業界動向

社会保険の適用拡大で、従業員40人の仮の式場は配膳パート14人に年312万円を足す。週19時間に切れば増員2人で済むが、1人の採用に141万円かかるなら加入のほうが安い

2027年10月から、社会保険の加入義務が従業員36人以上50人以下の会社にも広がります。ブライダルの式場は、正社員の数だけ見れば30人台から50人前後の会社が多く、土日に入る配膳パートの数は正社員より多い会場もあります。この制度の変更は、式場の人件費に直接入ってくる話です。

先に結論を書きます。週の所定労働時間が20時間を超えるパートが多い式場は、加入させる前提で人件費を組み直したほうがいい。ただし、シフトを週19時間以内に収めて増員で補う手もあり、どちらが安いかは「1人を採って育てるのにいくらかかるか」で決まります。仮のモデルでは、その線は1人あたり約141万円でした。ここでは、制度の日程を確かめたうえで、従業員40人、配膳パート14人の仮の式場で計算します。

制度の中身と日程

使う出典は厚生労働省の案内ページ(社会保険適用拡大制度について)ひとつです。短時間で働く人が社会保険に加入する条件は、次の通りに示されています。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生ではない
  • 2か月を超えて雇用される見込みがある
  • 月額8.8万円以上の賃金要件は、2026年10月に撤廃された
  • 企業規模の要件がある

企業規模の要件が段階的に下がっていきます。厚労省の案内では、従業員数が51人以上の会社は2027年9月まで、36人から50人の会社は2027年10月から、21人から35人の会社は2029年10月から、11人から20人の会社は2032年10月から、10人以下の会社は2035年10月からです。

従業員数の数え方にも決まりがあります。フルタイムの従業員数に、週の所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員を足した数です。週40時間のフルタイムなら、週30時間以上のパートまでが数えられます。週22時間のパートは、会社の人数にはまだ入らないけれど、会社が基準を超えれば自分は加入の対象になる、という位置にいます。法人全体で数えるので、複数の会場を持つ会社は、会場ごとではなく会社全体の人数が基準になります。

学生は対象外です。配膳のアルバイトは大学生が多い現場なので、この除外が効いてきます。ただし、案内ページには、一部の教育施設に在学する人は対象外になる一方、休学中の人や定時制、通信制の人は対象になる、とも書かれています。「学生だから大丈夫」と一括りにせず、在籍の状況を確かめる必要があります。

仮の式場を置く

数字は全部、僕が置いた前提です。調査の数字ではありません。

  • 従業員はフルタイムと週30時間以上のパートを合わせて40人。2027年10月から対象になる36〜50人の区分に入る
  • 加入の対象になる配膳パートは14人。週22時間で、学生ではない人
  • 時給は1,300円、年52週働く
  • 1人の年間の支給額は、1,300円×22時間×52週で148.7万円
  • 社会保険料の事業主負担は、支給額の15%と仮置きする。厚生年金は労使折半で、事業主の負担は保険料率の半分。健康保険は加入先や都道府県で率が違うので、15%は丸めた置き方です。自分の会場では、実際の保険料率で置き直してください

このとき、1人あたりの事業主負担は年22.3万円。14人で年312万円です。

312万円という数字は、式場の損益では小さくありません。仮の式場で1組の粗利を100万円とすれば、年3組ぶんに近い金額です。しかも制度なので、成約が増えても減りません。

選択肢は3つある

加入が必要になったとき、式場にできることは大きく3つです。

1つ目は、そのまま加入させる。事業主負担が年312万円増え、パート本人の手取りは保険料ぶん下がります。

2つ目は、手取りが下がらないように時給を上げる。本人の負担を仮に14.6%とすると、手取りを保つには支給額を約17.1%上げる必要があります。1人あたり年25.4万円、14人で年356万円。ここにさらに事業主負担がかかるので、合計は約409万円になります。1つ目に比べて約97万円高くなります。

3つ目は、所定労働時間を週19時間に抑えて、加入の対象から外す。

3つ目を詳しく見ます。

週19時間に抑えると、何人増やすことになるか

人手が必要な総時間は変わらない前提です。14人×週22時間で、週308時間。これを1人週19時間でこなすと、308÷19で約16.2人。約2.2人の増員になります。

2.2人を採るのに、採用と教育で1人あたりいくらかかるか。仮に10万円なら、2.2人で約22万円です。312万円と比べると、1桁小さい。

では、いくらを超えると、加入させたほうが安くなるのか。事業主負担312万円を増員2.2人で割ると、1人あたり約141万円です。1人を採って、育てて、現場に立たせるまでに141万円かかるなら、増員のほうが高くつきます。

この141万円は、普通の採用なら届かない金額に見えます。だから、数字だけを見れば「週19時間に抑える」が勝つ場面のほうが多いはずです。ところが、式場の現場では、この計算に入らない事情が3つあります。

