式場サイトに「向かない条件」を書くのは、成約がほぼ起きない条件だけ
式場の公式サイトに「こういう二人には向きません」と書くかどうか。マーケティングの定石では、問い合わせの入口を絞るのは悪手とされます。一方で、合わない二人が来館すると、担当者の時間が取られるのも事実です。
僕は、書くかどうかの線は「合わない二人が何人来るか」ではなく、「その条件の二人が、100組に何組決まるか」で引けると考えています。しきい値は、見学1組にかかる接客コストを、成約1組の粗利で割れば出ます。
この記事では、その計算を仮の式場で一周して、書いてよい条件と、書かないほうがよい条件の仕分け方を整理します。数字はすべて、僕が置いた仮の前提です。実在の式場の実績でも、業界の平均でもありません。公開された統計は使いません。自分の会場の数字に置き換えて使ってください。
「向かない条件」を書く利点と、書く怖さ
まず、書くことの利点と怖さを並べます。
利点は二つあります。
- 合わない二人が、見学の前に自分で外れてくれる。担当者の時間と、見学枠が空きます
- 見学してから「思っていたのと違った」となる二人が減る。見学後の辞退や、低い評価の口コミにつながる場面が減ります
怖さは一つで、問い合わせの数が減ることです。しかも、減るのは「合わない二人」だけとは限りません。「うちは該当するのかな」と迷った二人が、確認せずに離れることがあります。
どちらも本当に起きるので、感覚で決めると、書く式場と書かない式場が、理由なく分かれます。数字で線を引きます。
しきい値は、割り算1回で出る
考え方はこうです。
条件に合わない二人が1組来館すると、式場はコストを払います。担当者の時間、会場の準備、試食があれば原価です。一方で、その二人が契約する確率はゼロではありません。
- 来館1組の接客コスト:c
- 成約1組から残る粗利:g
- その条件の二人の、来館から成約までの通過率:p
その条件の二人を1組迎えたときの、期待される損益は、p × g − c です。
- p × g が c より大きければ、来館を受けたほうが得
- p × g が c より小さければ、来館を受けるほど損
つまり、しきい値は p = c ÷ g です。その条件の二人の成約率が c ÷ g を下回るなら、書いて外れてもらったほうが得で、上回るなら書かないほうが得、という判定です。
仮の式場で、しきい値を出す
前提を置きます。
- 成約1組から残る粗利 g:120万円(売上から変動費と、その組にかかる人件費を引いたもの。仮の数字です)
- 見学1組にかかる接客コスト c:1万円。担当者が使う時間を、準備・案内・見積もり・見学後の連絡で2時間とみなし、担当者の時間を1時間あたり5,000円と仮に置いた分です。試食の原価や、会場の準備は含めていません。含めるなら cを上げて計算し直してください
しきい値は、1万円 ÷ 120万円 で、約0.8%です。
言い換えると、こういう基準になります。
- その条件の二人が、100組来館して1組も決まらない(成約率が0.8%を下回る)なら、書く
- 100組来館して2組以上決まる(成約率が約2%以上)なら、書かない
0.8%という数字は、直感より低いと思います。「合わない」と感じる条件でも、100組に1組は決まる条件が、意外に多いからです。
c を2倍の2万円にしても、しきい値は約1.7%です。接客コストが重くなる式場でも、書いてよいのは「ほぼ決まらない」条件に限られます。
「ほぼ決まらない」条件と、「たまに決まる」条件を分ける
この線で、条件を仕分けます。仮の式場の、いくつかの条件を並べます。成約率は、どれも僕が置いた仮の数字で、自分の会場では実績から置き直す必要があります。
ほぼ決まらない(書いてよい)
- 収容人数の上限を超える規模の宴会。会場の物理的な定員が、いくら交渉しても動かない場合は、成約率は実質ゼロです。仮に成約率0%とします
- 神前式の設備がないのに、神前式が必須条件の二人。仮に0.3%とします
- 夜の貸切営業をしていないのに、夜の披露宴が絶対条件の二人。仮に0.2%とします
これらは「事実の上限」です。式場が努力しても動かせない条件なので、見学に来てもらっても、時間だけが過ぎます。
たまに決まる(書かないほうがよい)
- 予算が式場の標準的な価格帯より低い二人。仮に3%とします。見学で規模や内容を調整して、決まることがあります
- 駐車場の台数が少ないため、車で来る人が多い二人には不便な立地。仮に5%とします。送迎バスや近隣の駐車場の案内で、解決することがあります
- 日取りの希望が、人気の日に偏る二人。仮に4%とします。見学で別の日を提案して、決まることがあります
これらは、条件が「厳しい」だけで、「不可能」ではありません。見学の場で、式場が提案できる余地があります。0.8%を超えるので、書いて外れてもらうより、来てもらって話したほうが得です。
書くときの形は、「できない」ではなく「できること」
しきい値を下回る条件を書くときも、書き方で効果が変わります。
