経営・組織

件数が5%減ると、利益はほぼゼロになる。固定費が大きい式場の「利益の感応度」を、仮の式場で計算する

「今年は件数が少し減ったけど、単価が上がったから大丈夫」。この感覚は、固定費の大きい式場では危ないことがあります。件数が減ったときの利益の落ち方と、単価が上がったときの利益の増え方は、同じ速さではないからです。

この記事は実在の式場の数字ではなく、前提を置いた仮の式場でのモデル計算です。使う数字はすべて僕が置いた想定で、調査の結果ではありません。自社の数字に差し替えて読めるように、計算の中身を全部書いておきます。

先に結論を言うと、仮の式場では件数が5%減るだけで営業利益がほぼゼロになります。そして「単価が5%上がった」という話は、原価が増えるのかどうかで、利益への効き方が2倍以上変わります。

仮の式場の前提

置いた前提は次のとおりです。

  • 年間の施行組数:160組
  • 1組あたりの売上:350万円(料理、衣装、装花、写真、会場費などをすべて含む)
  • 売上に連動して増える費用(変動費):売上の55%。料理、飲料、衣装、装花、引出物など、1組増えれば増える費用
  • 売上に関係なくかかる費用(固定費):年2.4億円。人件費、建物の減価償却や賃料、光熱費、広告費の基本部分など

ここから出てくる数字は次のとおりです。

  • 年間売上:160組×350万円=5億6,000万円
  • 1組あたりの粗利(売上から変動費を引いた額):350万円×45%=157.5万円
  • 年間の粗利:157.5万円×160組=2億5,200万円
  • 営業利益:2億5,200万円−2億4,000万円=1,200万円(売上の約2.1%)

営業利益率が2%台というのは、かなり薄い設定です。ただ、固定費の重い業態では珍しい設定ではない、というのが僕の見方です。実際の式場の数字は決算書を見ないと分からないので、ここでは仮に置いています。

固定費の割合が大きいと何が起きるか。この式場は粗利が2億5,200万円あっても、その95%が固定費に消えて、残りが1,200万円という構造になっています。

損益分岐は年152組

固定費2.4億円を、1組あたりの粗利157.5万円で割ります。

2億4,000万円÷157.5万円=約152.4組

つまり、年に153組を超えると黒字になり、152組までだと赤字になります。160組という実績は、損益分岐の152.4組より約7.6組(5%弱)上にあるだけです。

この「分岐点との距離」が、安全余裕と呼ばれる考え方です。ここでは約4.8%(7.6組÷160組)しかありません。件数が4.8%減ると利益はゼロになる、ということです。

件数5%減(152組)で実際に計算してみます。

  • 粗利:152組×157.5万円=2億3,940万円
  • 営業利益:2億3,940万円−2億4,000万円=マイナス60万円

件数が8組減っただけで、1,200万円の利益が60万円の赤字に変わります。減った売上は8組×350万円=2,800万円(売上全体の5%)ですが、利益は1,260万円減りました。売上が2,800万円減って、利益が1,260万円減る。1組減るごとに、157.5万円ずつ利益が消えていくからです。

件数が10%減ると、赤字は1,320万円

件数が10%減って144組になった場合です。

  • 粗利:144組×157.5万円=2億2,680万円
  • 営業利益:2億2,680万円−2億4,000万円=マイナス1,320万円

利益は1,200万円から1,320万円の赤字へ、2,520万円悪化します。売上の減りは5,600万円なので、売上の減少額の45%が、そのまま利益の減少になる計算です。この45%は粗利率と同じ数字で、変動費が売上と一緒に減る分は助けになりますが、固定費は減らないので、粗利の部分がそのまま落ちます。

「売上が1割減っただけなのに、利益が赤字になった」という現象は、この仕組みで起きます。売上が減る割合と、利益が減る割合が違う。固定費が大きいほど、利益の変動は売上の変動より大きくなります。

1%動かしたら、利益はいくら動くか

では、何を動かすのがいちばん利益に効くのか。件数、単価、原価率、固定費を、それぞれ1%(原価率だけは1ポイント)動かしたときの営業利益の変化を並べます。

動かすもの 営業利益の変化(年)
件数が1%増える(1.6組) +252万円
単価が1%上がる(高いプランが売れる。原価率は同じ) +252万円
単価が1%上がる(値上げ。原価は変わらない) +560万円
変動費率が1ポイント下がる(55%→54%) +560万円
固定費が1%減る(240万円) +240万円

ここで見てほしいのは、同じ「単価1%アップ」でも、効き方が2倍以上違うことです。

高いプランが売れた場合。 350万円のプランが353.5万円になったとき、料理や装花のグレードが上がっているので、原価も同じ割合で増えます。粗利は157.5万円から159.1万円で、1組あたり1.6万円しか増えません。年160組で252万円。件数1%増と同じです。

値上げをした場合。 同じ内容のまま価格だけ353.5万円にすると、原価は変わらないので、増えた3.5万円がまるごと粗利になります。年160組で560万円です。

単価が上がったと言っても、中身が増えての単価アップなのか、同じ中身で価格が上がったのかで、利益への効果は変わります。「平均単価が上がった」とだけ見て安心すると、この違いが見えません。

