来館・成約

見学後アンケートを紙からスマホに替えると、入力の手間は年4万円浮く。ただし回収率が0.3ポイント落ちた時点で赤字になる

見学のあとに書いてもらうアンケートを、紙からスマホに替える。QRコードを置いて、二人に自分のスマホで答えてもらう形です。入力の手間が消えて集計も自動になるので、替えない理由が見つかりにくい話に見えます。

ただ、この切り替えは「手間が減る話」として考えると、判断を誤りやすいです。減る手間は小さく、失うかもしれないもののほうが大きいからです。この記事では、実際の統計ではなく、僕が前提を置いたモデル計算で、その大小を金額にします。使う数字はすべて仮定です。自分の式場の数字に入れ替えて読んでください。

先に結論です

  • スマホ化で浮くのは、紙の転記作業です。仮の式場で年4万円ほどです
  • 失うかもしれないのは、回収できたアンケートがその後の追客に使えなくなることです。回収率が0.3ポイント落ちるだけで、浮いた4万円は消えます
  • なので「手間を減らすために替える」のは割に合いません。替えるなら、回収率を落とさない設計を先に決めます
  • 回収率を落とさない条件は3つです。その場で書く、設問は3つまで、スタッフが目の前で案内する。この3つを守れないなら、紙のままのほうが安全です

仮の式場の前提

次の数字を置きます。どれも実測ではありません。

  • 年間の来館組数:480組(月40組)
  • 紙アンケートの回収率:85%。見学の最後に、席でその場で書いてもらう運用を想定しています
  • 紙の転記:1枚あたり4分。スタッフが予約管理の画面に打ち込む時間です
  • スタッフの時給:1,500円(社会保険などを含めた会社の負担額)
  • 1組の粗利:100万円
  • 追客に使える情報があった組とない組の、成約率の差:3ポイント

最後の3ポイントは、この記事でいちばん効く仮定です。アンケートには「他に見ている式場があるか」「決め手になりそうな不安」「いつまでに決めたいか」が書かれています。これを読んだうえで翌日の連絡を変えられる組と、何も知らずに定型の連絡を送る組では、成約率に差が出るはずだ、という置き方です。差が3ポイントなのか1ポイントなのかは、式場ごとに違います。後半で、この数字を動かしたときにどう変わるかも見ます。

浮く手間は、年4万円

まず、スマホ化で浮くものを数えます。

紙は、回収できた分だけ転記が要ります。480組のうち85%が書くので、年408枚です。1枚4分なら、408枚で約27時間。時給1,500円をかけると、約4万800円です。

スマホ化すると、この転記が要らなくなります。フォームの回答が予約管理の画面につながっていれば、ゼロです。つながっていなくても、一覧をCSVで取り込めばまとめて済みます。

つまり、スマホ化の利益は年4万円ほどです。印刷代やバインダーの費用も、年に数千円の世界で、金額としては誤差です。月にならすと3,400円。プランナー1人が昼休みを1回削る程度の差です。

ここで一つ、見落としやすい点があります。転記の4分は「手間」ですが、転記しているあいだにスタッフは回答を読んでいます。紙の転記は、内容を頭に入れる作業を兼ねています。スマホ化で転記が消えると、読む時間も一緒に消えます。回答を読まないスタッフが増えると、アンケートは集めるだけの書類になります。浮いた27時間のうち、読む時間は残す設計が要ります。これは金額に入れていませんが、後で効いてくる点です。

失うかもしれないもの

次に、失う側です。

紙が強い理由は、回収の仕組みにあります。席に紙とペンがあって、スタッフが「最後に一枚お願いします」と言って、二人が書く。この流れは、二人がその場にいて、見学の余韻が残っていて、目の前に人がいるから成り立っています。

