経営・組織

プランナーが1人辞めると、仮の式場では粗利が840万円から2,100万円動く。差をつくるのは退職の日ではなく、補充に3か月、独り立ちに6か月かかる「空白の長さ」だ

「プランナーが1人辞めた」と聞いたとき、多くの会場では、まず「担当の組を誰に振るか」を考えます。これは当然の動きです。ただ、粗利への効き方を見ようとすると、見るべき場所がもう少し先にあります。辞めた日ではなく、その後の空白の長さです。

今日の話は、プランナー1人の退職が、式場の粗利をどれだけ動かすかを、仮の式場で計算する整理です。結論を先に書くと、補充に3か月、新人が独り立ちするまでに6か月かかる前提では、残る3人に余力がなければ約2,100万円、2割の余力があれば約840万円が動きます。同じ「1人退職」でも、2.5倍開きます。

出典のある統計に頼る記事ではありません。数字はすべて僕が置いた仮のもので、本文に前提を書きます。自分の会場の人数と組数に置き換えて読んでください。

前提:年120組、プランナー4人、1人30組

まず仮の式場を決めます。

  • 年間の新規成約は120組
  • プランナーは4人で、1人あたり年30組の新規を担当できる
  • 4人とも同じ力量で、いまは全員が上限いっぱいに近い
  • 1組の粗利は140万円
  • 辞めたプランナーの代わりは、外から1人採用する

ここで一つ、重要な置き方をしています。「担当できる組数」は、接客の時間と、契約後の打ち合わせの回数で決まる上限です。上限いっぱいの人が1人抜けると、その分の新規は、受けたくても受けられません。逆に、全員に余力があるなら、残る人が少しずつ多く持てば、新規は落ちません。この余力の大きさが、損失の大きさを決めます。

担当の上限が打ち合わせ回数で決まる仕組みは、別の記事「プランナーの担当組数は打合せ回数で決まる」で扱いました。今回はその上限を、そのまま前提として使います。

空白は「補充」と「独り立ち」の2つに分かれる

退職のあとの空白は、1つではありません。2つの期間が順に来ます。

1つ目は、補充までの期間です。募集をかけて、面接をして、内定を出して、入社日を迎えるまで。これを3か月と置きます。この間、辞めた人の分の接客能力は、ゼロになります。

2つ目は、独り立ちまでの期間です。入社した日から、1人で見学の接客から契約まで持てるようになるまで。これを6か月と置きます。最初の月は先輩の同席が要り、半年かけて少しずつ1人で回せる組が増えていきます。簡単のために、この6か月は直線で伸びると考えます。0%から始まって、6か月目に100%です。平均すると50%なので、6か月の間に失う接客能力は、3か月分に相当します。

つまり、辞めた日から新人が一人前になるまでに、失う接客能力は次のとおりです。

  • 補充までの3か月:まるごと3か月分
  • 独り立ちまでの6か月:平均50%なので3か月分
  • 合計で6か月分

1人あたり年30組なので、半年分は15組です。失われる接客能力は、15組分になります。ここから先は、この15組を残る3人が吸収できるかどうかの計算です。

余力ゼロなら15組、2割あれば6組

残る3人に、どれだけ余力があるか。これを「いまの上限に対して、あと何割まで持てるか」で置きます。

吸収できる組数は、次の式で出ます。

吸収できる組数 = 残る人数 × 1人の年間上限 × 余力の割合 × 空白の年換算

空白の年換算は、6か月分なので0.5年です。3人×30組×0.5年=45組が、余力100%のときの枠です。余力が1割なら4.5組、2割なら9組になります。

残る3人の余力 吸収できる組数 取りこぼす新規 粗利で見た額
0%(全員が上限いっぱい) 0組 15組 2,100万円
10% 4.5組 10.5組 1,470万円
20% 9組 6組 840万円

1組の粗利は140万円で、取りこぼす組数にそのまま掛けています。

余力が0%のとき、15組を取りこぼします。2割の余力があれば、6組です。差は9組で、粗利にして1,260万円です。人数も給与も同じ会場で、余力の違いだけで、これだけ開きます。

ここで、余力が10%や20%あるという状態を、現実にどう読むかは慎重に考えたほうがいいと思います。残る3人が「実際に余分に持てる」のは、時間外労働や、打ち合わせの質の低下で吸収している場合もあるからです。この計算の「余力」は、無理のない範囲で持てる組数の目安として置いています。無理に持たせて、次の退職を呼ぶ形になると、損失は2人分に増えます。

空白が長くなると、損失は直線より速く伸びる

次に、空白の長さを動かします。補充までの月数と独り立ちまでの月数を、組み合わせて置きます。余力は0%、取りこぼす組数がそのまま粗利になる場合です。

補充まで 独り立ちまで 失う接客能力 取りこぼす新規 粗利で見た額
1か月 3か月 2.5か月分 6.3組 875万円
3か月 6か月 6.0か月分 15.0組 2,100万円
3か月 9か月 7.5か月分 18.8組 2,625万円
6か月 9か月 10.5か月分 26.3組 3,675万円

