式場を同じ日に何件も回る二人には、見学の最初に次の予定を聞く
土曜の午前に見学を入れた二人が、玄関で腕時計を見ながら「このあと、別の式場も予約してて」と言う。見学を受ける側なら、一度は経験があるのではないでしょうか。
この記事の結論を先に書きます。同じ日に複数の式場を回る二人には、見学の最初に「このあとのご予定は何時からですか」と聞く。そして、その時刻から逆算して、見せるものと順番を変える。これだけで、二人の記憶に残る式場になる確率は変わります。聞かずに通常の案内を進めると、いちばん見せたい試食や見積もりが、二人が時計を気にしている最後の20分に押し込まれます。
先に断っておくと、この記事に出てくる時間や組数は、僕が置いた例です。どこかの式場の実績ではありません。自分の式場の予約表で、実際の数字に置き換えて読んでください。
同じ日に回る二人は、最後の時間がいちばん薄くなる
式場見学は、予約サイトやフェアの予約ページから日時を選んで入ります。二人は式場ごとに予約を取るので、同じ日の午前に1件、午後に1件と、1日で回る組み立てを自分たちで作ります。移動時間と食事の時間があるので、1件目は「11時から」、2件目は「14時から」のように、終わる時刻が先に決まっています。
ここで起きることを、仕組みとして整理します。
- 二人の頭の中には、次の式場に着くまでの逆算があります。見学が予定どおりに終わらないと、遅刻するかもしれないという焦りが出ます
- 案内する側は、予約ページに書いた所要時間(たとえば2時間)の流れで進めます。会場、チャペル、控室、試食、見積もりの順です
- 二人が焦り始めるのは、たいてい試食のあとです。ここで時刻が押していると、見積もりの説明は聞き流されます。見積もりは、二人が式場を比べるときの数字の元になるのに、いちばん聞いてもらえない時間帯に置かれます
つまり、同日に回る二人にとっての見学は、前半が濃く、後半が薄い。これは二人の熱意が低いのではなく、時間の構造がそうさせています。式場側が先に気づいて、組み立てを変えるしかありません。
最初に聞く一言は、答えやすい形にする
聞き方で、返ってくる答えの質が変わります。次の3つを比べてみます。
- 「このあとはご予定ありますか」……「いえ、特には」と返ってくることが多く、実際の時刻が分かりません。二人は急いでいるのに、遠慮して言わないこともあります
- 「今日は何件くらい回られますか」……他の式場の数を聞くことになり、探られていると感じる人もいます。他社の名前や条件を聞き出す形にもなりやすいので、避けたほうが安全です
- 「このあと、お出かけの時刻は何時ですか。そこから逆算して、見る順番を決めます」……答えるのは時刻だけで済みます。理由も添えているので、二人は「自分たちの都合に合わせてくれる」と受け取ります
おすすめは3つ目です。聞くのは時刻だけ。次の予定が別の式場かどうかは、聞きません。二人が自分から「次は〇〇も見るんです」と話してくれたら、それは聞いておけばよい情報で、こちらから掘る必要はありません。
聞くタイミングは、受付で名乗り合ったあと、会場に入る前です。会場に入ってしまうと、案内の流れが走り出して、止めて聞きにくくなります。予約ページの確認メールに「当日のお時間に制限がある場合は、受付でお知らせください」と一文入れておくと、玄関で聞く一言が自然につながります。
時刻から逆算して、見せる順番を3通りに分ける
聞けた時刻をもとに、残り時間で案内を3通りに分けます。分け方の目安を、予約ページの所要時間を120分として置いてみます。数字は例です。
- 120分以上ある:通常どおり。会場、チャペル、控室、試食、見積もりの順
- 80〜120分:会場とチャペルは短く。試食と見積もりの時間は削らない
- 80分未満:見るものを絞る。二人が最初に挙げた「譲れない1つ」を先に見せ、試食と見積もりは「持ち帰れる形」に変える
大事なのは、削る場所を決めておくことです。削るのは、見学の中でも「あとで写真や資料で見返せるもの」。控室や外観の説明は、写真でも伝わります。逆に、削らないのは「その場でしか体験できないもの」と「比べる材料になるもの」です。試食の味は、その場でしか分かりません。見積もりの総額と内訳は、二人が他の式場と並べる数字の元です。この2つを最後の20分に押し込まないことが、段取りの中心になります。
80分未満の場合は、見積もりを「その場で説明して終わり」にしないほうがよいです。1ページに総額と、二人が最初に言った希望(人数や日取り)を載せた紙を作り、帰り道に読み返せる形で渡します。時間が足りない見学でも、紙が二人のかばんに入っていれば、次の式場を見たあとに比べる材料が残ります。
前提を置いた計算:最後の20分に見積もりを置いたときと、前に出したとき
ここからは、前提を置いたモデル計算です。実際の成約率ではなく、考え方の確認です。
前提を置きます。
- 同日に複数の式場を回る二人が、ある月に40組来館したとする