スマホ化すると、この3つが全部弱まります。

  1. その場で書かなくなる。 QRコードを渡して「あとでお願いします」になると、帰りの電車や家で書く人と、書かない人に分かれます。書かない人は、ほとんどが戻ってこないです
  2. 余韻が冷める。 見学した当日の夜に書くのと、3日後に書くのとでは、中身の濃さが違います。「他に見ている式場」の欄が空欄になりやすいのは、後から書く回答です
  3. 目の前に人がいなくなる。 紙は、書いている間にスタッフが横にいます。スマホは、二人が画面に向かうと、スタッフは手が空いて離れがちです

回収率がどこまで落ちるかは、式場の運用で決まります。「あとでお願いします」の運用なら、85%が50%台に落ちることもありえます。「その場でスマホを出して、一緒に答える」運用なら、85%のまま保てることもあります。これも実測ではなく、置いた仮定です。

回収率が1ポイント落ちると、いくら失うか

では、回収率が落ちたときの損を計算します。

480組のうち1ポイントは、4.8組です。この4.8組は、アンケートを書かなかったので、追客に使える情報がない組になります。成約率の差が3ポイントなら、4.8組のうち成約が増えたはずの組は0.144組です。1組の粗利が100万円なので、約14万円です。

つまり、回収率1ポイント=年14万円です。

浮く手間の4万800円を、この14万円で割ると、約0.28ポイントです。回収率が0.3ポイント落ちた時点で、スマホ化の利益は消えます。年間480組で言うと、1.4組分です。年に1組か2組、アンケートが回収できなかっただけで、元が取れなくなります。

回収率が85%から70%に落ちた場合は、15ポイント分で約216万円の損です。55%まで落ちると、30ポイント分で約432万円です。浮いた4万円とは、桁が違います。

成約率の差を変えたときも見ておきます。

成約率の差 回収率1ポイントの損 4万800円が消える落ち幅
1ポイント 約4.8万円 約0.85ポイント
3ポイント 約14.4万円 約0.28ポイント
5ポイント 約24万円 約0.17ポイント

差が1ポイントしかないと置いても、回収率が1ポイント落ちれば、浮いた手間はほぼ消えます。どの置き方でも、結論は同じです。スマホ化は、回収率を守れるときだけ得になります。

逆に、スマホ化が得になる条件

ここまで読むと、スマホ化はやめたほうがいいように見えます。そうではなく、条件があります。

条件1:回収率が、もともと低い式場。 紙の回収率が50%台なら、紙の運用がうまく回っていません。席に紙を置いたまま、スタッフが言い出せていない状態です。この場合、スマホ化と同時に運用を作り直すことで、回収率が上がる可能性があります。ただし、上がるのは「運用を作り直したから」で、スマホにしたからではありません

条件2:紙の情報が、使われていない式場。 回収した紙を転記だけして、誰も翌日の連絡に使っていないなら、アンケートの価値は低いです。この場合、上の計算の「3ポイントの差」が0に近いので、回収率が落ちても損は小さいです。ただ、それは先に直すべき問題です

条件3:来館のあとに、アンケートとは別の連絡が必ず入る式場。 見学の翌日に、プランナーが電話か個別のメッセージで直接聞く運用がある式場です。この場合、アンケートを補助に回せるので、スマホ化の影響は小さくなります

条件4:紙の転記が、年4万円では済まない式場。 来館が年2,000組あるような大きな施設なら、転記は年17万円ほどになります。それでも回収率が1ポイント落ちる損とは、同じ桁です。大きな式場ほど、スマホ化のうまみは増えますが、回収率が落ちたときの損も同じ比率で増えます

回収率を落とさない設計

スマホ化をするなら、守るべき線は3つです。

1. その場で書いてもらう。 「あとで」を許さない。見学の最後に、席でQRコードを出して、一緒に答えます。紙を出すのと同じ流れを、スマホでやるだけです。QRコードを名刺サイズのカードにして帰り際に渡す運用は、紙より回収率が下がる側の運用です

2. 設問は3つまで。 紙は5つ、6つあっても書いてもらえます。ペンを持って席にいるからです。スマホは、設問が見えない位置に続くと、途中で離脱します。必須にするのは次の3つで足ります。

  • 他に検討している式場はありますか(あり・なし・まだ決めていない)
  • 決める前に不安なことはありますか(自由記入、または選択肢)
  • 決めたい時期はいつですか(選択肢)

