試食の席に料理長が挨拶に出る手間は、仮の式場で年22万円。成約率が0.04ポイント上がれば元が取れる。決めるのは金額より、誰が厨房を見るかと何を約束するか
ブライダルフェアの試食の途中で、料理長が席まで来て、5分だけ話す。調理場を離れる時間が生まれるので、現場では「やりたいけれど回らない」と言われやすい施策です。
結論を先に書きます。仮の式場で計算すると、全組に挨拶に出ても手間は年22万円ほどです。成約が年に0.16組増えれば元が取れます。金額だけ見れば、悩む額ではありません。悩みどころは別の2つに集まります。1つは、同じ時間に試食の席が重なったとき、誰が厨房を見るか。もう1つは、席で何を話し、何を話さないかです。
この記事に出典のある統計は使っていません。式場の数字はすべて僕が置いた仮のもので、料理長の時給も、挨拶の効果も、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。効果の大きさを示す調査は確認していないので、効果は「増えたら元が取れる量」という逆算でしか書きません。
仮の式場を置く
計算のために、1つの会場を置きます。
- 試食つきのフェアや見学で来館する二人は、年に420組(月35組)
- 来館した二人のうち、成約するのは30%
- 成約1組の粗利は140万円
- 料理長の時給は、会社の負担分も入れて3,000円
30%に140万円を掛けると、来館1組あたりの期待粗利は42万円になります。来館が1組増えると、平均で42万円分の粗利が見込める、という意味です。成約するのは3割なので、必ず入る額ではなく、平均の見込みです。
5分の挨拶に、実際にかかる時間は10分
料理長が席に立つのは5分でも、料理長が厨房にいない時間は5分では済みません。調理場から席までの往復があり、戻ったあとに今の提供の進み具合を確かめる時間も要ります。ここでは、1回の挨拶で厨房の手が10分止まる、と置きます。
10分は、時給3,000円なら500円です。420組すべてに出ると、500円に420を掛けて、年21万円。
挨拶で話す内容を整えるための準備も、最初に一度だけ要ります。席で聞く項目(アレルギー、苦手な食材、持ち込みたい料理、ゲストの年代)を書いた1枚のメモを作るのに、3時間とすると0.9万円。
合わせて、年22万円ほどです。ここまでが、かかるお金の全部です。
増えた成約が、年0.16組あれば元が取れる
22万円を、成約1組の粗利140万円で割ります。0.157組。年に0.16組、成約が増えれば元が取れます。
来館420組で割ると、0.037%。成約率でいえば、30%が30.04%になる幅です。実際の数字は小数点以下の揺れの中に埋もれる大きさなので、この施策の損益は、数字で追いかけて確かめられる種類のものではありません。月次で見れば、成約率が1ポイント動くのは普通のことです。0.04ポイントの変化を、月次の数字から読み取ることはできません。
この数字を、僕は次のように読みます。損失が小さいので、やる価値の有無で議論する施策ではありません。議論が要るのは、元が取れるかではなく、やり方で損が出る場所です。
もし挨拶が効いて、成約率が3ポイント上がったとしたら、420組に3%を掛けて12.6組、粗利にして1,764万円です。ただ、この3ポイントは、僕が根拠なく置いた数字です。そのくらい上がるとは、まったく言っていません。費用が小さいぶん、効果の大きさを証明しないまま始められる、という性質だけを覚えておいてください。
| 成約率の上がり幅 | 増える成約(年) | 粗利(年) | 費用22万円との差 |
|---|---|---|---|
| 0.04ポイント | 0.16組 | 22万円 | 0円 |
| 0.5ポイント | 2.1組 | 294万円 | +272万円 |
| 1ポイント | 4.2組 | 588万円 | +566万円 |
| 3ポイント | 12.6組 | 1,764万円 | +1,742万円 |
上の表の「差」は、挨拶以外の要因を無視した単純な引き算です。同じ年に値引きや広告を変えていれば、挨拶の分だけを切り出すことはできません。
損が出る場所その1。同じ時間に席が重なる
では、どこで損が出るのか。1つ目は、試食の席が重なる時間帯です。
仮に、フェアの試食の提供が11時、13時、15時に分かれていて、1回の提供に最大4組が同時に座るとします。料理長が厨房を離れても提供が止まらないのは、メインの皿が出たあと、デザートの準備に入る前の15分くらいだと置きます。1組10分で、この15分に回れるのは多くても1組から2組です。
つまり、4組が同時に座っている日に、全組へ挨拶に出ようとすると、必ずどこかの組の提供が遅れます。遅れたデザートを待たされる二人は、挨拶を受ける二人より、遅れのほうを覚えて帰ります。
計算し直すと、全組は無理でも、半分から6割になら出られる、というのが現実的な線です。ここでは6割と置きます。
- 挨拶に出る組は、420組の6割で252組
- 厨房の手が止まる時間は、252組に500円を掛けて、年12.6万円
- 準備の0.9万円と合わせて、年13.5万円
元を取るために要る成約は、13.5万円を140万円で割って、年0.096組です。全組のときの0.157組より小さくなり、対象を絞ったほうが、1組あたりの効きが同じなら、割はよくなります。
注意したいのは、効きが同じとは限らない点です。絞るなら、誰に出るかを決める必要があります。
