経営・組織

会場の改装に8,000万円かけると、回収は成約率1ポイントで11年、2ポイントで5.6年。効果が毎年2割ずつ薄れるなら、一生戻らない

会場の改装は、結婚式場の経営で一番大きな決断の1つです。チャペルの床や壁、披露宴会場の天井や照明、控室や水回りまで手を入れると、数千万円から億の単位になります。

改装の稟議では、だいたい「新しくなれば選ばれやすくなる」という説明が先に立ちます。僕はこの説明が間違いだとは思いません。ただ、「選ばれやすくなる」を数字にしないまま決めると、回収できるのかどうかが誰にも分からないまま、10年の減価償却だけが始まります。

結論から書きます。年120組、来館600組、成約率20%、1組あたりの粗利140万円の仮の式場が、8,000万円の改装をしたとします。1か月の休館で出る逸失の1,400万円を足すと、総額は9,400万円です。これを粗利で取り返すには、成約率が1ポイント上がると約11年、2ポイント上がると約5.6年かかります。さらに、改装の効果が毎年2割ずつ薄れていく場合、2ポイント上がっても累計は約7,500万円で止まり、9,400万円には届きません。

この記事は出典のある統計に頼っていません。数字はすべて僕が置いた仮のものです。前提を本文に書くので、改装費や来館数は、検討中の会場の数字に置き換えて読んでください。最後に、稟議の前に埋めておく5つの数字をまとめます。

前提:年120組、来館600組、粗利140万円

仮の式場を決めます。

  • 年間の来館は600組、成約率は20%、年間の挙式は120組
  • 1組あたりの粗利は140万円(料理、衣裳、装花などの原価を引いたあと、人件費と固定費を引く前)
  • 改装費は8,000万円(チャペル、披露宴会場、控室、水回りをまとめた額)
  • 改装の工事期間は1か月、その間は挙式も披露宴も受けられない
  • 月平均の挙式は10組(年120組を12か月で割った値)

140万円と8,000万円は、僕が置いた仮の値です。1組の粗利は、料理の単価や衣裳の取り扱いで会場ごとに大きく変わります。改装費も、築年数や工事の範囲で2倍、3倍の差が出ます。自分の会場の数字に置き換えるときは、粗利は「人件費と固定費を引く前の額」に揃えてください。固定費を引いたあとの額で割ると、回収の年数が実際より長く出ます。

休館の1か月で、1,400万円が消える

改装費の8,000万円だけを見て、回収の計算を始める稟議が多いと思います。ところが、工事の間に受けられなかった挙式の粗利も、改装のコストです。

  • 月10組の挙式が1か月止まると、10組×140万円=1,400万円の粗利が出ません
  • 改装費8,000万円+逸失1,400万円=9,400万円

休館の月が繁忙期にぶつかると、この逸失はもっと膨らみます。たとえば、秋の土日に集中する会場で、休館を10月に当てれば、月10組ではなく月16組が止まるかもしれません。その場合の逸失は2,240万円です。工事の月を閑散期にずらすだけで、800万円以上の差が出ます。

もう1つ見落とされやすいのが、休館の前後です。工事が終わった月から挙式の予約が元の水準に戻るまでに、数か月かかります。休館中はフェアも見学も止まるか、縮小するからです。この見えにくい逸失は、本記事の計算には入れていません。入れれば、回収はさらに遠のきます。

回収を決めるのは、成約率の上がり幅

改装で粗利を増やす道は、大きく3つあります。

  1. 成約率が上がる:来館した人が、前より契約してくれる
  2. 1組あたりの粗利が上がる:会場の見栄えが変わり、プランの単価を上げられる
  3. 維持費が下がる:古い設備の修繕費や、光熱費が減る

この中で、一番大きく動くのは成約率です。仮の式場で、成約率が1ポイント上がるとどうなるか。

  • 来館600組×1ポイント=6組
  • 6組×140万円=840万円

成約率1ポイントが、年間840万円の粗利に当たります。これを9,400万円で割ると、約11.2年。

成約率の上がり幅 増える挙式 年間の粗利の増加 回収の年数
0.5ポイント 3組 420万円 22.4年
1ポイント 6組 840万円 11.2年
1.5ポイント 9組 1,260万円 7.5年
2ポイント 12組 1,680万円 5.6年
3ポイント 18組 2,520万円 3.7年

