式場が改装中でも見学を受けるか、完成後に回すかの決め方
会場の一部を改装している最中に、見学の予約が入る。式場の経営者や支配人なら、一度は迷う場面だと思います。
見学を断れば、その二人は別の式場に行くかもしれません。受ければ、工事用のシートが張られた通路を歩きながら、完成後の姿を想像してもらうことになります。
この記事の結論は、先に言っておきます。決め手は、完成後に来てもらうと何割が他社に流れるかです。工事中の見学で成約率が下がること自体は、判断の中心になりません。下がるのは当たり前で、問題は「下がった分より、待たせて失う分のほうが大きいか」です。
以下、仮の数字を置いて分かれ目を出し、そのうえで、見学を受けると決めたときに用意する材料と、契約書に残す日付の決め方を書きます。
工事中の見学で起きる損は、成約率より「やり直しがきかないこと」
改装中の会場を見た二人は、頭の中で完成後の姿を組み立てます。ここで組み立てがうまくいかないと、「よく分からなかった」という印象だけが残ります。
見学に来た二人は、ほかにも数社を回っています。1社目の印象が弱いまま比較に入ると、2社目、3社目の実物のほうが強く記憶に残ります。完成後にもう一度呼ぼうとしても、すでに別の式場で仮押さえをしている可能性があります。
つまり、工事中に見せることの本当のリスクは、成約率が低いことよりも、一度見せた二人に「完成版を見てもらう」機会が戻ってこないことです。
逆に、工事中でも見せたほうがよい二人もいます。挙式まで時間が短い二人、すでに他社を見尽くしていて決め時の二人、工事の影響が少ない部分(たとえば料理や衣裳、担当者との相性)で決める二人です。
だから「全員に見せる」「全員に待ってもらう」のどちらかに決め打ちせず、二人の事情で分けるのが基本の形になります。
分かれ目を、仮の数字で出す
数字は、すべて僕が置いた仮のものです。自社の数字に入れ替えて使ってください。
工事中に見学した二人の成約率を a、完成後に見学した二人の成約率を b とします。完成後に来てもらうと決めたとき、そのうち l の割合が他社に流れるとします。
見学を受けたほうが得になる条件は、次の式で書けます。
- 今見せる:a
- 待ってもらう:b × (1 − l)
a が b × (1 − l) より大きければ、今見せるほうが成約は多くなります。l について解くと、l が 1 − a / b より大きければ、今見せたほうが得です。
仮に、工事中の成約率 a を20%、完成後の成約率 b を35%とします。
- l = 1 − 0.20 / 0.35 ≒ 43%
待ってもらう間に4割強の二人が他社に流れるなら、工事中でも見せたほうが成約は多い、という計算です。
では、見学が20組あったとして、流れる割合ごとに成約数を並べてみます。
| 待たせて流れる割合 | 待たせた場合の成約数 | 今見せた場合の成約数 |
|---|---|---|
| 20% | 5.6組 | 4.0組 |
| 30% | 4.9組 | 4.0組 |
| 40% | 4.2組 | 4.0組 |
| 50% | 3.5組 | 4.0組 |
この表の読み方は2つあります。
1つ目。流れる割合が4割前後を超えるかどうかが境目になります。待ってもらうのが得になるのは、「完成まで待ってくれる二人が6割以上いる」と見込めるときです。
2つ目。a と b の差が小さければ、境目は下がります。工事中の見せ方を工夫して a を30%まで上げられるなら、境目は 1 − 0.30 / 0.35 ≒ 14% になり、ほとんどの場合で今見せたほうが得になります。見せ方の改善は、a を上げて境目を下げる作業だと考えてください。
「流れる割合」は、二人の挙式時期で見積もる
l は自社で測った値がないはずなので、見積もる材料を挙げます。
- 挙式希望日が完成日より半年以上先の二人:待ってもらいやすい。他社を見ている途中でも、完成後の見学を約束できる
- 挙式希望日が完成日の前後:待てない。工事中に決めるか、他社に行くかのどちらか
- 挙式希望日が完成日より前:そもそも工事中の会場で挙げられないか、一部が使えない。日取りの相談から入る
予約フォームで挙式希望時期を聞いていれば、見学の予約が入った時点で、この3つに分けられます。聞いていないなら、予約確認の連絡で一言聞いてください。
そのうえで、挙式が完成日より半年以上先の二人にだけ「完成後の見学」を勧めるのが、いちばん取りこぼしの少ない運用だと僕は考えています。流れにくい二人にだけ待ってもらうからです。
勧めるときは、「工事中なので」と断るのではなく、「完成後のほうが、二人の日取りに合う会場をお見せできます」と、二人にとっての利点で話します。完成予定日と、完成後に最初に見学できる日を、その場で出せると強いです。
見学を受けると決めたら、完成前の会場を見せる4つの材料
工事中でも受ける二人には、頭の中の組み立てを手伝う材料を渡します。口頭で「完成したらきれいになります」と言うだけでは、a は上がりません。