挨拶に出る二人の決め方
僕なら、次の順で決めます。
- 申込時の備考にアレルギーや食事制限が書いてある二人。席で直接確認できる価値がいちばん高い
- 子連れ、親や祖父母が一緒に来ている二人。ゲストの顔ぶれが具体的に見えている
- 見学の流れで「少し迷っています」と案内担当が一言入れた二人
案内担当が、試食の席に入る前に、厨房へ一言伝える。この引き継ぎがないと、料理長はどの席に行けばよいか分からず、結局は手前の席から順に回ることになります。引き継ぎは、フェアの進行表に1行足すだけで足ります。
損が出る場所その2。料理長が休みの日
料理長が週に1日休むとすると、420組を52週で割って、1週あたり8組ほどの来館が、料理長が休みの日に当たる計算になります。休みの日の二人にだけ挨拶がなければ、同じフェアなのに、来た曜日によって体験が違うことになります。
対応は3つ考えられます。
- 副料理長が代わりに出る。ただし、副料理長の時給が2,200円なら、1回10分は370円で、料理長より安くなる
- 休みの日の二人には出さない、と最初から決める。料理長の挨拶をフェアの案内文に書かないでおけば、「あるはずだったもの」が生まれない
- 休みを曜日で決め、挨拶つきのフェアを料理長の出勤日に集める
僕は、3つ目が整っていると思います。ただし、平日に休む料理長を前提に、土日のフェアで出ることを組み込んでおく必要があります。休みの取り方に影響するので、働き方の話として、料理長本人と先に話しておく必要があります。
損が出る場所その3。席で約束してしまう
3つ目が、金額より重い話です。料理長が席に来て、二人に聞かれます。「持ち込みたい料理があるのですが」「アレルギーのゲストが多いのですが」。料理長は、料理のプロとして「できますよ」と答えます。善意の返事です。
ところが、持ち込みの料理を出すには、持ち込み料や温度管理の条件があり、アレルギーに対応する皿は追加料金になることもあります。式場として決めていないことを、料理長が席で口にすると、契約後に「あのとき聞いた」という話が出ます。
僕は、挨拶で話す内容を、次の3つに絞るのがよいと考えています。
- 今日の料理の説明と、使った食材の話
- 二人の好み、苦手な食材を聞く
- 約束はせず、「持ち帰って、プランナーから返事します」と伝える
聞く、説明する、約束しない。この3つです。聞いた内容は、先ほどの1枚のメモに書き、案内担当に渡します。メモに書かれた内容は、契約後の2回目の試食や、最終人数の確定の場面でも使えるので、二重に生きます。
話してはいけない言い回し
反対に、席では避けたい言い回しを書いておきます。
- 「何でも対応します」「どんなご要望にも合わせます」。範囲を決めていない約束になる
- 「うちの料理は他では食べられません」。他社と比べる言い方で、確かめようがない
- 「今日決めていただければ」。期限で追う話は、料理長の仕事ではない
挨拶の目的は、契約を迫ることではなく、料理を作る人が見えることで安心してもらうことです。契約の話は、席の外で、案内担当が行います。
挨拶が効いたかは、数字では分からない
前の節で、成約率の変化は月次の揺れに埋もれると書きました。では、挨拶をやめたほうがよいのでしょうか。僕は、やめなくてよいと思います。数字では確かめられませんが、記録に残る形で確かめる方法は別にあります。
案内担当が、契約までの打合せの中で、二人が料理について話したことを記録します。たとえば「料理長が来てくれたのが印象に残った」と二人が口にした件数です。契約した組のうち、何組がこの話をしたか。月に1組か2組でも、その記録が積み上がれば、効果が数字に出ない施策に、判断の材料が生まれます。
反対に、半年続けて、誰も挨拶の話をしない場合は、挨拶の中身を見直す合図です。話の内容が、二人の関心に合っていないのかもしれません。この確認は、料理長の時間を増やさずにできます。
自分の会場で試す手順
順番を書きます。
- 試食つきの来館が、年に何組あるかを数える。420組を自分の数字に置き換える
- 試食の提供時間と、同時に座る組数を、フェアの進行表から読む。料理長が離れても提供が止まらない時間を、料理長に聞く
- 1回あたり、厨房の手が何分止まるかを、料理長と一緒に測る。往復と戻りの確認を含める
- 挨拶に出る二人の決め方(アレルギー、同席者、迷い)を決める
- 席で聞く項目を書いた、1枚のメモを作る
- 約束しない、の線を、料理長とプランナーとで確認する
- 3か月後、契約した組のうち、料理の話をした組を数える
7番は、数字の大きさではなく、ゼロかそうでないかを見る確認です。ゼロが続くなら中身を直し、続かなければ、そのまま続けます。
まとめ
- 試食の席に料理長が5分挨拶に出る手間は、厨房の手が10分止まると見て、仮の式場(試食つき来館が年420組)では全組で年22万円ほどです
- 元が取れるのは、成約が年0.16組増えたとき。成約率でいえば30%が30.04%になる幅で、月次の数字では確かめられません
- 損が出る場所は金額ではなく3つ。席が重なる時間帯の提供の遅れ、料理長の休みの日の差、席での約束です
- 全組を回れない日は、アレルギーの申告がある二人、家族連れ、迷っている二人の順で出る相手を決めます
- 席での役割は、説明する、聞く、約束しないの3つに絞り、聞いた内容は1枚のメモにして案内担当へ渡します
- 効いたかどうかは、契約した組が料理長の話を口にした件数で見ます
