打合せのあとに3行の決定メモを送ると、仮の式場では年9万円。食い違いを年2.3件防げれば元が取れる
契約後の打合せは、1組につき5〜6回あります。毎回、衣装、料理、装花、演出、席次と、決めることが山ほど出ます。その場では二人もプランナーも納得して帰る。ところが挙式の2か月前になって、二人が「それは聞いていません」と言い、プランナーが「確かにお伝えしました」と言う場面が、どの会場でも一度は起きます。
先に結論を言います。打合せのあと、その日のうちに「今日決まったこと」を3行で二人に送る手間は、仮の式場で年9万円です。食い違いによる手戻りを年に2.3件防げれば、元が取れます。そして、この種の手戻りは、数えてみると2.3件より多く起きている会場がほとんどだと思っています。ただしこれは僕の感覚で、公開されている統計は探しても見つかりませんでした。なので、この記事の数字はすべて仮に置いた前提です。自分の会場の数字に入れ替えられるよう、数え方まで書きます。
食い違いが生まれる場所
言った言わないの食い違いと聞くと、プランナーが伝え忘れた、二人が聞き流した、という話に見えます。でも、現場で見る限り、どちらも悪くないのに起きることが大半です。
理由は単純で、打合せの情報量が、人が持ち帰れる量を超えているからです。1回の打合せで決まることは、少なく見積もっても5つや6つあります。装花の色味、キャンドルを使うかどうか、乾杯の発声を誰に頼むか、受付を何人に頼むか。二人は仕事の合間に来ていて、帰りの電車で思い出せるのは、強く印象に残った2つか3つです。
残りの3つは、頭の中で「だいたいこうだったはず」に変わります。ここが怖い。完全に忘れたなら、次の打合せで「あれ、何だっけ」と聞き返してくれます。「だいたいこうだったはず」は、聞き返されないまま、違う形で固定されます。
プランナー側にも同じことが起きます。年に20組以上を同時に抱えるので、組ごとの決定事項は、システムに入力した内容と記憶の合成になります。入力が1項目抜けていれば、その項目は記憶に頼ることになる。
食い違いは、この二つの記憶がずれた場所で見つかります。見つかるのは、決まったときではなく、それが形になるときです。ペーパーアイテムの校正、最終打合せ、当日の朝。後ろにずれるほど、直す費用は上がります。
3行メモの中身
僕が勧める決定メモは、長い議事録ではありません。3行です。
- 今日決まったこと(最大3つ)
- 次回までに二人が決めること(最大2つ)
- 次回の日時と、その日に決める議題
この形にしている理由は、読まれないメモは意味がないからです。A4で1枚の議事録を送っても、二人は開かない。LINEやメールの本文に3行で収まっていれば、通知画面で読み終わります。
もう1つ大事なのは、「今日決まったこと」に書く数を3つまでに絞ることです。5つや6つ決まっていても、3つに絞る。残りは、次のメモに回すか、入力システムの記録に残すだけにします。最初は、二人が間違えやすい項目、金額に関わる項目、後から変えると費用が出る項目の順に選びます。装花の色名の細かい違いは、後回しでかまいません。
「決まったこと」には、必ず数字か固有の名前を入れます。「装花は少し華やかに」ではなく「卓上装花は白とグリーンで、1卓あたり1.2万円」と書く。数字や名前が入っていない決定事項は、読んだ二人がそれぞれ違うものを思い浮かべます。ここを曖昧にすると、メモを送っても食い違いは減りません。
仮のモデル計算:メモの手間はいくらか
ここから先は、僕が置いた仮の前提です。実際の会場の数字ではありません。
- 年間の契約組数は120組
- 1組あたりの契約後の打合せは6回
- メモの作成と送信は、1回5分
- 担当者の時給換算は1,500円
この前提だと、年間の作業時間は120組×6回×5分で、3,600分、つまり60時間です。人件費は60時間×1,500円で、年9万円になります。
1回5分が長いか短いかは、会場の運用で変わります。打合せ中に入力しているシステムから、決定事項をそのまま3行に貼れるなら、3分でも足ります。逆に、一から文章を作るなら10分かかる。この幅を並べると、次のようになります。
- 3分なら、年54,000円
- 5分なら、年90,000円
- 10分なら、年180,000円
どれも、1組の粗利を仮に140万円としたとき、その1割に満たない金額です。契約1組分の粗利のうち、6%(5分の場合)で、1年分のメモの手間がまかなえます。
つまり、手間のほうは小さい。問題は、効果がどのくらいあるかのほうです。
食い違い1件の費用を、積み上げる
食い違いが見つかったとき、会場にかかる費用を分解します。これも仮の前提です。
- 事実関係の確認に、担当者が1時間、キャプテンや調理など関係部署が合わせて1時間(計2時間、時給1,500円で3,000円)
- 二人への連絡と説明で、担当者が1時間(1,500円)
- 手配をやり直す費用や、会場側が持つ補填。ここは件によってまったく違うので、仮に2,000円から35,000円の幅で置きます
合計は、軽い食い違いで約6,500円、重めで約40,000円です。ここでは計算しやすいように、軽い場合を2万円、重い場合を4万円と丸めた2通りで見ます。丸めるときは、数字に出てこない後始末の手間も少し含めたつもりです。
食い違い1件の費用が2万円なら、年9万円の手間は4.5件で元が取れます。4万円なら2.25件です。すでに書いた「年2.3件」は、この4万円のほうです。2万円のほうで見るなら、4.5件になります。
食い違いの発生率を置いてみる
次に、食い違いがどれくらい起きるかを仮置きします。120組のうち、挙式までのどこかで食い違いが見つかる組の割合を、10%、20%、30%の3通りで見ます。
