プランナーの成約インセンティブは、定額か粗利連動かで値引きの出し方が変わる。仮の式場では、成約率が3ポイント上がるだけの値引きが、定額なら担当者の得になり、式場の年175万円の損になる
プランナーに「成約1組につき3万円」を払う式場は、少なくないと思います。わかりやすく、運用も楽です。ただ、この形は担当者に「値引きを出すほど得」という判断を、いつのまにか渡してしまうことがあります。
この記事の論点は1つです。インセンティブを定額で払うか、粗利に連動させるかで、担当者が値引きを出す基準が変わります。 定額のままだと、式場が損をする値引きでも、担当者は得をする範囲が出ます。仮の式場で、その範囲がどのくらいかを計算します。
先にお断りしておくと、この記事に出てくる金額と成約率は、すべて計算を回すための仮置きです。出典のある数字ではありません。実際の式場の成約率や値引きの効き方は、自社の記録で置き換えてください。
仮の式場の置き方
数字は、次のように置きます。
- 年間の成約:120組
- 1組の売上:350万円
- 1組の粗利:売上の35%で122.5万円
- 迷っている客:年100組(値引きの話が出る、出さないと決めきれない二人)
- 値引きなしで成約する割合:40%(100組のうち40組)
- インセンティブ:定額は1組3万円。比べる相手は、粗利の3%を払う形
「迷っている客」だけを取り出すのは、値引きの判断が実際に動くのがここだからです。最初から決めている二人には値引きは要りませんし、最初から決めない二人には効きません。年間120組の成約のうち、この100組が全部のはずはなく、ここでは判断の動く部分だけを抜き出したと考えてください。
値引きは、粗利から直接引きます。原価は変わらないので、10万円の値引きは粗利122.5万円が112.5万円になることと同じです。
式場が値引きで得をする線
担当者の話に入る前に、式場側の線を引いておきます。10万円の値引きを出すと、1組あたりの粗利は122.5万円から112.5万円に下がります。それでも得になるには、成約の組数が増えて、その減り分を埋める必要があります。
成約率が40%のままなら、値引きなしの粗利は40組×122.5万円で4,900万円です。値引きありで同じ4,900万円を作るには、112.5万円で割って、約43.6組が要ります。100組の迷っている客に対して、成約率が40%から43.6%に上がれば、値引きは損にも得にもなりません。
つまり、10万円の値引きは、成約率を3.6ポイント以上押し上げる値引きでなければ、式場にとっては損になります。
値引き額を変えると、線は動きます。
- 10万円の値引き:成約率が43.6%を超えれば得
- 20万円の値引き:47.8%を超えれば得
- 30万円の値引き:53.0%を超えれば得
値引き額が大きくなるほど、成約率の押し上げ幅が大きく必要になります。30万円の値引きは、迷っている客の成約率を13ポイント上げる効果がなければ、式場の損です。
定額インセンティブの担当者の線
次に、担当者から見ます。定額3万円で、成約するたびに3万円が入るとします。担当者が気にするのは、自分の期待値です。値引きなしなら、成約率40%で1組あたり1.2万円。値引きありで成約率が43.6%なら、1.31万円。ここで成約率が少しでも上がれば、担当者の期待値は増えます。
定額の場合、担当者の線は、成約率が40%を超えた時点です。値引きによって成約率が40.1%になっただけでも、担当者は得をします。
式場の線は43.6%でした。担当者の線は40%です。この間の3.6ポイントは、式場が損をして、担当者が得をする範囲です。
2つの例で見ます。
例A:10万円の値引きで、成約率が55%になった場合
100組のうち、成約は40組から55組に増えます。式場の粗利は、55組×112.5万円で6,187.5万円。値引きなしの4,900万円と比べると、年間で1,287.5万円増えます。担当者の定額は、増えた15組分で45万円。式場にとっても担当者にとっても、得です。
例B:10万円の値引きで、成約率が42%になった場合