「単価で埋める」には、いくら必要か

件数が10%減って144組になったとき、単価を上げて元の利益1,200万円を取り戻すには、いくら上げる必要があるでしょうか。

原価が増えない値上げの場合。 必要な営業利益1,200万円に対して、いま144組での利益はマイナス1,320万円です。差は2,520万円。144組で割ると、1組あたり17.5万円です。350万円が367.5万円、つまり5%の値上げで取り戻せます。

中身が増える単価アップ(原価率は同じ)の場合。 粗利率は45%のままなので、必要な1組あたりの粗利は、(固定費2億4,000万円+目標の利益1,200万円)÷144組=約175万円。これを粗利率45%で割ると、1組あたりの売上は約388.9万円。350万円から約11.1%の単価アップが必要です。

件数が10%減ったら、同じ内容のまま5%の値上げが必要、中身を増やして売るなら11%の単価アップが必要。後者は現実にはかなり重い数字です。中身を増やして売る単価アップは、プランナーの提案力や新郎新婦の予算に左右されます。値上げは件数に跳ね返るかもしれません。件数が減った分を単価で埋めるのは、両方とも楽ではありません。

固定費の大きさで、揺れ方は変わる

同じモデルで、固定費だけを変えてみます。粗利率、単価、件数は同じです。

固定費(年) 160組のときの営業利益 144組(10%減)のときの営業利益 損益分岐の組数
1.6億円 9,200万円 6,680万円 約102組
2.4億円 1,200万円 マイナス1,320万円 約152組
3.2億円 マイナス6,800万円 マイナス9,320万円 約203組

固定費が1.6億円の式場は、件数が10%減っても6,680万円の黒字です。固定費が2.4億円だとマイナス1,320万円。同じ件数の落ち込みでも、固定費の大きさで結果がまったく変わります。

そして、固定費が大きいほど「件数が1組減る」ことの痛みが変わるわけではありません。1組減れば、どの固定費の式場でも157.5万円の粗利が消えます。変わるのは、その157.5万円を吸収できる余裕の大きさです。固定費が軽い式場は余裕が大きく、重い式場は余裕がありません。

自社で確かめる手順

この計算を自社の数字でやるには、4つの数字が要ります。

  1. 年間の施行組数:前年度の実績。繁忙期だけでなく、年間の合計で見る
  2. 1組あたりの平均売上:値引きや特典を引いたあとの、実際に入った金額
  3. 変動費率:料理、衣装、装花、引出物など、1組増えると増える費用が売上の何%か。人件費は固定費に入れるのが基本ですが、パートやアルバイトを施行に応じて増減させている分は変動費に入れます
  4. 固定費:売上に関係なく毎年かかる費用の合計

この4つがあれば、損益分岐の組数は「固定費÷(1組の売上×(1−変動費率))」で出ます。出た組数と、実際の施行組数の距離が、その式場の安全余裕です。

見る順番としては、まず損益分岐を出して、そこからの距離を「何組」で言えるようにします。距離が10組以上あれば、1年の件数の揺れで赤字にはなりにくい。5組以内なら、月次の件数を見るたびに黒字か赤字かが変わる状態です。

数字の限界

このモデルには、現実と違うところがあります。

  • 固定費は、件数が大きく動けば動きます。たとえば件数が2割減ったら、スタッフの配置や営業日を変えて、固定費を減らす判断をするはずです。この計算は、固定費が動かない短い期間の見方です
  • 変動費率は一定と置いています。実際は、仕入れの量で単価が変わったり、衣装は自社所有なら固定費に近かったりします
  • 件数と単価は、独立していません。値上げをすれば件数が減るかもしれず、値引きをすれば件数が増えるかもしれません。ここでは別々に動かして見ています
  • 実在の式場の営業利益率や固定費の割合を、この記事は示していません。置いたのはあくまで仮の数字です

それでも、固定費が大きい構造では、売上の揺れより利益の揺れのほうが大きい、という方向は変わりません。数字の細かい値より、この「揺れの増幅」の仕組みを知っておくことのほうが、判断には役に立つと僕は思っています。

まとめ

  • 仮の式場(年160組、1組350万円、粗利率45%、固定費2.4億円)の営業利益は1,200万円で、損益分岐は年152組。安全余裕は約5%
  • 件数が5%減るとほぼゼロ(マイナス60万円)、10%減ると1,320万円の赤字になる。売上の減少額の45%が、そのまま利益の減少になる
  • 同じ1%の動きでも、利益への効き方は違う。件数1%=252万円、原価不変の値上げ1%=560万円、変動費率1ポイント=560万円、固定費1%=240万円
  • 「単価が上がった」は、中身が増えたのか、価格だけ上がったのかで利益への効果が2倍以上変わる
  • 件数10%減を単価で埋めるには、値上げなら5%、中身を増やす単価アップなら約11%が必要
  • 損益分岐の組数と実際の組数の距離(何組分の余裕があるか)を出しておくと、件数の揺れを利益の言葉で読める