来館・成約

リニューアル中の式場見学は、図面より完成後の約束で決まる

式場がリニューアル工事に入ると、見学の受け方で必ず迷います。工事の音がする中で案内していいのか、いっそ完成まで見学を止めるのか、図面とパースだけで説明して契約を取れるのか。

僕の考えは、工事中の見学で二人に渡すものは図面ではなく「完成後の約束」だ、というものです。二人が知りたいのは、完成後の自分たちの挙式がどうなるかです。きれいなパースは約束の代わりにならず、約束があればパースは補助で足ります。

この記事は、リニューアル中の見学を止めるか続けるかの判断と、続けるときに何を渡すかの整理です。出典のある統計は使いません。数字は、前提を置いた試算としてだけ出します。

見学を止めると、止まるのは見学だけではありません

工事期間中の見学を止める判断は、安全で楽に見えます。説明の手間も、工事中の会場を見せる気まずさもなくなります。

ただ、止めたときに起きることは3つあります。

ひとつめは、その期間の来館がゼロになることです。結婚式の検討は、媒体で複数の式場を同時に見て、週末に複数の会場を回る進み方が多く、見学の予約が取れない式場は、その週末の候補表から外れます。

ふたつめは、外れた二人が別の式場で決まることです。止めた期間に見学できなかった二人が、完成後に「改めて見に来る」とは限りません。他の会場で気に入れば、そこで終わります。

みっつめは、完成後の挙式日を売る機会を失うことです。挙式は検討を始めてから数か月以上先になることが多いので、いま見学に来る二人の挙式日は、ほとんどが完成後に当たります。工事中は、完成後の日程を売る期間でもあります。

つまり、見学を止めて失うのは今月の来館ではなく、完成後の売上の一部です。この見方に立つと、判断の問いは「見学を止めるか」から「見せるものが足りない状態で、どう約束するか」に変わります。

工事中の見学が難しい理由は、見せるものがないからではありません

見せるものが足りないのはたしかです。ただ、本当に難しいのは、二人が完成後の姿を検証できないことです。

通常の見学では、二人は会場を歩き、天井の高さを感じ、光の入り方を見て、「ここならいい」と判断します。その判断を支えるのは実物です。リニューアル中はそれができないので、二人は式場の説明を信じるかどうかを決めることになります。

信じてもらうために必要なのは、見栄えのいい資料より、信じて外れたときの逃げ道です。ここを用意せずにパースを見せると、二人は「よく見える絵」と「実物」の差を想像して身構えます。

リニューアルの範囲によっても、難しさは変わります。

  • 控室・水回り・外構など、二人の決め手になりにくい部分だけの工事:通常どおり見学を続けられる。工事中の場所を避ける動線と、完成時期を一言伝えれば足ります
  • 披露宴会場だけを改装し、挙式会場は通常営業:挙式会場を中心に案内し、披露宴会場は図面と別会場の実物で補う
  • 挙式会場と披露宴会場のどちらも工事中:見学の中身を、会場を見る日から、約束を確かめる日へ組み替える必要があります

最後の3つめが、この記事の中心です。1つめと2つめは、案内の順番を変えるだけで対応できます。

続けるなら、渡す約束は4つに絞ります

完成前に決めてもらうなら、二人が後から「聞いていなかった」「話が違う」と感じない約束を、先に書面で渡します。僕は次の4つで足りると考えています。

1. 完成日と、遅れたときの扱い

「〇年〇月完成予定」だけでは足りません。工事は遅れることがあります。完成が遅れて、二人の挙式日に間に合わなかったら、日程の変更に応じるのか、無償で解約できるのか。ここを先に決めて、見学のときに口頭と紙の両方で伝えます。

二人が最も気にするのは、「自分たちの日に間に合うか」です。遅れる可能性がゼロだと言い切るより、遅れたときの扱いを示すほうが、信頼されます。

2. 変わる点と、変わらない点の一覧

リニューアルでは、二人が気に入っていた部分が変わってしまうことがあります。口コミや過去の写真で見たあの階段、あのバージンロード、あの庭が、工事後も残るのかどうか。

一覧は「変わる/変わらない」の2列で足ります。変わる点は、何がどう変わるかを一文で、変わらない点は、そのまま残ると書きます。工事中の見学で、二人が最初に聞くのはここだからです。曖昧にして、契約後に「前の方がよかった」と言われるのが最も避けたい展開です。

3. 完成後に、もう一度見る機会

完成前に契約した二人には、完成後に改めて会場を見てもらう機会を、約束として用意します。完成後の見学のうえで、あまりに印象が違えば契約を見直せる、という条件をつけるかどうかは、式場ごとの判断です。

見直せる条件をつけると、完成前の契約の一部は解約になります。つけなければ、契約は安定しますが、完成前に決める二人の数は減ります。この選択が損益にどう効くかは、次の試算で見ます。

4. 完成前の見学で、本当に見せられるもの

実物がないなら、見せられるものを正直に並べます。工事前の会場の写真、他の完成済みの部分、同じ設計・素材のサンプル、同じ設計者の別の施設。

逆に、これは避けたほうがいいと思う見せ方があります。完成後のパースだけを大きく出して、工事中の現場を見せないやり方です。二人は現場を見ていないのに、絵だけを渡されることになり、後でその差を感じやすくなります。工事中の様子を隠さず見せるほうが、二人にとって確かめられることが増えます。

