経営・組織

担当プランナーが辞めるとき、担当20組の引き継ぎに1組3時間かけても、仮の式場では1人あたり10.8万円浮く。差をつくるのは時間より「口頭の約束」を拾えるか

担当プランナーが退職すると決まったとき、契約済みの二人の引き継ぎはどう進めているでしょうか。後任が打ち合わせの記録を読み、二人に「今日から担当します」と挨拶の連絡を入れる。これで回している会場は少なくないと思います。

結論を先に書きます。引き継ぎは「記録を読んで挨拶」で済ませるより、引き継ぎシートを作り、退職前に前任と後任が二人の前で同席する面談を1回入れたほうが、会場の損は小さくなります。僕が置いた仮の式場(年120組、プランナー5人)で、担当20組に1組あたり3時間をかけても、1人の退職あたりの損失は34.5万円から23.7万円に下がり、10.8万円浮きます。ただし、浮く理由は食い違いの補填ではなく、担当交代をきっかけにしたキャンセルが減る分です。ここの前提が外れると、手間をかけたほうが赤字になります。そこまで含めて書きます。

この記事に出典つきの数字はありません。プランナーの離職率も、担当交代でキャンセルが何割増えるかも、僕は確かめられていません。以下の数字は、すべて僕が置いた仮の前提です。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。

仮の式場を置く

計算の土台になる前提を並べます。

  • 年間の挙式は120組
  • 契約から挙式まで平均10か月。打ち合わせ中の二人は、常時およそ100組います
  • プランナーは5人。1人が同時に担当しているのは20組です
  • 1年に1人が退職する想定です。0人の年も2人の年もあるので、後で人数を動かします
  • 人件費は1時間2,500円で換算します(社会保険などを含めた会社負担の想定)
  • キャンセル1組あたりの損失は60万円。ほかの記事で使っている粗利148.5万円のうち、キャンセル料を受け取り、日程を再販した後に残る目減りを4割と置いた仮の値です

20組という数は、この式場では「1人が辞めると20組の二人の担当が替わる」という意味です。年120組のうち6分の1が、契約後に担当を替えられます。少ない数ではありません。

引き継ぎで落ちるものは4種類ある

引き継ぎで消えるものを先に分けておきます。記録に残っているものと、残っていないものがあります。

1つ目は、決定済みの事項です。料理、衣装、演出、席次の確定状況など。これは打ち合わせ記録やシステムに残っているので、後任が読めば拾えます。

2つ目は、未決の事項と期限です。「親族の人数が決まったら、卓数を見直す」「ムービーの素材は来月末までにもらう」。記録には書かれていても、次にいつ誰が動くのかが読み取りにくい項目です。後任が引き継いだ翌週に期限を落とすのは、ここです。

3つ目は、口頭の約束です。打ち合わせの席で前任が「分かりました、確認しておきます」と答えたこと、「ご両親の席は新郎側の出入口から遠くしますね」と請け合ったこと。記録に書いていない約束は、前任の頭にしかありません。後任が知らないまま二人に会うと、二人からは「話が伝わっていない」と見えます。

4つ目は、二人と家族の事情です。母親が打ち合わせに毎回同席して口を出す、祖父が車椅子で段差を気にしている、新婦が予算の話になると表情が固くなる。記録には載りにくく、後任が最初の打ち合わせで手探りしなければならない情報です。

4種類のうち、記録を読めば拾えるのは1つ目と、2つ目の一部だけです。「記録を読んで挨拶」という方式は、拾えるものだけを拾い、残りを落とす方式になっています。3つ目と4つ目は、前任に聞かないと出てきません。

3つの方式を前提つきで計算する

引き継ぎの方式を3つ並べます。

  • 方式A:後任が記録を読み、二人に挨拶の連絡を入れる。1組あたり1.5時間(記録の確認と連絡)
  • 方式B:前任が引き継ぎシートを書き、退職前に前任と後任が二人の前に同席して面談を1回する。1組あたり3時間(シート作成、後任の確認、面談を前任と後任の2人分)
  • 方式B':シートは作るが、同席面談はしない。1組あたり2時間