失う接客能力は、補充までの月数に、独り立ちまでの月数の半分を足したものです。1か月と3か月なら1+1.5で2.5か月分、6か月と9か月なら6+4.5で10.5か月分です。

最初の行と最後の行を比べると、空白の長さの差は4倍強で、損失の差も4倍強です。ここで見てほしいのは、損失を動かしているのが、退職の理由でも、辞めた人の力量でもなく、2つの期間の長さだという点です。

補充までの月数は、募集の動き方と給与条件で縮められます。独り立ちまでの月数は、育成の手順で縮められます。どちらも、辞める人が出てから動かしても間に合わない種類の話です。

採用費を足しても、大きいのは取りこぼしのほう

採用そのものにも、お金がかかります。求人の掲載費や紹介手数料を、仮に100万円と置きます。この金額は想定であって、実際は会場の方法で大きく変わります。

余力0%の「補充3か月・独り立ち6か月」の場合、1人の退職で動く額は次のとおりです。

  • 取りこぼした粗利:2,100万円
  • 採用費:100万円(仮)
  • 合計:2,200万円

採用費は全体の5%に届きません。採用費を気にして補充を遅らせると、そのほうが高くつきます。余力0%のとき、補充が1か月遅れるごとに、失う接客能力は1か月分、つまり2.5組で、粗利は350万円です。一方、独り立ちまでの期間が1か月延びても、失うのは平均50%なので1.25組、175万円です。補充の遅れは、独り立ちの遅れの2倍重い計算になります。入社前の空白は100%の損失で、入社後の空白は平均50%の損失だからです。

処遇改善の費用は、何人分の退職を減らせれば元が取れるか

ここまでの計算は、辞めたあとの話でした。次に、辞める前の打ち手と並べます。給与や手当を上げて、辞める人を減らす方法です。

仮に、プランナー4人全員に年30万円ずつ上乗せするとします。費用は年120万円です。社会保険料などの会社負担は、ここでは省きます。

この120万円が元を取れる条件は、簡単に書けます。

必要な退職の減少 = 年間の費用 ÷ 1人の退職で動く額

1人の退職で動く額を、余力0%の2,200万円と置くと、120万円÷2,200万円で0.055人です。つまり、約18年に1人分の退職を防げれば、元が取れます。240万円(全員に年60万円)にしても、0.11人で、約9年に1人です。

余力が2割あって、補充1か月・独り立ち3か月で済む会場では、1人の退職で動く額は約450万円(取りこぼし2.5組の粗利350万円に、採用費100万円を足した額)まで小さくなります。この場合、120万円の処遇改善は、0.27人、約4年に1人の退職を防げば元が取れる計算です。

2つの会場を並べると、判断の分かれ目が見えます。

  • 補充が遅く、独り立ちに時間がかかり、余力のない会場:処遇改善は、退職をごくわずか減らすだけで元が取れる
  • 補充が早く、育成が短く、余力のある会場:処遇改善が元を取るには、数年に1人の退職を防ぐ効果が要る

処遇改善が「効くか効かないか」の議論は、よく感情的になります。ただ、この式を使えば、論点は「自分の会場では、退職1件がいくらか」に絞れます。そこが大きい会場ほど、辞める人を1人減らす手は、安いということです。

自分の会場で数えるときの順番

最後に、この計算を自社の数字でやる手順を書いておきます。

  1. プランナー1人が1年に受け持てる新規の数を、実績から出します。契約後の打ち合わせの回数も含めた、現実の上限です
  2. 直近の退職で、辞めた日から補充の入社日までの月数を数えます。募集を始めた日ではなく、辞めた日からです
  3. 入社した人が、1人で見学の接客から契約まで持てるようになるまでの月数を、記録から出します。分からなければ、現場の責任者に聞いて、幅(例:5〜8か月)で置きます
  4. 残る人の余力を、残業が増えずに持てる組数で見積もります。「頑張れば持てる」ではなく、「いつもの勤務で持てる」です
  5. 取りこぼした新規の組数に、1組の粗利を掛けます。採用費を足します

3の独り立ちまでの月数は、記録を取っていない会場が多いと思います。入社日と、最初の1人完結の契約日を、これから残すだけでも、次の計算が変わります。

まとめ

  • 仮の式場(年120組、プランナー4人、1組の粗利140万円)では、1人の退職で、余力ゼロなら約2,100万円、2割の余力があれば約840万円の粗利が動く
  • 損失を決めるのは、補充までの月数と、独り立ちまでの月数。入社前の空白は100%の損失、入社後は平均50%の損失になる
  • 採用費は全体の5%に届かない。採用費を惜しんで補充を遅らせるほうが、損が大きい
  • 処遇改善の費用は、「年間の費用÷1人の退職で動く額」の人数分、退職を防げれば元が取れる。補充が遅い会場ほど、この人数は小さい
  • 残る人の余力は、時間外労働に頼った分を含めない。無理に吸収すると、次の退職で損失が2人分になる

プランナーの退職は、人の問題として語られることが多いです。粗利の側から見ると、空白の長さの問題として、数えられます。