式場の担当者別成約率は、組数が足りないうちは順位をつけない
月初の営業会議で、プランナー別の成約率の表が配られます。Aさん42%、Bさん31%、Cさん27%。表の上から順に「Aさんのやり方を共有しよう」「Cさんは見学の進め方を見直そう」と話が進みます。
僕は、この流れに少し待ったをかけたいと思っています。成約率の差が、本当に腕の差なのか。それとも、見学に来た二人の顔ぶれと運の巡り合わせなのか。見分けがつかないまま順位をつけると、真似るべきでないやり方を真似て、直さなくていい人を直すことになります。
この記事は、プランナー別の成約率を、何組たまったら読んでよいのかを整理するものです。今回は出典のある統計は使いません。式場の担当者別成約率の公開データを、僕は見つけていないからです。かわりに、仮の数字を置いた計算で、仕組みとして何が起きるかを書きます。数字はすべて想定です。
結論:6か月分では、順位の大半が偶然で入れ替わる
先に結論を書きます。1人あたりの見学が月8組ほどの式場なら、半年分でも1人48組です。この数では、成約率の順位は「誰が上手いか」より「どんな二人が来たか」で動きます。順位をつけるには、1人あたり100組から数百組が要ります。足りないあいだは、順位ではなく、見学の中身を観察する材料として表を使うのが安全です。
なぜそうなるのかを、仮の式場で確かめます。
仮の式場で計算する
前提を置きます。
- プランナーは5人。全員の本当の成約率は同じ35%とする(腕の差がまったく無い式場)
- 1人あたりの見学は月8組。半年で48組
- 見学に来た二人は、誰が担当しても同じ確率で成約する
腕の差が無いのですから、本来は全員の成約率が35%で並ぶはずです。ところが、48組の見学で成約する組数は、毎回ぴたりと17組にはなりません。コインを48回投げて表がちょうど半分になるとは限らないのと同じです。
これを計算すると、1人のプランナーの48組あたりの成約数は、95%の確率で11組から23組の間に収まります。成約率にすると22.9%から47.9%です。つまり、腕がまったく同じでも、半年後の表には23%の人と48%の人が並びえます。
5人を並べたときの、いちばん高い人といちばん低い人の平均はこうなりました(乱数で2万回繰り返した計算です)。
| 1人あたりの見学数 | 最も高い人の平均 | 最も低い人の平均 | 差 |
|---|---|---|---|
| 48組(半年) | 43.1% | 27.1% | 約16ポイント |
| 96組(1年) | 40.7% | 29.4% | 約11ポイント |
全員が同じ35%でも、半年分の表を作れば、トップは43%前後、最下位は27%前後になるのが普通です。冒頭の「42%と27%」は、腕の差が無い式場でも、ごく普通に出る表です。
本当に差があっても、半年では見抜けない
逆の場合も確かめます。Aさんの本当の成約率が40%、Bさんが30%で、実際に10ポイントの腕の差があるとします。これは小さな差ではありません。年間の成約数で言えば、見学100組あたり10組の違いです。
では、半年(各48組)の成績を並べたとき、Aさんが上に出るでしょうか。同じく乱数で計算すると、本当は30%のBさんのほうが成約数で上回る確率が12%、同数になる確率が5%ありました。つまり、およそ6回に1回は、劣る側が同じかそれ以上の成績で半年を終えます。
見学数ごとに見ると、次のようになります。
| 各自の見学数 | 劣る側が上回る確率 | 同数になる確率 |
|---|---|---|
| 24組(3か月) | 18% | 9% |
| 48組(半年) | 12% | 5% |
| 96組(1年) | 5% | 2% |
| 192組(2年) | 2%弱 | 0.4% |
1年で5%、つまり20回に1回です。10ポイントの差が、ほぼ確実に表に出るまでには、2年近くかかります。
もうひとつの見方もあります。成約率35%前後の2人を比べて、10ポイントの差を統計的にふつうの基準(有意水準5%、検出力80%)で見分けるには、1人あたり約350組の見学が要ります。月8組なら3年半です。実務では、そこまで待つ必要はありません。ただ、「半年の表で順位がつく」という考えは、数字の上では成り立たないことは知っておく価値があります。
順位をつけたときに起きること
ここまでが数字の話です。次に、順位をつけた現場で何が起きるかを書きます。
1. 運のいい人が「型」になる
半年の表でトップだったAさんの見学の進め方が、式場の標準になります。ところが、Aさんの成績に運の分が15ポイント分入っていたら、標準にしたのは運の部分も含めた進め方です。うまくいった理由を探しても、運は説明できません。探せば探すほど、それらしい理由が見つかるので、余計に厄介です。
2. 下位の人が自信を落とす
最下位になったCさんは、直そうとします。話す順番を変え、見学の長さを変え、見積もりの出し方を変える。変えた直後の数か月はまた偶然で揺れるので、成績が戻っても「変えたから戻った」と思い込みます。何が効いたのかが誰にも分からないまま、見学の進め方が人ごとにバラバラになっていきます。
3. 担当の振り方がゆがむ