方式ごとに、次の3つの確率を置きます。

  • 引き継ぎ漏れで二人との間に食い違いが出る確率(Aは10%、Bは3%、B'は5%)。食い違いが出ると、補填に3万円と、お詫びと調整に6時間(1.5万円)がかかるとします。1件あたり4.5万円です
  • 担当交代を理由にした不信や不安から、キャンセルに至る確率(Aは1.5%、Bは0.5%、B'は1%)
  • 上のキャンセルの損失は1組60万円

担当20組の分で、計算します。

方式Aは、手間が20組×1.5時間×2,500円で7.5万円です。食い違いは20組×10%で2件、1件4.5万円なので9万円。キャンセルは20組×1.5%で0.3組、60万円をかけて18万円です。合計は34.5万円になります。

方式Bは、手間が20組×3時間×2,500円で15万円。食い違いは20組×3%で0.6件、2.7万円。キャンセルは20組×0.5%で0.1組、6万円。合計は23.7万円です。

方式B'は、手間が10万円。食い違いは1件で4.5万円。キャンセルは0.2組で12万円。合計26.5万円です。

3つを並べると、34.5万円(A)、26.5万円(B')、23.7万円(B)の順になります。Bは、Aより1人の退職あたり10.8万円浮きます。B'との差は2.8万円で、同席面談の1回を入れる価値は、この式場の前提では2.8万円の幅の中にあります。

浮く理由を分解すると、食い違いの補填は主役ではない

ここが一番大事なところです。

Bの手間は、Aより7.5万円増えます。食い違いが減る分は、Aの9万円がBの2.7万円になるので、6.3万円です。つまり食い違いの補填だけを見ると、手間を7.5万円増やして6.3万円しか減らしていません。差し引き1.2万円の赤字です。

Bが黒字になるのは、キャンセルが18万円から6万円に減るからです。12万円の差です。Bの手間増7.5万円と、食い違いの減少6.3万円の差し引き1.2万円の赤字を、12万円の差が埋めて、10.8万円が残っています。

キャンセルの差が0.1ポイントしかなくても、Bは損になりません。必要な差を式で出すと、1.2万円÷(20組×60万円)で0.1ポイントです。20組のうち0.02組、つまり退職50回に1組のキャンセルが避けられるかどうか、という水準です。この式場の前提ではかなり小さな差で、Bの側に傾きます。逆に言うと、担当交代でキャンセルが一切増えない会場なら、Bは手間のかけすぎになります。自分の会場で、担当が替わった二人のキャンセルが、替わっていない二人と比べて多いのかどうかは、一度数えてみる価値があります。会場のシステムで、契約後に担当が替わった組を拾い出せるなら、数えるのはそれほど難しくありません。

退職者数で動かす

1年に辞める人数を動かすと、Bで浮く金額はそのまま人数に比例します。

  • 0人の年:0円
  • 1人の年:10.8万円
  • 2人の年:21.6万円
  • 3人の年:32.4万円

金額としては、大きくありません。年間の粗利で言えば、1組の半分にも届かない規模です。この話の主題は、金額の大きさよりも、「退職が決まった日に、何を始めるかが決まっているか」にあります。決まっていない会場は、退職日の2週間前から後任が記録を読み始め、最終出社日に前任へ聞きたいことが山ほど残ります。決めてある会場は、退職の申し出を受けた日にシートを配り、その日から段取りが始まります。

引き継ぎシートに書く項目

シートは、記録に残らない3つ目と4つ目を拾うための紙です。僕なら次の7項目に絞ります。

  1. 二人の一言メモ。性格、決め方の癖、連絡手段の好み(電話が苦手、LINE優先など)
  2. 家族の関わり方。誰が打ち合わせに来るか、誰の意見が通りやすいか
  3. 口頭で請け合った約束。記録に書いていないものを、前任が思い出して全部書く
  4. 未決事項と期限。次に動くのが会場側か二人かを分けて書く
  5. 二人が不安に思っていたこと、一度でも不満を口にしたこと
  6. 費用の話の経緯。値引きや特典を約束した場合は、その条件
  7. 当日までの山。衣装の決定、招待状の発送、最終人数の確定など、直近の期限

