式場のフェア予約は食べられないものを1問だけ聞く
ブライダルフェアの試食の席で、二人のうち片方が皿の前で手を止める。「これ、エビが入っていますか」と小さな声で聞かれる。担当者は厨房に確認に走り、料理は少し遅れて出てくる。もう片方の皿だけ先に冷めていく。
見学のあとの試食は、フェアの中でもいちばん印象が残る時間です。その時間に、準備不足が見えてしまう場面があります。式場を見に来ただけの二人にとって、これは「この会場は、自分たちの事情を聞いてくれるだろうか」を測る最初の小テストのようなものです。
この記事で扱うのは、フェアの予約フォームに「食べられないもの、アレルギーはありますか」を1問だけ置く、という小さな工夫です。置くべきか、どこに置くか、聞いたあとに何を返すか。数字の調査ではなく、予約から試食までの流れという構造から組み立てた話です。なので「業界全体でこうなっている」とは言いません。「仕組みとして、こうなりやすい」という範囲で書きます。
試食の席で初めて分かると、何が起きるのか
まず、聞かないままだと何が起きるのかを分けます。
- 厨房が、その場で代わりの皿を作れない。もしくは作れるまで時間がかかる
- 二人のどちらか片方だけ、料理が遅れる
- 担当者が席を離れて、見学後の会話の流れが切れる
- 二人が「言い出しにくいことを言わせてしまった」と気をつかう
試食は、見学で決まりかけた気持ちを、味で確かめる場面です。そこで皿が止まると、料理の味より先に「対応の悪さ」が記憶に残ります。
もう一つ、見落とされやすい点があります。食べられないものがある二人は、フェアの選択肢を絞って探している可能性が高いということです。ポータルサイトの絞り込み条件に「アレルギー対応」があるかどうか、見ている人もいるでしょう。予約フォームの時点で聞かれれば、その二人には「ここは最初から考えてくれている」と伝わります。聞かれなければ、来館する前に不安を抱えたままです。当日になって「実は」と言うか、黙って食べられるものだけ食べて帰るか、二人の側は迷います。
式場からすると、後者がいちばん怖いです。何も言われないので、問題がなかったように見えます。ただ、二人は残した皿を見て「やっぱり無理だった」と静かに候補から外しているかもしれません。
聞く場所は、予約フォームの最後の任意項目
次に、どこで聞くかです。選択肢は3つあります。
- 予約フォームの項目として聞く
- 予約完了メールで、返信してもらう形で聞く
- 来館当日に、席に着いてから聞く
3つ目は、現場で自然に行われています。ただ、前のセクションで書いたとおり、当日に分かったのでは厨房の準備が間に合いません。聞かないよりはましですが、聞く意味の半分は失われます。
2つ目のメール返信は、返信が来ない二人が一定数出ます。返信がない二人が「問題なし」なのか「面倒で返さなかった」のかを、式場側は区別できません。
1つ目のフォームが、いちばん現実的です。理由は、予約という行為の中で一緒に答えてもらえるからです。ただし、置き方には注意があります。
- 必須にしない。必須にすると、問題のない二人に余計な入力を求めることになり、離脱の理由になりかねません。フォームの項目を増やすと、予約の完了率が下がる可能性があります。完了率への影響は、式場ごとに違うので、数週間は完了率を見ておく必要があります
- フォームの最後の方に置く。日時や人数を決めたあとなら、答えるハードルが下がります。最初に聞かれると「何か問題があったら断られるのでは」と身構える二人がいます
- 1問だけにする。「アレルギー」「宗教上の制限」「苦手な食材」「妊娠中の配慮」と項目を分けると、答える手間が増えます。まとめて「食べられないものや、配慮してほしいことがあれば教えてください」と1問にして、自由記入にします
