電話の受付を19時から20時に1時間延ばすと、仮の式場では年75万円。夜の着信が年108本あれば、つながる率が6ポイント上がるだけで元が取れる
見学やフェアの問い合わせの電話は、何時まで受けるべきか。多くの式場は、営業時間の終わりに合わせて19時前後で切っているのではないでしょうか。理由は単純で、その時間にスタッフが帰るからです。
ただ、結婚を考えている二人の側から見ると、平日の昼間は仕事中です。電話をかけられるのは、退勤して歩いている夜か、昼休みの短い時間くらいしかありません。受付が19時で終わる式場は、二人がいちばん電話をかけやすい時間に、留守番電話を流していることになります。
結論を先に書きます。受付を19時から20時まで1時間延ばすと、年300日営業の仮の式場で、人件費は年75万円ほどです。夜の着信が年108本あり、そのうち72本が19時台に来るなら、延長で「その場でつながる率」が6ポイント上がれば、元が取れます。費用の側は軽い。決めるのは、夜に来る着信が実際に何本あるかです。
数字はすべて僕が置いた仮のものです。出典のある調査の数字は使っていません。自分の会場の数字に置き換えて、使ってください。
仮の式場を置く
前提を並べます。
- 新規の電話の着信は年900本(見学やフェアの予約、料金や空き日の問い合わせ)
- 営業は年300日。受付の延長は1時間、スタッフ1人を残す
- 人件費は1時間2,500円。延長の費用は 300日 × 2,500円 = 年75万円
- 来館した二人の成約率は30%、粗利は1組140万円。来館1件の期待粗利は42万円
- いまの受付は10時から19時まで。19時以降の着信は留守番電話に入り、翌日に折り返す
この前提で、19時以降の着信は全体の12%と置きます。年900本なら108本です。その108本のうち、19時から20時の1時間に収まるのが3分の2の72本。20時以降が残りの36本です。
延長で拾えるのは、72本のほうです。20時以降の36本は、1時間延ばしても拾えません。
夜の着信が、いまどうなっているか
夜の着信が、まったく無駄になっているわけではありません。留守番電話に残った番号に、翌日に折り返せば、つながる人もいます。
仮に、翌日の折り返しでつながる確率を55%と置きます。留守番電話のメッセージは入れず、切ってしまった人は折り返せないので、その人は最初から数えていません。数えているのは、番号が残った人だけです。
昼間に折り返しても、相手は仕事中です。出られない、折り返しも留守番電話、という往復になりやすい。これで5割台という置き方は、悪くない数字だと思っています。
延長して、夜のうちに担当者が出れば、つながる率は高くなります。かけた本人が、その時間に電話をする気で待っているからです。90%と置きます。
差は、90% − 55% = 35ポイント。72本に掛けると、延長で追加でつながるのは年25人です。
元が取れる線は、6ポイント
延長の費用は年75万円、来館1件の期待粗利は42万円です。まず、元を取るのに必要な来館を出します。
75万円 ÷ 42万円 = 1.8件。
つながった人のうち、来館の予約まで進む割合を40%と置きます。1.8件の来館を増やすには、追加でつながる人が 1.8 ÷ 0.4 = 4.5人 必要です。
4.5人を72本で割ると、6.2%。つまり、夜のうちに出ることで、つながる率が6ポイント上がれば、年75万円は戻ります。
さきほどの置き方では、35ポイント上がる想定でした。それに比べると、6ポイントは小さい。モデルの上では、延長の費用は軽く、必要な効果も小さいということです。
置いた前提のまま全部計算すると、こうなります。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 延長で追加でつながる人 | 25.2人 |
| そのうち来館する人(40%) | 10.1組 |
| 期待粗利(42万円 × 10.1) | 423万円 |
| 延長の費用 | 75万円 |
| 差し引き | 348万円 |
ただし、この348万円は、いちばん大事な差の35ポイントを僕が置いただけです。ここを現実より大きく置くと、結果が大きく出ます。次の節で、前提を動かします。
前提を動かす
結果を大きく動かす前提は、3つです。1つずつ動かします。
夜の着信の割合