- そのうち、次の予定の時刻を聞かずに通常の順番で案内した場合、見積もりの説明を十分に聞いてもらえたのは、仮に半分の20組だったとする
- 時刻を聞いて順番を変えた場合、十分に聞いてもらえた組が、仮に30組に増えたとする
- 見積もりを十分に聞いてもらえた組の成約率を、仮に10%とする。聞いてもらえなかった組は、仮に4%とする
計算してみます。
python3 -c "
a = 20*0.10 + 20*0.04
b = 30*0.10 + 10*0.04
print(a, b, b-a)
"
結果は、変更前が2.8組、変更後が3.4組で、差は0.6組です。月に40組のうち0.6組なので、小さく見えるかもしれません。ただ、この差を作るのに、広告費は1円も増えていません。聞く一言と、順番を決めておく紙1枚です。
もう一つ見ておきたいのは、この計算の置き方が正しいかどうかです。「十分に聞いてもらえた組の成約率が10%、聞いてもらえなかった組が4%」という差は、僕が置いた仮定です。実際の差は式場ごとに違いますし、そもそも差が出ない式場もあるはずです。だから、計算結果を信じるのではなく、自分の式場の数字で同じ形の表を作って確かめることを勧めます。
自分の式場で確かめる手順
- 直近3か月の見学の記録に、「同日に他の予定があったか」を1行足す。過去の分は、担当者の記憶やメモから分かる範囲で埋めればよい
- 「次の予定あり」の組と「なし」の組で、見積もりを出した割合、2回目の来館の割合、成約の割合を並べる
- 「次の予定あり」の組だけ、2回目の来館の割合や成約の割合が低ければ、この記事の段取りを試す価値がある。差が無ければ、今の案内の流れのままでよい
- 試すときは、1か月だけ「最初に時刻を聞く」を全員に入れる。同じ月に他の変更(予約ページの文言、フェアの内容など)を重ねない。重ねると、どれが効いたのか分からなくなります
- 1か月後に、同じ表をもう一度作る。件数が少ないときは、2か月分まとめて見る
件数が少ない式場では、月ごとの数字がぶれます。1組の違いで割合が大きく動くからです。そのときは、割合の変化より、「見積もりを最後まで説明できた組の数」だけを数えるのが現実的です。成約まで追うと、結論が出るのに半年かかります。
聞いても時間が足りないときの渡し方
次の予定が1時間後で、見学の枠がちょうど60分、という二人もいます。このとき、案内を詰め込んで全部見せようとすると、二人は何も覚えていない状態で次に向かいます。
おすすめは、60分の中で「見るもの」を3つまでに絞り、残りは後日に回す提案をすることです。たとえば次のような言い方です。
「今日は1時間なので、会場とチャペルと試食だけ見てもらいますね。見積もりは、お二人の希望を入れたものを今夜までにお送りします。控室とお支度の部屋は、写真をお付けします」
この言い方には、3つの役割があります。
- 見られなかったものを「省いた」のではなく、「あとで渡す」と伝えている
- 見積もりの送付を、その場で約束している。二人が次の式場を見る前に、こちらの数字が手元に届く
- 二人は焦らなくてよいと分かる。焦りが減ると、試食の味の印象が残りやすくなる
送る時刻は、帰り際に二人に聞きます。「今夜でいいですか、それとも明日の朝のほうが見やすいですか」。見積もりを開く時間帯は二人の生活で違うので、選んでもらったほうが開かれやすくなります。
気をつけたいこと:聞き出しになってはいけない
この段取りには、やってはいけない境目があります。
- 次の予定の式場名や、そこの条件を聞かない。時刻だけを聞く
- 「他の式場より長く見てほしい」と、時間を引き止めるために使わない。二人が急いでいるときは、急いでよい
- 時刻を聞いたことを、見積もりを急がせる理由にしない。「今日決めていただければ」のような期限で追う言い方は、焦っている二人にはいちばん逆効果です
時刻を聞くのは、二人の都合に合わせるためです。二人がそれを感じ取れば、「この式場は、こちらの時間を大事にしてくれた」という印象が残ります。他の式場でそれが無かったとき、その差が比べるときの小さな決め手になります。
まとめ
- 同日に複数の式場を回る二人は、最後の時間がいちばん薄くなる。見積もりを最後に置く通常の順番だと、比べる材料の説明が流れやすい
- 見学の最初に「お出かけの時刻は何時ですか。そこから逆算して順番を決めます」と聞く。聞くのは時刻だけで、他の式場のことは聞かない
- 残り時間を3通りに分け、削るのは「写真で見返せるもの」、削らないのは「その場でしか分からない試食」と「比べる数字の元になる見積もり」
- 80分未満のときは、1ページの見積もりを帰り道に読み返せる形で渡す。時間が60分なら、見るものを3つまでにして、残りは後日に回すと伝える
- 効果は、「次の予定あり」の組と「なし」の組を並べた表で、自分の式場の数字で確かめる。試す月は他の変更を重ねない
- 時刻を聞く目的は二人の都合に合わせること。期限で追う言い方には使わない