聞き方のひと言も大切です。「アレルギーはありますか」だと、重いアレルギーがある人しか書きません。「苦手な食材」まで含めると、書く人が増えます。ただし、苦手な食材は厨房が全部は対応できないので、「できる範囲でご用意します」の一言を添えると、期待が上がりすぎるのを防げます。
文例を一つ置きます。
試食で、食べられないものや配慮が必要なものがあれば教えてください(任意)。アレルギーや宗教上の理由はもちろん、苦手な食材でも構いません。できる範囲で、当日のお料理を調整します。
「できる範囲で」は逃げ道のようですが、実際には誠実な書き方です。約束できないことを約束すると、当日に守れなかったときの失望が大きくなります。
聞いたあとに返す内容で、聞いた意味が決まる
フォームで聞くだけでは、半分しか価値がありません。聞いたあとの返事が、二人の信頼を左右します。
返事の目的は2つです。1つは、「見ました」と伝えること。もう1つは、「どこまでできるか」を事前に伝えることです。
返すタイミングは、予約完了メールではなく、その翌営業日までの別連絡が自然です。理由は、厨房に確認してから返せるからです。確認なしで「大丈夫です」と返して、当日に対応できないほうが、はるかに悪い結果になります。
返事の中身は、次の3段に分けると迷いません。
- 受け取ったこと:「〇〇のアレルギーについて、承りました」
- できること:「試食では、〇〇を使わない代わりの一品をご用意します」
- できないこと、確認が要ること:「同じ調理場で他の食材を扱うため、重いアレルギーの場合は、事前にお電話で詳細をうかがいたいです」
3つ目の「できないこと」は、書きづらいと思います。ただ、アレルギーの程度によっては、試食の提供そのものが安全に行えないことがあります。そのときは、料理を出さずに、見学とコースの説明だけで進める選択肢を提示します。二人にとって、安全が優先されることは、むしろ安心材料です。
ここで注意したいのは、フォームの回答を値引きや特典の材料にしないことです。「食べられないものがあるお客様に特別対応します」が営業トークになると、ほかの二人との公平性が崩れます。あくまで、準備のための情報として扱います。
厨房と共有する仕組みを先に決める
フォームで聞いても、厨房に伝わらなければ意味がありません。実際の運用では、ここでつまずく式場が多いと思います。
共有の仕組みで決めておくことは、次の3つです。
- 誰が厨房に伝えるか。予約を受けた担当者か、フェア担当か。担当が複数いると、伝達が漏れます
- いつまでに伝えるか。来館の何営業日前までに伝えれば、厨房が仕入れと仕込みに反映できるか。厨房の締め切りを、先に聞いておきます
- 何を見て確認するか。当日の試食の席次表や、厨房への予定表に、配慮が必要な二人の欄を作ります。口頭だけだと、当日の忙しさで抜けます
特に最初の「誰が」は、最も重要です。予約システムの管理画面に回答が表示されても、見る担当者が決まっていなければ、誰も見ません。「予約が入ったら、翌営業日の午前に、フェア担当が自由記入欄を確認し、記入があれば厨房に連絡する」という手順を、一枚の紙にします。
もう一つ。自由記入欄に記入がない二人については、何もしなくてよいと決めておくことも大切です。記入がないことを毎回確認していると、手順が重くなって続きません。
数字で見る:何組なら、仕組みを作る価値があるか
ここで、仮の数字を置いて計算します。これは実績ではなく、考え方を見るための想定です。
前提(すべて仮置き)
- 試食つきフェアに来館する二人が、月に40組
- そのうち、食べられないものや配慮が必要な二人が5%
- 予約時に聞かないと、当日になって初めて分かる割合は、その半分以上と置く
月40組のうち5%なので、月に2組、年に24組です。この24組のうち、仮に半分の12組が「当日になって初めて分かる」とします。
当日分かったとき、何が起きるかを分けて考えます。
- 厨房が代替の皿を作る:30分前後の遅れ、もしくは別の皿を作る手間
- 担当者が席を外す:数分から10分程度