19時以降の着信が全体の何%か。12%と置きましたが、これは会場ごとにずれる数字です。
| 夜の着信の割合 | 19時台の着信 | 追加でつながる人(35ポイント) | 差し引き | 元を取る線 |
|---|---|---|---|---|
| 5% | 30本 | 10.5人 | 101万円 | 14.9ポイント |
| 8% | 48本 | 16.8人 | 207万円 | 9.3ポイント |
| 12% | 72本 | 25.2人 | 348万円 | 6.2ポイント |
| 20% | 120本 | 42.0人 | 631万円 | 3.7ポイント |
夜の着信が少ないほど、元を取るために必要な上がり幅が大きくなります。5%なら、15ポイント上がらないと元が取れません。ここは、延長するかどうかを決める前に、いちばん最初に数えるべき数字です。
折り返しでつながる率
延長前の折り返しでつながる率が高い会場は、延長で上がる幅が小さくなります。たとえば、折り返しの電話をスタッフが朝一番にかけて、相手が通勤中でよく出る、という会場は、つながる率が7割あるかもしれません。
| いまの折り返しでつながる率 | 差(90%との) | 差し引き |
|---|---|---|
| 40% | 50ポイント | 530万円 |
| 55% | 35ポイント | 348万円 |
| 70% | 20ポイント | 167万円 |
| 80% | 10ポイント | 46万円 |
80%まで折り返しでつながっているなら、延長の効果は10ポイントしか見込めません。それでも、モデルの上では黒字です。ただ、差し引き46万円は、前提が少し悪い方にずれれば消える幅です。
つながった人が来館に進む割合
40%と置いた、来館の予約に進む割合も動かします。夜に電話してくる二人は、フォームからではなく、わざわざ電話を選んだ人です。意欲は高いのではないか、と僕は考えていますが、確かめた数字はありません。
| 来館に進む割合 | 元を取る追加の来館 | 元を取る追加のつながり | 元を取る線 |
|---|---|---|---|
| 20% | 1.8件 | 8.9人 | 12.4ポイント |
| 40% | 1.8件 | 4.5人 | 6.2ポイント |
| 60% | 1.8件 | 3.0人 | 4.1ポイント |
来館に進む割合が20%まで下がると、元を取る線は12ポイントになります。夜の着信が、問い合わせレベルの軽い電話ばかりなら、この割合は低く出ます。
人件費の置き方で変わること
延長の費用は、置き方で変わります。
年300日を前提にしましたが、定休日が週2日の会場なら250日前後で、費用は年62.5万円です。逆に、ほぼ無休なら360日で、年90万円になります。
もう一つ、割増賃金です。所定の勤務時間を19時から20時にずらすだけなら、1時間の分、朝の出勤を遅らせるなど、時間をずらして調整できます。その場合、費用は増えません。一方で、所定の時間を超えて残るなら、時間外の割増がつきます。割増を25%と置くと、年93.8万円です。この場合、元を取る線は6.2ポイントから7.8ポイントに上がります。
大差ではありません。費用の置き方で結論が変わる幅ではない、というのが、僕の見方です。
もっと効くのは、人を1人残す分の運用です。20時まで受付をするなら、そのスタッフは、その時間帯に別の仕事をできないことになります。夜の1時間に、もともと別の業務が詰まっている会場では、実質の費用は人件費ではなく、それをやめた仕事の価値です。
延長しないときの、代わりの手
延長に踏み切れない会場は多いでしょう。人が足りない、シフトが組めない、といった事情があるからです。その場合でも、費用が軽い代わりの手があります。
留守番電話のメッセージを変える
夜の着信の多くは、留守番電話に切り替わります。そのメッセージに「ご用件とお名前、折り返しの希望時間を残してください」と入れておくと、折り返しの電話が、相手の都合のよい時間にかけられます。つながる率は、折り返しの時間を合わせるだけで上がります。
予約フォームの案内を伝える
留守番電話のメッセージに「見学のご予約は、サイトのフォームから24時間受け付けています」と入れます。電話をかけてきた二人のうち、見学の予約が目的の人は、その場でフォームに移れます。電話でなければ聞けない相談だけが、折り返しの対象に残ります。
