約後に「聞いておけばよかった」となりやすい項目です。答えを書かない理由は2つあります。

1つめは、答えを書いた瞬間に、紙が宣伝物に戻るからです。二人は宣伝物だと分かると、読み方を変えます。2つめは、答えが紙に固定されると、会場側が後から条件を変えにくくなるからです。式場にとっては不利に見えますが、質問だけの紙なら二人は「自分たちのためのチェックシート」として受け取ります。答えを書かないことが不安材料になる心配は、まずありません。

渡すのは見学の最後、自分たちで答えを聞いたあと

渡すタイミングは、見学の最後です。ここで大事なのは、渡すだけで終わらせないことです。

「今日のお話の中で、この質問の答えはほぼお伝えできたと思います。もし抜けているものがあれば、いま聞いてください」と言って、その場で二人と一緒に紙をなぞります。6つのうち、見学中に答えたものに鉛筆でチェックを入れます。抜けていた質問があれば、そこで答えます。

この作業には3〜4分かかります。見学全体で考えると短い時間ですが、二人にとっては「この式場は、聞かれて困る質問がない」という印象が残る、おそらくいちばん安い手段です。

ここで質問に詰まる項目が出たら、それは式場側の宿題です。たとえば「見積もりが上がる項目」に即答できないなら、紙を作る前に、社内で答えを揃えておく必要があります。紙は、社内の答えの揃い具合を確かめる道具にもなります。

他社の物差しを渡すと、自社の強みが入る

「ほかの式場にも聞いてほしい」と添えると、二人は2軒目、3軒目でもこの紙を使います。質問の順番や言い回しは、1軒目の式場が決めたものになります。

仮に自社の強みが「総額が見積もりから動きにくいこと」だとします。そのときは、質問リストの1番目と2番目を、見積もりの範囲と上がる項目にします。二人が他の式場で同じ質問をすると、答えの差が自然に見えます。逆に、強みと関係のない質問ばかりを並べても、物差しとしては弱いです。

これは、他社をけなす話ではありません。事実を聞く質問だけにします。「御社は○○ですか」と相手を決めつける聞き方や、特定の他社を想像させる書き方は避けます。誠実な式場ほど、聞かれて困らないはずの質問です。

向かない条件もある

この紙が向かない式場もあります。

最初の条件は、答えが揃っていない式場です。見積もりの上がり方や担当者の体制が、人によって説明が違う状態なら、質問リストは自分の首を絞めます。まず社内の答えを1本に揃えるのが先です。

2つめは、強みが物差しに乗らない式場です。たとえば「景色が圧倒的にきれい」という強みは、質問では測れません。この場合は、質問リストより、写真や動画で見せたほうが効きます。質問リストに強みを載せようとして、無理に項目を増やすのは本末転倒です。

3つめは、1日に何組も詰めて見学を受けていて、紙をなぞる3〜4分が取れない式場です。渡すだけの紙は、パンフレットが1枚増えるのと変わりません。なぞる時間が取れないなら、見学の最後に質問を3つだけ口頭で確認するほうが現実的です。

効果は測れるか、仮の計算で確かめる

効果を実数で言い切れる出典は、僕の手元にはありません。そこで、前提を置いた仮の計算だけしておきます。

仮に、月に60組の見学を受ける式場があるとします。1年で720組です。紙は1枚10円で印刷するとして、年間の紙代は7,200円です。成約1組の粗利を仮に100万円とすると、紙代7,200円は、成約が年に1組増えれば(100万円)、138倍の粗利で戻ってくる計算です。

720組の見学のうち1組、成約率でいえば0.14ポイントの動きで元が取れます。もちろんこれは、紙代だけを見た話です。質問に答えられるよう社内を揃える手間や、見学の最後にかける3〜4分の時間は入っていません。その3〜4分を、月60組分に当てはめると、月に約3〜4時間です。この時間が、ほかの接客を削っていないかも確かめます。

