経営・組織

披露宴が押したら、仮の150分の進行表では15分までは中身を削らず戻せる。決めておくのは削る順番と、延ばせない終了時刻だ

披露宴が予定より押したとき、どこを削るか。この判断を当日の司会者やキャプテンの勘に任せている式場は、まだ多いのではないでしょうか。僕の立てた仮の進行表で計算すると、15分押しなら中身を一つも落とさずに戻せます。30分押しになると、卓まわりの時間か余興の中身に手を入れないと戻せません。そして、削る順番は二人と事前に決めておけば、当日の誰が判断しても同じ結果になります。

この記事の数字は、延長料金や人件費も含めて、すべて僕が置いた前提による計算です。実在の式場の実績ではありません。自社の進行表の分数に置き換えて使ってください。

押すのは、たいてい誰のせいでもない

披露宴が押す理由は、ほとんどが小さな積み重ねです。主賓の挨拶が予定の3分から6分になる。乾杯の発声のあとに、写真を撮りたいゲストが集まる。お色直しの中座が、着替えの手間で5分延びる。どれも、誰かが悪いわけではありません。

だから「押さないように気をつける」は、運用のルールになりません。押すことを前提に、押したあとの動きを決めておくほうが現実的です。決めていないと何が起きるか。司会者は進行表どおりに進めたい。キャプテンは厨房の都合を見ている。プランナーは二人の希望を知っている。三人が別々の優先順位で動き、削る場面が当日の空気で決まります。

後で二人に聞かれて困るのは、「なぜ、あの場面だけ短くなったのか」に答えられないことです。事前に決めてあれば「打合せで決めた順に、こう調整しました」と言えます。決めていなければ、言い訳になります。

仮の進行表

150分の披露宴を置きます。人数や会場の規模で分数は変わりますが、構造を見るための仮の数字です。

場面 予定の分数
乾杯・開宴 15
食事・歓談 30
ケーキ入刀・撮影 10
お色直しの中座 20
再入場・卓まわり 20
余興・ムービー 25
食事後半・デザート 15
花束・謝辞 10
退場・お見送り 5

合計は150分です。この表のうち、場面を丸ごと削っても二人が気づきにくいものは、ほとんどありません。ただ、各場面には「中身」と「余白」があります。たとえば余興・ムービーの25分は、実際の映像や演目が20分で、残りの5分は切り替えや拍手の余白かもしれません。削るなら、余白から先です。

リクルートのゼクシィ結婚トレンド調査2024では、披露宴で余興を実施した人は17.0%でした。以前は半数近かったので、余興の枠は「必ずあるもの」ではなくなっています。進行表の中で、余興のように持ち時間が可変な場面と、花束贈呈のように動かせない場面を分けて見る意味があります。

戻せる量を3段に分ける

押した分を戻す方法を、二人の希望を傷つけにくい順に3段に分けます。

1段目:中身を削らず、間を詰める。 料理の提供間隔を5分詰める。余興の切り替えの余白を5分縮める。中座の着替えを5分急ぐ。合計15分です。ゲストからは何も削られたように見えません。ただし、厨房や衣装係の協力が前提で、前もって「押したら詰める」と共有してある必要があります。

2段目:持ち時間を削る。 余興・ムービーを25分から15分に縮める。再入場後の卓まわり20分を15分にする。合計15分です。ここから、ゲストに見える変化が出始めます。余興の演者には事前に「最大でこの長さ」と伝えておかないと、当日にその場で止めることになります。

3段目:場面を落とす。 ケーキ入刀後の撮影を省く。デザートの提供を簡素にする。ここまでくると、二人の希望の中身に手を入れます。事前の合意がなければ、現場は踏み込めません。

整理すると、1段目で15分、2段目まで使って30分、3段目に入ると30分を超えます。仮の進行表なので、実際は式場ごとに違います。大事なのは、「何分押したら、どの段まで使うか」を表にして、二人と決めておくことです。

押した分 使う段 見えるか
15分まで 1段目のみ ゲストには見えない
16〜30分 1段目+2段目 余興や卓まわりが少し短くなる
31分以上 3段目、または終了時刻の見直し 場面が減る

延長するという選択肢の値段

削らずに延ばす方法もあります。会場に次の組がいなければ、延長できる可能性があります。このときの費用を、人件費だけで計算してみます。

前提は、配膳スタッフ12人、時給1,500円とします。10分延長で12人×1,500円×10÷60=3,000円、20分で6,000円、30分で9,000円です。これは僕が置いた時給で、実際は割増賃金や深夜の扱いで変わります。

数字を見ると、30分延ばしても人件費は9,000円です。粗利が1組140万円の式場なら、0.6%に満たない額です。人件費だけで見れば、延長は安い手段だということになります。

では、なぜ式場は延長を嫌うのか。費用の本体は人件費ではなく、「終了時刻が動かせない制約」にあるからです。たとえば次のようなものです。

  • 次の組の入場準備(人気日の2組目、3組目がある場合)
  • 送迎バスの最終出発時刻
  • 遠方のゲストの帰りの電車や新幹線
  • 会場の近隣への配慮(音響の時間帯)

この中に一つでも動かせない制約があれば、延長はその分だけ使えません。逆に、全部が動かせるなら、削るより延ばすほうが二人のためになります。

制約を一覧にしておく

進行表の横に、終了時刻を決める制約を書き出しておきます。そして、それぞれに「動かせる/動かせない」を記入します。たとえば、こういう形です。

制約 動かせるか 動かせる幅
次の組の準備 動かせない(人気日) なし
送迎バス 動かせる 最大15分、運行会社に前日までに連絡
遠方ゲストの帰り ゲストごとに違う 最終人数の確定時に聞く
近隣の音響 動かせない なし

