業界動向

最低賃金が56円上がると、配膳の人件費は仮の式場で1組3,600円、年43万円。本当に効くのは、時給ではなく月給の側にある

最低賃金が上がると、式場の経営にはいくらの負担が乗るのか。ニュースでは「最低賃金、過去2番目の上げ幅」と流れますが、式場の損益に直すと何円なのかを、僕はあまり見かけません。

結論から書きます。1組の披露宴に配膳スタッフが延べ56時間入る仮の式場で、時給が一律56円上がると、1組あたり約3,600円、年120組で約43万円です。粗利140万円の1組の、3分の1にもなりません。

ただ、この43万円は「時給のスタッフだけ」の数字です。最低賃金は月給の社員にも効きます。基本給を月平均所定労働時間で割ると最低賃金を下回る人がいると、その分は法律の上で引き上げが必須になります。そこから賃金表の上下の差を保とうとすると、負担は時給分の数倍に広がります。この記事では、時給の側と月給の側を分けて、仮の式場で計算します。

数字は、最低賃金の改定額だけが公表された事実です。式場の人員や時給、社員の人数はすべて僕が置いた仮のものなので、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。

2026年度の最低賃金:全国平均1,177円、56円増

まず事実を確認します。労働政策研究・研修機構(JIL)の特集によると、2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円になりました。前年度から56円の引き上げです。引き上げ率は、前年度の1,121円からの計算で約5.0%になります。

地域別に見ると、最も高いのは東京都の1,280円、最も低いのは宮崎県の1,085円です。最低額が最高額の何割かを示す比率は84.8%で、12年連続で上がっています。地域差は少しずつ縮んでいます。

発効の時期は、10月1日から12月2日まで、都道府県ごとにずれます。10月中に発効するのは37都道府県で、残りは11月以降です。前年度は、全国加重平均で66円と過去最高の引き上げでした。6県は2026年に入ってから発効した年です。今年の56円は、その次に大きい上げ幅になります。

2年続けて大きな引き上げが来た計算で、66円と56円を足すと2年で122円です。式場の人件費の見直しは、1回の改定を乗り切れば終わる話ではなく、毎年の前提として組み込む段階に入っています。

時給の側:配膳スタッフ延べ56時間の仮の式場

次に、仮の式場を置きます。

  • 年間の挙式・披露宴は120組
  • 1組の披露宴に入る時給スタッフは、準備と片付けを含めて延べ56時間(たとえば8人が7時間ずつ)
  • 時給は、全員が一律で56円上がるとする
  • 時給に連動して増える会社負担(有給の手当、社会保険の一部、交通費の定額部分など)は、時給の15%を上乗せして見る

56時間に56円をかけると、1組あたり3,136円です。15%を上乗せすると3,606円になります。年120組なら、約43万円です。

この「56時間」が自分の会場に合っているかで、数字は大きく動きます。40時間なら1組2,576円(年約31万円)、72時間なら1組4,637円(年約56万円)です。年120組の幅で見ると、年31万円から56万円の間に収まります。粗利140万円の1組に直すと、0.22組から0.40組です。

つまり、時給のスタッフだけを見れば、最低賃金の引き上げは「1組の成約が減れば消える」程度の額です。1組あたりでは、総額343.9万円(ゼクシィ結婚トレンド調査2024)の0.1%ほどにしかなりません。値上げで吸収するにしても、1組3,600円は、見積書の端数の動きに隠れます。

ここで話が終われば、最低賃金の引き上げは小さな問題です。ところが実際の式場では、この時給の側の計算が、いちばん軽い部分になります。

時給の賃金表は、最低賃金だけでは決まらない

時給スタッフの賃金は、最低賃金そのものではなく、賃金表で決まっていることが多いです。たとえば次のような表です。

  • 新人:最低賃金+30円
  • 一般:最低賃金+100円
  • リーダー:最低賃金+250円

最低賃金が56円上がったとき、守らなければいけないのは新人の下限だけです。最低賃金+30円という新人の位置を保つなら、新人は56円上がります。一方で、一般やリーダーは、上げなくても法律違反にはなりません。

ここで2つの選び方があります。

1つ目は、新人だけを上げる。 新人20時間分、1組あたり1,120円(15%上乗せで1,288円)の増加で済みます。年120組で約15万円です。ただ、新人と一般の差が100円から44円に縮みます。新人から一般に上がっても、時給がほぼ変わらない表になります。

2つ目は、全員を同じだけ上げる。 56時間すべてで56円、前のとおり1組3,606円、年約43万円です。差は年約28万円で、これは「経験を積むと時給が上がる」という表の形を保つための費用です。

僕の考えでは、この28万円は、人件費というより採用の費用として見たほうが分かりやすいです。配膳は繁忙期の土日に人が集まらないと、1組あたりの人員が足りなくなり、接客の質が落ちます。経験者に辞められる損は、賃金表を保つ年28万円より、たいてい大きくなります。ただし、会場によって新人の入れ替わりの激しさは違うので、ここは各社の事情で判断が割れる部分です。

もう1つ、時給の側の見落としやすい点があります。扶養の範囲内で働く人は、時給が上がると、同じ年収のまま働ける時間が減ります。年収の壁の水準は制度改正で動いているので、ここでは数字を置きませんが、繁忙期の土日だけ入ってもらう人が壁に近いと、時給を上げた分だけシフトに入れる回数が減り、人員の穴が開きます。時給を上げたのに、人が足りなくなる構造です。