成約率が20%から22%に上がれば、5年半で戻ります。20%から21%なら11年かかります。多くの会場では、設備の減価償却を10年前後で見ているので、1ポイントの上がりでは、償却が終わっても回収が終わらない計算です。

改装費が変わると、必要な上がり幅も変わる

改装費が4,000万円の会場と、1億2,000万円の会場では、同じ成約率の上がり幅でも結果が違います。逸失は1,400万円のままで、改装費と成約率の上がり幅を動かします。

改装費\成約率の上がり幅 0.5pt 1pt 1.5pt 2pt 3pt
4,000万円 12.9年 6.4年 4.3年 3.2年 2.1年
6,000万円 17.6年 8.8年 5.9年 4.4年 2.9年
8,000万円 22.4年 11.2年 7.5年 5.6年 3.7年
1億円 27.1年 13.6年 9.0年 6.8年 4.5年
1億2,000万円 31.9年 16.0年 10.6年 8.0年 5.3年

読み取れることは2つです。

1つ目は、成約率が1ポイントしか上がらないなら、6,000万円の改装でも9年弱かかることです。10年で回収するには、改装費が6,000万円なら1ポイント弱、8,000万円なら約1.1ポイント、1億2,000万円なら約1.6ポイントの上がりが要ります。

2つ目は、改装費を2倍にしても、成約率の上がりが2倍になるとは限らないことです。8,000万円で2ポイント上がる会場が、1億6,000万円かければ4ポイント上がる、という保証はありません。豪華にするほど回収が遠のく領域が、どこかにあります。

単価と維持費も足す

成約率以外の2つも、同じ表に足してみます。

仮に、改装後に1組あたりの粗利が3万円上がるとします。120組なら年360万円です。維持費も、古い空調や水回りの修繕が減って、年100万円下がるとします。

成約率が1ポイント上がるケースに、この2つを足すと次のようになります。

  • 成約率1ポイント:840万円
  • 単価の上がり:3万円×120組=360万円
  • 維持費の削減:100万円
  • 合計:1,300万円

9,400万円÷1,300万円=約7.2年。成約率だけで見たときの11.2年が、約4年縮みます。

ただし、単価の上がりには注意が必要です。単価を上げると、成約率が下がる場合があります。3万円の単価アップで成約率が0.5ポイント落ちると、減る粗利は420万円で、単価の上がりの360万円を上回ります。単価を上げる前に、成約率への影響を見ないと、足し算の結果が逆になります。

一方、維持費の削減は、確実性が高い項目です。改装をする理由が「壊れかけている設備の更新」なら、この100万円は必ず出ます。ただ、新しい設備でも年に数十万円の維持費はかかるので、削減額は、現状の修繕費の実績から新しい設備の保守契約費を引いて出してください。

効果は永遠に続かない

ここまでの計算は、改装の効果が毎年同じ額で続く前提でした。実際は、そうなりません。

新しい会場は、はじめは新しさそのものが強みになります。ところが、数年たつと、近隣に新しい会場が開業したり、競合が改装したりして、強みが薄まります。

効果が毎年10%、20%、30%ずつ薄れていく場合を計算してみます。成約率が2ポイント上がり、年1,680万円の粗利が1年目に出て、翌年から毎年一定の割合で減っていくとします。総額は9,400万円です。

毎年の減り方 回収できる年 10年間の累計
減らない 6年目 1億6,800万円
毎年10%減る 8年目 約1億900万円
毎年20%減る 回収できない 約7,500万円
毎年30%減る 回収できない 約5,400万円

毎年20%減る場合、10年たっても累計は約7,500万円です。9,400万円に届きません。毎年2割ずつ減る流れを何年足しても、合計の上限は1,680万円÷0.2=8,400万円です。9,400万円には永久に届きません。

成約率が2ポイント上がっても、それが毎年2割ずつ消えていくなら、この改装は元が取れません。「新しくなった」という強みは、時間とともに目減りします。稟議の段階で、効果がどのくらいの速さで薄れるかを置かないと、回収の年数が楽観的に出ます。

減りの速さは、予測しにくいと思います。ただ、近隣の競合が何年おきに改装しているか、自社の前回の改装後に成約率がどう動いたかは、実績で見られます。前回の改装の記録があるなら、そこから逆算した減り方を置くのが、現実に近いです。

