カメラマンの持ち込みを認めると、仮の式場では写真の粗利756万円が削られる。持ち込み料を3万円取れば、失注が年1.3組戻るだけで足りる
結婚式の写真と映像は、式場にとって「売り物」であると同時に、二人が一番気にする持ち物でもあります。だから「提携のカメラマン以外は入れません」というルールを置く式場が、いまも多いはずです。一方で、二人のほうは「友人のプロに頼みたい」「SNSで見つけた人に撮ってほしい」と考えることがあります。
結論から書きます。仮に、年120組の式場で、契約者の7割が提携の写真プランを頼み、1組あたりの粗利が9万円だとします。このとき写真が生む粗利は年756万円です。持ち込みを認めると、契約者の一部が持ち込みに切り替えて、この756万円が削られます。ただし、持ち込み料を1組3万円取り、契約者の3割が切り替える想定なら、削られる額は年176万円。これを埋めるのに必要な失注の戻りは、年1.3組です。持ち込み料を9万円にすれば、切り替えが起きても損はほとんど出ません。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。写真の売価も原価も採用率も、会場ごとにまったく違います。僕が置いた前提を先に並べて、そのうえで「どの数字を自分の会場の数字に替えれば答えが出るか」が分かるように書きます。
前提を先に置きます
計算に使う前提は、次のとおりです。すべて仮置きで、実在の会場の実績ではありません。
- 年間の挙式は120組、来館は年400組、成約率は30%
- 1組あたりの粗利(写真を含む)は、平均で140万円
- 提携の写真プランは売価25万円、原価16万円で、粗利は9万円
- 契約者の7割(84組)が、会場の写真プランを頼む
- いまは持ち込みを断っている。つまり、写真を会場経由で頼まない二人は、写真なしで当日を迎えるか、持ち込みを理由に契約を見送っている
- 持ち込みを認めたとき、会場の手間(撮影の進行調整、撮影場所や時間の説明、当日の立ち会い)は1組あたり1万円分かかる
写真の粗利は、84組に9万円をかけて年756万円です。これを120組で割ると、1組あたり6.3万円。つまり、平均の粗利140万円のうち、写真が占めるのは6.3万円で、残りの133.7万円は写真以外から生まれています。この「133.7万円」が、持ち込みで戻ってくる二人の粗利になります。
持ち込みを認めると、何が動くのか
動くものは2つあります。
- 切り替え:いまは提携の写真を頼んでいる二人が、持ち込みに切り替える。会場は9万円の粗利を失い、持ち込み料と引き換えにする
- 戻り:いまは持ち込みができないことを理由に、契約を見送っている二人が、契約する。会場は写真以外の粗利133.7万円を得る
持ち込み料を取ると、切り替えの痛みは小さくなります。1組が切り替えたときの会場の損は、次の式で出ます。
- 1組の損 = 写真の粗利(9万円)− 持ち込み料 + 手間(1万円)
持ち込み料が0円なら、1組の損は10万円。3万円なら7万円。5万円なら5万円。9万円なら1万円です。持ち込み料が写真の粗利と手間の合計(10万円)に届けば、切り替えは会場にとって損にも得にもなりません。
戻りのほうは、持ち込み料を取っても、戻ってきた二人が会場に払うので、1組あたり「133.7万円+持ち込み料−手間」が入ります。持ち込み料3万円なら、135.7万円です。
切り替えが何割かで、必要な戻りが決まる
では、切り替えが何割起きたら、失注が何組戻れば足りるのか。切り替えた組数の損を、戻りの1組あたりの粗利で割れば出ます。
持ち込み料が0円の場合:
- 切り替えが1割(8.4組)なら、損は年84万円。戻りが年0.6組あれば足りる
- 2割(16.8組)なら、損は年168万円。戻りは年1.3組
- 3割(25.2組)なら、損は年252万円。戻りは年1.9組
- 5割(42組)なら、損は年420万円。戻りは年3.2組
- 全員(84組)が切り替えたら、損は年840万円。戻りは年6.3組
持ち込み料が3万円の場合:
- 1割なら、損は年59万円。戻りは年0.4組
- 2割なら、損は年118万円。戻りは年0.9組
- 3割なら、損は年176万円。戻りは年1.3組
- 5割なら、損は年294万円。戻りは年2.2組
- 全員が切り替えたら、損は年588万円。戻りは年4.3組
持ち込み料が5万円の場合:
- 3割なら、損は年126万円。戻りは年0.9組
- 5割なら、損は年210万円。戻りは年1.5組
- 全員なら、損は年420万円。戻りは年3.1組
持ち込み料が9万円の場合:
- 3割でも、損は年25万円。戻りは年0.2組
- 全員が切り替えても、損は年84万円。戻りは年0.6組
年400組の来館がある会場では、成約率1ポイントは年4組です。ですから、持ち込み料3万円で3割が切り替える想定の1.3組は、成約率でいえば0.3ポイント。0円で全員が切り替える最悪の6.3組でも、1.6ポイントです。
ここまでを見ると、一つのことが分かります。持ち込みを認める損は、「戻り」が小さくても埋まりやすい。写真の粗利は、1組あたり6.3万円という小さな数字で、平均の粗利140万円の4.5%にすぎないからです。写真を守るために、140万円の契約を逃すのは割に合うのか、という見方ができます。
逆に、戻りが0組のときはどうなるか
ここが一番大事な注意点です。持ち込みを理由に契約を見送っている二人が、実際には年0組、あるいは1組もいなければ、戻りはゼロです。そのとき持ち込みを認めると、切り替えの損だけが残ります。