自由記述の気持ちを聞く設問は、スマホでは書きにくいです。選択肢で答えてもらい、自由記述は任意にします。

3. スタッフが目の前にいる。 二人がスマホを操作している間に、スタッフが席を立たない。スマホに向かう時間は1分もかかりません。その1分は席にいて、終わったら「ありがとうございます」と言う。紙のときの動きと同じです。

この3つを守ると、紙とスマホの回収率の差は、小さくできるはずです。ただ「小さくなるはず」であって、「ゼロになる」とは言えません。だから、替える前に確かめる手順を決めておきます。

替える前に、2か月だけ並行する

いきなり全組をスマホにすると、回収率が落ちたときに、原因が分かりません。次の手順で確かめます。

  1. 最初の2か月は、来館の半分を紙、半分をスマホにする(曜日や時間帯で分けず、組ごとに交互にする)
  2. 2か月後に、両方の回収率を比べる。紙が85%、スマホが80%なら、差は5ポイント。上の計算なら、年72万円の差になる
  3. 差が1ポイント以内に収まったら、全組をスマホにする。収まらなかったら、紙に戻す

2か月で、来館は約80組です。半分ずつなら、1つの方式あたり40組。回収率の差が1ポイント(0.4組)かどうかを見分けるには少ない数ですが、5ポイント以上落ちていれば気づきます。見分けたいのは「大きな落ち込み」なので、これで足ります。

また、並行するあいだに、回答の「質」も見ます。スマホ側の「他に検討している式場」の欄が空欄ばかりなら、回収率は保てていても、情報は取れていません。回収率と一緒に、必須の3つの設問の記入率を数えておきます。

数字を入れ替えるときの注意

この記事の数字は、仮定です。入れ替えるときは、次の順で確かめてください。

  • 回収率は、実際の数字を数える。 年間の来館組数と、アンケートの回収枚数を数えれば出ます。紙の束が残っているなら、数えるのは5分です
  • 成約率の差は、自分の式場で出せる。 過去1年の来館者を「アンケートあり」と「なし」に分けて、成約率を比べます。ただし、書いてくれる二人は、もともと検討意欲が高い可能性があります。そのため、差のすべてがアンケートの効果ではありません。この記事の3ポイントも、そのぶん割り引いて読んでください
  • 転記の時間は、実測する。 4分は仮の数字です。ストップウォッチで、5枚だけ測ります

差の大きさに関係なく、結論の形は変わりません。浮くのは「手間」で、動くのは「回収率」です。この2つを同じ画面に並べないと、スマホ化は良い話に見えてしまいます。

手間の削減を、判断の主役にしない

スマホ化の提案は、ほぼ必ず「入力が楽になる」から始まります。ツールの説明も、現場の声も、そこが入り口になります。

ただ、入力は、アンケートの価値の入口にすぎません。価値があるのは、回答を読んで、翌日の連絡を変えることです。その価値は、回収できた数と、回答を読む人の数で決まります。紙からスマホに替えて動くのは、このうち前者です。

だから、判断の順番を逆にします。まず、いまの回収率と、回答が翌日の連絡に使われているかを確かめる。次に、スマホ化したときに回収率が落ちない運用を設計する。そのうえで、浮く手間を見る。手間は最後です。

まとめ

  • 紙のアンケートをスマホに替えて浮くのは転記の手間で、仮の式場(年480組)では年4万円ほどです
  • 失うかもしれないのは回収率です。仮に成約率の差を3ポイントと置くと、回収率1ポイントが年14万円で、0.3ポイント落ちただけで浮いた分は消えます
  • 回収率を落とさない条件は、その場で書く、設問は3つまで、スタッフが席にいる、の3つです
  • 替える前に、2か月だけ紙とスマホを組ごとに交互にして、回収率と必須設問の記入率を比べます
  • 手間の削減は判断の最後に置きます。先に見るのは、いまの回収率と、回答が翌日の連絡に使われているかどうかです