折り返しの時間帯を夜にずらす
翌日の折り返しを、昼ではなく18時台にかけます。相手が退勤した直後の時間帯です。これなら、延長は要らず、スタッフの勤務時間の内側で、夜のつながる率を上げられます。ただし、18時台は来館の接客が終わる時間帯でもあるので、その時間に手が空いているかは、会場ごとに確かめるしかありません。
折り返しの回数を決める
留守番電話に残った番号には、折り返しを何回かけるか。1回で止める会場と、3回かける会場では、つながる率がかなり違うはずです。夜の着信の折り返しだけは、2回までかけ、1回目と2回目の時間帯を変える、という決め方もできます。
この4つは、延長より弱い手です。ただ、費用がほぼゼロなので、延長を検討する前に試す価値があります。
延長を考えなくていい会場
反対に、延長を考えなくていい会場も、はっきりあります。
- 夜の着信が年30本もない会場。5%のケースでも元を取る線は15ポイントでした。着信が少ない会場では、効果の見込みも小さくなります
- 見学の予約のほとんどが、サイトのフォームやポータルサイト経由の会場。電話の着信そのものが少なく、夜の着信はもっと少ないはずです
- 折り返しがすでに夜にかかっていて、つながる率が8割を超えている会場
逆に、延長を試す価値がある会場もあります。
- 電話での問い合わせが多く、着信ログを見ると19時から21時に山がある会場
- ポータルサイトの掲載ページに電話番号が大きく載っていて、電話がメインの導線になっている会場
- 来館の予約が、電話から入ることが多い会場
延長を決める前に数える、3つの数字
延長するかどうかは、この記事のモデルではなく、自分の会場の着信ログで決めます。次の3つを数えます。
1つ目は、時間帯別の着信数です。電話機の着信履歴か、留守番電話の記録を見て、1か月ぶんを時間帯ごとに数えます。19時以降が全体の何%か、19時台に収まるのがその何割か。ここが、モデルの12%と3分の2に当たります。
2つ目は、翌日の折り返しでつながる率です。留守番電話に番号が残った件のうち、折り返しでつながった件数を数えます。記録が無ければ、1か月だけ、折り返しの結果を付けておきます。
3つ目は、夜の着信から来館に進んだ割合です。昼の着信と比べて、高いか低いか。ここが昼と同じ水準なら、40%の置き方は妥当です。夜のほうが低いなら、元を取る線は上がります。
3つとも、1か月あれば数えられます。数えたあとで、延長の費用と元を取る線を、この記事の式に入れ直してください。
試すなら、期間を切る
延長を試すなら、通年で決めるより、期間を切るほうが安全です。
たとえば、春と秋の繁忙期に当たる2か月だけ延ばし、その間の夜の着信の本数、つながった件数、来館に進んだ件数を記録します。2か月で費用は12〜15万円ほど。夜の着信が20本ほど出て、そのうち1件でも来館に進めば、費用は戻る計算です。
延ばした結果、夜の着信がほとんど無かったら、そこで止めます。延長を戻すだけで、損は小さく済みます。
ただし、2か月の記録では、増えた分が延長のおかげなのか、その月の来館需要が高かったからなのか、見分けられません。夜の着信の「つながった率」だけを、前年の折り返しと比べるのが、現実的なところです。来館や成約の総数の増減で効果を測ろうとしても、年900本の着信では、数件の差は誤差に埋もれます。
まとめ
- 電話の受付を19時から20時に1時間延ばす費用は、年300日営業の仮の式場で年75万円。割増がつく場合でも年94万円ほど
- 夜の着信が年108本、19時台に収まるのが72本なら、延長でつながる率が6ポイント上がれば元が取れる
- 結果を大きく動かすのは、夜の着信の割合、いまの折り返しのつながり方、つながった人の来館に進む割合の3つ。夜の着信が5%なら、元を取る線は15ポイントまで上がる
- 延長に踏み切れないなら、留守番電話のメッセージにフォームの案内と折り返しの希望時間を入れる、折り返しを18時台にずらす、といった費用のほぼかからない手がある
- 決める前に、時間帯別の着信数、翌日の折り返しでつながる率、夜の着信から来館に進む割合を、1か月分数える
- 試すなら繁忙期の2か月に期間を切る。来館数の増減では効果が見分けられないので、夜の着信のつながった率で見る
- 数字はすべて仮置き。自分の会場の着信ログに置き換えると、延長するかどうかが数字で決まる