計算に入らない3つの事情

1つ目は、土日に集中する需要です。配膳は挙式のある土日と祝日に人がいりますが、平日は要りません。週19時間に抑えるといっても、土日の2日で19時間なら、1日9.5時間。長い日になります。土日に出られる人しか増員の対象にならないので、採用できる人数が限られます。つまり、増員の費用は「採用の手数料」では収まらず、「そもそも来る人がいるか」の問題になります。僕は、ここが141万円の線より先に効くと見ています。

2つ目は、本人の希望です。週22時間で働いている人は、収入が目的で週22時間を選んでいる場合があります。19時間に減らすと、年の収入が約20万円下がる(1,300円×3時間×52週で約20.3万円)。それを嫌がって辞める人が出れば、増員の費用は採用だけでなく、辞めた人の穴埋めにも広がります。仮に14人のうち2人が辞めたら、増員は2.2人ではなく4.2人になり、教育費は2倍近くなります。

3つ目は、実態との差です。案内ページには、所定の労働時間に残業は原則として含まれないものの、残業が常に発生している場合は含むことがある、という趣旨の記載があります。契約は週19時間でも、実際に毎週21時間働いているなら、対象になる可能性があります。式場は挙式が延びる、片付けが長引く、といった理由で、実働が所定を超えやすい業種です。契約書の時間を19時間にして、現場の実働を放置したら、対策になっていない可能性があります。この点は、社会保険労務士など専門家に自分の会場の実態を見てもらうのが確実です。

負担率を動かすと、線はどこへ動くか

15%は僕が丸めて置いた数字なので、ここを動かして線の位置を見ておきます。

  • 負担率が12%なら、14人で年250万円。増員2.2人で割ると、線は1人あたり約113万円
  • 負担率が15%なら、年312万円。線は約141万円
  • 負担率が18%なら、年375万円。線は約170万円

負担率が3ポイント違うと、線は30万円近く動きます。それでも、1人の採用と教育に100万円以上かかる会場は多くないはずなので、この範囲では「週19時間に抑える」が安く出ます。つまり、費用だけで勝負すると、加入より抑えるほうが得に見えやすい。だから、前の節の3つの事情(土日に出られる人がいるか、辞める人が出ないか、実働が所定を超えていないか)を先に確かめないと、計算だけが先に走ってしまいます。

時給を動かしても同じ形です。時給が1,100円の会場は、1人あたりの支給額が下がるので負担も下がりますが、増員2.2人という数字は時間の比率だけで決まるので変わりません。負担が下がったぶん、線も下がります。時給が低い会場ほど、増員にかけられる費用の上限が低くなる、という順番です。

加入のほうが得になる場面もある

ここまでは、加入の費用だけを見てきました。加入させる側にも、費用では測れない意味があります。

厚生年金に入れば、パート本人は将来の年金が増えます。「うちで働くと年金が付く」ことは、採用の場面で、他の職場との差になりえます。配膳の人手が足りない会場ほど、採用の条件を上げる材料に使えます。これは数字にできませんが、1人あたり141万円という「増員にかかる費用」の線を、採用がむずかしい会場では押し上げる材料になります。

逆に、採用が楽な会場、学生が多く除外される会場では、そもそも対象が少ないので、312万円は小さくなります。仮の式場の14人を、学生を除いた人数として置いたので、学生が半分いる会場なら、対象は半分、負担も半分程度です。

自分の会場で数える手順

次の4つを、順番に数えます。

  1. 法人全体の従業員数を数える。フルタイムと、週の所定労働時間が30時間以上のパートが対象。36人以上50人以下なら2027年10月、21人から35人なら2029年10月が目安
  2. 週の所定労働時間が20時間以上で、学生ではないパートの人数を数える。学生は在籍の状況まで確かめる
  3. 事業主負担の率を、実際の保険料率で置く。支給額に掛けて、年の増加額を出す
  4. 週19時間に抑える場合の増員人数を出し、1人の採用と教育にかかる費用を、過去の求人費用や教育にかかった時間から置く

手順4で出した1人あたりの費用が、増加額を増員人数で割った線を超えるなら、加入のほうが安い。超えなければ、抑えるほうが安い。仮のモデルでは、その線が約141万円でした。

まとめ

  • 2027年10月から、従業員36〜50人の会社でも、週20時間以上、学生以外、2か月を超える雇用見込みのパートが社会保険の対象になる(厚生労働省の案内による)
  • 従業員数はフルタイムと週30時間以上のパートで数え、法人全体で見る
  • 従業員40人、週22時間の配膳パート14人の仮の式場では、事業主負担が年312万円増える(負担率15%の仮置き)
  • 手取りを保つために時給で補うと、合計は約409万円になる
  • 週19時間に抑えると増員は約2.2人で、1人の採用と教育に約141万円かかるなら、加入のほうが安い
  • 判断を左右するのは費用より、土日に出られる人を採れるか、辞める人が出ないか、実働が所定を超えていないか
  • 数字は全部仮置きなので、自分の会場の人数と保険料率で置き直す