式場サイトの「No.1」表示は、載せる前に根拠の4点を点検する
式場の公式サイトのトップに「お客様満足度No.1」「エリア人気No.1」と入れるかどうかは、たいてい「載せたら予約が増えるか」で議論されます。僕は、その前に見るものがあると考えています。載せる文言を、いま手元にある資料で最後まで説明できるかどうかです。
「No.1」は、候補を絞っている二人にとって分かりやすい目印です。その分、根拠が弱いと、景品表示法の優良誤認として扱われる余地が出ます。この記事では、消費者庁が2024年9月に公表した「No.1表示に関する実態調査報告書」と、それを解説した記事をもとに、式場が点検する4つの点を整理します。出典のある数字はその範囲だけで、費用や予約数の数字はすべて仕組みを見るための想定です。
載せる前に決めるのは、効果ではなく根拠の置き場所です
「No.1」表示は、二人の目に入りやすい場所に置くものです。公式サイトの最初の画面、媒体の掲載ページ、フェアのバナー、Instagramのプロフィール。置く場所が多いほど、あとから「この表示の根拠は何でしたか」と聞かれる機会も増えます。
解説記事によると、令和5年度に消費者庁が行った措置命令44件のうち、13件がNo.1表示に関するものでした。件数だけを見れば、措置命令の約3割です。式場の業界で起きたかどうかは、ここでは分かりません。ただ、広告全般の中で「No.1」は取り締まりの対象になりやすい言葉だと読めます。
もう一つ、実態調査の側から見える点があります。報告書の記述を引いた報道では、新商品を買うときに「No.1」の表示が「かなり影響する」「やや影響する」と答えた人が約5割でした。つまり、効く人が半数いるから、載せたくなる。そして、効く言葉だから、根拠を求められる。この二つは同じ話の表と裏です。
だから順番は、「載せたら増えるか」を考える前に、「載せてよい根拠があるか」を確かめることになります。根拠が揃っていれば、あとは効果の話に進めます。
点検1:比べた相手は、同じ種類の式場の主要どころだったか
最初に見るのは、比較の相手です。解説記事は、比較対象になる同種・類似の商品を適切に選んでいること、と説明しています。「検索で上に出てきた商品だけを対象にした」ような選び方は、要件を満たさない可能性があるとされています。
式場に当てはめるとこうなります。たとえば「◯◯市で満足度No.1」と書くなら、◯◯市で結婚式を受けている式場のうち、主要なところを調べの中に入れている必要があります。実際には、次のような作り方がよく起きそうです。
- 自社と、同じ媒体に掲載している数社だけで比べた
- 媒体の口コミ点数が見える式場だけを並べた
- 競合のうち、点数が低い式場だけを残した
どれも、「エリアの式場」を比べたことにはなりません。比べた範囲が狭いなら、表示も「当社が掲載している◯◯媒体の△社中」と、範囲どおりに書くことになります。それでは「No.1」の響きが弱くなります。弱くなるなら、載せないという選択が正解になる場合もあります。
僕はここが、式場で最も詰まりやすい点だと見ています。理由は単純で、エリア全体の式場を比べた資料が、そもそも手元にない会場のほうが多いからです。
点検2:答えた人は、実際にその式場を使った人だったか
次は、調査の対象者です。解説記事では、対象者を無作為に選ぶこと、表示の内容に合った属性を考えること、とされています。自社の継続的な顧客だけに聞いた調査や、利用経験を確かめていない調査は、根拠として足りない可能性があると書かれています。
結婚式は、1組につき基本的に1回の取引です。継続して買う商品ではないので、「リピーターだけに聞いた」という形にはなりにくいです。その代わり、別の偏りが起きます。
- 契約して結婚式を挙げた二人のうち、満足度アンケートに答えてくれた人だけが集計されている
- 見学しただけで契約しなかった二人の声が入っていない
- アンケートの案内を、式の直後の、気分が高い時期に送っている
「お客様満足度」と書いたとき、この「お客様」が、挙式まで済ませた人だけを指しているなら、表示にもそう書く必要があります。回答率が1割なら、残りの9割の声は分かりません。その点も、調査の説明に含めるべき内容です。
この点検で大事なのは、偏りをなくすことではありません。偏りがあることを知ったうえで、「何人に聞いて、何人が答えたか」を言える状態にしておくことです。
点検3:調査のやり方が、結論ありきになっていなかったか
三つ目は、方法の公平さです。解説記事は、自社の商品を選択肢の先頭に置く、といった結論ありきの設計を避けること、1位になるまで調査を繰り返す手法も問題になりうる、と説明しています。
式場の現場で起きそうな形に置き直すと、こうなります。
- 質問の選択肢を「当社」「他社」としか用意せず、他社の名前を出していない
- 満足度の項目を、自社が強い項目(料理、会場の雰囲気)だけに絞った
- 1回目の結果が1位でなかったので、期間を変えて取り直した
最後の「取り直し」は、悪気なく起きます。「今期はたまたま悪かったので、来期の分で出し直そう」と考えるのは自然です。ただ、1位になったときだけ表示に使うなら、それは結果を選んでいることになります。取り直すなら、取り直した理由と、1回目の結果も記録に残しておくのが安全です。