成約は40組から42組に増えます。式場の粗利は、42組×112.5万円で4,725万円。値引きなしより、175万円減ります。担当者の定額は、増えた2組分で6万円。式場は175万円損をして、担当者は6万円得をします。
例Bの値引きは、成約率が2ポイント上がっただけです。実際の現場では、値引きを出しても決める人は決めるし、決めない人は決めません。2ポイントなら、効果としては「ちょっと上がったかな」という感触の範囲だと思います。担当者の感触としては「値引きを出してよかった」になりやすいのに、式場の数字では175万円の損になっています。
粗利連動にすると、線がそろう
では、粗利の3%を払う形にすると、どうなるでしょうか。粗利が122.5万円なら、インセンティブは3.675万円。値引き10万円を出すと、粗利が112.5万円になるので、インセンティブは3.375万円に下がります。
担当者の期待値は、値引きなしだと40組×3.675万円で147万円。値引きありで成約率が42%なら、42組×3.375万円で141.75万円。5.25万円減ります。つまり、式場の損175万円が、担当者の損5.25万円として見えるようになります。
線を計算し直すと、担当者にとって値引きが得になる成約率は、式場と同じ43.6%です。粗利に比例する形なら、担当者と式場は、同じ線で判断することになります。
例Aでは、粗利連動でも担当者は得をします。成約が55組なら、55組×3.375万円で185.6万円。値引きなしの147万円より、38.6万円増えます。式場にとって得になる値引きは、担当者にとっても得のままです。
粗利連動の良いところは、値引きの上限を決めなくても、担当者が自分で「これは元が取れるのか」を考える理由ができることです。値引きの決裁を店長に上げる運用は、あっていいと思います。ただ、決裁の手間を増やすほど、現場は決裁を通りやすい理由を探すようになります。判断の基準を担当者の財布と合わせたほうが、決裁を減らしても崩れにくいです。
粗利連動の難しさ
粗利連動が万能かというと、そうでもないと思います。難しさが3つあります。
1つ目は、粗利の数字を担当者が見られる状態にしておく必要があることです。契約書の金額から原価を引いた粗利を、成約のたびに担当者に伝えるのは、手間がかかります。原価の中には、料理や装花のように、人数や内容で変わるものもあります。契約時点の見積もりで粗利を計算するのか、挙式後に確定した粗利で計算するのかも決めなければいけません。
2つ目は、粗利の計算が担当者に不透明だと、不信につながることです。「どうして今月は先月より低いのか」と聞かれたときに、説明できる計算式が要ります。計算式が複雑になるほど、現場は「会社が決めたもの」と受け止めて、自分で考えなくなります。
3つ目は、制度を変えるときの手続きです。賃金の決め方を変えるには、就業規則や賃金規程の見直し、従業員への説明が要ります。ここは僕は労務の専門家ではないので、実際に変えるときは社会保険労務士など専門家に確認してください。この記事の計算は、制度の形を考える材料までです。
払うタイミングで、キャンセル時の扱いも変わる
もう1つ、インセンティブで決める項目があります。いつ払うかです。
契約した日に全額払う形だと、その後に契約が解除されても、払った分が戻らない可能性があります。仮の式場で、契約後のキャンセルが5%だとすると、年120組のうち6組です。定額3万円なら、年18万円が「成約になっていない組への支払い」になります。
契約時に半分、挙式の実施後に半分払う形なら、キャンセルになった6組分は、後半の1.5万円が出ません。年9万円の差です。金額としては小さいです。
ただ、この差の意味は金額ではありません。契約後のキャンセルの責任の一部を、担当者に持ってもらう形になることです。契約時に「あとでなんとかなります」と言って決めさせた人と、契約後の打ち合わせで丁寧に詰めてきた人の成果を、同じ扱いにしないという意思表示になります。