借りて改装するなら、利息も回収の対象

改装費を借入で賄う会場は多いはずです。その場合、利息も回収の対象になります。

仮に、8,000万円を年利2%、10年の元利均等で借りるとします。毎年の返済は約891万円で、10年の利息の総額は約906万円。つまり、改装の総額は9,400万円ではなく、約1億300万円です。

1億300万円を年840万円(成約率1ポイント)で割ると、約12.3年。借入の期間より長くなります。

ここで見えるのは、毎年の返済891万円が、成約率1ポイントの粗利840万円を上回ることです。成約率が1ポイントしか上がらない改装は、返済だけで毎年のキャッシュが減ります。2ポイント以上上がって、はじめて返済を払ったあとにキャッシュが残ります。

借入の返済は、利益ではなくキャッシュで払います。改装した年の利益が黒字でも、キャッシュが足りなくなる会場があります。稟議では、返済額と、成約率の上がり幅ごとの年間の粗利を、並べて見たほうがいいです。

改装しなかった場合の、減り方も置く

ここまでは「改装すると何が増えるか」を見てきました。反対側の、「改装しないと何が減るか」も、同じ式に入れる必要があります。

築20年の会場が、改装せずに放置するとします。近隣に新しい会場ができるたびに、成約率が少しずつ下がる。毎年0.3ポイント下がるなら、5年で1.5ポイント、年間の粗利にして1,260万円の減少です。

この場合、改装のコストは、「9,400万円を使って1,260万円を取り戻す」ことと同じになります。「改装して上がる分」と「改装せずに下がる分」は、会場の周囲の競争次第で、大きく入れ替わります。

どちらの数字も、予測です。ただ、予測の置き方で結論が変わる以上、稟議には予測を明示した上で、「上がる場合」「変わらない場合」「下がる場合」の3つを置いたほうがいいと思います。

  • 改装して成約率が2ポイント上がる:年1,680万円
  • 改装して成約率が1ポイント上がる:年840万円
  • 改装しないで毎年0.3ポイント下がる:年252万円ずつ減る

この3つのどれが一番ありそうか、役員の間で一度すり合わせるだけでも、稟議の質が上がります。

稟議の前に埋める5つの数字

最後に、改装の判断を数字にする手順を書きます。次の5つを埋めると、回収の年数が出せます。

  1. 休館する月の挙式数と、1組あたりの粗利。休館の逸失はこの2つの積
  2. 年間の来館数。1ポイントの成約率が、何組・何万円に当たるかが決まる
  3. 前回の改装後に、成約率がどう動いたかの記録。なければ、改装前後の来館数と成約数を過去の予約表から出す
  4. 効果が薄れる速さ。近隣の競合が何年おきに改装・開業しているか
  5. 借入の返済額。年間の粗利の増加と並べる

この5つが空欄のまま、「新しくなれば選ばれる」で進む稟議は、回収の年数を誰も説明できません。逆に、埋まれば、改装の規模を変える、休館の月をずらす、段階的に工事を分ける、といった判断が数字でできます。

たとえば、一気に8,000万円を使う代わりに、チャペルだけ先に4,000万円で改装して、成約率の動きを見てから披露宴会場を決める、という進め方もあります。2回に分ければ、1回目の結果を2回目の判断に使えます。休館も2回に分かれるので、トータルの逸失は増えますが、外れたときの損失が半分で済みます。

まとめ

  • 年120組、来館600組、成約率20%、粗利140万円の仮の式場で8,000万円の改装をすると、休館1か月の逸失1,400万円を足した総額は9,400万円。
  • 成約率が1ポイント上がると年840万円。回収は約11年。2ポイントなら約5.6年、3ポイントなら約3.7年。
  • 10年で回収するには、改装費8,000万円なら成約率が約1.1ポイント以上上がる必要がある。
  • 単価の3万円アップと維持費100万円減を足すと、1ポイントのケースが約7.2年に縮む。ただし単価を上げて成約率が0.5ポイント落ちると、足し算が逆になる。
  • 効果が毎年2割ずつ薄れるなら、2ポイント上がっても累計は約7,500万円で、9,400万円に届かない。
  • 8,000万円を年利2%・10年で借りると、返済は年約891万円。成約率1ポイントの粗利840万円を上回る。
  • 稟議には、成約率が上がる場合、変わらない場合、下がる場合の3つを、予測と明示して並べる。
  • 改装を2回に分けると、1回目の結果を2回目の判断に使える。