続けるか止めるかは、損益の式にできます

ここからは試算です。数字はすべて仮の前提で、実在の調査や特定の式場の実績ではありません。自分の式場の数字に置き換えて使う前提で読んでください。

置く前提は次のとおりです。

  • 通常時の月間見学組数:40組
  • 通常時の見学からの成約率:30%
  • 工事期間:3か月
  • 見学を止めた場合、止めた期間に来るはずだった二人のうち、完成後に戻って来て見学する割合を「戻る率」とする。戻った二人の成約率は通常どおり30%とする
  • 見学を続けた場合の成約率を「続けたときの成約率」、完成前に契約した二人のうち、完成後の再見学で解約になる割合を「解約率」とする

止めた場合の3か月の成約数は、次の式で表せます。

40組 × 3か月 × 戻る率 × 30%

続けた場合は、次のとおりです。

40組 × 3か月 × 続けたときの成約率 × (1 − 解約率)

Python で計算すると、次のようになります。

戻る率 止めた場合の成約数(3か月)
10% 3.6組
20% 7.2組
30% 10.8組
続けたときの成約率 解約率 続けた場合の成約数(3か月)
20% 5% 22.8組
20% 10% 21.6組
25% 5% 28.5組
25% 10% 27.0組

戻る率を30%と、かなり甘く置いても、止めた場合は10.8組です。続けた場合は、成約率が通常の30%から20%まで落ち、さらに1割が解約になっても、21.6組が残ります。

境目を式にすると、続けた方が多くなる条件は、続けたときの成約率 × (1 − 解約率) が、戻る率 × 30% を上回ることです。戻る率が30%なら、右辺は9%です。つまり、工事中の見学の成約率が、解約を引いたあとで9%を超えれば、続けたほうが成約は多くなります。

この試算が示しているのは、止める判断の損が大きいということではなく、止める判断は思っているより高い成約率を、工事中の見学に要求している、ということです。工事中の見学で成約率が通常の3分の1まで落ちても、戻る率が高くない限り、続けたほうが多く残ります。

ただし、見落としやすい点が3つあります。

ひとつは、続けると案内する担当者の時間が、工事の説明や別会場への移動で増えることです。1組あたりの案内時間が延びれば、受けられる組数が減ります。月40組を維持できない場合は、組数を30組に置き直して計算してください。

もうひとつは、解約になった契約が、日程を押さえていた分の機会損失を生むことです。完成後の再見学で解約になったあと、その日程を売り直せる期間があるかどうかを確認します。挙式まで半年以上あれば売り直せますが、数か月しかなければ空いたままになります。

最後は、工事中の見学の成約率が、通常より下がる前提で見ていることです。逆に上がる場合もあります。完成前だけの特典を出すと、成約率は上がりますが、完成後に同じ条件で契約した二人との間に不公平が出ます。特典の扱いは別の判断です。

判断の分かれ目は、3つの質問で決まります

試算を使わなくても、次の3つに答えれば、続けるか止めるかの方向は決まります。

質問1:挙式会場と披露宴会場は、どこまで使えるか。 どちらか一方でも通常どおり使えるなら、続けます。両方が使えなくても、工事前の姿や他の施設を見せられるなら、続ける選択が残ります。

質問2:工事の期間は、挙式日が決まる時期より長いか。 半年以上の長い工事は、止める期間が長く、完成後の売上への影響が大きくなります。1か月程度の短い工事なら、止めても影響は小さく、止める選択も成り立ちます。

質問3:4つの約束を、書面で渡せるか。 完成日、変わる点と変わらない点、完成後の再見学、見せられるもの。このうち2つ以上が書けないなら、続けるのはまだ早いです。見学を止めて、約束が書けるまで準備する期間にあてます。

3つに答えたうえで、止める場合も、完全に止めるのではなく、予約を受けて完成後の見学に回す「先行予約」にする選択肢があります。完成後の日程を先に押さえてもらい、その間に資料と連絡で関係をつなぎます。

工事中に、検索と口コミで起きること

見学の判断とは別に、工事中は検索と口コミにも影響が出ます。ここは見落とされやすいので、触れておきます。

Googleマップやポータルサイトの写真は、工事前のものが残っています。完成後の姿と違うと、完成後に来た二人が「写真と違う」と感じます。逆に、工事中の様子を見せずにいると、「今も営業しているのか」という疑問が検索結果から生まれます。

公式サイトのトップに、工事期間・営業状況・完成予定を1か所にまとめておくと、問い合わせ前の確認が減ります。ポータルの掲載にも同じ内容を入れます。完成後は、写真を入れ替える作業を、完成の日から数えて早い時期に済ませます。入れ替えが遅れると、完成前の写真を見て来た二人に、完成後の感想を書かれやすくなります。

まとめ

  • リニューアル工事中に見学を止めると、止まるのは今月の来館だけでなく、完成後の挙式日を売る機会です
  • 工事中の見学が難しいのは、見せるものが少ないからではなく、二人が完成後の姿を確かめられないからです
  • 渡すのは図面でなく「完成後の約束」で、完成日と遅れたときの扱い、変わる点と変わらない点、完成後の再見学、見せられるものの4つで足ります
  • 前提を置いた試算では、工事中の見学の成約率が、解約を引いたあとで「戻る率 × 通常の成約率」を超えれば、続けたほうが成約は多くなります
  • 判断は、使える会場の範囲、工事期間の長さ、4つの約束を書面で渡せるかの3つで決まります
  • 止める場合も、完成後の日程を先に押さえる先行予約にすれば、関係は切れません