この表を作ると、その日の「延ばせる上限」が数字で出ます。上の例なら、バスが15分動かせるので、15分までは延長が選べます。それ以上押したら、削るしかありません。

人気日の3組目がある日は、1組目の遅れが2組目、3組目に連鎖します。転換時間の考え方は、すでに別の記事(人気日の3組目は転換時間で決まる)で書いたとおりです。ここでは、1組目の披露宴の中で戻せる分を先に決めておくと、転換時間を守りやすくなる、という点だけ押さえておけば十分です。

判断する人と、判断する時点を決める

削る順番を決めても、誰がいつ判断するかが決まっていないと、現場は動きません。次の3つを決めます。

判断する人は一人。 キャプテンです。司会者は進行を、プランナーは二人の希望を伝える側にして、削るかどうかの最終判断だけをキャプテンに集めます。三人が別々に判断するのが、いちばん事故が起きるからです。

測る時点は、お色直しの中座に入る直前。 乾杯から中座までは、食事と歓談が中心で、遅れが見えやすいところです。ここで予定より何分押しているかを、司会者がキャプテンに伝えます。その時点の遅れが10分以内なら、1段目だけで戻せます。20分を超えていれば、中座の長さと余興の持ち時間に手を入れます。

伝える言葉を決める。 「押しています」では何分か分かりません。「中座入り、プラス12」のように、基準時刻からの差を数字で言う決まりにします。数字で言えば、聞く側が段を選べます。

この3つは、新人でも運用できるようにマニュアルの一枚に収まります。経営側が決めることは、段の分け方と、誰が判断するかの2点です。分数の細かい調整は、各会場で後から埋められます。

二人との合意は最終打合せで取る

押したときの削る順番を、二人に説明するのは気が重い作業です。「お式が押すかもしれません」と言われて、いい気持ちになる二人はいません。だから、言い方を工夫します。

「当日、予定より時間が押したとき、二人の大事にしたい場面を守るために、短くする順番を決めておきたいんです」。この言い方なら、削ることではなく、守ることが主題になります。

そのうえで、二人に3つの場面を選んでもらいます。「ここだけは絶対に削りたくない」という場面です。親への手紙、サプライズのムービー、デザートビュッフェなど、二人によって違います。選ばれた場面は、3段目に入っても守ります。選ばれなかった場面を先に調整します。

最終打合せは、人数や席次の確定で時間が足りなくなりがちな回です。ここに5分足すだけで合意が取れるよう、進行表の端に「押したとき」の欄を印刷しておくのがいいと思います。二人が見る書類に、あらかじめ書いてあれば、説明の入口が楽になります。

自社の押し方を測る

最後に、この判断を自社の数字で裏づける方法です。過去の披露宴について、予定の終了時刻と実際の終了時刻を並べます。20組分あれば、傾向が見えます。

  • 中央値:多くの組が何分押しているか
  • 最大:いちばん押した組は何分か
  • 押す場面:どの場面で遅れが出ているか

中央値が5分なら、1段目の準備で足ります。最大が40分なら、そこは3段目まで使う想定を残すか、そもそも進行に余白を足すかの判断になります。押す場面が毎回「主賓挨拶」なら、挨拶の依頼時に持ち時間を伝える運用が先です。

記録の手間が気になる場合は、キャプテンが当日に「予定終了」「実終了」「いちばん押した場面」の3つを一行で残すだけでも十分です。20組溜まれば、判断の根拠になります。

「うちは押さない」と感じていても、測っていなければ確認していない言葉です。記録に出ていないだけで、押している組があるかもしれません。

経営指標への橋

この仕組みが効く先は3つあります。

転換時間の確保。 人気日の2組目、3組目がある日は、1組目の遅れが次の組の準備時間を削ります。戻せる分を決めておけば、転換のミスや遅れを減らせます。

口コミと紹介。 披露宴の終盤が慌ただしくなると、二人とゲストの記憶に「最後がバタバタした」が残りやすくなります。口コミに星が一つ付くと、平均点が下がって見学の入口が狭くなる、という話は別の記事で書きました。

現場の負担。 押したときの動きが決まっていれば、判断に迷う時間が減ります。新人のキャプテンでも、表を見れば動けるからです。

ただし、押すことそのものを減らす施策ではありません。主賓挨拶の依頼時に持ち時間を伝える、余興の演者に最大の長さを伝えるといった運用は別に必要です。この記事の話は、そこをやってもなお押した日の、保険の話です。

まとめ

  • 披露宴が押す原因は小さな積み重ねで、「押さないように気をつける」は運用にならない。押したあとの動きを決めておく
  • 仮の150分の進行表では、15分押しなら中身を削らず戻せる。30分押しで卓まわりや余興に手が入り、31分以上で場面を落とす
  • 戻す方法を3段に分け、「何分押したら、どの段まで」を表にして二人と合意しておく
  • 延長は人件費だけなら30分で9,000円(仮定)と安い。本当の制約は、次の組、送迎バス、ゲストの帰りの足といった動かせない終了時刻
  • 制約を一覧にして「動かせる幅」を数字にすると、その日の延ばせる上限が出る
  • 判断する人はキャプテン一人、測る時点は中座の直前、伝え方は基準時刻からの差を数字で言う
  • 二人には「大事な場面を守るために順番を決める」と伝え、絶対に削りたくない場面を3つ選んでもらう
  • 過去20組の予定終了と実終了を並べると、自社の押し方が数字で出る