月給の側:最低賃金を下回る社員が出る水準

時給の側の次に確認するのが、月給の社員です。ここが、僕が一番言いたい部分です。

月給制の社員の賃金も、最低賃金と比べる決まりになっています。月給のうち、通勤手当、残業代、賞与などを除いた金額を、月平均の所定労働時間で割り、時給に直して最低賃金と比べます。

月平均の所定労働時間は、仮に年間休日105日、1日8時間で計算すると、(365日−105日)×8時間÷12か月で、約173.3時間です。この173.3時間をかけて、最低賃金で働いた場合の月給の下限を出します。

  • 東京都(1,280円):約22万1,800円
  • 全国平均(1,177円):約20万4,000円
  • 宮崎県(1,085円):約18万8,000円

東京の式場で、手当を除いた月給が22万円を切っている社員がいると、最低賃金を下回ります。初任給が20万円台前半の会社は少なくないので、東京の新卒や第二新卒の水準は、下限に近い位置にあります。基本給に手当を足して「総支給は23万円」と見せていても、通勤手当や残業代の見込み分は比べる対象から外れます。

実際のところ、この計算で引っかかるのは、入社して間もない人です。ベテランの給与が下限に触れることはほとんどありません。つまり、最低賃金の引き上げは、給与の下の端から順に、押し上げていく形で効きます。

賃金表の差を保つと、負担は数倍になる

月給の側にも、時給と同じ問題があります。下の端が押し上げられると、その上の人の給与との差が詰まります。

仮に、基本給が下限近くの社員が5人いるとします。最低賃金の56円増に合わせると、月給は173.3時間×56円で、1人あたり月約9,700円の増加です。年にすると約11万6,500円。会社負担の15%を足すと、約13万4,000円になります。5人で年約67万円です。

時給の側の43万円と足すと、年約110万円です。粗利140万円の1組に対して0.79組分で、時給だけの0.31組の2.5倍になります。

さらに、新卒1年目と3年目の差が、もともと1万円だったとします。1年目だけが9,700円上がると、差は300円まで縮みます。3年目の人が「後輩と変わらない」と感じるのを避けるなら、3年目も上げる必要が出てきます。こうして上に連鎖すると、5人ではなく15人、30人と対象が広がります。

僕が言いたいのは、最低賃金の引き上げの本当の負担は、最低賃金そのものではなく、賃金表の差をどこまで保つかという会社の決め方で決まる、ということです。法律で必ず必要になる分は小さく、それを超えて上げる分は経営判断になります。

式場が確認する順番

僕なら、次の順に確認します。

1. 発効日を見る。 都道府県ごとに10月1日から12月2日の間でずれます。自分の会場のある県の発効日を確認し、それより前の給与には効かないことを押さえます。

2. 手当を除いた時給換算を、全員分出す。 月給の社員は、基本給と職務手当だけを足し、月平均所定労働時間で割ります。下限を割る人が1人でもいれば、発効日までに直す必要があります。

3. 時給の賃金表を見る。 新人の位置を最低賃金に連動させているのか、金額で決めているのかを確認します。連動なら自動的に上がり、金額なら据え置きになって、差が縮みます。

4. 差を保つ範囲を決める。 全員を上げると年43万円、新人だけなら年15万円、といった形で、費用を並べます。決めるのは、この差額を採用費として払うかどうかです。

5. 1組あたりに直して、見積もりの端数と比べる。 時給の側だけなら1組3,600円、月給の側を足しても年110万円なら1組約9,200円です。総額343.9万円の約0.27%にあたります。値上げで吸収するなら、料理や装花の原価高の転嫁と一緒に見直す額です。

この計算の限界

最後に、この記事の数字が当てはまらないケースを書いておきます。

  • 配膳を人材派遣会社に出している会場は、派遣料金の改定を通じて影響が来ます。時給の上げ幅がそのまま来るとは限らず、派遣会社の側で上乗せされることもあります
  • 56時間という延べ時間は、仮の置き方です。ゲストの数、料理の提供形式、会場の動線で大きく変わります
  • 15%の上乗せは、会社ごとの社会保険や手当の設計で変わります
  • 賃金を上げた分の採用面の効果や、辞める人が減る効果は、ここでは計算していません。実際には、人が辞めないほうが得になる額が出る可能性があります

数字は、置き換えて使うためのものです。自分の会場の延べ時間と賃金表を入れれば、年にいくらの話かはすぐ出ます。

まとめ

  • 2026年度の最低賃金は、全国加重平均で56円増の1,177円(JIL)。東京都は1,280円、宮崎県は1,085円。発効は10月1日から12月2日まで
  • 配膳に延べ56時間入る仮の式場では、時給が一律56円上がると、1組約3,600円、年120組で約43万円。粗利140万円の1組の3分の1以下
  • 時給の賃金表は、新人だけを上げれば年約15万円、全員を同じだけ上げれば年約43万円。差の約28万円は、表の形を保つ採用の費用
  • 月給の社員は、手当を除いた額を月平均の所定労働時間で割って、最低賃金と比べる。仮に年間休日105日なら、東京の下限は約22万1,800円
  • 下限近くの社員5人を上げ、賃金表の差を保つと、年約67万円。時給の側と足して年約110万円(0.79組分)になる
  • 最低賃金の負担は、法律で必要な部分よりも、賃金表の差をどこまで保つかという、会社の決め方で膨らむ