持ち込み料3万円、切り替え3割で、損は年176万円。0円なら年252万円です。戻りがゼロの会場にとって、持ち込みを認める判断は、年に数百万円を捨てる判断になります。
だから、判断の順番は決まります。先に「持ち込みを理由に見送った二人が、年に何組いるか」を数えます。数えずに持ち込みを認めるのは、数字のない賭けです。
数え方は難しくありません。来館した二人の失注理由に、「撮影(写真・映像)の持ち込み」の欄を1つ作ります。失注した二人に聞くか、聞けなければ接客した担当が書きます。半年で、年の見込みが出ます。
注意したいのは、「持ち込みたかった」が理由の一つに入っていた二人と、「持ち込めないなら決めない」と言った二人は別だということです。前者は、持ち込めても他の理由で見送ったかもしれません。僕なら、数えた組数を半分に割って読みます。半分に割って1.3組を超えるなら、持ち込み料3万円で認める価値があります。
持ち込み料の水準は、切り替えと戻りの綱引きになる
持ち込み料を上げれば、切り替えの損は減ります。ただし、上げすぎると、戻るはずの二人が戻らなくなります。10万円の持ち込み料を見た二人は、「提携の写真を頼んだほうが安い」と考えて、切り替えそのものが起きなくなります。それは損が出ない代わりに、戻りも出ない状態です。
つまり、持ち込み料の水準には、次の3つの考え方があります。
- 写真の粗利に揃える(9〜10万円):切り替えが起きても、会場の損は出ない。ただし、持ち込みを望んでいた二人にとっては高い。戻りも少ない
- 中間(3〜5万円):切り替えは起きるが、損は小さい。戻りも見込める。多くの会場が悩むのはこの帯
- 手間賃だけ(1万円前後):戻りは最大化できるが、切り替えの損も最大化する
どれが正しいかは、会場が「写真をどれだけ大事な商品にしたいか」で変わります。写真のプランが他のオプションと組み合わさって売れている会場なら、1の水準が堅いです。写真の採用率が低く、もともと満足度に課題のある会場なら、2か3で持ち込みを認めて、写真は別の手段で売り直すほうが筋が通ります。
提携カメラマンとの契約を先に見る
この計算に入っていない要素が一つあります。提携カメラマンとの契約です。
会場の写真が外注で、提携先との契約に「年間の最低件数」や「会場経由の独占」が入っている場合、持ち込みを認めた瞬間に、提携先への支払いや契約上の義務が変わることがあります。切り替えが起きたときに、会場が受け取る粗利が減るだけでなく、提携先に最低保証を払う形になれば、損は9万円よりも大きくなります。
持ち込みを認めるかどうかを決める前に、次の2つを確かめます。
- 提携先との契約に、最低件数や独占の条項があるか
- 条項があるなら、持ち込みを認めた場合に、提携先へ何を払うことになるか
ここが分からないまま持ち込みを認めると、本記事の計算の「損」が過小になります。逆に、条項がなければ、会場は自由に水準を決められます。
持ち込みを認めるときの運用の線引き
認めると決めたら、ルールを先に決めておくほうが、当日のトラブルは減ります。手間の1万円は、ルールがあって初めて1万円に収まります。
- 事前の申請:撮影者の氏名、連絡先、撮影の範囲(挙式のみか披露宴もか)を、挙式の1か月前までに出してもらう
- 撮影の制限:挙式中に立てる位置、フラッシュの可否、新郎新婦以外のゲストの動線を妨げないこと。これは提携のカメラマンにも課しているルールのはず
- 保険と責任:機材や撮影による破損・事故の責任は、持ち込んだ側にあると文書で確認する
- 持ち込み料の対象:写真だけか、映像も含むか。映像のほうが機材が大きく、手間も大きいため、写真より高く設定する会場もある
映像の持ち込みも、構造は同じです。映像の粗利が写真より大きい会場なら、切り替えの損も大きくなります。上の式の「9万円」を映像の粗利に替えて、同じように計算してください。
判断の分かれ目を、4つに絞る
ここまでの話を、会議で使える形に絞ります。
- 写真の粗利を出す:売価−原価=1組の粗利。それに採用する組数をかける。25万円−16万円で9万円、84組で年756万円
- 失注の理由に「撮影の持ち込み」の欄を作り、半年数える。出た組数は、半分に割って読む
- 切り替えが何割起きそうかを仮置きして、持ち込み料ごとの損を出す(上の式)。戻りがその損を超えるかを見る
- 提携カメラマンとの契約を確かめる。最低件数や独占があれば、損は計算より大きい
2の数字がほぼゼロなら、持ち込みは認めないか、持ち込み料を写真の粗利に揃えて「選べるが高い」状態にしておくのが堅いです。2の数字が年2〜3組あるなら、持ち込み料3〜5万円で認める価値が出ます。
まとめ
- 仮の式場(年120組、写真の粗利9万円、7割が頼む)では、写真の粗利は年756万円。平均の粗利140万円のうち、写真は6.3万円で4.5%
- 持ち込みを認めたとき、切り替えた1組の損は「9万円−持ち込み料+手間1万円」。持ち込み料が10万円に届けば、損にも得にもならない
- 持ち込み料3万円、切り替え3割なら、損は年176万円。戻りが年1.3組(成約率0.3ポイント)あれば足りる。0円で全員が切り替える最悪でも、戻りは年6.3組
- 戻りが年0組なら、損だけが残る。先に、失注の理由に「撮影の持ち込み」の欄を作って、半年数える。数えた組数は半分に割って読む
- 持ち込み料は、切り替えの損と戻りの綱引き。写真を主力商品にしている会場は写真の粗利に揃え、採用率が低い会場は低めに設定する
- 提携カメラマンとの契約に最低件数や独占があれば、損は計算より大きくなる。決める前に条項を見る
- この記事の数字は、すべて仮置きの前提による計算で、実在の会場の実績ではない