項目の数は、増やすほど書かれなくなります。1組あたり15分で書き終えられる量に収めるのがコツです。3時間の内訳は、シートが15分、後任の確認が30分、同席面談が前任と後任で1時間ずつ、といった配分で、面談の1時間がいちばん重いところです。

退職日から逆算した段取り

シートを作る時間が取れるかどうかは、退職の申し出から最終出社日までの日数で決まります。申し出から退職まで1か月ほどを見ていても、有給の消化が入ると、実際に出社するのは2週間ということがあります。

20組に1組3時間ずつなら、合計は60時間です。前任の出社が10営業日しかなければ、1日6時間、ほかの業務を止めて引き継ぎに充てる計算になります。現実には、全員に同席面談を入れる時間はありません。そこで、組を3つに分けます。

  • 挙式まで3か月を切った組:必ず同席面談。担当交代の影響がいちばん大きく、直前の期限も多い
  • 挙式まで3〜6か月の組:シートと、後任から二人への電話1回
  • 挙式まで6か月以上の組:シートと挨拶の連絡

こう分けると、同席面談の対象は20組のうち6組ほどで済みます(残り期間が均等にばらけている想定です)。手間は、同席面談を入れる6組が3時間、残りの14組が2時間として、合計46時間ほどになります。前任の10営業日に収まる量です。

二人への伝え方

担当の交代は、二人の側から見ると、契約したときに「この人に任せる」と思った相手が替わる出来事です。伝え方で、不安の大きさが変わります。

伝えるときに決めておくことは3つです。いつ替わるか、誰に替わるか、これまでの話は後任に全部引き継がれているか。退職の理由は言う必要がありません。言うなら「一身上の都合で」で止めるのが無難です。

連絡は、後任からではなく前任から先に入れます。「次の担当は〇〇です。これまでの経緯はすべて共有してあります。一度、3人でお会いする時間をいただけませんか」。3人での面談を提案する文面に、方式Bの同席面談がそのまま乗ります。二人は「引き継ぎがちゃんとしている」と感じやすく、これがキャンセルを減らす経路だと僕は考えています。

この方式をやめる線

Bをやめてよい条件は、先ほどの式から読み取れます。

  • 担当が替わった二人のキャンセルが、替わっていない二人と変わらない会場。キャンセルの差が0.1ポイントを下回るなら、手間のほうが重い
  • 1人の退職で担当が替わる組が、5組に満たない会場。小規模でプランナーの担当組数が少ないなら、シートを作る時間が組数に見合わない。ただ、その場合は同席面談だけ入れるほうが安い
  • 退職の申し出から最終出社日までが1週間を切る会場。同席面談の予定が組めず、B'のシートだけに落とすしかない

逆に、Bの側に寄せる条件もあります。担当者が長く一人で抱えている会場(20組を超える)、担当と二人の距離が近い会場(二人が担当個人にファンが付く形)、挙式の直前に退職が重なる繁忙期。ここでは、同席面談の価値が上がります。

まとめ

  • 担当プランナーの退職は、仮の式場(年120組、プランナー5人)では担当20組、年120組の6分の1に影響する
  • 引き継ぎで落ちるのは、口頭の約束と、二人と家族の事情。記録を読んでも拾えない
  • 「記録を読んで挨拶」は34.5万円、「シートと同席面談」は23.7万円、「シートのみ」は26.5万円と置くと、同席面談を入れたほうが1人あたり10.8万円浮く
  • 浮く理由は食い違いの補填ではなく、担当交代を理由にしたキャンセルの減少。担当が替わった組のキャンセルを数えてから決める
  • シートは7項目、1組15分で書き終える量に収める
  • 同席面談は挙式まで3か月を切った組に絞ると、前任の10営業日に収まる
  • 数字はすべて仮置き。自分の会場の担当組数・退職者数・キャンセル率に置き換えて読む