- 10%なら年12件
- 20%なら年24件
- 30%なら年36件
3行メモで防げる割合は、さらに仮置きが要ります。半分防げるなら、10%の会場で年6件、20%で12件、30%で18件です。
これに1件の費用をかけると、防げる費用は次のとおりです。
- 10%の会場:6件×2万円=12万円、4万円なら24万円
- 20%の会場:12件×2万円=24万円、4万円なら48万円
- 30%の会場:18件×2万円=36万円、4万円なら72万円
メモの手間は年9万円なので、10%の会場でも、軽い食い違いなら12万円、重い食い違いなら24万円と、手間を上回ります。半分しか防げず、食い違いも1割の組にしか出ない、という低い置き方でも、収支は黒字側に寄ります。
逆に、赤字になる条件も見ておきます。食い違いが年に3件以下の会場で、1件の費用も軽い会場です。この場合は、防げる分が1.5件×2万円で3万円にしかならず、手間の9万円に負けます。
ただ、その会場がうちは食い違いがほとんど出ないと言い切るには、記録が要ります。記録が無ければ、出ていないのではなく、見えていないだけの可能性があります。
キャンセルへ響く食い違い
食い違いの費用は、事務の手間と補填だけではありません。一番怖いのは、二人の信頼が崩れることです。
挙式の1〜2か月前に、見積もりに入っていると思っていた項目が入っていなかった、という食い違いが出たとします。二人は金額の差よりも、「ほかにも聞いていないことがあるのでは」という疑いを持ちます。そこから、他の式場のほうがよかったのでは、と考え始める二人が一定数いても不思議ではありません。
キャンセルに至る割合は、僕の手元に統計がありません。仮に、重めの食い違いが見つかった組の2%がキャンセルに至るとします。重めの食い違いが年12件なら、期待値は0.24組。粗利140万円の組が0.24組分なので、約34万円です。
メモは、このキャンセルの期待値にも効きます。防げる食い違いが半分なら、約17万円です。ここは仮置きに仮置きを重ねた数字なので、僕は計算には入れずに、判断の補助として見ています。ただ、1組のキャンセルを防げれば、メモの年間手間(9万円)はいくつも回収できるのは確かです。
先に挙げた損益分岐の2.25件から4.5件には、この期待値を足しません。事務と補填の費用だけで元が取れるかで決めて、キャンセルの話はおまけとして扱うほうが、判断がぶれません。
食い違いを、自分の会場で数える
仮の数字で終わらせないために、会場の数字を取る手順です。
- 過去1年の担当組のうち、「聞いていない」「言った覚えがない」が出た件を、担当者へのヒアリングで集める。記録が無いなら、最近の半年分だけ思い出せる範囲でいい
- それぞれについて、発覚した時点(契約後すぐ、校正、最終打合せ、当日)を書く
- 直すのに使った時間と、会場が持った金額を、おおまかに書く
半年で数件しか出てこなければ、3行メモは費用に見合いません。10件以上出てくる会場なら、おそらく見合います。
発覚した時点の分布も見ます。校正や最終打合せ、当日に集中している会場は、メモが効きやすい会場です。決まった直後に出ている会場は、そもそもその場の説明が伝わっていないので、メモより先に打合せの進め方を見直したほうがいいです。
送るタイミングと媒体
実際に運用するなら、2つの点で迷います。
1つ目は、送るタイミングです。僕は「その日のうちに」を勧めます。翌日以降にずれると、二人の記憶の「だいたいこうだったはず」が先に固まってしまい、メモと食い違ったときに、二人がメモを疑う側に回りやすいからです。打合せの終わりに、二人の前でメモを書いて送る方法もあります。この場合は、その場で「これで合っていますか」と確認できるので、食い違いの検知が最も早くなります。
2つ目は、媒体です。公式LINEや予約システムのメッセージ、メールのどれでもかまいませんが、二人が普段から開いているものを選びます。会場のシステムにメッセージ機能があっても、二人が開いていなければ意味が無い。契約時に、連絡の受け取り方を聞いておき、そこに合わせます。
もう1点、メモに返信が来たときの扱いも決めておきます。「了解です」「ここが違います」のどちらかが返ってくるはずなので、違うという返信が来たときは、担当者が必ず当日中に動く。ここを放置すると、メモが逆に不信を生みます。
運用で崩れやすい3つの場所
最後に、運用が崩れやすい場所を書きます。
1つ目は、繁忙期です。打合せが詰まる土日は、メモを書く時間がなくなります。ここで書かない週が出ると、書く組と書かない組が混ざり、二人から見て不公平になります。繁忙期には、5分の作業を打合せの時間内に組み込んでおきます。
2つ目は、担当の交代です。担当者が代わったとき、それまでのメモがあれば、引き継ぎの資料になります。実はこの点が、手間に対する効果として一番大きいのではないかと僕は見ています。ただし、これも数えたことのない感覚です。
3つ目は、メモの量が徐々に増えることです。最初は3行だったものが、気づくと10行になっている。読まれなくなるので、3行という上限を決めて、守る人を決めておきます。
まとめ
- 打合せの食い違いは、悪意ではなく、情報量が人の持ち帰れる量を超えることから生まれる
- 決定メモは3行。今日決まったこと、次回までに二人が決めること、次回の日時と議題
- 仮の式場(120組、打合せ6回、1回5分)では、メモの手間は年60時間、人件費で年9万円
- 食い違い1件が2万円なら4.5件、4万円なら2.25件を防げれば元が取れる
- 食い違いが年に3件以下で軽い会場では、メモは費用に負ける。まず過去半年分を数える
- 送るのは、その日のうち。返信で違うと言われたら、当日中に動く