- 二人が気をつかう:数字にならないが、成約には少し逆風
仮に、この12組のうち、体験が悪くなって他の式場に決める二人が1組増えるとしたら、どうでしょう。フェア来館から成約までの割合を、仮に10組に1組とします。1組の成約が失われると、その売上は、式場の1組あたりの売上になります。仮に1組あたり売上を300万円とすると、年に1組分でも300万円の影響です。
一方、仕組みを作る手間は、フォームに1問足すだけです。担当者が翌営業日に確認する時間は、記入がある月2組なら、1組あたり数分でしょう。年間でも、手間の合計は数時間に収まります。
ここで、数字の読み方を正直に書きます。「1組失われる」という想定そのものが仮置きです。この想定が当たるかは、式場の客層や、料理への期待の高さによって変わります。ただ、手間が年に数時間で、失う可能性のあるものが1組分の売上なら、割に合うかどうかを悩む理由はほとんどありません。悩むべきなのは、仕組みを作るかどうかではなく、仕組みを続けられる形にできるかどうかです。
もう一つ、逆の見方もあります。月にほぼ配慮が必要な二人が来ない式場で、わざわざ1問足すのはどうなのか。このときは、フォームの項目としてではなく、予約完了メールの本文に「食べられないものがあれば、お返事ください」と一行足すだけに留めるのも一案です。フォームの完了率を下げるリスクを、避けられます。
聞かないほうがよいケース
聞くべきではない、もしくは聞き方を変えたほうがよい場面もあります。
- 試食を出さないフェア(見学のみ、お茶のみ):食べ物の話は不要です。聞くと、試食があると誤解させます
- 立食形式やビュッフェ形式の試食:個別の対応が難しいので、「ビュッフェ形式のため、個別の調整はできません。食材の一覧はお渡しできます」と先に伝えるほうが誠実です
- 対応できる範囲が決まっていない式場:聞いたあとに「できません」と返すことになるなら、聞く前に厨房と相談して、できる範囲を決めます。聞くのは、受け止める準備ができてからです
特に3つ目は、最初に書いておきたいところです。フォームに1問足すことより、厨房と「アレルギー対応の線引き」を一度話し合うことのほうが、時間はかかります。そしてその話し合いこそが、この工夫の本体です。
小さな運用の確認:月1回、記入内容を見直す
仕組みを作ったあとの運用は、月1回、10分で足ります。
見るのは、自由記入欄に書かれた内容です。
- 同じ食材が何度も出てくれば、その食材を使わないメニューを、試食の標準に組み込めないか検討する
- 「ベジタリアン」「ハラール」のような、予想外の言葉が出てくれば、その二人のニーズを、サイトの料理ページに書く価値がある
- 記入が全然ないなら、聞き方が重いか、置いた位置が見えにくいか、どちらかを疑う
「同じ食材が何度も出てくる」場合の判断は、特に参考になります。式場にとっては、手間が減る道筋が見えるからです。毎回個別対応するより、標準のコースに代替の選択肢を1つ入れておくほうが、厨房の負荷は下がります。
まとめ
- ブライダルフェアの予約フォームには、「食べられないものや配慮が必要なものがあれば」を任意の1問で置く。必須にせず、フォームの後ろのほうに置き、自由記入にする
- 当日の席で初めて分かると、皿が遅れ、担当者が席を外し、二人が気をつかう。味より対応が記憶に残る
- 聞いたら、翌営業日までに「受け取ったこと」「できること」「確認が要ること」の3段で返す。厨房に確認してから返す
- 聞く前に、厨房と対応の線引きを決め、誰がいつ伝えるかを紙1枚にしておく。フォームだけ足しても、厨房に伝わらなければ意味がない
- 仮の試算では、手間は年に数時間、失う可能性のあるのは1組分の売上。割に合うかではなく、続けられる運用かを考える
- 試食のないフェア、ビュッフェ形式、対応範囲が決まっていない式場では、聞く前に準備を整えるか、聞き方を変える