一方で、挙式後に払う形は、担当者の手元に届くまでが遅くなります。契約から式まで10か月なら、後半は10か月後です。担当者から見ると、遠い報酬は今の行動に効きにくくなります。契約時と挙式後で分けるなら、前半を厚めにするか、後半を厚めにするかは、式場のキャンセル率と離職の状況を見て決めることになると思います。
年間の総額で見る
総額も確認しておきます。定額3万円で年120組なら、年360万円。粗利の合計が14,700万円なので、約2.4%です。粗利の3%連動なら、年441万円。差は81万円です。
粗利連動のほうが81万円高くなるのは、この仮の計算が、粗利の3%を定額3万円より少し大きく置いたからです。同じ総額で比べたければ、連動の率を2.45%にすれば、年360万円で並びます。形を変えるときは、総額を変えずに、配り方だけを変えることもできます。
総額が同じなら、変わるのは、値引きを出す基準だけです。値引きの場面で担当者が何を見て判断するかが、定額と連動で変わります。
値引きの記録がないと、設計は検証できない
ここまでの計算は、「値引きを出した組の成約率が上がる」という前提を置いています。実際にどれだけ上がるかは、自社の記録を見ないと分かりません。
見るのは、迷っている客のうち、値引きを提示した組と、提示しなかった組の成約率です。提示した組の成約率が提示しなかった組より低いこともあります。値引きは、決まりかけた客を取りに行くより、決まらない客に出すことが多いからです。この比較は、きれいな実験ではなく、現場の判断が混ざったものになります。それでも、値引き額ごとに成約率を並べると、10万円までなら効いている、20万円を超えると差が出ない、のような形が見えることがあります。
記録を残すときの最低限の項目は、次のとおりです。
- 値引きを提示した日と、金額
- 提示した相手が、迷っていた客かどうか(担当者の判断でよい)
- 成約したか、しなかったか
この3つが半年分たまれば、式場の線である43.6%のような数字を、自社の数字で置き換えられます。100組もなければ、成約率の差は誤差に埋もれると思います。その場合は、数が足りないと割り切って、値引きの上限を決める運用のほうが現実的です。
判断の順番
インセンティブの形を見直すときの順番を、まとめます。
- 今のインセンティブが、定額か売上連動か粗利連動かを確かめる
- 値引きの記録から、迷っている客の成約率と、値引き提示後の成約率を出す
- 値引き額ごとに、式場の損益の線(10万円なら43.6%など)を出す
- 担当者の線と、式場の線がずれているかを見る。定額ならずれる
- ずれが大きいなら、粗利連動か、値引きの上限つきの定額かを検討する
- 賃金に関わる変更なので、専門家に確認してから進める
2から先は、数字が足りないと動けません。だからこそ、1の確認と、値引きの記録の開始が、いちばん先に手を付けられる部分です。
まとめ
- 成約1組ごとの定額インセンティブは、成約率が少しでも上がる値引きなら、担当者が得をする形になる。仮の式場では、担当者の線は40%超、式場の線は43.6%超で、その間の3.6ポイントが、式場が損をして担当者が得をする範囲
- 仮の式場で10万円の値引きを100組の迷っている客に出して成約率が55%になれば、式場の粗利は年1,287.5万円増える。42%にしか上がらなければ、年175万円減るのに、担当者の定額は6万円増える
- 粗利連動にすると、担当者の線も43.6%になり、式場の線とそろう。難しさは、粗利を担当者に見せる手間と、計算式の分かりやすさ、制度変更の手続きにある
- 払うタイミングを契約時と挙式後に分けると、契約後のキャンセルの責任の一部を担当者が持つ形になる。ただし遠い報酬は行動に効きにくい
- 設計を検証するには、値引きの日・金額・成約の結果を記録して、迷っている客の成約率を自社の数字で出す必要がある
- 賃金に関わる変更は、専門家に確認してから進める
インセンティブは、担当者に何をしてほしいかを、金額で伝える仕組みです。値引きを出してほしくない場面で、値引きを出すほど得になる形のままにしていないかを見直す価値はあります。