測るなら、紙を渡した月と渡さなかった月で比べるより、渡した組と渡さなかった組を同じ月の中で分けるほうが、季節の影響が混ざりません。ただ、渡す組を担当者の気分で決めると偏ります。たとえば「週の前半の見学は渡す、後半は渡さない」のように、決め方を先に固定して、2〜3か月続けてから判断します。

紙を渡したあとの連絡

紙を渡したあとの連絡も、質問リストに合わせます。見学後のお礼連絡の中で「あの紙の質問で、まだ答えが足りなかったものはありますか」と一文だけ添えます。これは営業の誘いではなく、答え漏れの確認です。二人から返事が来たら、それは「この式場とまだ比べている」というサインでもあります。

返事が来なかった場合は、何もしません。繰り返し聞くと、確認が追客になってしまいます。

質問は契約後の「聞いていなかった」から拾う

6つの質問を何から選ぶか。いちばん確かなのは、自社の契約後の記録です。打ち合わせで二人が驚いた場面、追加の費用が出て揉めかけた場面、担当者が答えに詰まった場面を、過去半年分ほど書き出します。そこで出た「聞いていなかった」「知らなかった」が、そのまま質問になります。

たとえば、人数が減ったときの料理の締め日で何度も話がこじれたなら、それは業界全体でも起きやすい論点のはずです。ただし、これは僕の推測で、業界全体の傾向を示す数字は手元にありません。だから紙には、自社で実際に起きたことだけを質問にします。他社の事情を想像して項目を足すと、質問が散らかります。

質問を拾う順番は次のとおりです。

  1. 契約後に二人が驚いた回数の多い項目から並べる
  2. 自社が即答できて、かつ他社だと答えが分かれそうな項目に印をつける
  3. 印のついた項目を先頭に置き、残りで6つに揃える

3の「他社だと答えが分かれそうな」は、あくまで見立てです。二人が実際に比べた結果、思ったほど差が出なかった項目は、次の見直しで外します。

2軒目の式場で何が起きるか(仮の場面)

ここからは、実在の事例ではなく、動きを想像するための仮の場面です。

1軒目で質問リストをもらった二人が、2軒目の式場に行きます。担当者の説明が一通り終わったあと、二人が紙を取り出して「これを聞いてもいいですか」と言います。担当者は、その場で6つの質問に答えます。

もし2軒目の担当者が、見積もりが上がる項目に「ケースバイケースです」と答えたら、二人は紙の1番目に「答えが具体的でない」とメモします。1軒目の担当者は、何も言わずに、二人の比較の物差しになっています。逆に2軒目が具体的に答えれば、1軒目は「質問の質が高い式場」として記憶に残ります。どちらに転んでも、二人の頭の中で質問リストを渡した式場は、比較の出発点に立てるわけです。

作るときの注意

  • 質問は6つ前後に絞ります。10個を超えると、二人は他の式場で使いません
  • 式場名やロゴは小さく入れます。大きく入れると宣伝物になります
  • 数字を伴う質問は、数字で答えてもらえる聞き方にします。「安心ですか」ではなく「いつまで調整できますか」です
  • 年に1回、質問を見直します。自社が答えにくくなった項目は、制度を直すか、質問を外すかを決めます
  • 質問の答えは、見学の担当者全員が同じ内容で話せるようにしておきます

まとめ

  • 二人は何軒か回って比べます。ゼクシィは3軒を目安に勧めています。比べられること自体は止められません
  • 見学の帰りに渡す紙を「ほかの式場にも聞く質問リスト」にすると、二人の思い出し方が、式場の見せ方ではなく質問への答えに変わります
  • 紙に書くのは質問だけです。答えを書くと宣伝物に戻ります
  • 渡すときは見学の最後に、二人と一緒に紙をなぞります。詰まる質問があれば、それは社内の宿題です
  • 向かないのは、答えが社内で揃っていない式場、強みが質問に乗らない式場、なぞる時間が取れない式場です
  • 効果は仮の計算では年に1組の成約増で元が取れますが、実数は渡した組と渡さなかった組を同じ月で分けて測ります