「当会場は神前式には対応していません」と書くと、読んだ二人は、別の式場を探しに行きます。これが狙い通りの働きです。ただ、「うちは神前式の二人にお断りです」と読める書き方は避けたいところです。式場が何を持っているかを、肯定の形で書きます。
- 避けたい書き方:「神前式はできません。ご了承ください」
- 勧めたい書き方:「当会場のご挙式は、チャペルと人前式です。神前式をご希望の場合は、近隣の神社での挙式と、当会場での披露宴の組み合わせをご案内できます」
後者は、外れてもらう二人と、組み合わせで来てもらえる二人を、同時に仕分けます。神前式だけの二人は離れ、挙式は別で披露宴だけをここで、という二人は来館します。
「向かない二人」の一覧を作るのではなく、「できること」の説明の中に、結果として条件が見えるようにします。
月に直すと、得られる額は思ったより小さい
しきい値を下回る条件を書いたとして、月にどれだけ効くかも計算しておきます。これも仮の前提です。
- 月の問い合わせは100件。そのうち、「ほぼ決まらない条件」の二人が20件
- 問い合わせから来館までの通過率は40%(条件に関係なく同じとします)
- 書いたことで、その20件の6割にあたる12件が、問い合わせの前に離れた
12件が離れると、来館が12 × 40%で、約4.8組減ります。見学1組の接客コスト1万円を掛けると、月に約4.8万円。担当者の時間では、1組2時間として約9.6時間です。
成約はほとんど動きません。この条件の二人は、そもそも決まらないからです。
月に5万円弱、10時間弱。サイトの文章を直す手間を考えれば、元は取れます。ただ、劇的に効く施策ではありません。この施策の本当の価値は、お金よりも、土日の見学枠が空くことにあります。人気の土日に、決まらない二人が1組入るたびに、別の二人を迎える機会が1つ消えているからです。枠が足りない式場ほど、この施策は効きます。逆に、枠が余っている平日が中心の式場では、書く理由は薄くなります。
書いたあとに数える3つのこと
書いて終わりにせず、効果を数えます。数える項目は三つです。
- 問い合わせ数の変化:書く前後で、月の問い合わせ数がどう動いたか。減ること自体は、狙い通りです。ただ、減った分が全部「合わない二人」だったかは、後の2項目で確かめます
- 条件に合わない来館の割合:見学の予約フォームか、見学の冒頭で、その条件を聞いている場合に数えます。書いた条件に当てはまる来館が減っているかを見ます
- 条件に合う二人の問い合わせ数:ここが減っていたら、書き方が悪いか、書いた場所が悪い可能性があります。「合う二人まで外れた」という事態を検出する数字です
3つ目は、件数が少ないと判別できません。月の問い合わせが数十件の式場では、3か月ほど見ないと、ぶれと変化の区別がつきません。短期の数字で書き直しを繰り返すと、かえって混乱します。
しきい値が動く条件
しきい値は固定ではありません。動く条件を知っておきます。
- 粗利 g が大きい式場ほど、しきい値は下がる。1組を取りこぼす損が大きいので、書く条件は絞られます
- 接客コスト c が重い式場ほど、しきい値は上がる。試食付きの見学や、担当者が長時間付き添う式場では、外れてもらう価値が増えます
- 見学枠が埋まりやすい日(人気の土日)は、c に「その枠で別の二人を迎えられた機会」を足す。枠が埋まる日は、合わない二人の来館が、合う二人の機会を奪うからです。この場合のしきい値は、もっと高くなります
- 広告で問い合わせを買っている式場は、問い合わせ1件の費用が無駄になる分も見る。ただし、書いても広告のクリックは起きるので、費用の面では変わりません
特に3つ目は、土日と平日で別々にしきい値を引けるほど、差が出ます。
この考え方の限界
最後に、この計算が見ていないことを書きます。
- 成約率 p は、実績から置きます。件数が少ない条件では、数組の違いで大きく動きます。実績の無い条件は、最初は書かずに、見学の記録から数えます
- 見学後の口コミや、辞退の際の印象のような、お金にしにくい損得は入っていません。「思っていたのと違った」二人が口コミにどう書くかは、この計算の外です
- 書いた条件が、他の式場と比べて「式場の個性」として好意的に読まれる場合は、問い合わせ数の側にも影響します。僕はこの効果を数字にできていません
しきい値は、判断の出発点です。外れた数字が出たら、そのたびに引き直します。
まとめ
- 向かない条件を書くかどうかは、「その条件の二人の成約率」が、「見学1組の接客コスト ÷ 成約1組の粗利」を下回るかで決まる
- 仮の式場(粗利120万円、接客コスト1万円)では、しきい値は約0.8%。100組来館して1組も決まらない条件だけ書く
- 書いてよいのは、収容人数の上限や設備の有無のような、式場が努力しても動かせない「事実の上限」
- 予算・立地・日取りの偏りのような「厳しいだけ」の条件は、見学で提案できる余地があるので書かない
- 書くときは「できません」ではなく、「できること」の説明の中に条件が見える形にする
- 書いた後は、問い合わせ数、条件に合わない来館の割合、条件に合う二人の問い合わせ数の3つを、3か月ほどの単位で見る
- 土日の人気枠や、接客コストが重い見学では、しきい値が上がる