表で上位の人に、条件のよい二人を回したくなります。ところが、成約率の高い人に有力な二人(予算が合う、日取りが決まっている、複数回来館している)が集まると、その人の成約率はさらに上がります。腕が上がったのではなく、集まる客層が変わっただけです。下位の人に有力な二人が回らなくなれば、差は広がる一方です。表が、自分で自分を正しく見せる仕組みになります。
腕以外で成約率が動く要素
組数が足りないことに加えて、そもそも担当の腕以外の要素が成約率に混ざっています。比べる前に、少なくとも次の3つは確かめておきたいところです。
- 来館の経路:媒体経由、紹介、公式サイトからの予約など、入口によって二人の温度が違います。担当の割り振りが経路ごとに偏っていないか
- 曜日と時間帯:土日の昼と平日の夜では、来る二人の事情が違います。入れ替わりで担当している人と、土日だけの人を同じ表に並べない
- 担当の振り方:空き順なのか、指名なのか、新人は初回のみなのか。振り方が違えば、同じ見学でも「どんな二人に会うか」が違います
見学の担当の振り方を成約率と空き状況でどう決めるかは別の記事で書いています。ここで言いたいのは、振り方がそろっていない表で順位をつけても、順位の意味が弱いということです。
組数が足りないときの見方
では、表をどう使うか。僕は次の手順を勧めます。
手順1:順位ではなく幅で見る
各プランナーの成約率の横に、見学数を必ず書きます。そして「この数字は、見学数のときに、おおむねこの幅で揺れる」と並べて見ます。目安は、見学が48組なら±12ポイント前後、96組なら±9ポイント前後です。この幅の中にみんな収まっているなら、表から腕の差は読めません。
手順2:全員の合計に対して外れた人だけを見る
式場全体の成約率が35%で、あるプランナーが半年48組で15%だったとします。この数字は、全員が同じ35%だと仮定したとき、48組中7組以下になる確率が1%を切る水準です。ここまで離れたら、偶然とは考えにくいので、見学の様子を確かめる価値があります。逆に、27%と43%程度の違いは、見る必要がありません。
手順3:順位でなく、見学の中身を比べる
数字で差が見えないあいだは、数字以外で比べます。接客を録音して振り返る、先輩が同席する、といった方法があります。成約率の高い人と低い人に分けて話を聞くのではなく、見学の中のどの場面で二人が迷い、何が止まりの理由になったかを集めます。成約率は結果の数字で、迷った場面は原因に近い情報です。
手順4:期間を長く、人数を絞る
どうしても数字で比べたいなら、見る期間を延ばすか、比べる人数を減らします。1年分を貯めるか、2人のあいだだけで比べるか。半年で5人の順位を出すより、1年で2人を比べるほうが、読める情報は多くなります。
手順5:表の使い道を先に決める
最後に、表の使い道を会議の前に決めます。報酬や評価に使うのか、共有する型を探すのか、育成の優先順位に使うのか。評価に使うなら、数字が偶然で動く以上、組数が十分たまるまで待つか、数字以外の評価を主にするのが自然です。型を探すだけなら、順位は要らず、飛び抜けて高い・低い人の見学を見れば足ります。
小さな式場ほど、数字の揺れは大きい
プランナーが2〜3人の式場では、1人の見学数がさらに少なくなります。月の見学が全体で30組なら、3人で1人10組。半年で60組です。この規模で、月次のプランナー別成約率を毎月表にするのは、揺れを眺める作業になりやすいです。
小さな式場こそ、プランナー別の数字より、見学全体の成約率と、止まった理由の記録を見るほうが実用的です。担当者別の表は、四半期ではなく、1年に1回見れば足ります。
よくある反論
「数字が悪い人を放っておけというのか」:違います。数字が極端に悪い人(先ほどの15%のような水準)は、見学の様子を確かめます。言いたいのは、27%と43%のような差だけで、順位をつけて結論を出さないことです。
「去年も同じ人がトップだった」:2年続けてトップなら、腕の差の可能性は上がります。ただ、その人が有力な二人を多く担当していないか、経路の偏りがないかも、あわせて確かめます。
「成約率が高い人は、実際に契約をもらっている」:その通りです。その人が成約を取っていること自体は事実で、評価されるべきです。ここで問うているのは、その成績を「その人の進め方のおかげ」と説明できるかどうかで、成果と原因を分けたいだけです。
まとめ
- 腕の差が無い式場でも、プランナー別の成約率は半年で23%から48%ほどまで開く(1人48組、全員の本当の成約率35%という仮の前提)
- 10ポイントの本当の差があっても、半年の表では劣る側が同じかそれ以上になる確率が約18%ある
- 順位をつける前に、見学数を併記し、揺れの幅の中に収まっているかを見る
- 全体から大きく外れた人(15%のような水準)だけ、見学の様子を確かめる
- 順位がつかないあいだは、迷った場面の記録など、数字以外で型を探す
- 評価や担当の割り振りに使うなら、組数がたまるまで待つか、期間を延ばして人数を絞る
成約率の表は、結果を示す数字です。原因を示す数字ではありません。組数が足りないうちは、順位をつけずに眺めるのが、いちばん安く済みます。