点検4:表示した言葉と、調査の結果が同じ範囲を指しているか
四つ目は、表示と結果の対応です。解説記事の例では、通信販売の化粧品部門で調べた結果を、範囲を限定せずに「お客様満足度◯◯部門No.1」と表示すると、この要件を満たさない可能性があるとされています。
式場なら、次のようなずれが考えられます。
- 調べたのは「ゲストハウス型の式場」なのに、表示は「エリアの結婚式場No.1」
- 調べたのは「挙式を終えた二人」なのに、表示は「選ばれた式場No.1」
- 調べたのは「料理の満足度」なのに、表示は「総合満足度No.1」
表示を作る人は、短く強い言葉を求めます。調査の担当者は、範囲を正確に残したい。この二人の間で、短い言葉のほうが勝ちやすいのが現場です。点検4は、表示の文言を決める前に、調査の範囲を書いた紙を横に置く、という作業に近いです。
表示に添える4つの注記を、先に決めておく
解説記事は、一般の消費者の受け取り方と調査結果がずれないよう、次の4点を確かめるよう求めています。
- 商品等の範囲(どの種類の式場か)
- 地理的な範囲(どの地域か)
- 調査期間・時点(いつの結果か)
- 調査の出典(誰がどう調べたか)
記事には、これらをどの書式で書くべきかの具体的な指定はありません。だから、僕から「この書き方なら安全」とは言えません。ただ、考え方は決められます。表示の近くに、小さくても読める大きさで、4つとも書く。バッジの画像の中に埋め込んで文字を潰すのではなく、テキストとして添える。そして、4つのどれかが書けないなら、そのバッジは載せない。
なお、媒体社や外部の機関が出している賞を、式場が受けた場合も、考え方は近いです。主催者がどんな基準で選んだのかを確認し、賞の名前、年、部門、主催者を表示に添えます。賞状の写真を載せるだけで終わらせないことが、点検4と同じ意味を持ちます。
根拠を揃えるコストは、予約の増え方で回収を見る
ここまで読むと、「根拠を揃えるのは大変だ」と感じるはずです。次は、揃えたうえで載せる場合の回収の目安を、仮の数字で見ます。数字は実在の式場のものではありません。
仮に、次の前提を置きます。
- 外部の機関に頼んで、エリアの式場を比べた調査を取り、表示に使える形にするのに30万円かかる
- 1回の来館あたりの粗利は、成約率を30%、1組の粗利を90万円として、27万円
- 公式サイトの月間訪問が2,000で、見学予約になる割合が1.0%から1.1%に上がる
計算すると、30万円を27万円で割って、約1.1回の来館です。つまり、調査費を回収するには、追加の来館が1.1組分あればよい計算です。公式サイトの訪問が2,000で、予約率が0.1ポイント上がると、月に2件、年に24件の追加予約です。この前提なら、追加の来館が年1.1組を超えるかどうかが分かれ目で、効果の大きさは回収にはあまり効いていません。
効くのは、むしろ「予約率が上がったか」を測れる状態かどうかです。バッジを載せる前の2週間と、載せた後の2週間で、予約率を並べて見ます。同じ時期にフェアの特典や広告を変えていると、バッジの効果とは言えなくなります。載せる週は、他のことを変えないでおくほうが、判断の材料が残ります。
もう一つ、回収の話に入れておきたい項目があります。表示の根拠資料を、いつでも出せる形で保管する手間です。解説記事は、事業者に求められる措置として、表示の根拠情報を確認すること、表示を管理する担当や部署を決めること、根拠を後から確認できるよう保管すること、関係者に考え方を周知することを挙げています。これは調査費と違って、毎年かかる手間です。
根拠が揃わないときに、サイトに置ける代わりの言葉
点検の結果、4点のどれかが足りないこともあります。そのとき、「No.1」を諦めて何も置かないのは、もったいないです。二人が知りたいのは、順位そのものより、その順位が示す中身だからです。代わりに置けるものは、実際に言える事実の側にあります。
- 「過去1年間に挙式をした◯◯組のうち、アンケートに答えた△△組の声です」のように、答えた人数を添えた口コミの引用
- 「見学のあとに契約した二人が、決め手に挙げたもの」のように、自社の記録からそのまま言える話
- 「ご両親の見学に同席した回数」「見学の平均所要時間」のように、運営の数字として言える中身
順位は比べる言葉で、事実は自社の言葉です。自社の言葉は、根拠を自分で説明できます。比べ方に自信が持てないうちは、こちらを前に出すほうが、あとから表示を直す手間も出にくいです。
まとめ
- 「No.1」は、載せたら増えるかの前に、根拠を最後まで説明できるかで決める
- 消費者庁の実態調査は2024年9月26日に公表。解説記事では、令和5年度の措置命令44件のうち13件がNo.1表示だった
- 点検は4点。比べた相手が同種の主要どころか、答えた人が実際に利用した人か、結論ありきの方法でないか、表示と調査の範囲が合っているか
- 表示には、商品の範囲、地理的な範囲、調査時点、出典の4つを添える。書けないものがあるなら載せない
- 回収の目安は、仮の前提では追加の来館が年に約1.1組。載せる前後で他の施策を変えずに予約率を並べる
- 根拠が揃わないうちは、答えた人数つきの声や、自社の記録から言える事実を前に出す