1. 完成パース(完成予想図)は、視点を二人の席に合わせる
設計会社のパースは、広い視点から全体を見下ろした絵になりがちです。披露宴の二人が知りたいのは、自分たちが座る席から何が見えるかです。
高砂席からの視点、入場する扉の位置からの視点、ゲスト席からの視点。この3つを、工事が終わる前に設計会社に頼んで起こしてもらいます。パースには「完成予想図であり、実際と異なる場合があります」と必ず添えます。
2. 素材のサンプルを、手で触れる大きさで見せる
床材、壁材、カーテン、照明のサンプルです。写真では色味が伝わりません。A4程度の大きさのサンプルを、実際の会場の光の下で見せます。
工事中で光の条件が違うなら、完成後の照明の色温度と明るさを、仕様書の数字で示してください。分からないときは、設計会社に確認します。
3. 同じ設計思想の別会場を、見学の選択肢に入れる
姉妹館や、同じ設計会社・施工会社が手がけた近くの会場が使えるなら、「工事中の会場」と「完成済みの似た会場」を並べて見せられます。
自社に別館がなければ、この手は使えません。無理に他社の会場を案内する必要はなく、使えるときだけ使う材料です。
4. 工事前の写真を、完成後の姿として使わない
工事前の写真や、改装前の会場の写真を、完成後の姿として見せてはいけません。景品表示法の「優良誤認」にあたるおそれがあるからです。実際より良く見せる表示は、意図がなくても問題になりえます。
使うなら「改装前の写真」と明記します。公式サイトの会場写真も同じで、改装した部分の写真は、工事が終わるまで差し替えを待つか、「改装前」の注記を付けます。
工事中の見学の、当日の動き方
材料が揃っても、当日の動線が悪いと印象は戻りません。3つだけ決めておきます。
1. 見られない場所は、予約前に伝える。 予約確認のメールか予約ページに、「現在、〇〇の改装中のため、〇〇はご覧いただけません。完成予定は〇月です」と書きます。当日に初めて知らされた二人は、損をした気持ちになります。
2. 見学の順番を、工事の影響が少ない場所から始める。 料理の試食、衣裳、担当者との打ち合わせの席から入り、工事中の会場は最後に、短く見ます。長く見るほど、できていない部分に目が行きます。
3. 工事の音と時間帯を確認する。 工事の日と見学の時間が重なると、会話が聞こえません。見学の枠は、工事の休みの日か、作業が終わる時間帯に寄せます。工事会社に、週ごとの作業予定を出してもらってください。
契約書に残す日付は「完成予定日」ではなく「使えるようになる日」
工事中の会場を契約する二人は、完成が遅れるリスクを負います。式場側も、日付の決め方で後のトラブルが変わります。
遅延が起きたとき、二人が気にするのは「自分たちの挙式日に間に合うか」です。そこで、次の3つを書面にしておきます。
- 完成予定日と、使用開始の予定日の両方。完成しても、消防の検査や試運転で使えない期間があります
- 間に合わなかった場合の対応。代替の会場、日程変更、解約の条件のどれを選べるか
- 挙式日の何か月前までに、完成状況を二人に伝えるか
とくに3つ目は、二人の安心につながります。「工事が順調かどうか、3か月前と1か月前に必ずご連絡します」と決めておけば、遅れが出たときにも話が通りやすくなります。
契約書の文言は、必ず自社の法務や顧問の弁護士に確認してください。ここで書いたのは、書面に入れる項目の整理であって、文言の例ではありません。
数字の測り方:工事中の見学は、別の箱で数える
最後に、このやり方が正しかったかを後で判断できるように、数え方を決めておきます。
- 見学の記録に「工事中」「完成後」のラベルを付ける
- 工事中の見学は、挙式希望時期(完成日の前後、半年以上先)ごとに、来館数と成約数を出す
- 「完成後に来てください」と案内した二人が、実際に完成後の見学に来た割合を数える
3つ目が、先ほどの l の実測値になります。l が分かれば、次の改装のときに、同じ式で判断できます。
ここまで測るのが重いなら、最初は「完成後に来ると約束した二人の数」と「実際に来た二人の数」の2つだけでも構いません。
まとめ
- 工事中の見学で本当に失うのは成約率より、「完成版を見てもらう機会」
- 今見せるか待ってもらうかは、待たせて他社に流れる割合 l と、1 − (工事中の成約率 ÷ 完成後の成約率) の比較で決まる
- 仮に成約率が20%と35%なら、境目は流れる割合43%前後。見せ方の改善で工事中の成約率を上げると、境目は下がる
- 挙式が完成日より半年以上先の二人にだけ、完成後の見学を勧める
- 見せる材料は、二人の席からのパース、手で触れる素材サンプル、似た完成済みの会場、「改装前」と明記した写真
- 見られない場所は予約前に伝え、見学は工事の影響が少ない場所から始める
- 契約書には、完成予定日と使用開始日、間に合わなかった場合の対応、完成状況を伝える時期を残す
- 工事中の見学は別のラベルで数え、「完成後に来ると約束した二人が実際に来た割合」を次の改装の判断に使う
